2023年03月09日

◆ 西山事件の本質

 自民党政府の密約を暴露するために、男性記者が政府の女性事務官をたらしこんだ……という西山事件の本質を考える。

  ※ エッチな話です。性的基準ゆえ、子供は読まないでください。

 ── 

 状況


 この男性記者である西山という人が亡くなったので、話題を呼んだ。そのうち特に朝日新聞記者がツイートで、男性記者の行動を是認して、「目的が手段を浄化する」と書いたので、ネットで炎上騒動をもたらした。(先月のことだ。)


 批判は下記。
  → Togetter
  → はてなブックマーク

 私見


 状況は以上のようなものだが、これをどう評価するか? 「目的が手段を正当化する」と言えるのか? もちろん、言えるはずがない。では、なぜダメなのか?
 また、男性記者のしたことは問題があるが、だからといって、男性記者のしたことを全面否定していいのか? つまり、「彼は何もしないでおくべきだった」「政府がかつて大々的な悪をなしたという真実は、暴露されずに、隠蔽されるべきだった」と言えるのか?
 あるいは、「彼の小さな悪は絶対に認められないが、政府の大きな悪はそのまま隠蔽することを認める」というのか? それこそ矛盾ではないのか?
 こういう問題も起こる。とうてい一筋縄には行かない。困った。どうする?

 そこで、困ったときの Openブログ。この問題を解決することを試みよう。
 一つの出来事に、善と悪が併存することがある。善をなしながらも悪をなす、ということがある。今回もそうだ。そういう場合には、どうすればいいか? 私の見解は、こうだ。
 「善と悪を差し引きするべからず。善があるから悪を免責する、とはならない。また、悪があるから善を否定する、ともならない。悪は悪として評価し、善は善として評価する。物事に両面価値があるなら、その両面をともにきちんと評価する。そして、善と悪を差し引きして一方だけに決めつける(他方を打ち消す)ことはあってはならない」

 この方針は、前に別項で述べたことがある。
 「正義とは何か?」という問題には、根源的に正解がない。ただし、正義と悪とが混じっている現象については、正義と悪とを差し引きしたりせず、「正義は正義、悪は悪」ときちんと別々に認識するべきだ。
 「独裁者を殺すという善をなしたから、イラク国民を虐殺するという悪は免除される」
 というような算術的な差し引きをするべきではない。むしろ、悪を悪としてきちんと認識するべきだ。善をなしたことで悪が免除されることはない、と理解するべきだ。
 それはつまり、おのれのなした悪に責任を取る、ということだ。悪は善で免除されない。「総合的には善が悪を上回るから、自分のやっていることは善なのだ」というふうに自己正当化するべきではない。どんなに善をしても、悪は悪として残る。
( → 正義とは何か?:  nando ブログ

 善は善として評価し、悪は悪として評価する。善によって悪が免除されることはないし、悪によって善が消えることもない。それぞれは別個に評価することなのだ。
 男性記者が女性をたぶらかしたなら、それはそれとして断罪すればいい。(ただし現実には、それは法的には違法ではないので、法的に処罰することはできない。ただの[男女における]倫理や道徳の話にすぎない。)
 記者が大々的なスクープを上げたなら、それはそれとして評価すればいい。その手段が汚いなら、その行動は評価されにくいが、それによって政府の失態が表面化したなら、その事実は社会的事件として評価すればいい。(記者を称賛する必要はないが、政府を批判する必要はある。)

 以上が私の見解だ。

 最高裁判決


 現実にはどうだったか? 最高裁判決は、こうだった。
 「記者の取った手段が悪だったから、政府の隠蔽という巨悪を暴露する報道の自由は認められない」
 詳しくは下記記事だ。
西山事件」と呼ばれることになる起訴状には、西山さんが女性事務官と「ひそかに情を通じ、これを利用し、秘密をもらすことをそそのかした」と記された。最高裁は判決で「報道の自由は憲法が保障する表現の自由のうちでも特に重要」としつつ、「取材手法が対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙(じゅうりん)する場合は違法性を帯びる」とし、有罪の根拠とした。
( → 「国家のうそ」に迫る「哲学」 沖縄密約報道の西山太吉さん [沖縄はいま]:朝日新聞

 これは、善と悪を差し引きする発想だ。
 本来ならば、次のことは別々に評価するべきことだ。
  ・ 男性記者が女性記者をたぶらかしたこと。
  ・ 男性記者が政府の密約(条約の隠蔽)を、暴露したこと。


