記事を引用しよう。
《 急病感知、自動で路肩に停車…トヨタが実用化へ 》
トヨタ自動車グループは、ドライバーが急病などで運転できなくなった場合、車を自動で路肩に停止させる技術を2020年をメドに実用化する方針だ。
大阪・梅田で2月に起きたような暴走事故を防ぐ狙いがある。
トヨタ系自動車部品大手のアイシン精機などが開発中のシステムは、ハンドルの後ろに設置したカメラと赤外線センサーがドライバーの顔の向きやまぶたの開閉、運転姿勢などを監視。体が大きく倒れるなど異常が続いた場合、音声で警告した上で、反応がない場合、自動運転に切り替わって車を路肩に停止させる仕組みだ。
( → 読売新聞 2016-03-02 )
《 運転中に急病…察知し路肩停止 アイシンが支援技術公開 》
運転中に体調が悪くなると車が自動で路肩に止まったり、スマートフォンを使って簡単に駐車したり――。トヨタ自動車系部品大手のアイシン精機が、開発中の自動運転技術を報道関係者に公開した。大阪・梅田で起きた暴走のような事故を防げる可能性があるが、実用化には法改正などのハードルがある。
■体の傾き、カメラで検知
運転席のテストドライバーが助手席側に倒れ込む。「アーユーオーライ?(大丈夫ですか?)」。車載システムの問いかけに応答せず、体勢を戻さないと、自動でブレーキがかかり、道路の左脇に止まった――。
アイシンが2月27日に北海道豊頃町の試験場で公開した「緊急路肩退避システム」。ハンドルそばのカメラがドライバーの体が前方や左右に倒れていないかを検知する仕組みが土台だ。まぶたや瞳の動きで脇見を検知すると警告を発する従来技術を応用している。
■実用化には規制の壁
こうした自動運転関連の技術は、日産自動車や独メルセデス・ベンツ、BMWなど自動車大手各社が開発でしのぎを削る。アイシンもこの流れに乗り遅れまいと懸命だが、実用化の時期は「未定」(藤江副社長)という。
国際的な道路交通ルールでは、時速10キロ以上の状況で自動でハンドル操作をしてはいけないことになっており、日本もこれにのっとっているからだ。今のルールは、緊急路肩退避のような高いレベルの自動運転技術を想定しておらず、実用化の制約になっている。
(中略)
国土交通省の担当者も「世の中に必要な技術」としており、今後、世界の議論に歩調を合わせてルール改正を検討していくという。
( → 朝日新聞 2016-03-02 )
デッドマン装置を実用化するというのは、素晴らしいことだ……と思えそうだが、私の見解を言えば、「これはただの無駄だ」となる。
なぜか? 仮に自動ブレーキが備わっていれば、結果的にはまったく同様の結果が得られるからだ。たとえば、こういう場合だ。
・ 前の車と衝突しそうになった。
・ 進行方向が逸れて、反対車線または歩道に行きそうになった。
・ 路線の脇のガードレールまたは柱にぶつかりそうになった。
このような場合に、自動ブレーキがかかれば、自動車は停車する。結果的には、同様の結果となる。
ま、停まる場所が、路肩でなくて車線のど真ん中だ、というぐらいの違いはあるが、せいぜいそのくらいだ。大差はない。
むしろ、次のような装置が必要だ。
(1) 自動ブレーキは、前方との衝突時だけでなく、危険な車線変更時にも作動する。
(2) 停止後には、ただの後尾灯点灯ではなく、強力な赤ランプの点滅(それも短周期の点滅)によって、ハザード状態を強力に告知する。
なお、現状では、ハザードランプのスイッチ ▲ を押すと、ハザードランプが点灯する。つまり、四つの方向指示ランプ(黄色)が、点滅する。
[
しかしこれは、方向指示をしているのか、ハザード状態なのか、わかりにくい。(点滅の周期も同じだ。)こんなわかりにくいランプでは、危険性がよくわからない。高速道路などでは、遠くから視認することも、たやすくない。非常に問題がある。
そこで、(2) のように、強力な赤ランプで点滅するといいだろう。似たものとしては、後付けの後尾灯がある。「ハイマウント ストップランプ」というやつだ。通常、自動車の後方のウィンドウの内側に付ける。
→ ハイマウントストップランプ - Google 画像検索
単純なブレーキランプもある。
→ 高輝度 LED ストップランプ 高速点滅
こういうやつを、ハザード状態で点滅させればいい。「ブレーキランプと混同しないか?」という疑問もありそうだが、何も問題はない。実際、自動ブレーキで停車したあとは、ずっとブレーキがかかっているのだから、ブレーキ状態を示すランプでいいのだ。むしろ、ものすごく強力な輝度で点滅させることで、ものすごい異常状態であることを示すべきだ。
