プリウスは低速時にはモーター駆動なので、エンジン音がしない。そのため、歩行者が気がつかないので、危険だ。そこで、歩行者に気づいてもらえるように、何らかの音声を出す、という案がある。
問題は、その音声だ。
・ モーター音
・ エンジン音
の二通りがある。どちらがいいか?
このことは、しばしば議論になるが、トヨタと日産はモーター音を選んでいる。
→ 国沢光宏 コラム
このページの評価では、「どちらもモーター音だが、プリウスの音は電子音ふうで気持ち悪く、日産リーフの方はそうでもない」という評価だ。
しかし、このように「気持ち悪いか否か」というふうに評価するのは間違っている、と私は思う。
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疑似走行音を出す目的は何だったか? 気持ち悪くないことか? 違う。歩行者に危険性を教えることだ。「自動車が近づいていますよ」と。
その目的に、モーター音は合致するか? しない。背後にモーター音が聞こえたとして、それを「自動車が近づいている」と理解できる人はほとんどいないはずだ。何しろ、たいていの人は聞いたことのない音だし、単に「変な騒音がしているな」と思うだけだ。しかも、その音声の発生源が移動しながら近づいてくるとは思わないし、その音声の発生源が自分を轢き殺すとも思わないだろう。その音声の方を目で見て、初めてそれが自動車という殺人装置なのだと気づく。この時点でようやく、危険性に気づく。
一方、エンジン音なら、どうか? 音声が聞こえた時点で、「自動車だな」と思うし、危険察知の思考回路が働く。「注意しなくちゃ」と思って、身動きを止めて、音声の方を注視する。特に問題ない。
モーター音の場合は、そのような危険察知の思考回路が、働かない。目で見れば働くが、目で見なければ働かない。もしおしゃべりに熱中していれば、ろくに気がつかないまま、「……バイバイ」と手を振りながら、自動車の前に身を繰り出す、ということもありそうだ。特に、自動車が一旦停止して、音声を発生していない状態で、自動車が発進したときに、同時に人も自動車の前に身を繰り出す、という形で衝突することがありそうだ。
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以上の理由によって、自動車の疑似走行音は、「それが自動車であると教える音声」つまり「エンジン音」であることが必要だ。
一方、現状の疑似走行音は、「それがモーター駆動の装置であることを教える音声」であるから、自動車という危険物体であることを教える能力を欠いている。にもかかわらず、そのような安全性の欠落した装置を自動車に搭載するということは、自動車会社に安全性の意識が不足していることを意味する。
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実を言うと、状況はもっと悪い。それは、次の記事を見るとわかる。
マツダの新車試乗会で、障害物を検知して止まる自動ブレーキ機能の車が、会場内のフェンスに衝突する事故があった。助手席のマツダ車販売店の男性社員(22)が腕の骨を折る重傷。
各社の自動ブレーキには作動する速度に条件があり、時速三十キロを超えると作動しない場合がほとんどだ。
( → 東京新聞 )
時速三十キロを超えると作動しないのに、「作動する」と思い込んだ。そのせいで、事故が起こったらしい。ここでは勝手な「思い込み」が事故の原因だったのだろう。
これと同様のことがプリウスの疑似走行音にも成立する。プリウスの運転者は「疑似走行音を出しているから、歩行者は気づくはずだ」と思い込んでいる。思い込んでいるから、「歩行者が急に目の前に飛び出すことはない」と信じて、自動車を前進させたり、急発進させることもあるだろう。しかしそれは思い込みなのである。たとえその音声が聞こえたとしても、歩行者はそれを自動車の音だとは認知しない。エンジン音ならば「自動車の音だ」と認知するが、モーター音ならば「自動車の音だ」と認知しない。それゆえ、歩行者が急に目の前に飛び出すことはあり得るのだ。
