2012年11月13日

◆ 家電産業の衰退の理由

 日本の家電産業(パナソニックなど)は、なぜ衰退したのか? それを探る。 ──
  
 日本の家電産業は、なぜ衰退したのか? それを探るには、逆に、大躍進した企業を見るといい。


 (1) アップル

 アップルは大成功した。その理由は? もちろん、ジョブズだ。ただし、その成功の理由は、かなり特異である。
 マイクロソフトならば、「ビルゲイツの経営の才能」というふうに要約できるだろう。これはかなり傑出した能力だった。ちなみに、同種のことをやった人々は、みな失敗した。日本でも坂村健が TRON を開発したが、(工業用はともかく)パソコン用ではまったく不成功だった。他にも、Linux 系やら Unix 系やら、さらには古いところでは 16bit の OS やら、OS 2 やら、いろいろと対抗馬はあったのだが、すべてマイクロソフトに蹴散らかされた。OS のアイデアはあっても、それを完成した商品にまとめあげる能力は、組織の統率力の問題であるが、他の誰もがゲイツほどの統率力を発揮できなかった。ゲイツのやったことは、ちょっとナポレオンにも似た統率力だった。
 ジョブズはどうか? 経営はうまかったとは言えない。人心掌握はうまくなく、自分は経営陣から追い出されたことすらある。復帰してからも、人々をことさらうまく組織化したわけではなかった。単に人々はジョブズに服従しただけだ。
 ジョブズが優れていたのは、何か? それは、ビジョンだ。
  → 大切なのは情熱とビジョン(ジョブズ)
 では、ビジョンとは? 長い時間で何が成長するかを、しっかり見極めることだ。また、物事の本質を見極めることだ。
  → ジョブズとシステムデザイン ( 重要!
 その結果、初期には iMac などを出し、次には MacOS を出した。さらには iPod を出したあとで、iPhone や iPad を続々と出した。その方向性はまったく時代に先んじており、無数の追従者を出した。(アンドロイドは iPhone のコピー商品にすぎない。)
 

 (2) テスラ

 電気自動車のテスラモーターズは、できたてのほやほやの新興企業であるにもかかわらず、電気自動車で世界最高峰の位置を占めるようになった。それはガソリンエンジンにおけるベンツやポルシェの位置に近い。ブランド力も傑出している。それに引き替え、日産のリーフは出来が悪く、予定を大幅に下回る販売しかなし遂げていない。
 《 「リーフなどとは比較できない。自動車史に残る1台」 テスラ「モデルS」 》
 正直なところ、我々は試乗するまでモデルSを信用していなかった。ここ数年、先進的なパワートレインを搭載したクルマに数多く試乗してきたが、大抵は残念に結果に終わっていた。しかし、モデルSは違う。本当に画期的なクルマだと自信を持ってお伝えしたい。新技術ゆえに譲歩や代償、妥協に悩まされたこれまでのEVなど比ぶべくもない、印象的で魅力的なスポーツセダンである。
 テスラ「モデルS」は自動車史に残る革新的な1台となるだろう。
( → Autoblog 日本版
 ではなぜ、これほどにも画期的な自動車が、新興企業で短期間で誕生したのか? その理由は、経営者にある。その名は「イーロン・マスク」だ。Wikipedia から引用しよう。
 オンラインコンテンツ出版ソフトを提供するZip2社を起業する。この会社はのちにコンパック社のAltaVista部門に買収され、マスクは3億700万USドルの現金と、ストックオプションで3400万ドルを手にいれる。
 1999年にはオンライン金融サービスと電子メールによる支払いサービスを行うX.com社の共同設立者となる。X.com社は1年後にConfinity社と合併し、これが2001年にPayPal社となる。
 2002年に彼は3つ目の会社として、宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発するスペースX社を起業し、現在CEOならびにCTOに就任している。また電気自動車会社であるテスラモーターズ社に投資し、同社の最初のモデル「0001」を自ら所有する。2008年10月には同社の会長兼CEOに就任した。
( → Wikipedia
 つまり、こうだ。
  ・ IT 企業をいくつか興して、それぞれ巨額の売却益を得た。
  ・ 米国の民間ロケット部門をになうスペースX社を起業した。
  ・ テスラモーターズにも投資して経営者になった。

 ビルゲイツも真っ青の天才経営者と言えるだろう。

 これと先の記事から推定すれば、彼がテスラモータースでやったことは、次のことだ。
 「自力開発では間に合わないとわかっているので、世界中から衆知を集めた。経営者や技術者は、できる範囲内で優秀な人々を集めた。それでも既存の自動車会社には対抗できない部分が多いんで、その分についてや、ベンツやトヨタなど一流の各社と提携して、自動車技術や生産技術の援助を受けた」

 これは、ジョブズの方針に極めて似ている。次の点だ。
 「最高の商品を徹底的に追求する。そのために、可能な限りのあらゆるパワーをつぎこむ」
  → ジョブズが求めたものは? ( 重要!
 
