2014年10月22日

◆ 歴史建築物に耐震性は必要か?

 歴史建設物は、耐震性が不足しているので、現代の基準では許容できない。しかし、耐震補強も困難だ。どうする? ──

 歴史建設物(大昔でなく近代のコンクリ建築物)は、耐震性が不足しているので、現代の基準では許容できない。
 そのため、「取り崩し」または「耐震補強」が選択肢となる。だが、どうでもいい建築ならとも書く歴史建築物だと、「取り崩し」はまずい。また、「耐震補強」だと、新築と同じぐらい金がかかる。しかも、何十年もの時間がたてば、いつかはまた耐震性が不足する。
 こういう問題があって、解決困難な状況となっている。

 ──

 具体的な例は、読売新聞・日曜版 2014-10-19 に詳しい。ここでは、香川県庁舎(旧・本庁舎。現・東館)が取り上げられている。これは丹下健三の設計で、日本史上でも世界史上でも貴重な歴史的な建築物だ。(上記記事に詳しい。)
 一部抜粋すると、読売新聞には、こうある。
 庭に立つと、8階建ての高層棟が目に入る。まるで日本の木造建築。四角い柱が貫き、各階の床を支える梁の先が、垂木のように並ぶ。
 丹下健三 ... 西洋に学んだ鉄筋工クリート建築と、柱と梁を組み上げる日本の伝統との融合を、高層ビルで初めて実現したとされる。
 「美しきもののみ機能的である...」
 機能追求を史上とする近代主義の建築観を揺さぶられる。そこから、美しさと機能が一体化した傑作が生まれた。

 ネットにもいくつか情報が見つかる。

kagawa55.jpg

 香川県庁舎は、世界でも高く評価され、日本文化の国際的評価を高める一役を買っている。香川県庁舎は間違いなく丹下健三が世界的建築家になるための重要な作品であった。そして、日本における近代建築史のかけがえのない作品である。
( → 香川県 ホームページ :上記画像も)

 丹下の初期の傑作と評される。ファサード(正面からの姿)は、日本の伝統である梁を、当時の建築技術の限界での細さで表現した。1950年代の代表建築の一つとされ、公共建築百選にも選ばれている。
 設計は、当時の金子正則知事が香川県丸亀市出身の洋画家・猪熊弦一郎から紹介されて丹下健三に会い、彼の温厚な人柄と柔軟な思考力、鋭敏な美意識と創造にかける強烈な意欲に共鳴して、「民主主義時代に相応しい庁舎を設計してほしい」と依頼したことから始まる。 金子知事の要望に応えて丹下が設計した案は、彼が旧制高校時代から尊敬し続けてきた建築家ル・コルビュジエによる近代建築の5原則に基づくものであった。
( → 香川県庁舎 - Wikipedia [大画像あり])

 ──

 しかしながら、問題もある。読売の記事には、こうある。
 現行の耐震基準を満たすには耐震化が必要で、保存を兼ねた工事に莫大な費用がかかる。(なお)高松市内にある...体育館は耐震工事の入札不調が続き、安全性への懸念から9月で閉館。

 このままだと、東館も閉館の憂き目に遭いそうだ。
 では、どうするべきか? 

 ──

 私としては、次の二点を提案したい。

 (1) 完璧な補強は無理だ。特に、建物の外部に枠組みを付け足すような補強は、見映えが悪くなるので、絶対にダメだ。たとえば、下記。
  → 外部の枠組みによる耐震補強の画像
 補強するとしたら、外からの見映えに影響しない範囲にするべきだ。具体的には、「内部の柱に鉄筋を巻き付けてから、鉄筋を被覆する」というふうな。
 (2) ただし (1) の方法では耐震性は完璧ではないから、「耐震性は不十分である」と認識する。その上で、建物は限定利用をすることにする。次の意味。
  ・ 地震のときには、倒壊しない範囲で、ひび割れは許容する。
  ・ 倉庫のような利用のみを認める。
  ・ 一般人の入館は禁止し、少数の職員だけが入館できる。


