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この物質は、金属有機構造体(MOF )と言われる。
原理は比較的簡単であり、すぐに理解できる。金属の結晶構造を有機物が架橋する。

MOF材料のさまざまな形状。形によって異なる性質を持つ
(ノーベル財団提供、一部改変)
応用は「あれもできる、これもできる」と期待されているが、期待過剰である。二酸化炭素や水素を吸収できるとも言われるが、コスト的・性能的には難しい。
あなた:
金属有機構造体では、金属の結晶構造を有機物が架橋する。では、二酸化炭素を吸収するときには、金属原子と二酸化炭素分子の比率は、一対一が上限であるか?
Gemini:
いいえ、金属原子と二酸化炭素分子の吸着比率は、一対一が上限ではありません。
MOF(金属有機構造体)の二酸化炭素(CO2)吸着は、主に物理吸着と化学吸着の組み合わせであり、細孔の表面積や官能基、**開放金属サイト(Open Metal Sites)**といったMOFの構造的・化学的特性に大きく依存します。
📌 1:1比率が上限ではない理由
開放金属サイトへの配位:$\text{Mg-MOF-74}$のようなMOFには、CO2分子と強く相互作用する開放金属サイトがあります。初期の低圧域では、CO2分子がこれらのサイトに直接配位することがあり、この場合は金属原子に対してCO2が1:1$に近い比率で吸着する可能性があります。
物理吸着による多層吸着・細孔充填:しかし、吸着の全容量は、開放金属サイトへの配位だけで決まるわけではありません。
高圧や大きな細孔を持つMOFでは、CO2分子はMOFの広い内部表面積全体に物理吸着し、多層吸着や細孔の充填が起こります。この場合、金属原子の数よりもはるかに多くのCO2分子がMOFの空間全体に収容されます。
官能基による化学吸着:アミン基などで官能基化されたMOFでは、アミンとCO2が化学反応(カルバミン酸塩形成など)を起こして吸着します。この場合、吸着量は∗∗導入された官能基の量∗∗に依存し、金属原子との1:1$の比率とは直接関係ありません。
📊 具体的な例
文献には、特定の単位MOFあたりのCO2吸着量が報告されています。
| MOFの例 | CO2吸着量 (mmolCO2/mmolMOF) | 備考 |
| PF-MOF2 (Zr-系) | 3.7 (25℃, 1 bar) | MOF単位あたり3.7倍のCO2を吸着 |
上記のように、MOFの構造単位(モル)あたりで考えると、1:1を超える吸着量が得られることが確認されています。
したがって、MOFのCO2吸着量は、金属原子との1:1$の比率に限定されず、MOFの種類、多孔性、表面の化学的性質、および**吸着条件(温度・圧力)**によって大きく変動します。
他に特定のMOFの吸着性能について知りたいMOFはありますか?
あなた:
最大で金属原子数の何倍まで吸収できるか?
Gemini:
金属有機構造体(MOF)による二酸化炭素(CO2)の吸着において、CO2分子が金属原子の数の何倍まで吸着できるかという明確な理論的上限は存在しません。
これは、MOFのCO2吸着が、単なる金属サイト(開放金属サイト)への**化学吸着(1:1付近の配位)**だけでなく、細孔空間全体への物理吸着によっても起こるためです。
しかし、グラムあたりの吸着量と金属原子の濃度から計算すると、特に高圧条件や大容量MOFでは、CO2分子が金属原子の数倍になる例が示されています。
⚛️ 計算上の倍率と最大吸着量の目安
MOFのCO2吸着容量は通常、単位質量(\text{mmol/g}$ または wt%)で表されます。この値とMOFの組成(金属原子のモル量)を比較することで、金属原子あたりのCO2分子数(倍率)を概算できます。
| MOFの例 | CO2吸着容量(目安) | 吸着環境 | CO2 / MOF単位比率 (参考) |
| MIL-101(Cr) | 15∼20 mmol/g | 室温、高圧 (2 MPa) | 数倍から数十倍のCO2分子が細孔内に充填される可能性がある。 |
| MOF-177 | 33.5 mmol/g | 室温、高圧(過去の記録的な数値) | |
| Mg-MOF-74 | 3.5 mmol/g | 低圧 (0.1 atm) | 低圧では、開放金属サイトへの1:1配位が支配的だが、細孔充填も加わる。 |
高い倍率を示すメカニズム
物理吸着による細孔充填
MOFの持つ非常に大きな比表面積($\text{MOF-177}$で$4500 \text{ m}^2/\text{g}$超)と**細孔容積**が、高圧下でCO2分子を細孔内に高密度に詰め込むことを可能にします。この「細孔の充填」によって吸着されるCO2分子は、金属原子の数とは直接比例せず、金属原子数をはるかに超えることになります。
開放金属サイトへの優先吸着
$\text{Mg-MOF-74}$のように開放金属サイトを持つMOFでは、初期の低圧域でまず金属原子($\text{Mg}^{2+}$など)にCO2が強く引き寄せられて1:1に近い形で吸着しますが、圧力が上昇すると、金属サイト以外の細孔壁にもCO2が物理吸着し、全体的な吸着量が増加します。
結論として、CO2分子が金属原子の数の何倍まで吸着できるかという問いに対し、一般的な上限値はありませんが、体積充填が主となる高圧条件では、グラムあたりの吸着量が高くなり、実質的に金属原子数に対するCO2分子の比率は非常に大きな値になります。
あなた:
気体体積でいうと、金属の体積の百倍以上の体積の気体を吸収できるか?