 この項目に書いてあるように、ジョブズは次の方法を取った。
 ジョブズは既存のものを組み合わせたのではない。究極のものを求めたのだ。そして、それを実現する技術を世界中で探したのだ。
 普通の人は、ボトムアップで考える。多種多様の技術をいくつも組み合わせて、新たな何かを作り出そうとする。
 ジョブズは違う。最終的なものが見えている。どんなものを作るかがはっきりと見えている。そして、そこから逆算して、技術を求める。その技術が見つからなければ、世界中を探す。世界中を探しても見つからなければ、作れそうな企業に作ってくれるように求める。

 比べてみると、テスラ・モーターズの方法とジョブズの方法が、実によく似ていることに気づくはずだ。
 簡単に言えば、両者は「天才の方法」を取っているのである。その方法は、天才であれば最初から知っている。しかし、天才でなくても、私の書いた上記のことを読めば、だいたいはわかる。少なくとも、いくらかは真似することが可能だろう。
 では、日本の企業は、それを真似したか? 日本の企業のかわりに、韓国の企業が、いくらか似たようなことをやっている。


 (3) 韓国(サムスンなど)

 韓国の企業(サムスンや LG 電子など )は、日本の電器製品企業を上回る、先進的な新種の精神がある。最初は日本の技術を移入することに熱中していたが、今では日本を追い越すありさまだ。しかも、その際、日本企業が見捨てた日本の中小企業の技術を、うまくすくい取っている。
 次世代の通信技術として注目される「可視光通信」。LEDの光を使ってデータを送受信し、電波の帯域不足の解消や、水中での高速通信などに有効とされる技術だ。この技術の規格争いを制したのは、開発で先行していたはずの日本でも米国でもなく、サムスンを中心とする韓国勢だった。
 実は韓国勢が提案した規格のコア技術は韓国企業の開発ではない。日本のベンチャー企業、アウトスタンディングテクノロジー(東京・中央)が提供したものだ。可視光通信の実用化を目指していた同社にサムスンが目をつけた。
  ──
 韓国企業と付き合いが始まると、意思決定の早さにどんどん引き込まれていく。
 「決裁権を持つ役員クラスが韓国から飛んできて、その場で決断して日帰りする。議論を持ち帰って返事がなかなか帰ってこない日本企業と大違いだ」
 訪ねてきたLGグループの役員は、自身の決裁権限ぎりぎりのおよそ1億ウォン(約730万円)相当の試作を即断し、韓国にとんぼ返りしたこともあった。
( → 日経 2012-11-13
 即断即決。日本企業ならば、730万円の支出を即断することは、まずありえないだろう。一週間ぐらい、稟議書を回しているはずだ。そして、その間、肝心の作業は停滞する。これがあらゆる分野で成立するのだから、技術開発のスピードは大差が付くはずだ。

 ──


 結論

 成功した企業には、共通した特徴がある。
 「開発者が優秀であり、その優秀な開発者に権限を集中させ、開発のスピードと範囲を強力にする。そのことで、圧倒的な製品を高速に生み出す」


 失敗した企業には、共通した特徴がある。
 「開発者が凡庸である。また、開発者がたとえ優秀であっても、開発者には権限がろくにない。さまざまな開発には稟議書が必要であり、開発よりも会議で提案を通すことに勢力を奪われる。開発のスピードは遅れ、範囲は狭まる。チームにおいて一番大切なのは、会議で稟議書を通すことと、予算を守ることだ」

 壁に貼ってある標語は「予算厳守」と「1円単位でコスト削減」だろう。
 こういう企業では、製品開発は二の次である。適当にお茶を濁した商品を作り上げておけば、それでおしまいだ。たとえば、「スマホ機能の付いた家電」というのをちょいちょいと作って、それでおしまい。売れるかどうかは関係ない。そのあげくどうなるか? 会社が倒産寸前となる。(パナソニックの例)
 


 [ 付記1 ]
 パナソニックというのは、実に経営がいい加減だ。その典型は、次の二つだ。
  ・ プラズマテレビに巨額投資して、ゴミの山にした。
  ・ サンヨーを巨額で買収して、クズだと判明した。
   ( → 減損処理額を2500億円

 この件は、次のところでも説明されている。
  → 週刊現代最新号
  → パナソニックの大誤算、三洋買収で巨額損失
 要するに、パナソニックの経営者は、技術音痴であり、先を見る目がまったくない。ジョブズは「この先がどうなるか」をはっきりと見通して、勝ち馬に賭けたが、パナソニックの経営者は、「この先がどうなるか」を完璧に誤認して、負け馬に大金をかけた。で、その賭に負けて、大損を出して、倒産寸前となった。(この点では、シャープもよく似ている。どちらも巨額バクチで大損をした。先を見る目がないせいで。おまけにギャンブル好きで。)

