2023年04月11日

◆ MRJ の失敗の検証

 MRJ の失敗について検証する会議をつくるそうだ。

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 MRJ の失敗について反省しろ、と私は前に書いた。
  → 三菱重工の経営責任: Open ブログ

 それに呼応したわけではないだろうが、政府が失敗を検証しようとしている。朝日新聞が報じている。
 三菱重工業が開発を断念した国産初のジェット旅客機「スペースジェット」(SJ、旧MRJ)について、経済産業省は検証のための会議を立ち上げる方針を固めた。外部の有識者を交え、同社や政府からヒアリングをする。巨額の税金を投入しており、航空機産業に再挑戦する上でも、検証が不可欠と判断した。
 検証では、商業飛行に必要な「型式証明」(TC)取得のための体制や、外国企業との連携などが主な焦点となる見通し。
 撤退の原因について、西村康稔経産相は2月の国会審議で「安全性に関する規制当局の認証プロセスにおけるノウハウの不足」「エンジン等の主要な装備品を海外サプライヤーに依存することでの交渉力の低下」「市場の動向に関する見通しの不足」の3点を挙げている。
( → 国産ジェット断念、検証会議立ち上げ 経産省方針:朝日新聞

 上記では失敗の理由がいくつか掲げられているが、いずれも本質から外れている。失敗の理由は、そんな小手先の問題ではない。もっと根幹的な理由がある。では、それは何か? 


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 そもそも、MRJ の失敗については、私は最初から予測していた。世間が「日の丸ジェット機、万歳」と浮かれていたときから、私は「失敗するだろう」と予測していた。
  → ◇ MRJ が正式終了 : Open ブログ

 ではなぜ、私は正しく予測ができたか? その理由は、日米戦争(第二次世界大戦)が勃発したときの日本と同様だ。真珠湾攻撃の成功や、以後の日本軍の破竹の進撃を聞いて、世間の誰もが「万歳」と喜んでいるときに、一部の人(山本五十六を含む軍事専門家)だけは、「このまま戦争を継続すれば日本は負ける」と見込んでいた。なぜか? 国家としての戦争維持能力で日本は大きく劣っていることを理解していたからだ。

 MRJ も同様だ。経産省や三菱重工を含む世間の人々は、「日本の技術力は高いから、ジェット機の開発を十分にできる能力がある」と自信満々だった。だが、私は航空技術についていくらか知っているので、三菱重工の能力の低さははっきりと見えていた。
  ・ 空力については三菱重工の技術はすごく低い。(上記リンクで説明)
  ・ 三菱重工には民間機の開発技術の蓄積がない。
  ・ ホンダでさえ小さなジェット機から始めているのに、いきなりやるのは無理。


 どう考えても、成功する要素は皆無で、失敗する要素は山積みだ。これらの状況をただ一つの言葉で示すことができる。それは「過信」である。「自惚れ」と言ってもいい。能力は全然ないくせに、自惚れだけはたっぷりとあった。そのせいで、自分の能力を正しく見極めることができなかった。
 特にひどいのは、途中で「計画の不首尾」という状況が判明した 2013年ごろになって、いまだに自己の能力不足に気づかなかったことだ。能力がないだけでなく、能力がないことに気づくだけの能力(自己認識力)さえもなかった。これが致命的だった。この時点でやめておけば、損失は 2000億円ぐらいで済んだだろう。なのに、そこで中止にできなかったから、赤字は急拡大して、5000億円以上の大赤字を出すことになった。馬鹿丸出しとは、このことだ。

 政府は、個別の小さな問題(小手先のこと)ばかりを見つめて、それらを失敗の原因だとみなそうとしている。だが、それらの小手先のことを改善すれば成功する、というものではない。根源的に能力がない、ということが失敗の原因なのだ。そのことに気づかないと、どうしようもない。
 比喩的に言えば、プロ野球のドラフトで1位になった高卒新人が、その後はたいして成長もしないで、能力不足のまま引退する……というようなものだ。ここでは、能力不足が根源的な問題なのである。なのに、そのことに気づかないで、「フォームを変えればよかった」とか、「練習方法を変えればよかった」とか、そんな小手先の理由を探しても、意味がないのである。根本的に才能不足な人間は、何を変えてもどうしようもないのだ。彼にとってできることは、練習方法などを変えることではない。自らの才能不足を理解した上で、さっさとプロ野球から足を洗って、引退することだけだ。そのことに気づかなかったのが、彼の不幸である。
 MRJ の失敗もまた同じ。三菱重工という才能不足の会社を信じて、5000億円以上も投入したのが、根本的な間違いだと言える。

