2015年11月23日

◆ インドネシア高速鉄道の誤解

 インドネシア高速鉄道の受注で中国に敗北したことで、政府が金融面で対策しているが、見当違いだ。 ──

 インドネシア高速鉄道の受注で中国に敗北したことで、政府が金融面で対策しようとしている。
 《 円借款の条件緩和、首相が表明へ…中国に対抗 》
 政府は、新興国にインフラ(社会基盤)整備などの資金を貸し付ける円借款について、現地政府の保証を必須要件から外すなど抜本改革を行う方針を固めた。手続きに要する期間も半減し、大型インフラの受注につなげたい考えだ。インドネシアの高速鉄道計画の受注競争で中国に敗れた経験などを踏まえたもの。
( → 読売新聞 2015-11-18
 《 インドネシア高速鉄道「結果に失望」 安倍首相、ジョコ大統領に伝達 》
 安倍晋三首相は22日、インドネシアのジョコ大統領とマレーシア・クアラルンプールで会談し、インドネシアの高速鉄道建設計画受注で日本が中国に敗れたことについて「実現可能な最良の提案を行ったが、結果には失望した」と伝えた。ジョコ氏は黙ってうなずいていたという。
( → 産経ニュース 2015-11-23

 どうも政府は、インドネシアの高速鉄道で敗北したことを、こう考えているらしい。
 「中国に比べて、技術的には優れているが、金融支援が劣っていたので、受注競争で負けてしまった」
 しかしこれは、大いなる勘違いだ。その点を指摘しよう。

 ──

 今回の受注競争で負けたのは、金融支援の差のせいではない。では何か?
 この点には、いろいろと情報がある。たとえば、下記では「謎だ」というふうにしている。
  → インドネシア新幹線、「白紙撤回」の裏事情 |東洋経済オンライン

 一方、インドネシアの現地情報の記事もある。ここに真相がある。
  → 日本の少しおかしな「インドネシア新幹線建設計画『白紙化』撤回報道」
  → インドネシア高速鉄道報道:日本メディアのおかしな報道と後出しジャンケン(完結編)
  → インドネシア高速鉄道:日本メディアとは趣きが異なる現地メディアの記事

 これらの情報を読めば、真相がわかる。こうだ。
 「インドネシア政府は、金がないので、この事業を完全に民間ベースでやろうとした。インドネシア政府としては1ドルも金を出さない、と主張した。一方、日本政府は、この事業をインドネシア政府の事業と見なして、インドネシア政府の保証を求めた。両者は食い違っていた。話はまとまらなかった。そこへ中国が乗り出して、インドネシア政府の要求を丸呑みした。かくて、受注に成功した」


 では、日本と中国の違いは何か?
 黒字事業なら、どっちにしても同じだ。一方、赤字事業ならば、次の差が出る。
  ・ 日本案 …… インドネシア政府に赤字負担を求める。
  ・ 中国案 …… 民間事業体が赤字なら、中国が赤字をかぶる

 こういう差があるのだ。
 では、現実には、どうなるか? 黒字と赤字のどちらになるか? 

 ──

 ここで、私の調べた情報を示そう。こうだ。
 「今回の鉄道ルート(ジャカルタ〜バンドン)では、すでに高速のシャトルバスが走っている。それは激安だ。たったの800円(90000ルピア)」

  → バンドンの行き方/ジャカルタ−バンドンの移動

 一方、日本の規格で新幹線を作ると、どうか? 150km の距離だと、JR東の料金で 6000円となる。インドネシアだと、人件費が低いので、4000円ぐらいで済むかもしれない。

 両者を比較すると、800円と 4000円。時間は、バスが3時間で、新幹線が1時間40分 1時間。
   ※ 時間の訂正についてはコメント欄を参照。

 こうなると、金持ちの日本人ならば新幹線を取るだろうが、貧乏なインドネシア人ならば高速シャトルバスを取るだろう。
( ※ いや、現実には、シャトルバスの半額の大型バスに乗る人の方がずっと多い。快適ではないが、価格が半額になるからだ。400〜500円ぐらい。大多数の人は、これを使う。)

