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これは、読売新聞の問題提起だ。読売・朝刊・1面 2016-04-27 に、該当の記事がある。その趣旨は、次の通り。
・ 16日の本震のあとは、携帯大手3社の基地局 400局が機能停止。
・ 長時間の広域停電でバッテリーがもたなかったことも理由。
・ 山間地で孤立した被災者は、連絡が取れないと、命に関わる。
・ 南阿蘇では地上に「2人保ゴ要」と書いた例もあった。
・ それを見たヘリコプターが救護に向かった。
・ 現地では固定電話やスマホが通じなかったそうだ。
・ 新潟県中越地震でも、携帯が通じず救急車を呼べなかったことも。
・ 孤立の恐れのある集落に衛星携帯電話を、と国が自治体に促す。
・ しかしコストがかかりすぎるので、多くの自治体は消極的。
・ 一方、今回は Wi-Fi スポットが有効だった。通信障害時でも通じる。
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以上の話について、裏取りしてみる。
(1) 携帯電話
まず、携帯電話が通じなくなったというのは事実だが、各社で大きく差が付いた。ソフトバンクはつながらない例が続出したが、NTT はつながることが多かった。
→ (続)つながるドコモ。ソフトバンクだと死ぬ。 - Togetterまとめ
ここから、いくつかのツイートを引用しよう。(孫引き)
官邸サイトより18日14時現在
— XPF (@jm3xpf) 2016年4月18日
・ NTTドコモ:28 局停波(熊本 25 局、大分3局)
・ KDDI(au):23 局停波(熊本 20 局、大分3局)
・ ソフトバンク:【携帯電話】143 局停波(福岡 4 局、熊本 126 局、大分 13 局)【PHS】64 局停波
んー、やっぱりdocomoは結構強いねぇ
— noriokun@ブログ (@noriokun_blog) 2016年4月16日
docomoはぽつぽつ復旧できず使えないエリアがあるけど、auは結構固まってる
1枚目docomo 2枚目au pic.twitter.com/QRvvFCqiYF
南阿蘇村 auとドコモ 灰色が中断エリア pic.twitter.com/HXKFHLmEvP
— gx-one (@wave892) 2016年4月16日
NTTドコモが安定しているのは、災害時のための緊急用バッテリーが長時間対応であったらしい。一方、ソフトバンクの緊急用バッテリーは3時間しかもたないので、停電から3時間をすぎると、基地局が止まってしまうらしい。
というわけで、「緊急時への対応は、ソフトバンクのかわりに、NTTドコモのスマホを使うこと」で一応解決できそうだ。(一部地域では電波が届かなかったところもあるが。)
(2) 衛星無線
衛星無線はどうか? 高コストが阻害要因らしい。記事では 20台で年間 120万円。1台6万円。月額 5000円。これだったら、スマホとほぼ同じ額だ。「高額で払えない」というような額ではあるまい。記事はおかしい。
実は、調べてみると、通信料そのものはスマホと同程度だ。ただしスマホは「機種は実質無料」となっていることが多い。一方、衛星電話は、昔は1台 100万円以上。今でも、1台 25万円ぐらいする。
→ 衛星携帯電話ラインアップ | KDDI株式会社
これは高すぎるね。つまり、記事の言う「通信料」は関係なくて、機械本体が高額すぎるのだ。ここが難点となる。
(3) トランシーバー
衛星電話が駄目なら、トランシーバーはどうか? これなら通信料を取られない。そこで調べてみると……
第1に、個人向けのトランシーバーは、出力が弱すぎて、500メートルぐらいしか届かない。これでは災害時の連絡用途には使えない。
第2に、業務用のトランシーバーなら、「基地局を中心に半径10〜40Km」とのことだ。
→ 業務用無線Q&A
これはいいぞ、と思えるかもしれないが、上記の距離は遮蔽物がない海岸線での話。市街地や山岳部では、到達距離は大幅に縮まる。2km ぐらいしか届かないことも多いようだ。全然、物足りない。
ただし、コスト的には最安だ。
通信料など継続的な経費はかかりません。初期導入時に無線機器、アンテナ、工事、免許申請事務などの費用がかかります。しかし継続コストがかかりませんので、携帯電話と比べて中・長期的に見ればコストは安上がりとなります。 ( → 上記サイト)
なお、利用資格は、一般人ではなく、公共目的などに限られる。今回の事例では、自治体なので、条件はクリアしている。
業務用無線については公共目的、人命・財産にかかわる業務など使用目的が限られます。( → 上記サイト)
ちょっとはよさそうだ。実際、かつてはいくらか普及したこともある。(コメント欄による。)
とはいえ、今では伝達距離の不足が致命的だ。特に、辺鄙な山間部では電波が届きにくいのが、決定的な難点だ。
(4) MCA無線
さらに調べると、MCA無線というものがある。中継局を使う無線連絡網だ。詳しくは下記。
→ 業務用無線との比較 | MCA無線の専門サイト
コストは下記。
→ サービスメニュー/料金 | 業務用デジタルMCA無線通信システム
そこそこ、安い価格であるようだ。衛星電話よりはマシであるようだ。そこで、総務省は、衛星電話と並んで、MCA無線を推奨している。とはいえ、実際には、総務省が用意しても、使う自治体は少ない。
貸出中の機材(4月26日現在)
○移動通信機器
衛星携帯電話 1町 2台(残り 8台)
MCA無線機 1市1町 23台(残り14台)
( → 総務省|九州総合通信局|平成28年熊本地震関連情報 )
高額な衛星携帯電話も、あまり高額でない MCA無線機も、総務省がタダで貸し出すといっても、市町村は利用しない。半分以上が余ったまま、眠っている。なぜか?