 ──

 なお、記事には次の話もある。
 一方、政府は次のプロジェクトに動き出している。経産省は21年、水素を燃料とする航空機の技術開発などに210億円を計上。国産化は掲げず、「コアとなる技術の開発を強力に後押しし、競争力強化を目指す」とした。同省幹部は「航空機は裾野が広い成長産業。技術的な優位性もある日本が加わらない選択肢はない」と話す。

 これはもっともらしい話だが、これもまた「過信」「自惚れ」と言える。90年代の日本なら、そういう発想をしてもよかった。しかし 2020年代の日本は、もはや衰退した国家である。若手の人口は往時の半分に激減した。有能な技術者の数は、かつては中国の何倍もいたが、今の日本は逆に中国の何分の1かになってしまっている。国家はずっと衰退してしまっているのだ。
 かつての日本は、1国だけで欧州と対抗することも可能だったが、今の日本は、ドイツ1国にも大きく負けている。こんな国が、欧州全体のエアバス社と対抗できるはずもない。なのに、上記のような経産省の見解は、あまりにも自惚れがひどいと言える。

 それでも、仮に日本が参入するとしたら? 私なりに言えば、次のように言える。
 第1に、単独でやるのは無理だと知れ。欧州は各国の全体でエアバスという1社に共同参入している。なのに、日本が1国だけで単独でやるのは無理だ。どうしてもやるのなら、(戦闘機も含めて)英国やイタリアと協力しろ。こうすれば、技術を分担するとともに、飛行機の売却先を得ることができる。なお、その意味では、韓国や北欧を共同開発に含めてもいい。
 第2に、三菱重工という会社を抜本的に改革する必要がある。現状では、とてもまともな技術開発ができそうにない。この会社は、会社そのものが腐っているので、体質を抜本的に改革する必要がある。
 第3に、ホンダも含めた方がいいかもしれない。せっかくホンダという会社があるのだから、少しぐらいは協力を仰いでもよさそうだ。(ただし、ホンダの航空機部門はアメリカの会社だ。工場もアメリカにある。だから、ホンダの技術を導入しても、国産と言いがたい。その意味では、ホンダとの共同作業は困難かもしれない。しかし、協力ぐらいは得ることができそうだ。出資も何とか。)
 第4に、ライバルが強力化していることに着目するべきだ。ボンバルディアとエンブラエルがあったが、それぞれ、ボーイングとエアバスに買収された。とすれば、ライバルはもはやボーイングとエアバスとなった。こんな巨大会社と、まともに競争しても、勝ち目がない。ライバルが弱小会社ばかりだった以前とは、状況がまったく違っている。この分野はもはやレッド・オーシャン(苛酷競争市場)だ。参入は非常に困難だ。……となると、中型機部門への参入は諦めて、小型機部門で我慢するべきかもしれない。だが、そうなると、ホンダと競合する。また、市場規模も小さすぎる。となると、もともと無理っぽい。むりぽ。諦めた方がいいかもね。

 ──

 なお、航空機産業への参入を諦めるというのは、悪い話ではない。なぜなら、日本の(優秀な)技術者の総数は限られているからだ。技術者が航空機産業に奪われれば、その分、他産業の技術者は減ってしまう。その分、他産業は衰退してしまう。
 どうせなら、勝ち目の薄い航空機産業に技術者を奪われるよりは、半導体や EV や AI や量子コンピュータに技術者を投入するべきだろう。その方がよほど重要性が高い。
 今の日本は、少子化のせいで、人口が激減しており、技術者の数は半減している。その一方で、ライバルとなる米国や中国には、圧倒的に多くの技術者がいる。
 こんな状況で、航空機産業に貴重なが技術者を投入するのは、ほとんど無駄なことだ。ドブに金を捨てるように、沼に技術者を捨てるようなものだ。