 以上がバスと鉄道との比較だ。
 こうなると、高速鉄道の採算性はきわめて悪い、とわかる。大幅赤字は必然だろう。だからこそ政府は「政府保証をしない」と決めた。(賢明だ。赤字垂れ流しを許容しないわけだ。)
 こうなると、現実的には、「高速鉄道は赤字事業なので、建設はやめる」という判断が妥当だろう。たぶん、この方向で決まりかけていたのだと思う。(新幹線でなく、在来線型の高速鉄道にしても、やはり、採算性が低い。バスの方が圧倒的に安いからだ。)
 インドネシアが高速鉄道を建設するとしたら、もっと経済が発達して、高速鉄道に金を払えるようになったあとのことだと思う。(たとえば、現在、アメリカでは新幹線の計画が進んでいる。つまり、インドネシアが現在のアメリカみたいに発展したら、その時点では、新幹線を建設する時期になったと言える。)
 
 ところが、この赤字確実で建設中止になったはずの事業に、中国が乗り出した。そして、赤字を自分で引き受ける覚悟で、受注した。
 とはいえ、赤字覚悟なのだから、このあとで膨大な赤字を出すはずだ。まったく無駄な受注だったと言える。
 とすれば、日本としては、「中国は何て馬鹿なことをやっているんだ」とせせら笑うのが正しい。そして数年後に、客が乗らずに閑古鳥が鳴いている高速鉄道を見て、「ほれみろ。やっぱり客が来ない」と指摘してやればいい。これが正しい態度だ。

 ところがどういうわけか、安倍政権は、「中国に受注競争で負けたのが悔しい。今度こそ受注競争で勝ちたい」と態勢を整えようとしている。馬鹿丸出しというしかない。

 はっきり言おう。赤字の海に飛び込む自殺競争では、競争に勝つ必要などはさらさらない。むしろ、競争から退いて、まともに生きる道を選ぶべきだ。その後、中国が一人で勝手に赤字の海に飛び込んだのなら、「勝手に死ね」と笑ってやればいいのだ。ここで、「今度こそ自殺競争で勝とう」などと努力するのは、愚の骨頂だ。
 日本政府は、取るべき方針を、根本的に勘違いしている。
 


 [ 付記 ]
 実を言うと、この路線には、渋滞がある。それが今回、高速鉄道を建設しようという動機となった。
 しかし、である。渋滞は、常にあるわけではない。
  ・ 週末にある
  ・ ジャカルタ市内やバンドン市内にある

 こういうふうに、状況は限定的なのだ。

 渋滞を点々で示すと、こういう感じ。
   …………━━━━━━━━━━━━━━…………

 だから、この点々の部分だけに鉄道を建設して、途中の区間には鉄道を建設しなければいいのだ。それなら、渋滞を避けることができるし、コストパフォーマンスがよくなる。

( ※ 全部自動車だと、渋滞で時間がかかりすぎることがある。)
( ※ 渋滞のあるところは、交通量が多い都市部なので、鉄道の利用者も多くなり、採算性がよくなる。)

 いずれにせよ、インドネシアがやるべきことは、「ジャカルタ〜バンドン」間の鉄道建設ではない。ここに高速鉄道を建設しようというのは、もともと無理筋であろう。というか、日本政府が新幹線を売るために、無理やり押しつけた、というのが実状らしい。
  → インドネシア高速鉄道計画 - Wikipedia




 
 見ればわかるように、バンドンは内陸部の孤立した感じの都市である。こんなところに新幹線を作るのは、筋悪だ。
 どうせなら、ジャカルタを中心として、東西 200キロぐらいの高速鉄道を建設する方がいい。それならまだ採算性はよくなるだろう。
 


