「コンピュータもとうとうここまで来たのか」
と感慨に耽る人もいるようだ。そこで私は棋譜を調べてみた。
→ 棋譜 (動画ふうに駒を動かせる。)
全部通してみた感じは、「作戦ミスじゃないの?」というもの。穴熊に囲おうとしているのに、穴熊をきちんと囲まないまま、王のこびん(7七)をあけて、敵の角のにらみを受けている。そんな無防備な体制のまま、駒得を狙って、攻撃をしかけて、まんまと駒得をした。だが、敵の攻撃の手番になると、角のにらみの直射を受けて、あっけなく構築途上の城が崩壊。最後はコンピュータの多彩な読みを見せつけられて、詰め将棋ふうに詰まされて、頓死ふう。
これは、コンピュータ将棋に対して、最もやってはいけない方法を取ったことになる。
・ 防御態勢(築城)を不備にしたまま攻勢に出る。
・ 小さな駒得に目を奪われて攻勢に出る。(初心者ふう)
・ 防御不完全な状況で、局面を複雑化されて、対応に迷って、時間を浪費。
・ 考える時間がなくなり、手将棋となり、詰め将棋ふうになり、撃沈。
負けるべくして負けたということか。
──
今回の敗北は、清水女流王将の性格のせいだと思える。彼女は「欲張り」な性格で、「うまそうな手」を見つけると、ダボハゼのごとく、そこに食いつく。ところがそこには罠があり、読みの穴を突かれて、その穴から撃沈される。
今回は、王のこびんをあけるという、最初からデカい穴を自分であけていた。攻勢に出る前に、さっさとこびんをふさぐべきだったし、最低限、6六歩と突いて、角のにらみを避けるべきだった。
今回の将棋では、「角のにらみの直射を受けて撃沈」という一言で片付いてしまうと思う。ほとんどアマチュアレベルの敗北だ。
そもそも、コンピュータを相手にするときは、駒得なんかを狙ってはいけないし、防御の構築を最優先にするべきだ。
実は、このことは、私がコンピュータを相手にヘボ将棋をしているときに、常に心がけていることだ。防御の構築をしないて、コンピュータを相手にすると、穴を突かれて、あっさり敗北する。(何度痛い目にあったことか。 (^^); )
コンピュータは人間を相手に研究しているのだから、人間もコンピュータを相手に研究するべきだった。渡辺竜王は、あらかじめコンピュータ将棋(ボナンザ)と対戦の練習をして、相手の癖などを研究したそうだ。清水女流王将も、そうするべきだった。適当にコンピュータ将棋を購入して、「自分は30秒だけ」というハンディを付けて、何度も対戦しておくべきだった。そうすれば、「不完全な防御は致命的だ」という教訓を得たはずだ。
今回の敗北は、清水女流王将の「欲張り」な性格に起因したもので、例外的なものだと思う。もっと「石橋を叩いて渡る」性格の(慎重な作戦を採る)女流棋士を相手に戦えば、コンピュータが勝てなかった可能性は十分にある。
今回の結果を見て、「コンピュータもプロ並みになった」と即断するのは、まだまだ早い。清水女流王将が、あまりにもおっちょこちょいな( or コンピュータに不慣れな)作戦を採ったのが、今回の勝敗の原因だ。そこからは何も結論は出せないと思う。
[ 付記1 ]
私以外の見解をここで読める。
→ 知恵袋 ,高段者の見解
24手目の▲9八香の前に▲5七銀とすべきだ、という見解。なるほど。
まあ、棋力のある人ならば、私とだいたい似た見解になるようだ。
[ 付記2 ]
次の報道もある。
終了後の会見で清水さんは、こんなことを言っていました。[ 付記3 ]
「コンピュータの弱点を突く作戦か、清水市代らしい手を指していくべきか、悩みました。盤の前に座っても迷いはありました。しかし今回、プロジェクトの一員として指名をいただいたことがすごくうれしかった。そうであれば、清水市代らしい指し方が一番だと思いました」
( → 将棋のブログ )
上記の談話は、いかにも清水さんらしい発想だ。
でもね。人間相手のときにはそれでいいが、コンピュータ相手のときはそれじゃ駄目なんですよ。立つ土俵が違うんだから。
「清水市代らしい」というのは、「これまでやって来たとおり」ということ。それはつまり「人間相手のときと同じことをやる」という保守的な発想。
むしろ、「機械を相手にするときは、人間相手とは変えて、機械の強さを避け、機械の弱みを突く」というふうにする必要がある。渡辺竜王は、そういう発想ができた。
その意味では、勝負にこだわる渡辺竜王は本物のプロであり、勝負よりも流儀を尊ぶ清水女流王将は「おけいごと」ふうのアマである。プロとアマの態度の差が出た、と言うしかない。
[ 付記4 ]
今回の結果を一言で言えば、こうだ。