 この二つは、別々のことである。だから、普通に評価すれば、次のようになる。
  ・ 前者については、「男が女をだました罪」(そんな法律があれば)で有罪にすればいい。
  ・ 後者については、「報道の自由」で許容すればいい。


 このように、別々に評価するのが当然だ。しかし、最高裁はそうしなかった。かわりに、こう判決した。
 「前者の件で、男性記者が女性記者をたぶらかしたので、後者の件で、報道の自由を認めない」
 これは「江戸の敵を長崎で討つ」というような、とんでもない論理の飛躍である。そして、報道の自由が認められないことになったので、男性記者は(女性の)「国家機密漏洩罪」の教唆犯で有罪となってしまった。
 東京地検特捜部は同年、情報源の事務官を国家公務員法(機密漏洩の罪)、西山を国家公務員法(教唆の罪)で逮捕した。
( → 西山事件 - Wikipedia

 しかし、「男が女をたぶらかしたから、国家機密漏洩罪」(教唆犯)というのは、論理が飛躍しすぎている。法律というものは、そういう男女の心情を裁くものではない。行為を裁くものだ。そして、行為が「報道の自由」で認められる正当な行為であったなら、その手法が非道徳的なものであっても、白は白のままなのであって、白が黒に転じることはないのだ。なのに、最高裁は「白を黒と言いくるめる」という判決を下した。あまりにもひどい。

 要するに、最高裁がやったことは、「自民党政府に迎合するためであれば、法理論をねじ曲げて、白を黒と言いくるめる」ということだ。そこには法的論理はない。ただの滅茶苦茶論理によって白を黒と言いくるめていること(法的歪曲)があるだけだ。
 こんなデタラメな法的論理を示すなんて、最高裁は、書いていて恥ずかしくないのか? こんなことがまかり通ったら、あらゆる不道徳な行為はみんなデタラメな法論理で有罪になってしまう。たとえば、次のように。
 「あいつは女をたぶらかしたので、やってもいない窃盗罪で罰金刑にする」
 「あいつは女をたぶらかしたので、やってもいない放火罪で懲役刑にする」
 「あいつは女をたぶらかしたので、やってもいない殺人罪で死刑にする」
 こういう滅茶苦茶がまかり通ることになる。最高裁の法的論理に従えば、そうなるからだ。

 最高裁は、男性記者の行為がそれ自体では「白」であることを認定している。
 それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
( → 西山事件 - Wikipedia

 なのに、そのために女をたぶらかしたということだけで、全体を白から黒に転じてしまう。
 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。

 正当な取材活動の範囲を逸脱するのなら、そのこと自体を刑法犯で裁けばいい。「男が女をたぶらかしたので、刑法 ◯条の違反で、有罪」というふうに。(そんな刑法はないので、有罪にすることは無理だが。)
 一方、正当な取材活動の範囲を逸脱しようがしまいが、「実質的に違法性を欠き正当な業務行為である」ということは、白であるのであって、黒になるはずがないのだ。最高裁はそのために、「その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは」という条件を付けているが、そんな条件は勝手に最高裁が付けるべきではないのだ。もともと合法的な行為は、そのための手段・方法がいくら不道徳なものであっても、あくまで合法なのである。「手段・方法が不道徳だから、合法的な行為が非合法になる」ということは、法論理としてはありえないのだ。それは近代の法治主義の基本である。
 最高裁は、そういう法治主義の基本を歪めてまで、政府に迎合した。自民党政府の歓心を買うために、「報道の自由」の原則を歪めて、白を黒と言いくるめた。

 西山事件における最高裁判決の意味が、そういうことだ。韓国の最高裁が法理論を歪めてまで、徴用工の言い分を通したように、日本の最高裁は法理論を歪めてまで、自民党政府の言い分を通した。そのどちらも、最高裁が法理論を歪めて、他の何かに迎合した、ということだ。そこに本質がある。
 まったくひどいものだ。「恥を知れ」と言ってやりたくなる。