 【 追記 】
 Google マップで調べ直すと、次のことがわかった。
  ・ インドネシアでは普通の鉄道がまったく不足している。
  ・ 郊外は田畑が広がり、都心部は超過密。


 こういう状況では、普通の鉄道を整備して、人口を郊外に拡散するべきだ。そうすれば都市部の渋滞も減る。渋滞が減ることで経済効率も向上する。
 インドネシアで必要なのは、人口の集中を緩和することだ。そのために、鉄道網の整備が必要だ。それは、高速鉄道ではなく、普通の鉄道の整備だ。
 Wikipedia には、いろいろと記述がある。
  → インドネシアの鉄道 - Wikipedia
 日本から中古の電車の輸出や、鉄道網整備のため、円借款がなされているようだ。この方向で進めるのが妥当だろう。

 日本政府はインドネシアに高速鉄道を売り込もうとしたが、これは、貧乏人にベンツを買わせるようなもので、ほとんど詐欺商売に近い。こんなあこぎなことを狙っていたとしたら、安倍首相は、悪徳商人だね。日本の商品を売ることには熱心だが、相手のためを思っていない。「オレオレ詐欺」にも似ている、詐欺師根性。
posted by 管理人 at 17:20 | Comment(5) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
政治家も官僚も、戦前戦中の亡霊にとりつかれてるんですよ。
たぶん。

なにぶん、東大等のOBOGだもの。国内では、負けたことないもの。人生勝ってばかりだもの。たぶん。
Posted by 素人 at 2015年11月24日 00:57
> 国内では、負けたことないもの。人生勝ってばかりだもの。

東大の内部でも競争があり、そこで勝者となれるのはごく一部。他は敗者です。

学問の世界に入った人なら、勝者はノーベル賞受賞者だけで、他は全部敗者。

官僚ならば、事務次官になれた人以外は、すべて敗者。

サラリーマンならば、社長になれた人以外はすべて敗者。

起業した人ならば、大企業に育てた人以外は敗者。東大卒で起業して成功した人って、いるのかな? 私は一人も知らないけど。

芸術家だと、せいぜい、三島由紀夫と野田秀樹ぐらいだ。他はみんな失敗。

タレントだと、菊川怜ぐらいだが、ハイミスという敗者。

……何だか、悲惨ですね。できることは、部下にたいして威張れることぐらい。凡人から見るとずっと上だけど、上流社会の内部でも競争があり、そこでは敗者となっています。人生、甘くない。

あ。一人だけ勝ちっ放しの人がいた。武雄市長だった樋渡。何しろ、「オレ最強」という人だから。ツイッター学会会長。Facebook学会会長。ライバルなしで、自称・世界最強かな。
Posted by 管理人 at 2015年11月24日 05:04
高速鉄道を下さいと訴えたんじゃなかったんですね。
ま、在来線も投石がひどくて恐ろしい様ですから、高速鉄道も怖いですね。
150km程度の行程に新幹線は不要ですね。
Posted by 京都の人 at 2015年11月24日 18:06
よくわからないのですが、日本の新幹線は150kmの距離に1時間40分かかるのですか?
Posted by 小杉漣 at 2015年11月24日 20:38
> 新幹線は150kmの距離に1時間40分

 ほんと。変ですね。
 改めて調べ直したら、Google の「ルート検索」というのがインチキで、変なデータをしばしば出すようです。時間帯によっては1時間40分になる。たとえば、12:30 出発で、「静岡発・東京着」にすると、途中で変な乗り換えをして、1時間38分というデータを出す。値段もちょっと高い。
 Yahoo の路線案内だと、そういうこともなく、安めの値段で、最適の時間を出す。58分ぐらい。

 Google のルート検索は当てにならない、とわかりました。これを信じた私が馬鹿だった。

 本文を訂正しました。
 ご指摘ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2015年11月24日 21:35
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