「人間の側が機械を甘く見て、見え見えの罠に飛び込んで、飛んで火に入る夏の虫」
見え見えの罠とは、何か? 機械が得意なのは、終盤戦だ。そこで、中盤を省略して、序盤から一気に終盤に持ち込む、というのが、機械のしかける罠だ。
そのためには、守りあったりしないで、一挙に攻め合いに出ればいい。そのためには、甘い「駒得」を見せかけて、そこに誘いながら、人間側の防御を不備にすればいい。そうすれば一挙に終盤になる。
今回は、その罠に、まんまとはまってしまった。機械を見くびったせいで。
[ 付記5 ]
とにかく、今回の棋譜を見ても、終盤の強さはコンピュータが上だ。この点ではすでにプロ以上だ。(よく言われているとおり。シラミつぶしの探索は、コンピュータが得意だからだ。)
それに対しては、防御をきちんと固めることが大事だ。なのに、その前に攻撃に出るという、最もやってはいけないことを、人間がやってしまった。その点では、人間の側が、コンピュータ相手の正しい戦法を知らずに、勝手に自滅してしまったことになる。
[ 付記6 ]
清水さんに厳しいことを言っているようだが、これは別に厳しくはないと思う。「態度が間違っていただけで、清水さんの棋力がコンピュータに劣っているわけではない」と言っているのだから。読者にしても、「清水さんはコンピュータよりも能力が下だ」とは思わない方がいい。今回の結果は、たまたまだ。(根源的な作戦ミス。というか、方針ミス。相手を見くびって、相手の特徴を知らなかったこと。)
なお、私個人としては、清水さんのファンです。美人だし、性格もいい人なので。その性格の良さが、今回はアダになった。もっと(プロらしく)こすからい性格をしていれば、勝てたはずなのに。
【 関連サイト 】
→ 中村正三郎のページ
この問題を、コンピュータの側から考察する。合議制がどうのこうの、というような話。

──
ベンチマーク
Intel Core i7 X 995 @ 3.60GHz 12,250 ポイント
Intel Core i7 980X @ 3.33GHz 10,411 ポイント
Intel Core i5 680 @ 3.60GHz 3,537 ポイント
Intel Xeon X5355 .@ 2.66GHz 3,521ポイント ←渡辺vsボナンザ
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今回のCPU構成はそんなものではなくて
* ハードウエア部
−東京大学クラスターマシン:
-Intel Xeon 2.80GHz, 4 cores 109台
-Intel Xeon 2.40GHz, 4 cores 60台
合計 169台 676 cores
−バックアップマシン:4プログラムそれぞれについて1台ずつ
-CPU: Xeon W3680 3.33GHz 6cores
-Memory: 24GB (DDR3 UMB ECC 4GBx6)
という。まさに外道。
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http://blog.livedoor.jp/arbu/archives/1262449.html
この手は人間相手ならば問題ないが、コンピュータ相手ならば最悪だ。なぜなら、局面を複雑化させるからだ。局面を複雑化させれば、計算量の多いコンピュータが圧倒的に有利になる。
コンピュータ相手に人間が勝つ方法はただ一つ。局面を単純化して、じわじわと圧迫することだ。
逆に、局面を複雑化するのは、圧倒的に不利だ。また、「うまい手」で一気呵成に押し倒そうとすると、そこは相手の得意な領域であり、必ず相手は穴をふさぐ。(詰め将棋の逆。)
なのに、清水さんは、コンピュータ相手にやってはいけないことばかりをやった。最初の方針が根本的に狂っていたことになる。コンピュータと戦うのに、下手な人間と戦うつもりになっていたことだ。
その意味では、戦う前に、心構えで負けていたことになる。真の敗着は、ゼロ手目だろう。相手を機械だと理解しなかったことが真の敗着だ。
→ http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/10/12/akara/
▲2四歩△同歩▲同飛△2二飛▲2三歩△2一飛▲2二角
としたら、後手陣はつぶれてしまった。
そのあと、先手は守りを固めてから、飛車の横利きで後手王を直射して、二枚飛車で敵陣を崩して、あとは普通に攻撃して先手完勝。
私とソフトとの戦いは、私の勝ち。