トヨタの案だと、「路肩に停めればそれで安全だ」と思っているようだが、とんでもない。高速道路で路肩に停車している自動車に、後ろから自動車が突っ込む、というような事故は、結構起こっている。(黄色いハザードランプなんか、ほとんど注意を引かないわけだ。)
→ 高速道路での路肩駐停車は危険──追突事故が相次ぐ
要するに、トヨタのデッドマン装置は、事故を避けるよりは、事故を招くようなシステムだ。衝突事故を避けることはできても、追突事故を招いてしまう。「頭隠して尻隠さず」とは、このことだ。
停める場所は、路肩であろうが、車線の中だろうが、どっちでもいい。それよりは、ハザード状態を強力に示すことの方が大切だ。つまり、強力な赤ランプの点滅が必要だ。
そして、いったん強力な赤ランプの点滅で停まったなら、後続車がすぐに停止するだろう。そして後続車が、自分の車で強力な赤ランプの点滅をしてから、自分の車から 三角停止表示板
このような処置をするべきだ。
ついでに言えば、現状の三角停止表示板は目立ちにくいので、これもまた、強力な赤ランプで、はるか後方から視認できるようにした方がいい。(交通信号の赤信号が、遠くの方から視認できるのと同様だ。)
※ ただし夜間ならば、反射光のある三角表示停止版だけでも、かなり十分に効果がある。下記動画。
とにかく、異常事態が発生したときは、単に停めるだけでは駄目だ。強力な赤信号で、後続車に異常状態を告知する必要がある。二次災害を防ぐには、それが必要なのだ。このことを理解しないと、真の安全性は達成できない。
[ 補足 ]
事例を示す。
福岡市南区の個人タクシー運転手の男性(77)は……10年9月、同区の市道交差点で信号待ちをしていたとき、左折してきた幼稚園の送迎バスが突っ込んできた。バスの運転手(当時69)は急性心筋梗塞で死亡していた。
( → 朝日新聞 2016-03-03 )
この場合、ドライバーの異常をデッドマン装置が検知したときには、もはや手遅れだ。バスは先行車に突っ込んで、事故を起こす。
この場合も、自動ブレーキがあれば、衝突を避けられる。デッドマン装置よりも、自動ブレーキこそが核心なのだ。
女性タレントで歌手のシェリーさん(58)は軽乗用車を運転中に脳梗塞(こうそく)になった。
2012年6月、大阪市東成区の市道交差点。当時の勤め先の生命保険会社に向かおうと、先頭で信号待ちしていたときだった。
後ろから頭を棒で殴られたような衝撃があった。「頭が痛い」と口にしたつもりが、ろれつが回らなかった。ハンドルを持つ右手とブレーキを踏む右足がしびれ、冷水に突っ込んだように感覚が薄れていった。
目の前の横断歩道を小中学生が渡っていく。「ここで意識を失ったら大事故になる」。ギアをニュートラルに入れ、左足でブレーキを踏んだ。
職場まで約1キロ。信号が変わると、道路脇にいつでも止まれる速さで進んだ。右半身のしびれはひどくなっていく。会社の駐車場で同僚に救急車を呼んでもらい、3カ月間入院した。
( → 朝日新聞 2016-03-03[同上])
この場合は自分で停止している。事故は起こらない。気を失いかけている自分を助けてもらうだけでいい。それならば、デッドマン装置が有効か?
たしかにデッドマン装置があると有益だ。とはいえ、少しでも意識があるのなら、自動ブレーキだけでも足りる。気を失いかけたあと、単にアクセルを踏むだけでいい。すると、何かに衝突しかけてから、自動ブレーキが働く。と同時に、ハザード状態となり、強力な赤ランプが点滅する。自分でそれを解除しない限りは、ハザード状態が続いて、周囲に警告を発する。それに気づいた人が、自動車の車内を見て、気を失っている運転手に気づく。非常に遠くからでも赤ランプの点滅はわかるので、周囲の目を引く。
※ この意味でも、自動ブレーキの作動後には、強力な赤ランプが点滅することが必要だ。(解除しない限り、それが続く。)……このことは、後続車に「追突するな」と警告するだけでなく、気を失った運転手に救助の手が来るように促す効果もあるわけだ。
[ 付記1 ]
危険性を告知するには、赤ランプをなるべく高い位置に設置することが好ましい。(交通信号も、高い位置にあるから、よく目立つ。)
その意味で、現状の三角停止表示板は、低い位置に設置することが前提となっていて、あまり好ましくない。これはこれであった方がいいが、別途、高い位置にも赤ランプを設置した方がいい。
どうやって? パトカーの赤色ランプみたいに、赤色ランプを自動車の屋根の上に置けばいい。実際、パトカーの上にある赤色ランプは、とてもよく目立つ。
こういう赤色ランプを屋根の上に設置することで、あとからやってくる後続車による追突事故を、避けることができるだろう。