Gemini:
はい、**金属有機構造体(MOF)**は、吸着剤自身の体積に対して、標準状態(STP)で数百倍の気体を吸着することが可能です。
「金属の体積」ではなく、MOFという多孔質材料全体の体積に対して、吸着する気体の体積を比較するのが一般的で、この基準で100倍を大きく超える吸着性能が報告されています。
📈 MOFの体積吸着容量の具体的な例
MOFが高いガス吸着容量を持つのは、その巨大な細孔容積によるものです。
例:MIL-101(Cr)(二酸化炭素 (CO2) の場合)
最大吸着量(質量基準):
$\text{MIL-101(Cr)}$は、室温・高圧($2 \text{ MPa}$)で$15\sim 20 \text{ mmol/g}$のCO2を吸着することが報告されています。
体積に換算(STP):
$15 \text{ mmol/g}$を標準状態($0^\circ \text{C}$、$1 \text{ atm}$)の体積($\text{STP}$体積)に換算します。
CO2のモル体積は$22.4 \text{ L/mol}$なので、
STP体積=15 mmol/g×22.4 L/mol≈0.336 L/g
吸着剤体積との比較(倍率):
$\text{MIL-101(Cr)}$の密度(計算密度または嵩密度)を約$0.7 \text{ g/cm}^3$と仮定します。
$1 \text{ g}の\text{MOF}$の体積は、
VMOF=0.7 g/cm31 g≈1.43 cm3吸着CO2の\text{STP}$体積($336 \text{ cm}^3$)を$\text{MOF}$の体積(1.43 cm3)で割ると、
倍率=1.43 cm3336 cm3≈∗∗235倍
したがって、$\text{MOF}は、\text{MOF}$自体の体積に対して数百倍の気体(標準状態換算)を吸着することが可能です。
🔑 高倍率の理由
この驚異的な吸着容量は、MOFの構造に由来します。
極めて大きな細孔容積と比表面積:
MOFは、固体材料でありながら、その体積の半分以上が空隙(細孔)で占められているものが多く、その空隙に気体が圧縮・充填されます。
$\text{MIL-101}のような高性能\text{MOF}は、∗∗細孔容積∗∗が1 \text{ cm}^3/\text{g}$近くに達します。
気体の圧縮と液化に近い状態:
高圧下では、細孔内の気体は非常に高密度になり、液体に近い状態で細孔に閉じ込められます。これにより、外部の気体の圧力よりもはるかに高密度の貯蔵が可能になります。
📌 補足:金属体積 vs. MOF全体体積
厳密には、MOFの体積の大部分は有機リンカーと空隙であり、金属原子団が占める割合は小さいです。しかし、金属原子団の体積のみを基準にすると、上記の倍率はさらに大きくなりますが、$\text{MOF}の性能を評価する際は、実用的な∗∗\text{MOF}全体の体積(または質量)∗∗に対する\text{STP}$換算の吸着体積が用いられます。
あなた:
有機物ではない水素を吸収できるのはなぜか? 金属に架橋できるのか?