確かにその通り。ソフトの開発者側が、清水さんの棋譜を調べて、対 清水スペシャルのチューニングをしたらしい。(どこかでその記事を読んだ。URL は失念。)
敵は清水対策をしたが、人間はコンピュータ対策をしなかった。
敵を知りおのれを知れば百戦危うからず……という方針を取ったのは、機械の側だった。(正しくは、機械を動かす開発者。 (^^); )
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(1) http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1286877661/l50
・26手目△4四角は先手の予測手でなかった▲9八香に対する合議による応手
激指メインとBonanzaが支持、対抗は△6四銀
・27手目、先手の応手の予測は全会一致で▲6六角だったが、外れる
・しばらく先手が▲9九玉とすると見ていたが、そうせずに33手目▲4六歩
これに対し激指は△5五歩を主張するが、他は全部△6五銀を支持し採用される
・△6五銀▲4五歩に対し、36手目はGPSとYSSメインが△4五同桂、
激指が△5三角、BonanzaとYSSサブが△7七角成と主張がばらける
加重多数決で△4五同桂が採用される
(2) http://2bangai.net/read/fb598c3f43a5f92242a8ed19295143e6b718654d859ce18d5348f3ff73c55f7c/801
> ・43手目▲6六金打のところでは、あからは▲3三角打を第一候補にしていたが、他に▲5三桂不成、▲3三金打、▲2七飛、▲6八金なども提案されていた。
> 各表の行の最右が評価値とすると、あからの各ソフトはここで
有利が拡大したと判断していることになる
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私の感想。
(1) のことから、27手目は▲6六角が最善手であったらしく、現実の▲7七角は悪手であったようだ。
(2) にしたがって、第一候補の▲3三角打をソフトで実行したところ、これは先手有利になった。飛車を取ると先手不利だが、角を取って飛車をいじめるという手が成立する。
つまり、43手目▲6六金打が非常に悪手であり、これが決定的な敗着とも言えるようだ。プロ棋士の間では▲6六金打の評価は高かったが、私はまずいと思っていたんですよね。金を手放したのに効率が悪いから。やっぱりそうなんだ。
なお、▲3三角打を実行したときの私の棋譜は下記。
→ http://openblog.meblog.biz/image/1253.kif
※ たいていの将棋ソフトで読み取ることができる。
「ファイルを開く」から読み取れば、投了までコマ送りできる。
(1) 棋譜で 6六金 の解説。
「解説陣が思いつかなかった、長考の末の勝負手。丸得の桂で後手陣を薄くして、銀を追いつつ角筋を緩和する力強い手で、佐藤九段が激賞した。個人的にも見習いたい手だ。」
ところが、これが敗着だったわけだ。上記のように。
この意味では、プロがコンピュータに完全に負けてしまっている。情けない。
佐藤九段とコンピュータとの対決は、コンピュータの完勝だ。
(2) 序盤
「あから2010は四手目△3三角戦法を採用。これはTACOSの橋本氏が清水女流王将の将棋を研究し、対策として立てたものだそうです。それをYSSの山下氏がプログラムに組み込んだとか。」
前述の △3三角 の出典は、これでした。
なお、別のページによると、序盤ではYSSの決定権が非常に高いという。山下氏が一番強いから。序盤ではYSSの決定権が強く、中盤以降では激指の決定権が強い。序盤と中盤以降とで、ソフトの比重が変わる。それぞれ得意分野で担当を変える。
こんなの「あり」なら、人間だって「合議制」にして交替可能にしないと、不公平かも。 (^^);
ここでかわりに ▲8八王 と穴熊にしておけば、差は大幅に縮まった。
そのあと、手持ちの飛車で相手の角をいじめてから、竜を 3三の角 と交換すれば、自王への直射は解消するので、形勢は逆転する。(微差だが。)
ただし、この場面での最善手は、 ▲2三飛 であるようだ。(かもしれない。)
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▲8六桂 以後の手順については、下記に解説が詳しい。
→ http://shogiwatch.blog63.fc2.com/blog-entry-664.html