2023年04月12日

◆ トラック労働の規制

 トラック労働の長時間労働に規制がかかることになった。これが議論を呼んでいる。

 ──

 発端は、次のツイートだ。


 これには「危険だ! 馬鹿め!」という批判がたくさん押し寄せた。
  → はてなブックマーク

 それはそれで片付いているのだが、「トラックドライバーの時間外勤務労働に960時間の規制が掛かる」という話題について、考え直してみる。

 ──

 朝日新聞のコラム記事に、わかりやすい解説がある。
  → (いちからわかる!)物流の「2024年問題」、どんなことなの?:朝日新聞

 現状では長時間労働がひどいので、24年4月から新ルールで、残業は年 960時間までに規制される。それが今回の改革だ。ただしそうなると、労働者の労働時間が減るせいで、物流の総供給が減ってしまう。そのせいであちこちで、トラック不足が生じて、物流が滞ってしまう。
 これを見て、「大変だあ」と騒いだあげく、何とかしようとして、冒頭のような対策を出す人もいるわけだ。(本人は名案を出したつもり。)

 記事では最後にこう記している。
 Q 荷物が届かなくなったり、ドライバーの収入が減ったりするなら困るね。

 A なるべく影響が小さくなるよう、政府は業界に輸送を効率化したり、もっとドライバーにお金が渡るように荷主が運賃を払ったりするよう求める方針だ。私たちも、何でも早く安く届くという意識を改めないといけないね。


 ──

 さて。これをどう評価するか? 
 まず、すぐ上にある「私たちも、何でも早く安く届くという意識を改めないといけないね」という感想は、妥当だ。その前の「もっとドライバーにお金が渡るように荷主が運賃を払ったりする」というのも同様だ。
 だが、単に「金を出せ」というだけでは、話の論拠としては不十分だ。もっと理路整然と示す必要がある。
 そこで、以下では、私の考えを述べよう。

 結論を言えば、「労働時間を減らす」という本心は、原理的には別に問題ない。あれこれと問題が生じるように見えるが、うまく回避できる。
 (1) トラック不足が生じるように見えるが、高い金を出せば、トラック不足にはならない。少なくとも、自社が金を出せば、自社は困らない。よその会社は、ケチなせいで金を出さないので、困るかもしれない。しかし、ケチな他社は困っても、ケチでない自社は困らない。少なくとも自社は困らないのだから、それでいいのだ。(他人のことは知ったことではない。)
 (2) では、すべての会社が金を出したら、どうなるか? トラックの奪い合いで、価格どんどん高騰して、とんでもない価格になって、払えない会社が続出するだろうか? ……いや、問題ない。供給に上限がある地下資源ならば、価格がべらぼうに上がることはある。だが、人間には(現実的には)供給の上限はない。運転手が不足したら、新規に運転手になりたがる人が増えるので、外部から運転手がどんどん供給される。だから、運転手不足は起こらない。……つまり、パイの全体が大きくなるから、パイの奪い合いがあっても、うまく分けあうことができるのだ。

 ──

 こうして、(1)(2) のことゆえに、原理的には問題はないと言える。
 ただし、それは原理の話だ。原理はともかく、現実はどうかというと、現実はそううまくは行かない。なぜか? 突発的な変動があるからだ。
 24年4月の導入日の前までは、規制がない。なのに、導入日からは、規制がある。ここには、突発的な変動がある。すると、その日までは不足がなくとも、その日になると、突然、突発的な変動のせいで、突発的に足が発生する。(突発的に供給が減るからだ。)
 困った。どうする?

 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「突発的な変動が起こらないように、激変緩和措置を取る」


 具体的には、こうだ。
 「あるときいきなり、100%の規制を導入するのではなく、段階的に少しずつ、規制を徐々に強める」


 例を示そう。
 最後は 「960時間」という制限にする。ただし、それまでは1〜3カ月ごとに、少しずつその水準に近づけていく。たとえば、
   1300時間 → 1200時間 → 1100時間 → 1000時間

 というふうに、100時間刻みで段階的に規制を強めていく。(50時間刻みでもいい。)

 こういうふうに段階的に制限を強めれば、「突発的な変動」がないので、それによる混乱を避けることができる。
 逆に言えば、激変緩和措置を取らない現状は、あるとき突然、突発的な変動が起こるので、大混乱をもたらすだろう。それは、馬鹿げている。愚の骨頂だ。
 ただし、その問題は、「規制そのもの」が原因ではない。「激変緩和措置」を取らないことが原因だ。この違いを理解しよう。両者を混同してはならない。
 


 [ 付記 ]
 関連する話題がある。トラック運転手の不足が言われるときに、「当社でゃちっとも不足していません。運転手になりたいという希望者がどんどん押しよせてきます」という会社がある。
 朝日が報じている。時短勤務を導入して、応募者増に結びつけたそうだ。
 辻直樹社長(53)が子育て中の女性をドライバーとして雇うと宣言した。
 勤務時間が不規則な運送業界は、いつも人手不足。求人広告を出しても誰も来ない。「女性が働けない」ではなく、働けるように仕事のほうを変えるしかなかった。
 何らかの理由で欠員が出ても、別の運転手が配送できるようコースを複数人が把握するようにした。緊急時に機動的に動けるフリーのドライバーも配置した。組織内に「あそび」を生むことで、誰もが休みやすくなったという。河野さんは「こんな会社はないんじゃないかな」。
 若い男性やトラック運転の未経験者が、求人広告を見て応募してくるようになった。
( → 女性ドライバー採用、運送変わった 会社に「あそび」・未経験男性の応募も増:朝日新聞

 時短と有休を導入することで、960時間規制よりもさらに大幅な規制を実施した。労働時間を大幅に短縮した。そうすると、ドライバー不足が起こったか? いや、逆だ。「入社したい」という人々がどんどん来たので、ドライバー不足は一挙に解消した。

 似た話だが、「保育士が不足する」ということが話題になっている一方で、「保育士を標準よりもたくさん雇う」という方針を取った保育所が、保育士不足とは逆になっている。「保育士が多いので、仕事の負担が低くて、楽をできる」ということで、「ここに勤務したい」という応募者がどんどん押し寄せているそうだ。ここでも、労働の負担減で、求人難が解消される、という結果になっている。
  → 「保育士の数を2倍」にした園で起きた劇的変化 | 東洋経済
  → 保育士の倍率が13倍!転職希望者殺到する保育園 そのわけは | NHK
 


 【 関連動画 】





posted by 管理人 at 22:59 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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