( ※ 1台目が異常停止したあとで、2台目が赤色ランプを自分の車の屋根の上に設置する。そのことで、3台目以降の車が追突することを避けられる。)
( ※ このようなことを、自動車の運転講習で教えるといいだろう。……ただし、あらかじめ、赤色ランプの常備を義務づける必要がある。価格はそれほど高くない。Amazon で赤色の強力 LED ランプは、500円〜2000円程度で売っている。激安ですね。義務づけは容易だ。)
[ 付記2 ]
「車線をはみ出しただけで、自動ブレーキがかかるのは、まずいぞ。片側1車線では、単に追い越し運転をしただけで、自動ブレーキがかかってしまう」
という心配もありそうだ。
この点は、そうならないように、自動ブレーキの装置を設定すればいい。
・ 単に反対車線に出ただけでは、ブレーキは不作動。
・ 反対車線に対向車がいて、正面衝突しそうなら、ブレーキは作動。
・ 反対車線で自動停止したら、前方に向けて赤色ランプを点滅させる。
あれこれの場合を想定すると、ちょっと自動運転っぽいですね。自動運転というより、自動停止だが、ただの衝突防止以上の AI 技術が必要となる。当然、ステレオカメラを使うべきであり、レーダーなんかでは力不足だ。
結論としては、デッドマン装置なんかよりは、自動ブレーキを高度に発達させることが大切だ。また、停止後の強力な赤ランプの点滅も大切だ。デッドマン装置は、優先度がはるかに劣る。(あってもいいが、自動ブレーキの高度化に比べて、必要性はずっと低い。そもそも、走っている途中で人が死ぬなんてことは、滅多にない。梅田の事故だって、走っている途中で人が死んだわけじゃない。)
[ 付記3 ]
デッドマン装置は、実用化するとしたら、どのくらいの価格になるか? 自動運転システムが加わるわけだから、相当の高額になりそうだが。
調べてみたところ、似た装置として、「自動駐車装置」というのがある。駐車場で所定のスペースに駐車するのは大変だから、それを自動でやってくれる、というものだ。
実はこれは、自動運転ではなくて、ハンドル操作だけが自動だ。アクセルとブレーキは自分で操作する。(音声ガイドに従う。)……その意味で、半自動である。
で、その価格は? 何と、56万円だ。(トヨタの場合。)
→ アルファード全グレードにメーカーオプション(税込み561,600円)
一方、自動ブレーキなら、ステレオカメラでも、スズキの8万円や、スバルの10万円だ。
自動ブレーキなら、それ単体で済むが、デッドマン装置の場合には、自動ブレーキの上に、デッドマン装置が加算される。56万円がまるまる余分にかかる。いや、アクセルとブレーキの精密な自動操作も追加されるから、100万円ぐらいになりそうだ。
こんなもの、誰が買うんだか。自動ブレーキがすでにあるなら、赤ランプだけで 2000円ぐらいで済むのに。
[ 付記4 ]
デッドマン装置が意味を持つとしたら、自動運転車が実用化したあとだろう。自動運転車が実用化したならば、あとは「運転手が意識を失ったこと」を検知する装置を追加するだけで、自動車を路肩に自動的に停めるように設定することが可能だ。これならば、ちょっとしたセンサー(車内カメラ)を室内に設置するだけで済むので、かなり安価にデッドマン装置を搭載できる。
これならばうまくできるだろう……と重いそうだが、残念でした。この場合も、デッドマン装置は意味がない。
自動運転車ならば、もともと事故は起こらない。運転手が意識を失ったとしても、事故は起こらない。そもそも、自動運転車には、運転手が存在しない。乗っている人は全員が乗客であって、運転手などはいないのだ。
で、乗客が意識を失ったら……その場合には、「自動車を路肩に停める」のではなく、「乗客を自動的に病院に運搬する」というふうに、自動運転車の目的地を変更するシステムがあればいい。そして、それは、デッドマン装置というよりは、自動救急搬送装置というものだ。デッドマン装置よりも、はるかに高度なものだ。
というわけで、「自動運転車が実用化したならば、デッドマン装置が導入できる」のではなく、「自動運転車が実用化したならば、自動救急搬送装置が導入できる」となる。デッドマン装置の出番は、永遠に来ない。

> ハンドルそばのカメラがドライバーの体が前方や左右に倒れていないかを検知する
とのことだ。(新聞記事)
しかしむしろ、次の方式の方が簡単だ。
「ハンドルから手を離したことを検知する」
人体は導電性なので、ハンドルに両手を付けていれば、そのことがわかる。
片方でも手を離せば、電気が流れなくなり、すぐにわかる。
その状態が3秒以上続けば、警報を鳴らせばいい。「ハンドルを握ってください」という音声も流す。
それでもまだ電気が流れない状態が続けば、自動ブレーキをかければいい。