 ちなみに、三菱重工では、H3ロケットでも技術開発に失敗した。ここでも技術者不足が露見している。こんな状況で、貴重な技術者を新規分野に投入しようとするのは、国策という面では愚の骨頂というしかない。
 こんなこともわからない政府もまた、「過信」「自惚れ」という点で、三菱重工の経営者と同様だと言える。今の政府は、三菱重工をダメにした経営者と同じように、日本全体を駄目にしようとしている。「過信」ゆえに、自分が何をできるか、理解できないせいだ。
 それはちょうど、才能がないのに「才能がある」と自惚れている、ドラフト1位の高校生のようだ。
 
  ※ どうせなら、まずは足元の「少子化」を解決するべきだろう。それも解決しないで、何をやろうとしていることやら。比喩で言えば、船が沈没しかけているときに、船底の穴をふさごうとしないで、将来の夢を計画しているようなものだ。お気楽すぎる。まずは船底の穴をふさぐことに専念しろ。



 [ 付記 ]
 根本的な能力不足については、こうわかる。
 「 MRJ は結局、空を飛ばなかった。試験飛行として短時間だけの飛行はあったが、まともに空を飛ぶ時間を蓄積する[検証飛行する]ことはできなかった。つまり、機体は完成していなかったのである」
 米国の検査を通らなかったとか、商売が下手だったとか、マーケットリサーチが不足していたとか、そういう小手先の難点が問題だったのではない。「飛行機を飛ばす能力がなかった」「飛行機を完成させることができなかった」という根本的な能力不足があるのだ。
 こういう根源的な無能さを理解しないまま、「才能はあるけれど、たまたま失敗しただけさ」なんていうふうに自惚れているようでは、とんでもない誤認だと言える。自信過剰の尊大さには、呆れはてるしかない。
 


 【 関連項目 】
 ついでだが、こういう無能な三菱重工に、長距離(中距離)ミサイルの開発を委ねようとしているのが、防衛省だ。だから、たかがミサイルを完成させるのに、何年間もかかる予定だ。固体ロケットの開発に実績のある IHI に委ねればいいのに、経験も技術もない三菱重工に委ねようとする。政府が三菱重工とズブズブなのが、諸悪の根源かも。
  → 中国のミサイル攻撃には?: Open ブログ

 
posted by 管理人 at 23:41 | Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
前にも書きましたが日本の機械業界は国際化していません。機械工学科の教授は英語で論文発表したり国際学会で発表する機会が少ないため、自分たちが世界から外れた方向へ進んでいたり、遅れていたりすることに気づいていません。今回問題になった国際基準への適応や交渉力のなさ等そこから来ています。EV対応の遅れも同じ理由です。
 ちなみに他の分野、物理、化学、生物ではほとんど英語で国際誌に論文発表されていて、遅れた研究論文は却下されます。少なくとも遅れていることは分かります。
Posted by よく見ています at 2023年04月12日 11:25
MRJの開発には東京大学も大きく関わっていたようです。

まさかとは思いますが、MRJの開発をなかなかやめなかった理由の一つに、東大のメンツを守るため、というオチはないですよね。
Posted by 反財務省 at 2023年04月12日 20:04
大昔のことですが、三菱重工に勤める同級生が「仕事は外注(子会社)にさせる。自分は指示するのが役目だ。新人の頃から、そのように育てられた。」と言っていたことに、当時は違和感を抱きました。
また、MRJの地元の愛知県の友人が、三菱重工は派遣会社から来る技術者に相当依存していることを指摘していました。
そして、ある時期から、その派遣の数が減ってきたことからプロジェクトが上手く行っていないようだとも言っていました。
私のようにドブ板からスタートした者から見ると、仕事の仕方そのものに問題があったように感じます。
Posted by 元大阪府民 at 2023年04月12日 21:11
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