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石油
ロシアへの経済制裁で、ロシアの石油を輸入禁止にしたいが、そうすると石油価格が上昇するので、消費国にとっては不都合だ。
あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
(1) イラン制裁の解除
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「イランへの経済制裁(石油輸出の禁止)をやめる。イラン産の石油を西側にもってくることで、ロシア産の石油がなくなる問題(石油不足)を回避する」
現状では(トランプの方針を引き継いで)イランに経済制裁をかけている。イラン産の石油を輸入禁止状態にしている。これで、イランは石油を売ることができなくなって、経済的には大きく困っている。
一方で、イランは協定で縛られることがなくなったので、核開発を勝手にどんどん推進している。
これは、「双方がともに損する」という状況である。
・ イランは、石油代金を得られないので、大損である。
・ 米国は、イランが核開発をするので、安全を損ねて、大損である。
ここでは、相手に損をさせているが、自分自身の得るものは何もない。単に相手に損をさせて喜ぶだけであって、自分にとっては何もプラスがない。これは win-win とは逆の lose-lose の関係である。愚の誇張。
そこで、これを逆にすればいい。つまり、(トランプが意図的に破棄した)条約を、元の状況に戻せばいい。そうすれば、
・ イランは、石油代金を得られるので、得である。
・ 米国は、イランが核開発をやめるので、安全になり、得である。
というふうになる。双方がプラスになるので、これは win-win の関係である。賢明ですね。
だから、さっさとそうしろ、と私は前に指摘した。昨年 11月のことだ。
→ イランの核開発の現状: Open ブログ
(2) 解除の効果
では、制裁を解除すると、どうなるか? もちろん、イランの石油生産量が増える。だが、それだけではない。ここでは、重要な効果が生じる。
「イランの石油生産量が増える分、世界全体の石油生産量(供給量)が増えるので、ロシアからの石油輸入の減少を、補うことができる」
現在、「ロシアからの石油が減少しそうなので、大変だあ」というふうに、世界では大騒ぎしている。実際、石油価格の相場は、急上昇している。
原油価格が歴史上類を見ないスピードで値上がりしている。2020年にはマイナス価格になったこともあるNY原油先物が、22年の初めには75〜80ドル近辺まで値上がりした。そして3月に入ると、年初からさらに4割も暴騰し、一時は1バレル=112ドルを突破したのだ。
( → 原油価格が史上最速ペースの値上がり 「第三次オイルショック勃発」の可能性も:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」 - ITmedia ビジネスオンライン )

こういうふうに価格が上昇するのは、投機的な思惑の影響もあるが、現実にロシアからの石油供給量が減少気味だということもある。また、将来、実際に減少するのも確実だ。
さらに言えば、西側としては、できればロシアの石油輸入を全面的に禁止したい。少なくとも、自分たちに悪影響のない限りで、最大限に石油輸入を減らしたい。だが、石油輸入を減らすと、価格が上昇するし、石油不足にもなる。それでは困る。
ところが、イランへの経済制裁を解除することで、イランからの石油輸入を増やすことができれば、ロシアからの石油が減った分を補えるのだ。……こうして、問題をうまく回避できる。(つまり、ロシアへの経済制裁をやりやすくなる。)
(3) イランの生産量と備蓄
では、理屈はそうだが、実際にはそううまく行くか? 目論見通りになると期待できるか?