 ※ そもそも、法を扱うべき裁判所が、法でなく「社会通念」なんかを合法性の根拠にしているところで、もはや法治主義を逸脱した前近代主義と言える。狂気の沙汰だ。




 [ 付記 ]
 男が女をたぶらかすことは、不道徳ではあるが、法的には違法ではない。たとえば、最近の(男女の)マッチングアプリでは、こんな状況だ。
 「高年収のイケメン男性だと、女性にモテモテなので、たくさんの女性をだませる。結婚するフリをしながら、本当は体だけが目的で(ヤリモクで)、あちこちの女性の体だけをいただく」
 こういうヤリモクの男性が多いのだが、それでだまされる女性がいるとしても、彼が奪ったのが体だけであるなら、それはまったくの合法なのだ。金を奪ったら、「結婚詐欺」という違法行為になるが、体を奪っただけなら、違法行為にはならないのだ。
 ここのところを誤解している人が多いので、注意のこと。非モテの男性がいかに怒り狂おうとも、モテモテ男性が女をだますのは合法なのである。

 まして、体でなく心を奪う(盗む)だけならば、まったくの合法である。


nusunda.jpg
出典:ルパン三世



 最高裁がやたらと怒り狂って無罪を有罪にしてしまったのは、最高裁の判事が非モテばかりだからだろう。そのせいで法律を歪めてしまったのである。げに恐ろしきは、非モテの恨み。




 【 関連動画 】





 ついでだが、あちこちのコメントを読むと、「男が女をたぶらかした」ということばかりに着目する人が多い。つまり、「政府が密約を国民に隠した」という点には目もくれない人が多い。まして、「報道の自由」にまで言及する人はほとんどいない。
 ネット時代の人々は、どんどん下世話になるばかりだ。
 

sex-on-bed2.jpg
Stable Diffusion による生成画像




 【 追記 】
 対比的に示せば、こうなる。
  ・ 朝日記者 「目的が手段を浄化する」(大きな白が小さな黒を呑み込む)
  ・ 最高裁  「手段が目的を汚染する」(小さな黒が大きな白を瓦解させる)
  ・ 本項   「手段と目的を分けて考えよ」(黒と白はそれぞれ別に見よ)


posted by 管理人 at 23:27 | Comment(6) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年03月10日 10:02
 いい機会ですので、Wikipedia を含めて、提示していただいた記事などをあらためて読んでみました。それで、Wikiにも示されている最高裁での裁判要旨(判決)には、

 三 本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。

 とあり、また、

 原判示対米請求権問題の財源については、日米双方の交渉担当者において、円滑な交渉妥結をはかるため、それぞれの対内関係の考慮上秘匿することを必要としたもののようであるが、憲法秩序に抵触するとまでいえるような違法秘密といわれるべきものではなく、実質的に秘密として保護するに値するもの、等々。

 と判示しています。

 つまり、最高裁は、「西山氏が女をたぶらかした、あるいはそそのかした」ということを認めていますが、それ以前に、「この日米の密約≠ヘ、保護されるべき機密(国民に知らされなくてもいいもの)で、それを報道の自由≠盾に取得して漏洩させたこと自体がよろしくない」といっているのではないでしょうか。

 これは、【追記】の記載ふうにいうと、

 ・最高裁 「手段はよろしくないし、目的自体も的はずれだ」(どっちも黒だ)

 となるのではないでしょうか。
Posted by かわっこだっこ at 2023年03月15日 08:52
 「この日米の密約≠ヘ、保護されるべき機密(国民に知らされなくてもいいもの)」という認定はその通りですし、国が隠したことを容認しているのもその通りです。
 一方で報道の自由があるので、国が隠したことを暴露するのも、憲法上の「報道の自由」で報道する権利がある(だから違法として処罰されない)のが原則だ。けれどもこの原則には「社会通念上で許される手段の範囲内で」という限定が付く……というのが最高裁の判決だ、と私は読み取りました。

 上のコメントの解釈だと、「社会通念上」という制限の意味がないでしょう。
Posted by 管理人 at 2023年03月15日 09:53
 上の管理人さんのコメントについてですが、まず、Wikipedia の記載によると、第二審(東京高裁判決)では秘密≠ノついて以下のように判示しています。

 〇 指定秘とされる情報は国家の利益に反するとの判断により秘密にされる真正秘密、時の政府の政治的利益の為に秘密にされる疑似秘密、疑似秘密の中に政府が憲法上授権されていない事項に関して行動したために秘密にされる違法秘密がある。

 〇 疑似秘密であると主観的に判断したことについて確実な資料や根拠に照らし相当の理由があると客観的にも肯認しうる場合、違法秘密であるとすると国家公務員法違反に触れる手段方法態様を用いてでも緊急に取材して報道しないと現憲法機構が瓦解又は崩壊しかねないほどに重大なものであると信じて行動したことに相応の理由があると認められる客観的にも肯認しうる場合は個別に違法性が阻却され刑事免責がなされる余地がある。