Gemini:
はい、金属有機構造体(MOF)は水素分子 (H2)を吸収できます。これは主に物理吸着メカニズムによるものであり、H2分子が金属に直接架橋することは稀です。
1. 水素を吸収できる理由:主なメカニズムは「物理吸着」
MOFが有機物ではない水素分子を吸収できる主な理由は、その多孔性構造とファンデルワールス力にあります。
スポンジ効果 (細孔充填) 🧽: MOFは、非常に大きな比表面積と細孔容積(スポンジのような性質)を持ちます。H2分子は、この巨大な内部空間に物理的に閉じ込められ、高密度で貯蔵されます。この現象は、吸着対象の分子の化学的性質(有機物か無機物か)に依存しません。
ファンデルワールス力: 吸着の駆動力となるのは、H2分子とMOFの細孔壁との間に働く**弱い引力(ファンデルワールス力)**です。この力は、閉殻電子構造を持つ分子(H2を含む)にも作用します。
低温での吸着: H2の吸着は非常に吸熱量(吸着熱)が小さいため、高い吸着量を達成するためには、液体窒素温度(77 K)などの極低温で測定されることが一般的です。常温では分子間力が小さくなり、ほとんど吸着能を示さなくなります。
2. 水素分子は金属に架橋できるのか?
H2分子がMOF内の金属原子に直接架橋するというメカニズムは、一般的な吸着(物理吸着)においては基本的に起こりません。
MOFが$\text{H2を吸着する際の主な相互作用は以下の通りです。
開放金属サイト(Open Metal Sites)との相互作用:
$\text{Ni}_2(\text{m-dobdc})$などのMOFには、配位子との結合が飽和していない開放金属サイトがあります。
CO2の場合、このサイトに強く配位(化学吸着)することが知られていますが、H2のような閉殻分子の場合、化学的な結合(架橋)はできにくく、代わりに弱い相互作用(バインディングエネルギーやファンデルワールス相互作用)によって安定化されます。
計算シミュレーションでも、H2の吸着エネルギーを調べる際に、ファンデルワールス補正を考慮することが不可欠とされています。
したがって、MOFにおける水素吸着は、細孔充填による貯蔵と、開放金属サイトを含む細孔壁全体との弱い物理的な引力によって支配されており、CO2で起こりうるような**金属への直接的な化学的「架橋」**は、通常の貯蔵条件下では起こらないと考えられます。
ただし、リチウム(Li)イオンなどのアルカリ金属をMOFに担持し、そのイオンと$\text{H2分子との間に静電相互作用を利用することで、水素吸着量や吸着熱を向上させる研究は行われています。
あなた:
二酸化炭素の吸収では、コストがかかりすぎて、実用化は難しい。水素を貯蔵するのは、温度の点で難しい。いずれにしても実用化は無理か?
Gemini:
いいえ、実用化は諦められていません。 MOF(金属有機構造体)は現在、CO2回収と水素貯蔵のいずれの分野でも、技術的な課題を克服し、商業化に向けた段階に移行しています。
ご指摘の通り、「コスト」と「温度」は大きな課題ですが、その解決に向けた研究開発が急速に進んでいます。
1. 🏭 CO2回収:高コストの解決策
MOFが持つ高いCO2選択性や、再生に必要なエネルギーが既存のアミン吸収法よりも低いという優位性から、実用化に向けた動きが加速しています。
課題:高すぎる製造コスト
現状: $\text{MOF}はかつて試薬レベルで\text{1 g}$あたり数万円と非常に高価でした。これが実用化の最大の障壁でした。
解決策:量産技術の確立によるコストダウン
合成法の改良: 固相重合法、マイクロ波法、超音波法などのスケールアップが容易で低コストな製造方法が研究されています。
コスト目標の達成例: 日本の事例では、固相合成法によって**$\text{1 kg}$あたり数千円**という低コストでの量産化に成功したと発表されています。
国策としての目標: NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などのプロジェクトでは、CO2回収コストを2030年までに**CO2-$\text{ton}$あたり$2,000$円台以下**に抑えるという目標が掲げられており、MOFはこの目標達成の有力な候補とされています。