それを知るには、イランの石油の、生産量・輸出量・備蓄量を調べればいい。
ググると、次の文献が見つかる。
→ 原油生産量、輸出量は過去最低水準まで落ち込み
ここから、次のグラフを得る。(生産量、輸出量)


グラフからわかるように、最近では、イランの生産量も輸出量も激減している。ということは、その分、世界市場に向けて新たに供給を増やせる、ということだ。こうして、ロシアからの石油の減少を補える、とわかった。
備蓄量については、次の情報がある。
中国などへ輸出しているほか、米原油制裁の解除にそなえ海上のタンカーに貯蔵している。調査会社ケプラーによるとイラン石油の海上貯蔵は21年12月初旬の6300万バレルから2月に8700万バレルへと急増した。
( → イラン、原油じわり増産: 日本経済新聞 )
ここでも、大量の備蓄があるので、それを緊急的に市場に投入できる、とわかる。
(4) OPEC
問題は、OPEC だ。イランが OPEC に加入している限りは、OPEC の制約を受けて、生産量の増加があまり見込めない。生産量を大幅に拡大可能だとしても、OPEC との協調を守るために、あえて増産を抑制する。それでは効果が減じてしまう。
そこで、イランへの経済制裁を解除するときの条件として、「 OPEC を脱退して、上限なしに無制限に大量に生産すること」を要求すればいい。こうすれば、西側もイランも、ともに大量の生産の利益を得る。
困るのは、OPEC に属するサウジアラビアや、クウェートや、ロシアなどだが、そんな国々の強欲な利益に配慮する必要はあるまい。
(5) 交渉中
以上に述べたことは、実現可能だろうか? 心配する人がいそうだが、案じるには及ばない。実は、これは実現可能性を考慮するまでもなく、すでに実現中である。すでに交渉中であって、交渉がまとまりかけている。2月17日の報道だ。
イラン核合意再建に向けた主要国の交渉で、イランが義務履行に戻り、米国が復帰を果たす段階的な手続きを定めた草案が大筋でまとまり、詰めの協議が行われていることが明らかになった。
外交筋によると、第一段階にはイランによるウラン濃縮度引き下げなどが盛り込まれ、その後、米国が対イラン制裁の解除に着手する。
草案は第一段階として、イランが5%を超えるウラン濃縮活動を停止すると規定。
最初の一連の措置が講じられたことが確認されてからはじめて、イラン関連制裁解除の手続きが始まる。
複数の当局者は、合意がまとまってから「再履行の日」までの期間を1〜3カ月と予想している。
( → イラン核合意、段階的再建の草案で詰めの協議=外交筋 | ロイター )
交渉がまとまりかけている。その点はいい。だが、あまりにもスピードが遅い。これは、イラン対策と、ロシア対策とが、分離しているからだ。双方を統合的に処理するという発想が欠けているからだ。
イランの石油生産が解禁されるのは、「合意がまとまってから……1〜3カ月」ということだ。だが、これだと、その分、石油不足の解消する時期が遅れてしまう。馬鹿げている。イランを罰することに熱中するあまり、その何倍も、自分自身を罰することになるのだ。……それというのも、今は「世界的な石油不足」という状況にあるからだ。
ここでも「正義にこだわるあまり、かえって大失敗する」という愚行がなされている。「悪しきイランを懲らしめるのが正義だ」と思うあまり、そのことで、ロシアを有利にし、ロシアをのさばらせ、しかも、自分自身に莫大な損失を与える。その間、ボロ儲けするのは、OPEC 諸国だ。
「ロシアと米国がともに大馬鹿であるせいで、ともに大損をする。そのおかげで、こっちは何もしないで、ボロ儲けだ。漁夫の利だ。大国が大馬鹿同士だと、飯がうまいぜ」
と思っているわけだ。ウクライナで血が流れれば流れるほど、産油国にはどんどん金が流れ込むという図式だ。
そして、そういう図式をもたらしているのは、「悪しきイランを懲らしめなくては」という米国の独りよがりな正義感なのである。この正義感のせいで、ウクライナ人は血を流し、米国は金を大幅に捨てる。その捨てた金を頂戴するのが、産油国なのだ。

天然ガス
石油はともかく、天然ガスについてはどうか? 石油ならば、生産を減らしたイランの石油を増やせばいい。だが、天然ガスについては、その手は使えない。しかし、どうしてもロシアの天然ガスの輸入を減らしたい。それには、どうすればいいか? 何かうまい手はないか?