 つまり、法律よりも「報道の自由」や「国民の知る権利」が優先されるのは、いわゆる秘密(国家機密)の中でも「違法秘密」にあたるものだけで、それを国民に知らせずにそのままにしておくと憲法に基づく法治が成り立たなくなるような場合だけである、といっています。

 それで、最高裁も、この部分についてはこの原審判決を踏襲しています。すなわち、

 本件第一〇三四号電信文案の内容は、実質的にも秘密として保護するに値するものと認められる。右電信文案中に含まれている原判示対米請求権問題の財源については、日米双方の交渉担当者において、円滑な交渉妥結をはかるため、それぞれの対内関係の考慮上秘匿することを必要としたもののようであるが、わが国においては早晩国会における政府の政治責任として討議批判されるべきであつたもので、政府が右のいわゆる密約によつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではないのであつて、違法秘密といわれるべきものではなく、この点も外交交渉の一部をなすものとして実質的に秘密として保護するに値するものである。
 したがつて右電信文案に違法秘密に属する事項が含まれていると主張する所論はその前提を欠き、右電信文案が国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたるとした原判断は相当である。(判決文の理由の箇所から抜粋)

 として、本件の日米の密約≠ヘ「単なる秘密で、違法秘密ではない」といっています。さらに最高裁は、裁判要旨にあるとおり、

 一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。

 と判示していますから、「何が秘密か」や「違法秘密にあたるかどうか」を判断するのは司法(検察や裁判所)だ、ともいっています。

 まとめますと、

 (1) 最高裁は、高裁判決のとおり、「日米の密約は単なる秘密で違法秘密にはあたらないから、西山氏の行為は国家公務員法に抵触して違法だとした判断は相当(妥当)だ」と判決しました。

 (2) それで、筆者が本論でいうとおり、法律論(法理)だけに終始して、この(1)でやめておけばよかったのに、「女をたぶらかした」とか「社会観念(社会通念)上是認されるものである限りは」といった、蛇足≠ニいうか屋上屋を架す≠ンたいな理屈を持ち出したのが余計でした。

 (3) 上の(2)の部分は、本来、違法秘密ではない秘密については国家機密でも「報道する自由」が優先されて違法性を問われないはずなのに、勝手に法律にもとづかない道徳・倫理上の足かせをはめて報道行為を委縮させるようなものですから、筆者のいわれるとおり、

> 最高裁は、そういう法治主義の基本を歪めてまで、政府に迎合した。自民党政府の歓心を買うために、「報道の自由」の原則を歪めて、白を黒と言いくるめた。

> ※ そもそも、法を扱うべき裁判所が、法でなく「社会通念」なんかを合法性の根拠にしているところで、もはや法治主義を逸脱した前近代主義と言える。狂気の沙汰だ。

 ということになると思います。
Posted by かわっこだっこ at 2023年03月16日 08:38
 すみません! 上の私のコメントで、最後の(3)のところを勘違いして書きました。訂正します。

(誤)(3) 上の(2)の部分は、本来、違法秘密ではない秘密については国家機密でも「報道する自由」が優先されて違法性を問われないはずなのに、(後略)

(正)(3) 上の(2)の部分は、本来、違法秘密であれば「報道する自由」が優先されて(報道やそれにかかわる行為の)違法性を問われないはずなのに、(後略)
Posted by かわっこだっこ at 2023年03月16日 09:22
 補足です。上でいろいろと書かせてもらいましたが、これらは「最高裁はどのように判決したか」について注釈させてもらったもので、その中身は、私自身の意見とは違います。つまり、「最高裁は西山事件のどこを悪≠セと判断して、その判断のどこが悪いのか=vということです。

 私は、最高裁が言い放った内容、「何が秘密かは裁判所が決める。違法に問われるか、問われないかの線引きは裁判所がする」ということが正しいとは、全くもって思っていません。そもそも、言論・報道の自由とは、「相手が嫌がることをいう(報道する)自由」のはずですから。相手が喜ぶことをいうだけの自由が「言論・報道の自由」だったら、ロシア・中国・北朝鮮でもそれは十分に保障されていることになってしまいますから。
Posted by かわっこだっこ at 2023年03月16日 09:49
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