2022年03月17日

◆ ウクライナ戦争 16(補遺2)

 前項に続いて、書き落とした話。特に、経済の話。天然ガスがどうのこうの、とか。
 
 ――

 (1) 戦争回避の原則

 「対立関係があっても、双方の間で十分な貿易があれば、戦争は起こらないはずだ。戦争が起こると双方に大損となるからだ」
 こういう原則があった。
 そして、欧州とロシアとの間では、石油や天然ガスを通じて、巨額の貿易があった。だから、戦争は起こるまい、と思われてきた。
 ところが、予想を裏切る形で、戦争が起こった。
 では、なぜ? 

 ロシアの今回の暴走の理由は、いくつか考えられる。
 第1に、ロシアと西側が戦争をしたのではない、ということだ。戦争をしたのはロシアとウクライナである。西側はそれを見守る第三者であるにすぎない。だから、西側ができるのはせいぜい経済制裁であって、それ以上のことはできないはずだ、と足元を見られた。
 第2に、ロシアの貿易的な楽観だ。「欧州は天然ガスをロシアに頼り切っているので、欧州は経済制裁ができない。たとえ戦争になっても、ロシアとの交易を止められない。だから欧州は傍観するしかない。手も足も出せない」という楽観だ。
 第3に、ロシアの軍事的な楽観だ。「どうせ二日間で戦争は終わる」という予想で、短期決戦で終わるはずだった。このことは、2月26日に「戦争終結の予定稿」が漏れたことでバレた。
  → ロシア国営通信が「勝利記事」の予定稿を誤送信! その署名記事でバレた「プーチンの真の狙い」
  → 「48時間でキエフ陥落」予定稿が証明するプーチン氏のウソ
 第4に、上のような予想が出たのは、ロシアの情報局が虚偽情報を上げたせいらしい。というのは、否定的な予想を出すとクビになるから、否定的な予想を出せなかったせいらしい。まわりをイエスマンで固めた恐怖政治の結果とも言える。
  → ロシア情報機関に異変か 「誤算」で幹部軟禁、内部告発も―時事
 
 ひとことで言えば、事前に「誤算」があった。だから、誤算に基づいて、間違った戦争を起こしてしまったのだ。
 プーチンとしては「とっくに大勝利しているはずなのに、予想とは全く違った結果になってしまった」と大いに悔いているようだが、今さら引き返すこともできないので、どんどん暴虐になるばかり……という報道もある。
  → 元CIAロシア担当「プーチン氏は暗殺恐れている」雲隠れ説も

 なお、私の独自の憶測(不確実な推測)を言うなら、こうだ。
 「プーチンが戦争に踏み切ったのは、米国の戦争方針を事前に知ったからだ。つまり、ロシアがウクライナ全土を攻撃しても、米国は反撃しないで傍観するだけだ、と知ったからだ」
 これは要するに、現在のバイデンの方針(米国は決して軍事介入しないという方針)を、事前に知っていたから、ロシアは全土侵略という方針を、安心して取ることができた、ということだ。
 とすれば、バイデンが腰抜け方針を取ったことが、ロシアの開戦を引き起こした、と言えるわけだ。


 (2) SWIFT 排除

 ロシアを国際的な資金決済網である SWIFT から排除する、という方針があった。これは当初、大きな影響を及ぼして、ロシアを壊滅的にさせる、と見込まれた。
 ところがその後の結果は、大山鳴動ネズミ一匹みたいな感じで、規模は大幅に縮小された。つまり、天然ガスの決裁をする銀行は排除の対象外となった。……これでは、尻抜けに近い。ロシアとしては致命的な痛手を負うことはなくなった。
 とはいえ、天然ガス以外の分は、大幅に貿易が少なくなるから、その効果はあるとは言える。
 だが、ロシアはもともと、輸出物が地下資源と小麦ぐらいしかない。これらはすべて SWIFT 規制の対象外だろう。つまり、ロシアとしてはたいして痛手を受けないだろう。
 なお、仮に小麦の輸出までできなくなれば、ロシアとしては大きな痛手を負う。だが、ロシアの小麦の輸出ができなくなると、世界規模で小麦不足が発生してしまう。そうなれば世界的な飢饉が発生する。大問題だ。……というわけで、そういうふうにはなるまい。つまり、小麦が SWIFT 規制の対象となることはあるまい。(この件は、特に報道されていないようなので、私の予想だ。)
 結局、SWIFT 規制の効果は、当初の目論見に比べて、はるかに小さかったことになる。どちらかと言えば、単純な「貿易規制」(輸入関税のアップ)の方が、はるかに大きな影響を及ぼしそうだ。現在、一律 35%の関税がかかりそうなので、ロシアとしてはその分、自国製品の輸出価格を引き下げる(値引きする)必要が生じる。これは外貨建ての価格だが、ルーブル建てだと、ルーブルの相場暴落のおかげで、ルーブル建ての価格はあまり変わらなくて済みそうだ。(といっても、その分インフレになるから、あまり慰めにならないが。)