これだったら、疑似走行音などはない方がマシだ。なぜなら、疑似走行音がなければ、運転者は「歩行者はこっちに気づいていないな」と思うので、危険性を感じればクラクションで警告したりするからだ。なのに、疑似走行音があるせいで、「歩行者はこっちに気づいているはずだ」と勝手に思い込む。その思い込みのせいで、事故が起こりやすくなる。
そういう危険な思い込みをもたらすという意味で、プリウスの疑似走行音はほとんど有害無益なのである。「百害あって一利なし」とまでは言わないが、「三害あって一利あり」みたいになっている。つまり、利害の比率が「害:利=3:1」ぐらいになっている。「ない方がマシ」と言えるものだ。
単純に言えば、プリウスの疑似走行音は「人殺しの道具」なのである。「これで人殺しを防げます」というふうに謳っているが、実際にはその機能はない。なのに、「これで人殺しを防げます」という思い込みをもたらすことで、慢心による危険性を著しく高める。結果的に被害者はかえって増えてしまうのだ。……マツダの思い込み事故と同様の原理で。
教訓。
「おれは利口だ」という自惚れほど危険なものはない。プリウスの開発者は、その思い込みにとらわれた。「モーター駆動のプリウスは先進的であり、エンジン駆動の自動車よりも先進的だ」と思い込んで、「その先進性を明示するために、エンジン音よりもモーター音の方がカッコいい」と思い込んだ。
しかし、エンジン駆動であれ、モーター駆動であれ、自動車は人を殺すものだ。なのに、プリウスの開発者は、その危険性を見失った。エンジン駆動の自動車開発者は、その危険性を忘れなかったのに、プリウスの開発者は、その危険性を見失った。そのせいで、「自分の危険性を歩行者に教える」という機能を消してしまった。「自分の存在さえ教えればいい」と思い込んで、「自分の危険性を歩行者に教える」という目的を忘れてしまった。
「おれは利口だ」という自惚れほど危険なものはない。それは人を殺す。
人殺しのできる刃物を持つ者は、自分が刃物を持っていることを自覚する必要がある。さもなくば、「気違いに刃物」となる。プリウスは、そういう状況にある。
[ 付記 ]
「プリウス」と表現しているが、特にプリウスに限った話ではない。他のメーカーの車も同様であろう。新型フィットハイブリッドや、新型スカイライン[インフィニティ]については、未調査なので言及しないが。)
【 追記 】
「自動車のホイールに音の発生装置を付ける」
という中学生のアイデアが話題になったことがあった。
素人の目には「名案!」と思えるかもしれないが、まともな技術者が見れば「馬鹿げている」の一言で片付けられる。
・ 走行に悪影響がある (大きなデメリット)
・ 警告音としても金属音はうるさいだけ (小さなデメリット)
・ 金属音では自動車だとはわかりにくい (メリットがろくにない)
いろいろと批判されているので、知りたければ下記。
→ 静かすぎるプリウス 中学生が発明したそうですが - 知恵袋

静かな電気自動車といっている方が信じられません。
余計に音を発するほうがおかしいのです。まあ気付いていないと思うときに出すのがクラションでなく、自転車のベルぐらいにすればいいのではないでしょうか?歩行者用と自動車用と二つクラクションをつけて頂戴よ。
管理人氏はこの車を運転したことがあるのかどうか分からないが、普通の感覚のドライバーならばこれは乗るに値しない車だと断定するはずです。
とにかく、視認性が悪い。前が良く見えない。右も左もよく見えない。後方に至ってはほとんどブラインドです。いくらバックモニターを付ければ良いと言われても、業務用トラックじゃあるまいし、バックモニター無しではまともに駐車も出来ない自家用車など欠陥品でしょう。
走りは最悪です。ハンドリングは鈍く、ブレーキの効きは悪い。止まりたいところでなかなか止まってくれない。シートの質は低級で、長時間のドライブでは腰に大きな負担が掛かる。
昔のトヨタ車はこんなに酷くはなかった。ドイツ車みたいに取り立てて優れた点はないけど、走りや操作性は安定していて日常の「足」としては安心して使うことが出来たものです。
