2015年12月13日

◆ 過労死の裁判と今後

 ワタミの過労死裁判で和解が成立したが、これで良しとするわけには行かない。根源的な問題が残る。 ──

 ワタミの過労死裁判で判決が出た 和解が成立した。
 これを読売・社説が論じている。
 《 ワタミ自殺和解 「ブラック企業」根絶の契機に 》
 居酒屋「和民」で働いていた女性の過労自殺で、遺族が会社側に損害賠償を求めた訴訟は東京地裁で和解が成立した。
 運営会社「ワタミ」と、創業者で当時社長だった渡辺美樹自民党参院議員らが責任を認めて謝罪し、1億3400万円を支払う。高額賠償は懲罰的な意味を含むとみられる。今回の和解を「ブラック企業」根絶の契機としたい。
 ワタミ側は、法的責任を否定してきたが、一転して全面的に非を認めた。訴訟を巡る渡辺氏の不穏当な言動などで、「ブラック企業」との批判が強まり、店舗での客離れが進んだことが背景にある。
 過労自殺で労災認定された人は、14年度に未遂も含めて過去最多の99人に上った。脳や心臓の疾患で死亡し、過労死として労災認定された人も121人だった。
 政府は7月、過労死等防止対策大綱を決定し、実態調査などに乗り出したしかし、労働基準法の規定では、労使が協定を結べば、ほぼ無制限に残業が認められ、行政指導も及びにくい。官民を挙げて、実効性ある過重労働の防止策を検討する必要がある。
( → 読売新聞: 社説 2015年12月11日

 社説の趣旨そのものはいい。ただし、実効性がない。いくら「ブラック企業をなくせ」と唱えたところで、現状が少しでも改善する見込みはほとんどない。
 その理由は、二つある。

 第1に、文中にもあるように、「労使が協定を結べば、ほぼ無制限に残業が認められ」ることがある。これじゃ、最初から、ブラック労働を是認しているのも同然だ。

 第2に、「過労自殺で労災認定」するという形で、企業の悪質行為による負担を、社会全体で負担していることだ。これは比喩的に言うと、泥棒した人に被害の補償を求めず、保険会社が被害の補償をするだけで片付けてしまうようなものだ。
 通常の事例では、保険会社が補償をしたなら、保険会社が泥棒に補償金を請求する権利を持つ。したがって、保険会社が泥棒から金を取り立てる。ところがどういうわけか、労災の場合には、保険会社が泥棒から金を取り立てるといことをしない。労災の側が被害者に金を払うが、労災の側がブラック企業から金を取り立てることをしない。これでは、労災の側が、ブラック企業の払う金をかわりに払って上げているようなものだ。とんでもないことだ。

 もっとも、これに対しては、弁解の理屈が成立する。
 「保険は保険であって、被害者と保険機構の間でだけ成立する。ブラック企業が被害者の側に払った金を、保険機構が取り上げるわけには行かない」
 ま、それはそうだ。たしかに、保険機構が被害者の金を取り上げるわけには行かない。
 しかし、本項が言っているのは、そういう趣旨ではない。かわりに、こうすることだ。
 「過労死を出した会社は、労働環境が過酷なので、以後は労災の保険料率を大幅に上げる。要するに、労災で被害者に払った金に相当する金を、10年ぐらいの分割払いで返済してもらうように、労災の保険料率を大幅にアップする」

 これがもっとも妥当であろう。
 このことによって、ブラック企業の過酷な労働環境を是正させる。
 そして、こういう制度を取らないようであれば、この国の政府は労働者をないがしろにしていることになる。つまり、ブラック企業ばかりを優遇している(ブラック企業の払うべき金を、国民全体で分担している)ことになる。かくて、ブラック労働を推進していることになる。
 狂気の沙汰だ。


( ※ 現状は、労働者から見れば狂気の沙汰だが、経営者にとっては最も金儲けできる方法でもある。……とすれば、自民党政府としては、最も正しいことをしているのかもしれない。「労働者を殺して、経営者が金儲け」というのは、自民党政府としては、目的通りなのだろう。たぶん。)
posted by 管理人 at 23:16 | Comment(3) | 一般(雑学)3 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ワタミの裁判は、判決ではなく、和解が成立したものですね。

 読売の「労使が協定を結べば、ほぼ無制限に残業が認められ」るという文章は、かなりミスリーディングだと思います。協定を超えて働かせることは許されないし、協定で定める時間についても、厚生労働大臣が「時間外労働の限度に関する基準」を定めています。それが本当に守られているのか、むちゃくちゃに残業している人がたくさんいるではないか、という批判なら、まあわかりますが。

 また、労災保険の保険料についてはメリット制という仕組みがあり、過労死に限らず、労災事故を起こした使用者については保険料が上がります。でも、被害者や遺族が裁判を起こして損害賠償を請求するほうが早いので、ワタミでも裁判になり、1億3400万円が払われることになったわけです。

 そんな額では大企業にとって痛くもかゆくもないだろうというのなら、アメリカのように、懲罰的損害賠償の制度を取り入れる必要があるかもしれません。
Posted by にゃん at 2015年12月14日 14:36
記事の主旨に賛同しますが、労働環境の問題だけでなく、精神医療の問題も大きいと思っています。

自殺した女性は適応障害という診断を受けていたようです。当然、薬を処方されていたはずですが、精神薬には自殺念慮・自殺企図を引き起こすものが多い。この女性の自殺が精神薬によって引き起こされた可能性は高いと思います。

ブラック企業はもちろん、精神科医や製薬会社も訴えられてしかるべきですが、全く看過されています。(アメリカでは抗うつ薬パキシル等のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)に関して製薬会社に対する訴訟が多発しています。)

最近、ストレスチェック制度が導入されましたが、精神科に繋げられて自殺する人が増えるだけです。非常に危険な制度です。

この業界は多くの患者を自殺に追いやりながら危機を煽り、行政と結託して患者を増やそうとしています。言語道断の悪事をやっています。
Posted by 素浪人 at 2015年12月14日 15:13
SSRI と自殺との関係は、本サイトでも前に述べました。
 → http://openblog.meblog.biz/article/23331034.html
 → http://openblog.meblog.biz/article/23254226.html

ワタミでもこいつが出てきたのか。知らなかった。
Posted by 管理人 at 2015年12月14日 23:39
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