それは、これらの機械を使うには、免許が必要だからだ。アマチュア無線(ハム)みたいに、特別な免許を持っていないと、これらの機械を扱えないのだ。勝手に扱うと、法律違反になる。そんなことを、公務員が犯すはずがない。
では「免許を取ればいい」と言う人もいるだろうが、地震が起こったあとで言っても、手遅れだ。間に合わない。
また、田舎の地方の公務員なんて、頭のレベルが低い人が多いので、パソコンもろくに使えないことが多い。なのに、特殊な無線機の操作なんて、まず無理だろう。
また、操作する人が地震で来られなくなる可能性も考えると、複数(数人)の人が免許を取る必要があるが、それは辺鄙の小さな自治体にとってはハードルが高すぎる。(南阿蘇村の人口は 1万人ちょっとにすぎない。)
というわけで、MCA無線という機会は、悪くはないのだが、今回の目的である「辺鄙な場所での緊急時の連絡手段」という目的のためには、敷居が高すぎて、配備は困難だ。
( ※ 実際、配備されていなかったようだ。また、今後、全国の辺鄙な自治体に配備される見通しも、ろくにない。)
(5) NTTドコモ
となると、現実的には、(1) で述べたように、NTTドコモのスマホを使うことで解決しそうだ。ほとんどの地域では、これで足りるようだ。
あと、固定電話もかなり有効だ。
一方、光回線を使うのは、良くないらしい。固定電話には、電力を自給する機構があるが、光回線は、装置を外部電力(電灯線)に頼っている。外部電力が停電となると、光回線を使う装置も停止してしまう。こういう脆弱性が、光回線にはある。
(6) 例外
NTTドコモと固定電話、と述べたが、これでは住まない例もあるようだ。記事では、南阿蘇で地上に「2人保ゴ要」と書いた例が報じられた。
これは、次のテレビ・キャプチャでわかる。

出典:FNNニュース
これはどこか? 記事にペンションオーナーの氏名が新聞記事に出ていたので、その氏名で検索すると、次の場所だとわかった。
ここでは、固定回線はつながらなかったそうだ。スマホも通じなかったというが、
では、衛星電話や MCA無線があれば大丈夫だったか? いや、ここにいる住民は、免許を持っていない。機械があっても、操作する人がいない。だから、衛星電話や MCA無線があれば大丈夫だったということにはならない。
では、衛星電話も MCA無線もなく、固定電話もスマホも通じないときには、ここで救助を求める人は、どうすればよかったのか? 何かうまい方法はないか?
(6) うまい方法は?
ここで、困ったときの Openブログ。正解を示そう。
「ここで被災者は、腰や足の痛みのせいで動けなくなっていた。彼らが必要としていたのは、運搬手段だった。ところが、運搬手段としての自動車は、道路不通によって使えなくなっていた。彼らが必要としていたのは、ヘリコプターだった。だから、彼らにとって必要な連絡手段とは、ヘリコプターを呼ぶための連絡手段だった。それはつまり、地面に大きく文字を書くことだった」
つまり、「地面に大きく文字を書くこと」は、通信方法がない状態での最終手段だったのではなくて、運搬方法がない状態での最適手段だったのだ。
この状態では、衛星電話も MCA無線も意味がない。そんな機械を使って、「ヘリコプターを呼んでください」なんて言っても、いつ来るかわかったものじゃない。それより、今まさしく上空を飛んでいるヘリコプターに対して、「ここですよ」と訴える方が、ずっと手っ取り早いのだ。実際、ヘリコプターの捜索員は、すぐに対象となる文字を見つけた。(あのくらいの文字があれば、たやすく見つけることができるだろう。)
というわけで、このような特殊事例に対しては、「地面に大きな文字を書く」という方法がベストであったことになる。これに対して、「衛星電話を」なんてふうに述べても、お利口なように見えても、てんで役立たずであるにすぎないのだ。
( ※ 私がうまい方法を示したのではなく、うまい方法はもともと示されていた、と指摘するわけだ。灯台もと暗し。幸せの青い鳥。)
(7) Wi-Fi は?