 この賭けについて、次のように評する人もいる。
 ギャンブル外れてバーカというのは簡単ですが、リスクを取れない日本企業、と揶揄しながらも、きちんとリスクをとりにいってはいたシャープのそこのところをコケにするのは矛盾が大きいと思います。
( → やまもといちろうブログ
 そういう問題じゃない。馬鹿は馬鹿なりに自覚していれば、ギャンブルなどはしないはずだ。なのに、馬鹿が馬鹿だと自覚できないまま、自分が天才だと自惚れて、千億円単位の賭けをやったあげく、賭に負けて、大損をした。そういう問題だ。似た例は、こちらだ。
  → 大王製紙 ギャンブル依存症の前会長に懲役6年求刑
  → 大王製紙・井川前会長逮捕―高校時代からギャンブル依存症
  → 「私はギャンブル依存症」 大王製紙の東大卒御曹司
 
 パナソニックやシャープの経営者がやったのは、こういうことだ。ただし彼らは、マカオあたりの賭博場で1回 100万円を何回も賭けるかわりに、会社の業務について1回 数千億円を賭けた.そして、その賭けで、大損をしたのである。

 [ 付記2 ]
 パナソニックに似ているのは、アメリカの衰退企業だ。
 米イリノイ州ロックフォードは典型的な中西部の町だ。まさかこの町を中国が侵食しているとは、にわかに想像し難いだろう。町の中心に足を踏み入れると、繁華街と思えないほど人影が少なく、閑散としている。図書館に入って、司書に話を聞<と、企業がつぶれて従業員がいなくなった上に、巨大スーパーマーケットであるウォルマートが町外れにできた後は、町の中心から人が消えたという。
 20世紀中、ロックフォードはアメリカの軍需産業やハイテク産業の工作機械製造を担ってきた。冷戦中、ソ連の大陸間弾道ミサイルの標的にも入っていたという重要都市である。当時、町は専門技術を持った工学部出身者たちで溢れ、活気に満ちていた。
 この町が危機に陥ったのはつい最近のことだ。切削機などの精度の高さで評判だったインガソル社は03年に倒産したが、倒産前から、中国の買い手は虎視眈々とチャンスを狙っていた。いち早く買収されたのはこの会社の自動車の工作機械部門である。中国の国有企業に買収され、数十年にわたって研究されたインガソル社の最先端の技術は設計図ごとまるごと中国本土に持って行かれた。元の会社で働いていた熟練工たちは当然仕事を失うことになるが、彼らに残っていた道は、郊外にできたウォルマートなどのカウンターで働くことしかなかった。
( → 中国人に狙われたアメリカの軍需産業都市
 これとはちょっと違うが、中国企業によるイタリアへの不法進出という事例もある。
 まるで中国に戻ったと錯覚をするほど、街の景観は変わり果てていた。スーパーの前で足を止めたが、壁に貼られたビラはすべて中国語で書かれた求人広告のビラだった。そのほとんどは服飾工場の求人だ。
 そうだ。ここはイタリア屈指の織物業の都市だった。それが今では多くの中国人が移住し、町そのものを変貌させてしまったのだ。
 中国から、バス、トラック、船を乗りついで入ってきた不法入国者にも出会った。
( → 上記ページ )
 その詳細は、下記にある。
  → 中国人の対ヨーロッパ経済進出の現状(1)
  → 中国人の対ヨーロッパ経済進出の現状(2)

 これらの例は、中国企業が原因となった都市荒廃と言えなくもない。ただ、日本の場合は、その逆だ。日本人経営者の愚かさのせいで、企業そのものが自壊していく。
 その理由は? もちろん、愚かな経営者が企業を牛耳るという、日本の企業の経営システムにある。ただ、それを是正できないのも問題だし、若手の有能な経営者のかわりに老人経営者ばかりが社長になるのも問題だ。日本企業で、若手経営者による再生が成功したのは、日産のゴーン社長の例があるだけだろう。
( ※ それ以外だと、稲森という超老人(80歳)による日航再建ぐらいか。)

 日本企業は、この先どうなるか? 「お先真っ暗」というしかないですね。私の方針を取ろうとしない限りは。

( ※ まあ、私が社長になれば、パナソニックは劇的に改善するだろうが、どうせ誰かが「トンデモだ!」とか騒ぐだけだろうから、まずは無理。パナソニックは沈没するしかない。……あ、不況がひどい日本も同様か。  (^^); )
posted by 管理人 at 21:29 | Comment(1) | コンピュータ_03 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日産幹部が言ってましたが、ゴーンの行った改革の大半は、ゴーンが就任する前から、やるべきだと、みんなわかっていたことだそうです。当たり前のことをゴーンはやったに過ぎない。

では、なぜ、できなかったのか?

生え抜きの日産社員は、過去の経緯でがんじがらめになっているので、何もできなかったのです。

つまり、外部の有能な経営者に、フリーハンドで経営をさせるなら、家電も蘇るのかもしれません。

社内の余剰労働者や下請け企業や関連会社が大量に切り捨てられて、悲惨なことになるかもしれませんが、まるごと滅亡するよりはましでしょう。
Posted by 井上晃宏 at 2012年11月15日 19:58
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