2013年08月06日

◆ 大学は何をめざす?

 東大は、国際化をめざす。だが、大学がめざすべきものは、別にある。 ──
 
 東大は、秋入学を試みた。そこでは、国際化をめざしていた。
 しかし、国際化をめざすというのは、文明開化のころの明治時代の方針だ。
 「欧米諸国には大きく劣っている。だから欧米諸国の真似をしよう」

 文明開化のころなら、これでもいい。しかし 21世紀になっても、文明開化のころの方針を取ろうとしているのだから、東大の馬鹿さ加減も際立っている。

 では、どうすればいいのか? もちろん「他人の後を追おう」とするのではなく、「他人の先に立とう」とするべきだ。「集団の平均に追いつこう」としているのが日本だが、「1番でなくちゃ駄目なんですか?」どころか、「1番をめざす」というふうにするべきだ。
 では、どういうふうに? それが問題だ。

 ──

 以上の基本をわきまえた上で、参考となる記事がある。
  → 技術革新生む異才育てよ 米スタンフォード大学のジム・プラマーさん

 ここでは(広義の)「デザイン」という用語によって、「創造的な思考」の重要性が語られている。
 創造力。これこそが先頭に立つものにとって必要なものだ。それは決して、他人の後を追おうとして得られるものではない。国際化によって得られるものでもない。国際化や英語力は、無駄ではないが、あくまで一つの手段にすぎない。手段を目的と勘違いしてはいけない。目的は、創造力の獲得なのだ。

 では、どうやって? もちろん「創造力を育てよう」とする方針を取ることが必要だ。そして、そのためには、「大学生一人一人の努力を促す」なんていう方針ではなくて、「大学そのものが教育制度を、創造力重視に抜本改革する」ということが必要だ。
 記事から一部抜粋しよう。
 「伝統的な工学教育は、イノベーターやクリエーターを育てるには十分ではない、というより、むしろ逆かもしれません。ふつうの授業で学ぶのは、答えが決まっている問題を解くことですからね。答えがない問題に取り組んでいく教育が、イノベーションには欠かせません」
 ―― デザインというと自動車や家電、洋服など、製品の形や色を思い浮かべる人が多いと思います。イノベーションとはなかなか結びつきません。
 「ここでいうデザインは、非常に広い意味のものです。私たちの生活にかかわるあらゆる問題の解決策を見いだすことを指します。すでに存在する課題を解くのではなく、課題そのものを見つけるところから始めてビジネスにつなげる。これが『デザイン思考』と呼ばれるものです」
 「たとえば電気もない途上国で、未熟児の命を救うための保育器をどう整備するか。この課題を根本的に洗い直した結果、本質は赤ちゃんの体温を保つことであり、必要なのは、電気を使わずにいかに体温を守るか、だとわかりました。発熱素材を使った20ドルほどの寝袋を開発したところ、保育器を整備するよりはるかに安く、世界的なヒット製品になりました」

 「私はこうした過程を通じて、失敗を受け入れることを学んでほしいと思っています。学生にいうんです。新しいことをやれば、8割は失敗する。そして、なぜ失敗したか、それを考えろと。大きく飛躍しようと思ったら、失敗が不可欠です
 「常に新しいことに挑戦して先に行こうとしなければ、リーダーの地位を保つことはできません」

 ――ジョブズのような創造性豊かな人を工学教育によって生み出すことができるのでしょうか。
 「できる、というのが私の考えです。単なる講義ではなく、グループでプロジェクトに取り組み、コンペに参加したりする。そうした経験を積むことで、だれもが創造的になり得ます。大学自体が何か具体的なものを生み出すわけではありません。産業界で創造的な仕事ができる学生を育てることが何よりの使命です」
 
 「デザインスクールを作ったひとつの理由は、エンジニアのキャリアを従来とは違う角度から見ようということでした。単に機械をいじったり、コンピューターで計算したり、といったことではなく、もっと大きな、複雑な問題に取り組むのがこれからのエンジニアだと思います」
 「核となる新しい知識が実用に結びつくには、さまざまな専門家の協力が必要なのです。ところが、日本の大学は共同作業が苦手です。他人と違うことが学問的な鋭さであり、それを論文にして評価を得るいわば論文至上主義に支配されているからです。異分野間で協力して新しいものを作っても論文になりにくいので評価されません。だから技術者はどうしても、より速く、より高密度に、という方向にどんどん進んでいきがちです。しかし、本当のイノベーションは、従来の技術を極める延長線上にはありません。
 日本の工学は、国際的に見ていわゆるデザイン思考の訓練が足りないと2005年に指摘され、取り組みも始まっています。大学教育の改革でもプロジェクトを通して学ばせる提案が多く出ました。しかし、その成果に対して学位を出す覚悟はあると答えた大学はひとつだけでした」
 「工学は、イノベーションを生むのが務めです。そこが真理の追究をめざす理学とは大きく違う点です」
 
  ̄ ̄ ̄ ̄
 《 記者あとがき 》
 プラマー氏は、大学自体が何かを生むわけではない、人を育てる場、と明快だった。工学の原点に立ち返って、大学教育の再構築が今こそ必要だ。
( → 技術革新生む異才育てよ 米スタンフォード大学のジム・プラマーさん
 一部抜粋なので、詳しくは元の記事を読んでほしい。(有料版。ただし朝日新聞読者は無料。)

