──
この政策は(前から話題になっていたが)、最近、岸田首相が推進しようとしている。
出産費用に公的医療保険を適用する検討をめぐり、岸田文雄首相は12日、保険適用する際には原則、自己負担をゼロにする意向を示した。4月から出産育児一時金を50万円に大幅に引き上げたことを踏まえ、「平均的な費用を全て賄うようにした一時金の基本的な考え方は踏襲していきたい」と述べた。
出産(正常分娩)への保険適用については首相自身、消極姿勢を見せていたものの、3月末にまとめた「異次元」の少子化対策の試案に急きょ検討方針が盛り込まれた。
同委員会では首相が方針転換についてもふれ、「各党から様々なご提言をいただいたことを踏まえた」と説明。来年4月に予定する出産費用の「見える化」を進めた次の段階として、「ぜひ保険適用の議論を進めていきたい」と述べた。
保険適用されると、現在は多様な分娩サービスが標準化され、価格も一律に設定される。ただ、原則3割の窓口負担が生じることになるため、妊産婦への負担にどう対応するかが課題の一つにあげられていた。
( → 出産費用に公的医療保険を適用 )
保険の負担については、「3割の自己負担が生じるので無理」と言われてきたが、例外的に、本人負担をゼロにすることで、金銭負担の難点をなくそうとしているわけだ。
とすれば、どちらにしても同じことのようにも見える。では、それでいいか?

実は、違いが二つある。順に示そう。
財源
最大のポイントは、保険適用による財源だ。
保険を適用すれば、被保険者の保険料でまかなう。その場合、財源が不足する分は、保険料の値上げでまかなうことになる。従って、増税は不要だ。この「増税が不要だ」という点で、「有権者の悪評を防ぎたい」というのが、本音である。
もっと正確に言えば、「増税の分はすべて防衛費の増額に回したい。そのために、出産費用の財源は、保険料の値上げでまかないたい」ということだ。
で、(増税でなく)保険料の値上げによると、国民の負担はどうなるか? それは、次のグラフでも明らかだ。

出典:Twitter
低所得者ほど、社会保険料の負担が非常に大きい。一方、高所得者では、社会保険料の負担が小さい。ここで、「社会保険料の値上げ」をすると、低所得者の負担が大きくなり、高所得者の負担が小さくなる。
逆に、増税だと、低所得者の負担が小さくなり、高所得者の負担が大きくなる。
図式的に示すと、こうなる。
保険料 増税
低所得者 25万円 5万円
中所得者 30万円 30万円
高所得者 35万円 100万円
保険料の場合には、低所得者も高所得者も、負担は大差ない。
増税の場合には、低所得者の負担は小さく、高所得者の負担はとても大きい。
このどちらがいいか? それは、あなたが低所得者であるか高所得者であるかによって異なる。とはいえ、この事実をきちんと明示しておく必要がある。
一方、岸田首相はその事実を隠蔽する。そしてかわりに、「増税はありませんよ」と安心させて、そのあとで保険料の値上げでガッポリと巻き上げる。毎度毎度、その調子だ。
※ 上の表の金額は、年額というより、ほぼ生涯における額だ。
年額で言うと、「年 1.6万円のアップ」という数値がある。
→ 岸田政権“異次元少子化対策”で課される社会保険料1.6万円増の重荷
自由診療
健康保険では、出産診療は標準化されるので、サービスも標準化される。つまり、画一化される。
一方、現行制度では、出産では自由診療が認められている。そのせいで、多様なサービスが可能である。たとえば、豪華な食事も認められている。
→ 質素な食事VS豪華な食事「産婦人科ご飯の写真撮ってた人見せて」に投稿された写真が完全に二極化「高級ホテルの食事と刑務所の食事がある」 - Togetter
その一例は下記だ。
11月に出産したときの産院のごはん。
— おりえ 2023カレンダー発売中 (@orie13a) December 27, 2022
1人目と同様、2人目もご飯が美味しい&無痛分娩を条件に探して入院した。
入院中は新生児の匂いかぐのとご飯だけが唯一の楽しみだったな。。夜食に銀シャリの入ったわっぱを渡してくれて、なんか合宿感あって楽しかった??笑
#産婦人科ご飯の写真撮ってた人見せて pic.twitter.com/Ag1gUgP7Ip
このような豪華な食事を楽しみたいという人にとっては、現行制度は最善だろう。なのに、サービスが画一化されたら、上記のようなサービスは得られなくなる。
そもそも、どういうサービスを選ぶのかは、国民の自由であるはずだ。どういうサービスであれ、上乗せした分は、自分で金を払う限り、国が口を出すべきではない。国は、一定の金を払うことだけをやればいいのであって、その金でどういうサービスを得るのかは、国民の自由に委ねるべきだ。
例。国の払う金が1食 500円。
患者の食べる食事は、いくらでもいい。500円の質素な食事でもいいし、自分で 1500円を足して 2000円の食事にしてもいい。患者の自由だ。
地域にしても同様だ。
都心の高級病院で 100万円を払ってもいいし、田舎の病院で 40万円で済ませてもいい。なのに、これを一律で 50万円にしたら、都心の病院ではまともなサービスをしてもらえなくなるし、また、田舎の病院では(50万円と40万円の)差額 の 10万円を病院経営者がガッポリと懐に入れるだけだ。(現状では、差額の 10万円は、料金の値下げという形で、患者に還元されている。それが、病院の懐に入ってしまうわけだ。)
──
以上が、「出産費用に公的医療保険を適用する」ことの効果だ。つまり、こうだ。
・ 自民党が国民をだます。国民はだまされる。
・ 低所得者は、大損するのだが、「増税がない」と喜ぶ。
・ 高所得者は、すごく得をして、「しめしめ」と喜ぶ。
・ 都心の産院は、赤字になり、次々と閉鎖される。
・ 田舎の産科医は、ボロ儲けで、「しめしめ」と喜ぶ。
・ 都心の妊婦は、病院も見つからず、右往左往する。
・ 田舎の妊婦は、都心の妊婦が来るせいで、混雑に困る。
結局、高所得者の優遇と、田舎の優遇だ。
これはまあ、いかにも自民党の狙いそうなことだ。
