アナ雪がヒットしたわけは何か? 作品がいいことの他に、何か理由があるか?
2人の王女を主人公にしたこの映画の人気が止まらない。3月の日本封切り以来の観客は2千万人に迫り、興行収入は253億円。「千と千尋の神隠し」(304億円)、「タイタニック」(262億円)に次ぐ歴代3位になった。
世界でヒットしている「アナ雪」だが、地元北米をのぞけば興収は日本がトップで、他の国々より一桁多い。
( → 朝日新聞社説 2014年8月19日 )
ここには注目すべきことがある。「地元北米をのぞけば興収は日本がトップで、他の国々より一桁多い」ということだ。これは、「作品がいいから」ということでは説明が付かない。作品は世界各国で同様だからだ。北米以外では、日本だけで大ヒットしているのだとしたら、その理由があるはずだ。
では、それは何か? 私が考えて思いついたのは、こうだ。
「きちんと日本語化されている。だから違和感がない。特に、日本語の歌詞が優れている」
日本語の歌詞が優れている、という点については、あちこちで話題になっている。
・ 子供でも歌いやすい平易な日本語であること。
・ アニメの口の動きに日本語が合致していること。
これらの点から、まるでもともと日本語の歌であるような自然さがある。
だが、歌だけではない。さまざまな台詞も自然な日本語になっている。特に大切なのは、タイトルがまともな日本語になっていることだ。
以上のことは、きわめて例外的なことだ。
──
そう聞くと、「嘘つけ。そんなことは、例外的ではなく、当たり前のことだろ」と思うかもしれない。しかし、違う。
第1に、日本で公開された映画は、原題を単に音訳したカタカナであることが普通だ。
→ 2010年度興行成績ランキング
→ 2002年度興行成績ランキング
→ 2000年度興行成績ランキング
いずれも洋画のタイトルはカタカナだらけだ。これらの映画をあとで見直そうと思っても、タイトルを覚えていることは稀だろう。「インセプション」だの、「ビューティフル・マインド」など、いちいち覚えているわけには行かない。そういうカタカナだらけのタイトルなのだから、観客は覚えにくいし、映画館へ行こうという気持ちにはなりにくい。
その点、日本語のタイトルならば、違う。
たとえば、「氷の微笑」というタイトルだと、それだけで見に行きたくなるし、覚えることも容易だ。だからこの作品は大ヒットした。出来映えはそれほど優秀だというほどではないのだが、タイトルだけで大ヒットしたようなものだ。
アナ雪も同様だ。原題は「 Frozen 」だが、これをそのまま「フローズン」というタイトルで公開していたら、とても今のような大ヒットにはならなかったはずだ。ここでは、子供でも覚えられる題名にしたことが決定的に有利だった。だから子供は、「アナと雪の女王を見に行きたい!」と親にしきりにせがんだのだ。「フローズンを見に行きたい!」とせがむことはありそうにないけどね。もしあるとしたら「レーズンを見に行きたい」かな。 (^^);
その場合は、レーズンが売れたかも。
「そうか。でも、タイトルだけだろ」
と思う人もいるかもしれないが、そうではない。一般に、洋画の翻訳はひどいものだ。
→ 「戸田奈津子 誤訳」 - Google 検索
この検索結果から、それぞれのページを見ればわかるように、ものすごい誤訳がいっぱいある。そして、それが、洋画の翻訳の標準なのだ。つまり、日本では、洋画の翻訳はデタラメばかりである。
そもそも、戸田奈津子は誤訳だらけなのに、どうしてそれほど売れっ子なのか? どうして他の人に任せないのか? 他の人がいないからだ。「まさか」と思うかもしれないが、本当だ。……ただし、ここには条件がある。「それほどの低い翻訳料で引き受ける人は」という条件だ。
要するに、日本では映画の翻訳料があまりにも低すぎる。そのせいで、いくらかまともな翻訳をしてくれる人は、戸田奈津子ぐらいしかいない、という状況になっている。
では、他の人は? あまりにも料金が安すぎて、引き受けない。たとえば、こんな感じ。
翻訳料は1万5000円で尺は30分弱です」と言われたので、 「30分弱だと4万5000円か、悪くないな」と思ってお引き受けしました。
しかしふと不安になり、電話の最後に 「さきほどの翻訳料は10分あたりの料金ですよね?」と 確認したところ 「いえ、今回は大変予算が厳いので 30分で1万5000円です」と。 絶句しました。
ドキュメンタリーでVO(ボイスオーバー)の依頼でした。 3〜4日作業して1日分の報酬? ありえない…
( → 翻訳料 )
これはドキュメンタリー映画の場合だが、一般の洋画だって同様だ。翻訳料は極端に低い。
また、翻訳料が低いだけなら、まだマシな方である。脚本だけ渡して、「2日でこれを翻訳して仕上げてくれ」と言われることもあるそうだ。映画の現物を見せずに、脚本だけで翻訳させるのだから、その出来具合がどうなるかは、推して知るべし。