 なおロシアは対抗策として、独自の取引システムの構築に乗り出しているそうだ。
  →  西側諸国の経済制裁、ロシアは以前から準備 - BBC
 とはいえ、これは、あまり意味がないと思う。そんなロシアの独自システムがあったとしても、それを西側の会社が使わないからだ。
 もともと「金を払わない」という意思のが根源だ。資金決済網の停止というだけの問題ではないのだ。貿易が停まれば、資金決済網がどうのこうのという問題ではなくなる。

 現実的には、このシステムはロシア国内でしか通用していないそうだ。
  → ロシア制裁の「最終兵器」 SWIFTについて知りたい10のこと:日経
 
 ただ、一方で、中国の資金決済網を元建てで利用したり、中国との交易を増やして西側の制裁から逃れる……という対抗策も立てているようだ。
 とはいえ、こんなこをやっていると、中国に頭が上がらなくなってしまうので、かえってまずいぞ、……と思う人が多いようだ。
  → ロシア、外貨準備から中国人民元利用へ=シルアノフ財務相 | ロイター
  → はてなブックマーク


 (3) 天然ガス

 天然ガスの問題はどうなっているか? 西側は他国に乗り換えたがっているが、そう簡単に乗り換えることもできない。いろいろと努力しているようだが、この件はあっさり片付くこともないようだ。
  → 欧州 ロシアからの天然ガス 長期途絶で需要の約15%不足か | NHKニュース
  → 米LNG生産能力、年内2割増 欧州「脱ロシア」の柱に: 日本経済新聞
  → 欧州のLNG輸入、1月4倍 ガス確保前進でロシアに対抗: 日本経済新聞

  → 天然ガス価格の推移(日本/米国/欧州)|新電力ネット

  ※ なお、パイプラインを通るガスは、液化していないので、LNG ではない。
 

 (4) 原子力と石炭

 天然ガスの使用量を減らすために、原発や石炭の利用を一時的に増やそう、という方針に転じる国が多いようだ。特にドイツはそうだ。
  → ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で | ロイター

 一方、日本は何も考えていないようだ。欧州の危機を対岸の火事と感じているようだ。
 しかしながら現実には、日本も「石油価格の高騰」というマイナス面に直撃されている。そこで、まともに対応すればいいのだが、根本的な需給対策をするかわりに、「ガソリン価格を補助金で引き下げる」というような、目先の弥縫策しか考えていない。
 だが、「ガソリン価格を補助金で引き下げる」というふうにしたら、需要拡大の効果が生じるので、需給の逼迫はますます悪化してしまう。本来なら、需給の逼迫にともなって、需要を減らすのが当然であり、そのためには価格を上げる(上がる)のが当然だ。なのに、その逆のことをしようというのだから、根本的におかしい。補助金で価格を下げれば、その分、需要が増えてしまうので、価格がいっそう上昇して、結果的には元の木阿弥の価格になる……ということもありえなくはない。たとえば、「補助金で価格を 10円下げたら、需要増加のせいで価格が7円も上がってしまった。差し引きして、3円しか価格は下がらない。10円を投じても、7円はどこかへ消えてしまったわけで、莫大な浪費が発生してる」というふうになる。
 
 まともな根本対策をしないで、目先の価格のことしか考えていない、というのでは、日本には国家経済の政治はなくて、消費者向けのバラマキという選挙対策だけがあることになる。情けない。

 では、どうすればいい? 一番簡単なのは、ドイツを見習って、日本も原発を稼働させることだ。
 なのに、稼働させない。なぜか? 安全対策の不備が理由である。ただし、震災対策の不備でなく、テロ対策の不備が理由だ。現実にはテロなどはありえないのに、ありもしないテロを、自民党の右派が過剰に心配した。そのせいで、無意味に原発を止めているのだ。
  → 原発テロ対策は茶番: Open ブログ
  → 原発のテロ対策は不要だ: Open ブログ

 日本の若者はみんなスマホやエロアニメばかりをやっていて、過激派のテロをやる若者なんかはいない。なのに、ありもしない過激派テロリストを心配して、原発を止めているわけだ。馬鹿丸出しですね。



