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数学の超難問「ABC予想」を証明したとする京都大数理解析研究所の望月新一教授の理論について、ドワンゴ創業者で実業家の川上量生(のぶお)さんが7日、「間違いの証明」に100万ドル(約1億4千万円)の賞金をかけると発表した。理論の正しさをめぐる議論が膠着している状況に対し、白黒をつける狙いがある。
賞金を手にする条件は、理論の間違いを指摘した論文が査読付きの専門誌に掲載されること。川上さんが数学者の意見をもとに判断する。理論の欠陥だけでなく、正しさをはっきりと示し議論を収束させた人も賞金の対象となりうるという。
( → ABC予想証明、決着つけたら1.4億円 京大教授の理論巡りドワンゴ創業者:朝日新聞 )
「賞金の対象となりうる」というが、「なる」とは断言していない。つまり、理論が正しいという形で決着した場合には、場合によっては出すかもしれないが、金を出さないのが原則である、ということだ。何とも歯切れが悪い。(この人らしい、とも言えるが。)
だが、問題は別のところにある。この達成条件がはっきりとしていないことだ。というのは、主語が不明だからだ。
・ IUT理論
・ ABC予想の証明
そのどちらが主語なのかが、はっきりとしていない。「正しさ(または誤り)が判明する」が述語だとしても、主語は二つのうちのどちらなのか? ……というのは、次の形が最もありそうだからだ。
「IUT理論そのものは有益な理論であり、新たな数学的分野を開拓するが、それによる ABC予想の証明は、証明の穴があるので、不完全である」
この場合には、次の評価になる。
「IUT理論は正しい理論であるが、ABC予想の証明は(現段階では)正しくない」
こういうふうに判明した場合、賞金は出るのか出ないのか? そこがはっきりとしていない。
まあ、だからこそ、「誤りが判明した場合には賞金を出す」というふうにして、口を濁しているのかもしれないが。……どっちにしろ、毅然としていないね。
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一方で、次のこともある。
6月6日に設立(設置構想中)が発表されたZEN大学の研究機関、「宇宙際幾何学センター(Inter-Universal Geometry Center; IUGC(仮称)、所長 加藤文元氏)」は、この理論とその関連分野における新しい重要な発展を含む最優秀論文に、「IUT Innovator Prize」として毎年賞金2万ドル〜10万ドルを贈呈することを発表した。
( → 「abc予想」証明正否に私財で賞金1.4億円、数学界の「混乱に決着を」 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) )
こちらは 100万ドルに比べると、桁違いの安さだが、「新しい重要な発展を含む最優秀論文」と示しているので、はっきりとしている。
とはいえ、期限はどうなのか? 期限がはっきりとしないと、何とも言えない。これも曖昧だ。
なお、上の記事では、川上量生の発言がそのまま掲載されている。
受賞の条件を「決定的な欠陥を発見した人に」とは発表しましたが、「とにかく議論の決着にもっとも貢献した人に贈りたい」が主旨ですので、肯定的に決着に寄与した人に授与する可能性ももちろんあります。
「授与する可能性ももちろんあります」と言っている。あくまで可能性があるだけだ。そりゃまあ、日本に宇宙人が到来する可能性もあるけどね。ゴジラが来る可能性も。天が落ちる可能性も。
[ 付記 ]
実を言うと、「IUT理論によって ABC予想が証明された」としても、それ自体では何の意味もない。なぜならば、IUT理論は既存の数学の枠外にあり、IUT理論そのものの妥当性が証明されていないからだ。
たとえば、「Q理論」という新たな理論を創出して、その理論の中身は「ABC予想が証明は正しい」という内容だとしたら、「Q理論によって ABC予想が証明された」としても、それはただの当たり前のことだ。ただし、形式的には正しいが、何の意味も持たない。
だから、「IUT理論によって ABC予想が証明された」というのは、それ自体では意味を持たない。「IUT理論が数学の分野を豊かにする」ことが必要不可欠だ。しかもそれは、「IUT理論なしでは既存の数学が成立しなくなる」ぐらいに決定的な重要性を持つことが必要だ。(解析学、幾何学、代数学などは、そういう重要性を持つ。)
逆に言うと、「IUT理論が間違っていることの証明」というのも、まず不可能だ。なぜならそれが達成されるのは「IUT理論が自己矛盾を含む」ことを証明した場合だけであるが、そういうことは、普通の数学ではまずありえない。(自己矛盾を含む理論は、通常、あっという間に簡単にその自己矛盾が証明される。手間はかからない。)
というわけで、IUT理論の真偽についてならば、決着が付くことは困難だろう。一方、ABC予想の証明が不完全であることについては、すでに有名な天才数学者によって指摘がなされているので、彼が論文をきれいに書けば、達成されるかもしれない。……とはいえ、それは、証明が不完全であることを示すだけで、何かが根源的に「誤り」であることを意味しない。
不完全な箇所を補うような新発見があれば、欠陥はあっという間に是正されてしまう。その場合には、望月教授自身が、「ABC予想の証明を完全になした」と声明するかもしれない。しかしその場合、川上量生は、「それは想定していなかった」と言って、100万ドルを払わないだろう。「正しかった場合には、払う可能性があると言っただけですよ。払うと断言してはいません」と口を濁して。