記事では「 Wi-Fi がすごく役立った」と記している。しかし、これはピンボケだ。
なるほど、「 Wi-Fi がすごく役立った」というのは事実だろう。しかしそれは、地震の直後ではなくて、しばらくたってからのことだ。(ケータイ各社が、避難所に Wi-Fi 機器を無料設置した。)
地震の翌日からは、ケータイ各社が Wi-Fi の基地局を無料で解放したが、それを利用した人は特に多くはなかったようだ。
さらに問題なのは、「 Wi-Fi が通じる場所は、光回線のある場所だから、停電していない場所に限られる」ということだ。停電していたら、光回線も使えない(ルータなどが使えない)のだから、Wi-Fi が使えるはずもない。
要するに、Wi-Fi というのは、光回線に依存しているがゆえに、(事故で電力供給する)固定回線よりも、はるかに脆弱だ。緊急時の連絡手段としては、まったく頼りない。
今回、避難所の無料 Wi-Fi が役立ったのは、「自宅の通信回線が途絶した」という人向けの、「無料回線」としての手段という意味だ。「緊急時の頑丈な回線」という意味ではない。なのに、記事はそこを勘違いしているようだ。(通信途絶のときの回避手段を話題にするべきなのに、「家庭回線が使えないときの無料回線」という話題を出しているだけだ。見当違い。)
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結論。
結論としては、こうなる。
「辺鄙な田舎の自治体が配備するべきは、NTT ドコモのスマホだ。ソフトバンクや au は駄目だ。あとは、衛星無線や MCA無線、業務用無線を配備してもいいが、コストはかかるし、免許も必要だ。あるに越したことはないが、無理ならやめても仕方ない。この三つのうち、どれかを選ぶとしたら、MCA 無線だろう。衛星無線は高価すぎて駄目だし、業務用無線は性能が低すぎて駄目だ。なお、光電話は停電で使えなくなるので、固定電話回線は備えておいた方がいい」
なお、NTTドコモのスマホ回線が高額で困るというのなら、格安スマホでもいい。この件は、次項で述べる予定。
[ 付記 ]
地震のときの最強の通信手段を教えよう。それは、「人と人とのつながり」だ。
今回も、「2人保ゴ要」と記したのは、動けなくなった 80代の老夫婦自身ではなくて、そばにいるペンションのオーナー(つまり他人)だった。
緊急時こそ、「人助け」ということの価値は途轍もなく大きくなる。熊本市内でも、避難所に食料を求めに行くかわりに、自宅にある保存食やミネラルウォーターを持ち寄ることで、近所にいる人々を救った主婦たちの例が示されていた。
こういうふうに、人助けをすることこそ、最大の効果をもたらす。地震というと、「通信手段が人命を救う」と思いがちだが、助けを呼ぶことが最強なのではない。そばにいる人が何らかの手助けをすることが最強なのだ。
特に、本項を読んでいる人は、高齢者ではないのだから、いざというときには、まわりにいる高齢者や病人や赤ん坊や幼児などを助けるように、心がけてもらいたいものだ。
そういう意味を込めて、私もこのブログを書いている。微力ながらも。自分のできる範囲内で。

携帯電話が普及する以前は5万人くらいの市なら独自の業務用無線をそろえていましたよ、もちろん免許とかそういったものをクリアして。
単純にコストカットでしょう。2000年くらいから携帯電話がほぼ普及してきて、平時であれば無資格でほぼ同等なものが運用できること、あと時節柄公務員叩きが華やかなころで、業務用無線免許をもっていることに資格手当が支給されていたことが問題視されたりして、なくなっていったのでした。
昔なら無線で配車する法人タクシー運転手は全員業務用無線資格をもち、かつ使っていたわけでそんなに難易度が高いわけではありません。
現在ではタクシーの方も形は無線機ですが、ベースは携帯電話になっていて無資格で扱えるようになっています。
MCA無線は、月額 2500円ぐらい取られる。衛星電話の半額。1万人規模の自治体だと、しんどいのかも。
本文には記さなかったが、新聞記事によると、南阿蘇村も「金がない」という理屈で衛星電話を導入しなかったそうです。
> 5万人くらいの市
本項で話題になっているのは、辺鄙な田舎です。5万人くらいの市だと、通信途絶になることはあまりなさそうです。今回の南阿蘇村は 11,632人。
→ http://j.mp/1Tl42eX