以上が、洋画の翻訳の現状である。一言でいえば、「翻訳の徹底的な手抜きによるコストカット」だ。映画の広告のためなら、何億円もの金をかけるくせに、肝心の翻訳は、スズメの涙のような微小な額しかかけない。これでは、まともな翻訳ができるはずがない。かくて、誤訳・珍訳のオンパレードとなり、作品は滅茶苦茶になる。
世界的に有名な指輪物語の映画版『ロード・オブ・ザ・リング』においても、せっかく原作者が「翻訳の手引き」を残すほど細やかな配慮がなされているのに、なっちは全くそれを読まずに翻訳したため、正確な訳がなされている瀬田氏翻訳版の小説文、まともな訳者がついた日本語吹替版とも違う訳が展開され、原作既読者のみならず初見の観客でさえも理解に苦しむ珍文章を頻発してしまっている。
( → ニコニコ大百科 )
これも仕方ない。読んだこともない小説について、「1日か2日で仕上げろ」と言われたら、こうなるのもむべなるかな。
悪いのは、戸田奈津子ではなくて、金と時間を惜しんで手抜きを強いる洋画配給会社なのである。
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以上が日本の洋画の実状だ。
一方、アナ雪はどうだったか? ディズニーが自分で配給した。( → ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン配給 )
このとき、「コスト節減のために徹底的に手抜きをする」という方針で 100万円ぐらいを節約するのをやめた。かわりに、金と時間をたっぷりとかけて、最高の翻訳になるように努力した。特に、歌はそうだ。
また、歌唱についても、「質を高める」という方針で、松たか子と May J. の二人を主題歌に起用した。
・ 松たか子 …… 情感たっぷりに歌う(感動タイプ)
・ May J. …… 歌唱力が高く、カラオケ採点の女王
この二人を用意して、二人と契約して、万全を期した。
以上の「日本語化」のために、かなり多額の金をかけたと思う。1億円にはならないだろうが、1000万円を越えたと思う。
一方、普通の洋画ならば、翻訳料が3〜5万円ぐらいで、歌の日本語化はなしで、英語で歌うだけだろう。(字幕を付けるだけ。) おまけに、タイトルの翻訳も惜しんで、英語のカタカナ化だけだろう。
結局、ディズニーは 1000万円あまりの翻訳コストをかけたから、他の国に比べて一桁多いというほどの圧倒的な興収を上げたのだ。それがヒットの理由だろう。
──
結論。
翻訳のために金をかければ、それが何千倍にもなって返ってくる。翻訳のために金を惜しめば、それが作品そのものを台無しにして大損する。
こんな簡単なこともわからないのが、洋画の配給会社だ。一方、ディズニー・ジャパンは、そうではなかった。
これがつまり、アナ雪が大ヒットした理由だ。
( ※ 仮にアナ雪を、日本の配給会社が配給していたら、無惨な結果になっていたはずだ。タイトルは「フローズン」だっただろうし、歌手はレーズンでも食べているような歌い方の歌手だっただろう。……たぶん、AKB48 になりそうだ。)
【 関連サイト 】
本項と同じテーマの話は、下記にも見られる。(似た趣旨の内容も散見される。)
→ 「アナ雪」サントラが初の1位、ディズニー映画では史上初の快挙
→ だから『アナと雪の女王』は大ヒットした | 映画界のキーパーソンに直撃
→ 「アナと雪の女王」驚異的ヒットの理由は「創造的破壊=異形の愛」
→ ビジネスモデルを考える
→ アニメ映画『アナと雪の女王』大ヒットのワケ
→ 「アナと雪の女王」が大ヒットしたワケを考察してみた。
→ アナと雪の女王 大ヒットの理由 - - 教えて!goo
【 関連項目 】
似たテーマで日本映画を論じる。
→ 日本映画がコケるわけ
→ 映画「あしたのジョー」
→ 映画の原作の料金
「金をケチって、質を落として、失敗する」という日本の映画界の体質を批判している。
( ※ よく考えると、映画界に限った話じゃないな。ソフトやハードの世界でも、よくある。)

→ http://sow.blog.jp/archives/1007607464.html
『塔の上のラプンツェル』の方がいい、という見解が多い。
しかし、「ラプンツェル」は、日本人には発音しにくい。特に子供は困る。これでは、作品がいくらよくとも、ヒットするはずがない。
なお、Wikipedia によると、
> 当初アメリカでは原作と同じく『ラプンツェル』(Rapunzel)という題だったが、商業的戦略のため『タングルド』(Tangled)に変更された。
http://j.mp/1oglrp2
とのことだ。日本語版では、そうしなかったから、あまりヒットしなかったのだろう。日本での興収は 25.6億円 とのことだから、アナ雪の 10分の1以下である。ひどいものだ。作品の出来は、アナ雪を上回るぐらいなのに、これほどの差が付いてしまう。