2023年07月17日

◆ マイナンバーの利用範囲の拡大

 マイナンバーの利用範囲を(法律でなく)政令で定める……というふうに制度改正がなされた。

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 マイナンバーの利用範囲を(法律でなく)政令で定める……というふうに制度改正がなされた。これまでは法律でいちいち決めないと、利用範囲を拡大することができなかったが、今後は政令だけで新たな範囲に、利用範囲を拡大することができるようになった。
 しかし、このような範囲の拡大には、野放図な逸脱が起こりかねない……と朝日新聞(社説)が懸念を表明した。
 内閣が決める政令や、各省の大臣が発する省令などに、細部を委ねることは避けられない。だが、政策の根幹にかかわる部分まで、行政府の裁量に任せることは、立法府の形骸化につながりかねない。
 先の国会で成立した改正マイナンバー法では、マイナンバーの利用範囲の拡大とともに、情報連携ができる行政機関やその業務について、法律の別表で定めていたのを、政省令で決められるようにした。政府は今後、新型コロナの感染拡大のような新たな事態にも、法改正抜きで柔軟な対応が可能になるというが、個人情報が不適切に使われるリスクを指摘する声もある。
( → (社説)法律と政省令 立法府の形骸化を懸念:朝日新聞

 こういう懸念を表明したくなる気分は、わからなくもない。だが、ここで懸念を表明している例は、次のような例だ。(
  ・ 昨年成立した経済安全保障推進法では、供給網強化の対象となる「特定重要物資」とは何かなど、138もの事項が政省令に託され
  ・ 18年成立のカジノ実施法でも、331項目が政省令や規則で定めるものとされた
  ・ 18年の入管法改正では、外国人労働者の受け入れ業種や人数、特定技能に求められる技能水準など、制度の骨格にかかわる部分が省令回しとなった


 なるほど、これらの例では、やたらと政省令に委ねられすぎていると言えるかもしれない。だが、それらの例とマイナンバーの利用範囲とを、同列に扱うべきではない。
 なぜなら、マイナンバーの利用範囲の適用対象となるのは、省庁(官公庁)だからである。相手が省庁なのだから、「省庁が不正な利用をする」というような心配はしなくてもいいのだ。ほとんどザル法であったとしても、相手は省庁なのだから、自分で(国民のために)最善となる方法を選ぶに決まっている。悪用などはもってのほかだ。だから、いちいち規制の手を入れる必要はないのだ。当然ながら、ゆるゆるのザル法みたいな規制であったとしても、何の問題もない。

 ※ 他方、上の三つの例()では、規制の対象は民間であるので、ゆるゆるのザル法ではダメだ。事情はまったく異なる。

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 実は、マイナンバーの利用範囲については、規制が過剰にかかりすぎていると言える。そのことは、本サイトで前に言及したことがある。

 マイナンバーを使うことで、行政が効率化されるどころか、非効率化される。それはどうしてかというと、マイナンバーにおける「個人情報の秘匿」が過剰になされるせいで、そのことが桎梏(しっこく)となって、情報の共有化が妨げられるからだ。

 具体的に言うと、A という組織と B という組織が、同一の個人の情報を共有している。これはこれで問題ない。ところが、ここにマイナンバーが加わると、「個人情報の秘匿のために、情報を他組織に流してはいけない」という制約が加わる。そのせいで、これまでなら情報を共有できていたのに、マイナンバーが加わったせいで情報の共有ができなくなる。

 具体的な例としては、次のような例が考えられる。
 (1) 引っ越し者が、A という市から B という市に引っ越す。このとき、マイナンバーを使うと、A という市に所属するその人の情報を、提供できなくなる。情報の引き継ぎができなくなる。
 (2) ある個人の所得情報は、財務省または自治体が握っているので、所得別に提供される自治体のサービスについては、その情報を用いれば簡単だ。ところが、組織間の情報の共有が認められていないので、それぞれの個人はそのたびごとに所得証明書(課税証明書)を発行してもらう手間がかかる。
  (以下略)
( → マイナンバーの自己矛盾: Open ブログ