結論: 製造コストは大幅に低減されつつあり、MOFベースの固体吸着材システムは、既存の技術よりも運転コストの低減(低エネルギーでの再生)の可能性を秘めています。
2. ❄️ 水素貯蔵:低温課題へのアプローチ
水素はMOFと非常に弱い相互作用(物理吸着)しか持たないため、高密度貯蔵には極低温(77 K)が理想的であり、常温での実用化が困難とされてきました。
課題:常温での低貯蔵性能
現状: 常温では$\text{H2の吸着量が大幅に低下し、自動車搭載などの用途に必要な目標値を満たせません。
解決策:MOFの設計による吸着熱の向上
吸着サイトの強化: MOFの骨格を分子レベルで設計し、**開放金属サイト(Open Metal Sites)**を導入したり、**アルカリ金属イオン**($\text{Li}^+$など)を細孔壁に担持したりすることで、$\text{H2分子との相互作用(吸着熱)を意図的に強める研究が進んでいます。
クライオ圧縮貯蔵: MOFは低温・中圧(例:160 K、100∼200 bar)という、極低温液化水素(20 K)よりも比較的「温かい」条件で高密度貯蔵が可能です。この条件は、高圧圧縮(700 bar)と液化貯蔵の中間に位置する新しいアプローチとして検討されています。
定置用への応用: 自動車のような急速充填・高頻度充放電が求められる用途ではなく、長期間エネルギー貯蔵(発電所のバックアップなど、年間充放電サイクルが少ない用途)においては、最新のMOFでもコスト競争力があるという試算も示されています。
結論: 水素貯蔵における課題は残るものの、材料設計の進化と、用途に応じた最適な貯蔵条件の組み合わせ(クライオ圧縮など)により、実用化の道筋が模索されています。
まとめ
MOFは、CO2回収と$\text{H2貯蔵の両方で、従来の技術(アミン吸収液や高圧タンク)が抱える課題を解決する有望な代替技術として位置づけられています。
| 応用分野 | 主な課題 | 解決に向けた進展 | 実用化の現状 |
| CO2回収 | 高い製造コスト | 量産技術の確立($\text{1 kg}$数千円台)、再生エネルギーの低減 | パイロット/プレ商業段階。2030年頃の市場投入が予測されている。 |
| 水素貯蔵 | 常温での低吸着量(低温が必要) | 活性サイトの設計強化、クライオ圧縮貯蔵システムの検討 | 主に研究開発段階。特定の定置用用途でコスト競争力を持つ可能性。 |
研究者や企業は、これらの技術的・経済的課題を克服するために集中的に投資しており、「実用化は無理」と結論づける段階ではないと言えます。
MOFの商業化に関する最新の進捗について、特定の企業やプロジェクトの事例に興味がありますか?
あなた:
MOF以外にも水素を貯蔵する金属はあるか? せいぜい金属タンクだけか?
Gemini:
MOF以外にも、水素を固体として安全かつ高密度に貯蔵できる金属材料は存在します。それは主に**水素吸蔵合金(Metal Hydrides)**です。
金属タンク(圧縮ガスや液体水素)のように物理的に閉じ込めるだけでなく、化学的に水素を取り込むことで貯蔵する技術です。
1. ⚙️ 水素吸蔵合金(Metal Hydrides)とは
水素吸蔵合金は、特定の金属を組み合わせた合金で、水素ガスと反応させて水素化物(Metal+H2⇌MetalHx+熱)として貯蔵する材料です。
特徴
高体積密度貯蔵: 合金自体の体積の1,000倍以上の水素を貯蔵できます。これは、液体水素(液化)に匹敵するか、それを超える高い体積効率です。
安全性: 水素を固体として安定的に保持するため、高圧ガス貯蔵(金属タンク)に比べて低圧で安全に貯蔵・運搬できます。
用途:
ニッケル・水素二次電池の負極材料として、既に広く実用化されています。
定置用や輸送用の水素貯蔵タンク(燃料電池自動車の燃料タンクなど)としての応用研究・実証が進められています。
合金の種類と課題
水素吸蔵合金は、その組成によって特性(水素の吸蔵・放出温度や圧力)が大きく異なります。
| 合金の種類(例) | 主な構成元素 | 特徴・課題 |
