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前項で述べたように、「みなし仮設に応募する人が少ない」という現実がある。県は 2100戸を用意しているのに、応募者はたったの9人しかいない。その理由は、「全半壊と見なされないと、家賃が自己負担になるから」だ。
「家賃が自己負担になる」ことぐらい、別に、どうってことはない、と思える。通常、誰だって、家賃は自分で払っている。都会では 10〜20万円を払う人も多い。なのに、熊本で5万円ぐらいの家賃を自腹で払うことぐらい、どうってことはないはずだ。なのに、月5万円ぐらいの家賃を払えないとしたら、それは、「借間を借りないせいで、エコノミー症候群になってもいい」ということだ。つまり、「命より金が大事だ」ということだ。……そういうふうに思える。(*)
こう書くと、すぐに反発する人が出るだろう。
「命より金が大事だなんて、被災者を馬鹿にするのも、いい加減にしろ。被災者が本気でそんなふうに思っているわけがないだろうが。被災者の困窮を理解しろ!」
まあ、それはわかっている。だから、上の(*)は、本気で書いたわけじゃない。あくまで、理屈として示しただけだ。
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ここで、問題だ。被災者は、「命より金が大事だ」とは思っていない。しかしながら現実には、「命より金が大事だ」というのと同様の行動を取っている。では、それは、なぜか? これが問題となる。
被災者の心理は、おそらく、こうだろう。
「金が全然ないわけじゃない。いくらかの貯金はある。しかし、貯金を取り崩すわけには行かない。なぜなら、家屋が倒壊したあと、家屋を再建するからだ。それには数百万円もの金がかかる。ここで今、毎月6万円ぐらいの家賃を払っていたら、将来、家を再建できなくなる。だから、苦しくても、車中泊や避難所暮らしで、家賃を節約しなくちゃならないんだ」
なるほど。それなら、エコノミークラス症候群を覚悟で、車中泊や避難所暮らしをするのもわかる。
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とすれば、被災者を救うための方法もわかる。
被災者を救うには、救援物資の食品や日用品を送ればいいのではない。そんなものは余っている。そもそも、被災者の自宅にだって、日用品はあふれている。そんなものを大量に送ってもらっても意味がない。
被災者を救うには、日常生活を救うのではなく、被災者の命を救うべきだ。つまり、エコノミークラス症候群になることから脱するようにさせることだ。ところが、今の被災者は、「命より金が大事だ」という方針を取っている。(これを非難することはできない。)
ここでは、「命より金が大事だ」という方針を(批判せずに)前提とすればいい。その上で、「命より金が大事であるならば、まずは金を与える」というふうにすればいい。そうすれば、命よりも大切な金が満たされるので、次に、命を救う方法を考える。
つまり、「被災者の命を救うべきだ」と思うのであれば、被災者の命を救うための直接的な手段(食品や日用品)を与えるのではなく、金を与えるべきなのだ。それこそが、被災者の命を救うための、真の方法となる。
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ここで、行政組織は反発するだろう。
「命を救うのは行政組織の任務だが、金を与えるのは行政組織の任務ではない」と。
で、そのかわりに何をするかというと、莫大な金を投じて、仮設住宅を建設する。被災者は「月3〜5万円でいいから、金を出してくれ」と思っているのに、「いや、駄目だ。総額 1000万円の仮設住宅を現物給付するのだ」と言い張る。
愚の骨頂。(アホですかね。)
だから、私としては、こう言いたい。
「仮設住宅を現物給付するのでなく、現金を給付せよ」
と。
つまり、ここでは、「金を与えよ」ということは、「金をいっぱい与えよ」ということではなくて、「少しの金でいいから、現物のかわりに現金を与えよ」ということだ。
「金を与えよ」ということは、「金を与える量を多くせよ」ということではなくて、「与えるものを、現物でなく、現金にせよ」ということだ。そして、そのとき、与えることにかかるコストは、大幅に低くなるのだ。(一括 1000万円が、月3〜5万円にまで下がる。)
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結論。
「命より金が大事だ」というのが、被災者の現状だ。ここでは、これを否定せず、これを前提として考えるといい。そうすれば、「被災者には金を与えよ」という結論が出る。
しかるに現状では、「被災者には現物を与えよ」という方針が取られている。これでは、被災者の命は失われるばかりだ。のみならず、莫大なコストがかかり、莫大な金を捨てることになる。
「金を大事にせよ」という方針は、否定されがちだ。しかし、「金を大事にせよ」という方針こそ、命を救うのだ。さらに、税金の浪費も減らすのだ。
金というものをないがしろにすると、被災者の命を損ない、国民の金をも損なうことになる。
独りよがりな善意よりも、現実に即した金銭計算こそが大切なのだ。惨事のときには、見失われがちだが。
【 関連書籍 】
不道徳教育講座 (角川文庫)