 ──

 上の話を読むと、こういう創造性が(大学だけでなく)(日本の)企業には欠けている、ということが身にしみてわかる。特に、パナソニックやシャープなどの家電産業が典型的だ。現地に出て現地の消費者の望むものを作ろうとするサムスンと違って、日本というガラパゴス島で育った高品質のものを高額で押しつけようとするばかり。つまり、「ガラパゴスの世界的展開」── これが、日本企業の方針だった。失敗するのは目に見えている。
 ここで、「大学の秋入学」をやって、入学時期を春から秋に変えるなんてことは、どうでもいいことだ。そんなことは、めざすべき方向とはまったく違っている。
 日本企業のなすべきことと、大学教育のめざすべきことは、どちらも同じだと言える。それは、創造性であり、デザイン思考でもある。それは、未知の領域への展開であり、失敗を恐れぬことでもある。
 そういうことは、一部の企業にはあった。(キヤノンや、昔のソニーやホンダなど。)しかし最近では、すっかり見失われている。



 【 補説 】

 ただ、日本の企業のなかでも例外的に、成功している例もある。
 一つは、マツダのスカイアクティブだ。

 もう一つは、SONY のコンパクトカメラだ。下記。

     

SONY Cyber-shot RX100   SONY サイバーショット DSC-RX100 M2


    左は、旧製品で、安価。右は、新製品で、高性能。
    基本性能は大差ないが、右の方が少しいい。下記参照。

     → タイム誌・2012年の最高の発明品に「SONY RX100」を選出

   ̄ ̄
 マツダのスカイアクティブ技術は、前に言及した。
  → マツダの省エネ技術

 そこでは、「兼坂弘の教え」と関連して、「本質を突くこと」の重要性を指摘した。そして、「本質を突くこと」とは、「創造性」にとって必須なのである。

 ソニーの RX100 を見ても、そこには「本質を突くこと」という方針が見て取れる。たとえば、レンズによって画像の周辺部が歪むが、歪みはデジタルで補正することができる。ならば、歪みがどれほどあってもいいから、きちんと像を結ぶレンズの方がいい。歪んでも鮮明な像を得たあとで、デジタルで歪みを補正すればいい。こうして鮮明で歪みのない画像を結果として出力することができる。……そして、それが可能なのは、レンズとカメラ本体が一体化しているからだ。つまり、コンパクトカメラだからだ。
 ここでは、コンパクトカメラの欠点を逆に利用してしまっている。これまで短所だと思えたものが長所になっている。そういう「逆転の発想」がある。
 他にもいろいろと、独自の技術展開が見られる。このことで、ソニーはいつのまにか、シェアを急上昇させたようだ。(コンパクトカメラでは、世界一のシェアを獲得するに至ったようだ。データは諸説あるが。)……ソニーは、電器製品分野ではぐらぐらしているが、コンパクトカメラ部門ではすでに最高レベルに達している。キヤノンを越えるとは、たいしたものだ。
( ※ ただし、画質だけなら、 Merrill に負けるけどね。ま、こいつは、一般人向けではないが。……「昼間は Merrill で、夜は RX100 M2 」という組み合わせが最強であるようだ。一般向けの一眼レフをずっと上回る写真が撮れる。)

 マツダや SONY の例から見ても、日本企業も頑張ればできる、とわかる。そのために大切なのは、社員一人一人の能力ではなくて、一人一人の能力を開花させる企業風土なのだ。……それがどういうものであるか、本項を読んで理解してもらいたいものだ。
 逆に、
 「金儲けをしよう、リストラをしよう、賃金コストを下げよう」
 なんてことばかり考えていると、ワタミみたいなブラック企業になる。めざすべきことは、それとは違うのだ。
 
 なお、東大の大好きな「英語力重視」というのは、すでに日本の先進的な企業が実施している。たとえば、次の企業。( → 出典
   楽天 ,ユニクロ ,シャープ ,パナソニック


 東大も、こういう会社みたいになりたいんですかねえ。「英語ばかりに熱中して、肝心の本業がおろそかになる」というタイプ。……ま、いかにも東大らしいが。スタンフォード大とは、狙っているところがまったく違う。 (^^);
 東大は、シャープやパナソニックをめざしているのだろう。
 


 【 関連項目 】

 (1) 東大の「秋入学案」(項目一覧)
 
 (2) 3Dプリンタの発明者は日本人
 「独創的な技術者が画期的な技術を開発しても、日本の会社はそれを支援しない。その後、米国の会社が同様の技術を二番煎じで出したあげく、世界の市場を席巻する。日本はせっかく先進技術を創案しても、企業が受け入れないので、せっかくの宝を捨ててしまっている」



 【 参考書籍 】

 → 大学で何を学ぶか (加藤 諦三 (著) )

 → 大学で何を学ぶか (浅羽 通明 (著) )

 → 大学でなにを学ぶか (隅谷 三喜男 (著) )
 
 → その他 同種の本
posted by 管理人 at 19:31 | Comment(0) | 一般(雑学)2 | 更新情報をチェックする
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