 ここでは、最初の点(倒壊しない範囲で、ひび割れは許容すること)が、重要だ。
 耐震性というと、通常は、完璧な耐震性ばかりが要求される。そして、完璧な耐震性が得られないと、一挙に「使用禁止」というふうになりがちだ。
 しかしここは、「フェイルセーフ」の発想を取りたい。建築物は、「壊れないこと」は必要ない。「壊れても人的な被害が発生しないこと」だけが重要なのだ。壊れること自体は、特に問題ない。特に、ひび割れで済むのならば、まったく問題ない。
 ちなみに、阪神大震災では、どうであったか? 
  → 阪神大震災 - Google 画像検索
 倒壊した建物も多かったが、ひび割れで済んだ建物も多かった。ここでは、「倒壊しないこと」だけが絶対的に必要なのであって、「ひび割れしないこと」は特に要求されないのだ。

 現状では、「耐震性」というものの基準が、単に「破壊されるか否か」でしかない。そこでは、「致命的な破壊か、ひび割れ程度の破壊か」という区別がなされていない。
 だから、この点をはっきりさせて、「致命的な破壊だけは絶対に生じない」という基準で、新たに耐震性の基準をつくるべきだ。このような基準の下で、「ひび割れた生じる程度の耐震性がある」ような歴史的建築物は、取り壊しや閉鎖がなされることもなく、かなり長く使うことが可能だと思える。

 ──

 さらにもう一つ。
 超長期的には、次のことを提案したい。
 「建築から 100年以上がたつと、コンクリそのものが劣化して、どうしても保存できなくなる可能性もある。その場合には、再建築という形で保存するべきだ」

 似た例では、大阪城がある。元は木造だったが、その後にコンクリで再建築された。金閣寺も、いったん消失したあとで、再建築された。
 香川県庁舎・東館も、そのような再建築の形で、後世まで長く残されべきだ、と私は思う。
( ※ これほど価値のあるものは多くはない。香川県庁舎・東館や、代々木体育館は、例外的に価値のあるものだと思える。どちらも丹下健三の設計。/ただし、東京都庁舎は、さすがに再建は無理だと思う。将来的には取り壊しもやむを得ない。デカすぎるので、仕方ない。建築としてみても、デザイン優先が過ぎて、機能性が劣り、価値はやや低めだ。)
  


 [ 余談 ]
 ちなみに、自動車であれば、「事故で壊れないこと」は必要ない。むしろ、「事故では容易に壊れるかわりに、人間を壊さないこと」が大切となる。自動車が壊れることで、人間を壊さないようにするわけだ。
 これと同じではないが、これと似た発想で、「建物は壊れても、人間は壊れない」ということを重視するべきだ。建物が壊れるかどうかは、本質的ではないのだ。「人間が被害を受けないこと」だけが大切なのだ。
 この点を、現在の耐震基準は、見失っている。それは「安全性とは何か」を理解していないことでもある。「安全性」を「壊れないこと」と等価だと思い込んでいるが、それは正しくないのだ。
 
 なお、人間への安全性を重視するのであれば、「壁にひびが入るかどうか」なんかよりも、「天井が落下しないか」といういことの方が、圧倒的に重要となる。なのに、この点は見逃されがちだ。そのせいで、しばしば地震で被害が発生する。……建築の構造体が壊れるかどうかばかりを考えていて、人間への被害を見失っているせいだ。
 


 【 関連サイト 】
 次のページには、香川県庁舎・東館の画像や内部描写などの情報がある。
  → 「香川県庁舎ガイドツアー」“死ぬまでに見ておくべき100の建築” を見学
posted by 管理人 at 22:14 | Comment(2) | 一般(雑学)2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
耐震補強というのは、東日本大震災や阪神・淡路大震災クラスの地震が来た時に>倒壊しない範囲で、ひび割れは許容する。ものなので、現在の建物をちょこっと補強しただけでは、阪神・淡路大震災クラスの地震が来た時、確実に倒壊します…そうしないための工事が「大変」なので困っているわけでして…
Posted by あるみさん at 2014年10月23日 23:25
建築物の耐震性要求にはいろいろなランクがありますが、建築基準法の規定は最低限、すなわち、ひび割れなどの損傷はするけれども人命の損失は生じない、という程度です。
関東大震災クラスだった基準が大地震のたびに強化されるので、古い建物が基準値を下回ることになります。
構造躯体に関するものばかり重視されていて内装材(天井板とか)についてはヌルく、東日本大震災で人的被害も生じたので、脱落防止に関する改正が実施されました。

補強のかわりに免震化する建物も結構あります。
カネはかかりますけど。
Posted by けろ at 2014年10月23日 23:51
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