(1) 春
今は春先なので、暖房の必要が必要のなくなったころ(5月ごろ)以後に、ロシア産の天然ガスの輸入を減らせばいいだろう。総需要が少なくなっていれば、ロシア産の分を大幅減にすることができる。
たとえば、最大需要期にロシア産の割合が 50%だとして、需要が3割減になるとしよう。ここで、全体の 70のうち、他国の分は 50のまま維持すれば、ロシアの分を 50から 20に減らすことができる。6割減だ。つまり、ロシアからの輸入を大幅減にすることが可能だ。
(2) 部分禁止
すぐ上の例からもわかるように、ロシアへの経済制裁としては、輸入を「全面禁止」にする必要はなく、「部分禁止」にするだけでも足りる。たとえば、ロシアからの輸入を半減すると、ロシアとしても輸出が半減することになり、経済的には大打撃を受ける。
だから、必ずしも「全面禁止」にする必要はないのだ。「部分禁止」でもそれなりの効果はあるのだ。
また、部分禁止であれば、5月を待たず、今すぐにも実行できる。今は真冬ではないので、ガスの総需要が少し減っているからだ。その分、ロシアからのガス輸入を、1〜2割ぐらいは減らせるだろう。
《 注記 》
「部分禁止」という方針は、天然ガスだけでなく、石油にも適用することができる。そもそもイランの生産量(増産可能量)は、ロシアの生産量の半分にも満たないので、ロシアの石油の輸入を全面的に禁止にすることはできない。だから部分的に禁止することぐらいしかできない。
しかしそうだとしても、ロシアにとっては「輸出量の半減」ぐらいの大きな損失をもたらすことができる。だから「部分禁止」であっても、かなり大きな効果を見込めるのだ。
(3) 他のエネルギー
ガスの使用量を減らすために、他のエネルギーの使用を推進するといいだろう。短期的には、石炭や原発の利用を高めるといいだろう。
この規模の戦争ならば、何十年も続くことはなさそうなので、比較的短期間で、経済制裁は解除できそうだ。ならば、一時的に炭酸ガスが増えたとしても、あまり心配しなくてもいいだろう。特に、石炭の使用は、容認しても良さそうだ。どっちみち、天然ガスだって、ある程度の炭酸ガスは排出するからだ。石炭に変えても、炭素の発生量は2倍になるぐらいだろうから、大差が生じるわけでもない。
また、「石炭と原発の組み合わせ」ならば、プラスとマイナスの組み合わせなので、炭酸ガスの発生量はそれほど大きく増えることはなさそうだ。
というわけで、一時的には、石炭の使用量を増やしてもいいだろう。
価格調整
(ロシアから来なくなる分だけ)石油やガスの消費量を削減することも大切だ。そのためには、価格調整が有効だ。つまり、
「石油やガスの価格を値上げすることで、消費者に使用量の抑制を促す」
ということだ。これはこれで、かなり有効な方法である。「市場原理に従う方法だ」とも言える。
※ 石炭や原子力発電への移行を促す効果もある。
このことを実現するには、「価格の値上げ」をきちんと認めることが大切だ。「価格が値上がりになると、庶民が苦しむ」なんて言っていてはいけない。たとえ自分たちが苦しむことになっても、ロシアからの石油や天然ガスを減らすことが大切なのだ。身を切る痛みが必要なのだ。それこそが、平和に向けた努力というものだ。
ところが、これに逆行する方針がある。それが、「ガソリン補助金」という方針だ。
この方針に従えば、本来の価格調整(市場原理の分)を歪める形で、政府が価格を下げる。その分、消費量が増えてしまう。その分、ロシアに対する経済制裁の効果を損ねてしまう。(経済制裁をしにくくなってしまう。)……これは馬鹿げている。
要するに、政府は多額の税金を投入することで、ロシアに対する経済制裁の興亜を弱めて、ロシアの侵略に加担しようとしているのだ。愚の骨頂と言えるだろう。
ついでに言えば、これを特に推進しているのが、公明党と国民民主党だ。この両党は、ロシアの手先だとも言える。「庶民の味方」というフリをして、結局はロシアに有利になるようにしているのだ。(経済制裁を弱める形で。)
備蓄の取り崩し
とはいえ、「価格の値上げ」は、痛みがあるので、なるべく避けたいところだ。
では、どうすればいいか? 代案としてあるのが、「備蓄の取り崩し」だ。これには、次の効果がある。
・ 需給が逼迫しているときに市場に供給を増やすので、価格が低下する。
・ 需給の逼迫が緩和される。(量の不足が緩和される。)
・ 高いときに売って、安いときに買うので、差益が生じる。
最後のことゆえに、この事業(備蓄の取り崩し)は、黒字の事業である。「ガソリン補助金」というのは、やればやるほど国の金が減るのだが、「備蓄の取り崩し」というのは、やればやるほど国の金が増えるのだ。まるで、手品のように。魔法のように。無が有を生み出すように。
同じような結果(価格の値下げ)をもたらすにしても、政府の方法でやれば大損となるのだが、 Openブログの方法でやれば大幅黒字になるのだ。……これぞ、利口な方法というものだ。


いろんな識者の意見を聞いていてもそのことへの指摘がないので不思議に思っています。
※ 以上はすでに報道済みです。
今回も、新規開発しても、採算に乗るのは数カ月だけで、その後は暴落でしょう。大損するとわかっているのに、新規開発するはずがない。
需給の一時的な変動には、一時的な対処策を採るのが本道だ。一時的な変動に対して、永続的な対策をしたら、長期的に莫大な損失を負うだけだ。
そもそも、今すぐ開発したとしても、石油が出るのは1年以上も後なので、そのころには戦争は終わっています。
なお、既存の分は、すでに目いっぱい増産中です。千載一遇のボロ儲けのチャンスなんだから、増産しないはずない。