困ったことに、我が国ではこんな欠陥品が飛ぶように売れている。しかも、おそらくはかなりの数のユーザーが試乗もしないでTVCMやセールスマンの口車に乗せられて購入しています。
とにかく、エンジン音の問題も含めて、操作性が悪く事故が多発することが予想される車を野放しにしていること自体が問題。当局側が何とかすべきなのでしょうけど、山のような献金をしているトヨタに対しては政治家も何も口出し出来ないのだろう。
確かに視認性は悪いがプリウスに限った事じゃないと思います。
操作性は全部だるくなるように仕上げてあって、始めの30分程はイライラしましたが、クイックレスポンスを求めず、大型トラックの様に先を見て穏やかに予測して運転すると、何となくなじみます。操作への過敏な反応はグリップ限界を越えた時にパニックとなるので、あえてだるくしているのかな?と思います。
ラリー仕様車等と比較すると運転はつまらないですが、そういう車です。事故多発を招く様な不正確な操作性ではありませんでした。馴れればきちんと止められます。
ただ、運転中の活力を削ぐのでぼけーッと漫然と運転する人の事故は増えるかもしれません。
フムフムなるほどと拝読していたのですが、最後にズッコケてしまいました。
>しかし、エンジン駆動であれ、モーター駆動であれ、自動車は人を殺すものだ。なのに、プリウスの開発者は、その危険性を見失った。エンジン駆動の自動車開発者は、その危険性を忘れなかったのに、プリウスの開発者は、その危険性を見失った。そのせいで、「自分の危険性を歩行者に教える」という機能を消してしまった。「自分の存在さえ教えればいい」と思い込んで、「自分の危険性を歩行者に教える」という目的を忘れてしまった。
エンジン駆動の自動車開発者は「わざと」エンジン音を残しているんですかねえ。もしも、電気モーターレベルのノイズの経済的な高性能エンジンが存在すれば、少なくとも軍事的には引っ張りダコでしょう。引き合いに出すのなら「エンジン駆動音を選んだモーター駆動の自動車開発者」なのでは。
思い込みって怖いですね。
今後のご活躍を祈念しております。
誤読。「消さなかった」だけ。
> 存在すれば、
しない。成立しない仮定は無意味。
エンジン駆動の自動車開発者「お、おう…」
なるほどはわかりました。
今日は勉強させていただきました。
間違えました。
申し訳ないです。
それは、誤読というよりは、捏造ですね。引用するなら、ちゃんと元の文章から引用しないと駄目ですよ。
リコールしてください。
>のに、プリウスの開発者は、その危険性を見失った
この書き方だと、「筆者は『エンジン駆動の自動車開発者は、本当は音を消せるのに、その危険性を考慮して、あえて消さなかった』と書こうとしている」と解釈するのが自然ですよ。
「アフォリズム」という用語を調べるといいですよ。
これ近所から苦情が来るんじゃね?といつも言ってますけど。
トヨタ、プリウスに疑似モーター音装置 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD2406R_U0A820C1000000/
> 音そのものは通常のエンジン搭載車とほぼ同じ約55デシベルで、
> 周囲の騒音にはならないレベルに工夫した。
「工夫した」とあるけど、どうしてエンジン音と同じ音量、しかも聞き慣れない音にするんだか。
そもそもエンジン音自体ずーっと騒音問題になっているわけでしょう。
この手の機器を考案する連中って(国交省の役人どもも)どういう自己認識なのか知らないけど
基本何も考えていないにも等しいと思います。要はバカです。
まともな人間なら、余程の理由がない限り
せっかく静かになった車にあえて人工音を付与しようなんてアイデア思かないはず。
エンジン音がなくて気づかないから危険っていうけど、
気づこうが気づくまいが歩行者の安全を守る義務は100%ドライバーにあるし
いまどきの車が出す音の大半はタイヤの摩擦音で
電気自動車といえど完全に無音になるわけではないです。
「左へ曲がりますご注意下さい」なんかも理解できない。案の定騒音問題になってるようで。