 【 関連項目 】

 天然ガスや石油については、前に別項で詳しく論じた。
  → ウクライナ戦争  6(石油・ガス): Open ブログ

 ※ 本項は、そこでは書き落とした話。




 【 関連サイト 】

 外部記事の紹介。

 経済制裁の効果を計量する。2017年の分析。
経済制裁がロシアの経済低迷を招いているという言説がある。だが、ロシア経済低迷の主因は油価下落であり、金融制裁も、ルーブル下落の影響も小さく……、今のところ制裁に目に見える効果は見られない。
( → 対ロシア経済制裁は効いたのか?-久保庭 眞彰 | ユーラシア研究所

 ――

 ロシアとインドは、兵器輸出で関係が深いので、インドは親露的な立場を取るそうだ。
  → ウクライナ問題で沈黙するインド、西側諸国はどう見るのか | Forbes JAPAN
  → ロシアを非難する国連決議にインドが棄権した理由  WEDGE Infinity
  → ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情  WEDGE Infinity

 ――

 ウクライナは欧州の小国ではなく大国である、という話。
  → ウクライナは人口約4000万人。スペインと大差ない人口の国 - Togetter

 ウクライナの歴史の解説。
  → 1分でわかるウクライナの歴史

 ――

 ウクライナから来た避難民に、避難所で、紙管の区画設備を提供する、という話。
  → 坂茂さん、ウクライナ避難民支援で見た現地「対岸の火事ではない」:朝日新聞
  → https://x.gd/AKs8l
  → https://x.gd/KSEhE
  → https://x.gd/bB2Rz
  → https://x.gd/zcD6U

 


 【 追記 】
 クルーグマンが本項によく似た話を書いている。18日の朝日新聞朝刊。
 ウクライナが驚くほど効果的な戦いを繰り広げてきたにもかかわらず、大半の軍事専門家は火力で圧倒するロシア軍の優位性が最後に勝ると考えているようだ。
 ロシアのプーチン大統領が大きな計算違いをしたことは明らかだ。……当初の攻撃は撃退され、戦車や砲兵による後続攻撃も泥沼化した。
 それはプーチン氏の唯一の誤算ではなかった。彼は戦争による経済的影響を容易に切り抜けられると間違いなく信じていた。
 現時点では、プーチン氏は二重の誤算をしたようだ。彼が描いた短期決戦による勝利は、世界を憤らせる血みどろの膠着状態へと変わった。彼が誇る「経済要塞ロシア」も大恐慌並みの不況に向かっているように見える
( → (コラムニストの眼)プーチン氏の二重の誤算 ポール・クルーグマン:朝日新聞

 戦争の戦況が誤算であっただけでなく、経済面でも誤算だった、と述べている。二重の誤算だ。

 ここで、最初の「誤算」については、本項の (1) の話と共通している。
 最後の「誤算」は、経済面の話だが、これは本項にはない話だ。ただし、経済面の影響は、私も独自に試算した。その結果は「致命的ではない」というものであって、甘い評価となっている。一方、クルーグマンは「大恐慌並みの不況」と述べて、厳しい評価となっている。
 私とクルーグマンは、評価の方向性は正反対だが、言っていること自体はほぼ同様だと言える。ただし比較対象が違う。私は、国家破綻を基準として、「それほどひどくはならない」と甘く評価している。クルーグマンは平常状態を基準として、「それよりは大幅に悪化する」と厳しく評価している。これはまあ、評価基準が違うだけで、どっちも同じような結論だとも言える。
 それよりは、「どちらも経済状況の見通しを考察している」という点で、両者の関心が同じであることがわかる。
  ・ 「誤算」を戦争の本質と見なしている。
  ・ ロシアの「経済的失速の程度」を考察対象としている。

 という二点において、クルーグマンと私は視点が共通しており、ほとんど双子のようにそっくりさんだとも言える。
 これはまあ、いつもの経済論議でもそうなのだが、戦争時においても同じようなことを考えているわけだ。
 本当にそっくりさんだな、と我ながら驚いたわ。


posted by 管理人 at 23:57 | Comment(3) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 (1)で、プーチンについて「まわりをイエスマンで固めた恐怖政治」と述べたが、その補足情報。

 → 苦戦するロシア軍 ある司令官の死で露呈した通信システムの脆弱さ|テレ朝
  https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000248345.html
Posted by 管理人 at 2022年03月18日 08:05
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 クルーグマンの記事の紹介。本項とよく似ているので。
Posted by 管理人 at 2022年03月18日 14:08
> 紙管の区画設備を提供する、という話。

 の続報。
 → https://digital.asahi.com/articles/ASQ4823D0Q47UHBI00K.html
Posted by 管理人 at 2022年04月09日 08:01
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