 このように、現状では、「マイナンバーによる規制があるせいで、情報の共有ができなくなっている」という弊害が多大に発生している。
 だから、「情報の共有を大幅に認める」というふうに、制度改革するべきなのだ。個人情報の共有を、大幅に認めるべきなのだ。換言すれば、今回の政府方針を大幅に推進するべきであり、朝日新聞の懸念とは逆方向に進めるべきなのだ。

 ──

 ただし、朝日新聞の懸念することも、わからなくはない。そこで、この懸念に対する対処策も取るべきだろう。ただし、その対処策は、「規制を強化すること」ではない。「規制を緩めたことについての情報を公開すること」だ。
 つまり、「マイナンバーカードの情報利用を拡大したならば、その拡大した範囲を公開して、一覧表示する」というふうにすればいい。このことで、不正な利用を抑止できる。

 さらに、次の二つを実施する。
  ・ 利用範囲の拡大については、事前に広報して、パブリックレビュー(意見聴取)を受け付ける。また、批判の意見(反対論)については、公開する。
  ・ 利用範囲の拡大については、有識者会議の判断を仰ぐ。


 また、マイナンバーを通じた省庁間の個人情報の利用については、原則として、次の手順を取るべきだ。
  ・ 情報を受け取る側には、アクセス権がない。
  ・ 情報を送り出す側には、アクセス権がある。
  ・ 受け取る側は、送り出す側に、情報の送信を依頼する。
  ・ 送り出す側は、情報を出してもいいかをチェックしてから、可否を判断する。
  ・ 可否について「可」と判断した場合のみ、情報を送信する。


 このようにすれば、野放図な情報アクセスは禁じられ、担当の省庁が「出してもいい」と判定した場合のみ、情報を出せる。従って、不正な情報アクセスも防げる。

 ※ なお、可否について迷ったような場合には、可否を決めるための専門の判定機関を設置して、そこで決めるといいだろう。

 例。

 (1) 引っ越しした住民の個人データを、旧住所の自治体から、新住所の自治体に送信する。
 → 旧住所の自治体が「送信、可」と判定するので、情報を送信できる。(ワクチン接種情報など)

 (2) 住民の個人データを、健康保険の受診記録センターから、自治体の役所の末端に送信する。
  → 健康保険の受診記録センターが「送信、不可」と判定するので、情報を送信できない。(個人の医療情報など)

 以上のようにして、情報を送り出す側が、きちんとチェックするので、不正な利用は起こらない。
 ※ 情報を受け取る側が無制限にアクセスできるのではない、という点に注意。
 
 ──

 結論。

 マイナンバーの悪用(それも官公庁によるもの)を心配するよりは、マイナンバーをきちんと利用する(まともに活用する)ことを考えた方がいい。ろくに利用できないせいで、行政の能率をアップさせるどころか、逆に手足を縄で縛っている。
 マイナンバーは行政の手足を縛る道具ではない。行政の効率を上げる道具だ。使い道を間違えている。せめてデジタル庁がしっかりと教えればいいのだが、デジタル庁はプログラムの専門家みたいなオタクばかりがそろっていて、行政についての知識のある人がいないようだ。そもそも「デジタルによる行政業務の改善」ということが念頭になっているかも疑わしい。
 デジタル庁そのものが無駄組織になっている懸念がある。デジタル庁にデジタル業務を教える組織が必要かもね。



 【 追記 】
 文中では、こう述べた。
 「ゆるゆるのザル法みたいな規制であったとしても、何の問題もない」
 どうしてそうなのか、疑問に思う人もいるだろう。そのわけは、こうだ。
 「何も規制されずに野放図になるのではなく、行政の方針で指示されるから」

 ここでは、「原則自由で、部分的に法規制される」という方針はない。民間を対象とするなら、そういう方針になるが、ここでは民間でなく公的部門が対象となる。公的部門ならば、行政府の長が直接的に細かく指令できる。「ああしろ、こうしろ」と。だから、法的な規制は必要ないのである。代わりに直接、行政命令を出せばいい。
 つまり、法的に規制する代わりに、行政レベルで指示・命令すればいい。そこにはもともと、民間レベルの「自由さ」はないのだ。だからこそ、「ゆるゆるのザル法みたいな規制であったとしても、何の問題もない」と言えるのだ。

posted by 管理人 at 13:52 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に  結論  の箇所を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年07月17日 16:43
 最後に  【 追記 】  の箇所を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年07月18日 09:40
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