| AB5型 (LaNi5系など) | レアアース、ニッケルなど | 比較的低温・低圧で作動するが、高価なレアメタルを使用する。ニッケル水素電池に利用。 |
| AB2型 ($\text{TiFe}系、\text{Mg}$系など) | チタン、鉄、マグネシウムなど | 比較的安価で資源量が豊富だが、高い水素貯蔵密度を達成するために作動温度や圧力の最適化が求められる。 |
| 新規合金 (Al-$\text{Fe}$系など) | アルミニウム、鉄など | レアメタルを使用せず、安価な元素で高密度貯蔵を目指す研究が進展中。 |
2. 💡 MOFと水素吸蔵合金の比較
MOFと水素吸蔵合金は、どちらも固体貯蔵材料ですが、水素の取り込み方が異なります。
| 特性 | 水素吸蔵合金 (Metal Hydrides) | MOF (Metal-Organic Frameworks) |
| 水素の結合 | 化学吸蔵(水素化物生成) | 物理吸着(細孔への閉じ込め) |
| 結合力 | 強い(可逆反応に熱が必要) | 弱い(ファンデルワールス力) |
| 体積貯蔵密度 | 非常に高い(液体水素並み) | 高いが、水素吸蔵合金には劣る場合が多い |
| 温度課題 | 水素を放出するために加熱が必要(発熱・吸熱管理が重要) | 高密度貯蔵のためには極低温(クライオ貯蔵)が必要 |
| 実用化状況 | ニッケル水素電池で実用化済み。定置用・運搬用システムの実証が進行中。 | CO2分離などで先行。水素貯蔵は主に低温用途で技術開発中。 |
水素吸蔵合金は、MOFが課題とする「常温付近での高密度貯蔵(ただし発熱・吸熱管理が必要)」を、化学的な結合によって実現する技術と言えます。
あなた:
水素吸蔵合金の仕組みは?
Gemini:
水素吸蔵合金(すいそきゅうぞうごうきん、Metal Hydrides)の仕組みは、水素ガスを合金の内部に化学的に結合させ、水素化物として安定に貯蔵・放出する技術です。
この仕組みは、合金がもつ特定の性質を利用した、可逆的な化学反応に基づいています。
1. 水素の「吸蔵(吸収)」の仕組み
@ 合金構造への侵入
水素吸蔵合金は、パラジウム(Pd)や、チタン(Ti)、鉄(Fe)、希土類元素(La)などの金属を特定の割合で混ぜて作られます。これらの金属原子が規則正しく並んだ結晶格子には、原子と原子の間にわずかな**隙間(格子間サイト)**が存在します。
A 水素の解離と侵入
水素ガス(H2)を合金に接触させると、まずH2分子は合金の表面で∗∗水素原子(\text{H}$)に解離します。解離した水素原子は、この隙間に侵入**していきます。
B 水素化物の形成(化学結合)
侵入した水素原子は、合金の金属原子と化学的に結合し、**金属水素化物(MetalHx)**を形成します。
Metal+2xH2⇌MetalHx+熱
この状態の合金は、水素分子の時と比べてはるかに高密度で水素を保持しています。これは、体積にして常温常圧の水素ガスのおよそ1,000倍にも相当します。
2. 🌡️ 水素の「放出」と熱の利用
水素吸蔵合金は、水素を放出する際に外部からのエネルギー(通常は熱)を必要とします。
@ 加熱による放出
水素化物から水素を放出させるには、外部から熱を加えるか、あるいは圧力を下げる必要があります。
H2を吸蔵する際に発熱したのと同じ量の熱を加えてやると、水素化物から$\text{H}原子が再び\text{H2分子となって解離し、ガスとして放出されます。
A 可逆的な仕組み
この吸蔵・放出の反応は可逆的(元に戻せる)であり、冷却や加圧をすれば再び水素を吸収し、加熱や減圧をすれば放出することができます。この特性が、水素貯蔵システムとしての利用を可能にしています。
3. ⚖️ P-C-T特性と実用化
水素吸蔵合金の性能は、P-C-T特性(Pressure-Composition-Temperature:圧力・組成・温度の関係)というグラフで評価されます。
プラトー(平坦部): このグラフの水素圧が一定になる平坦な領域は、合金が安定した水素化物(MetalHx)を形成していることを示します。
作動条件: 実用化においては、安全に取り扱うために常温付近の温度で、高圧ガス規制にかからない**$1 \text{ MPa}$未満の低圧**で水素を貯蔵し、必要なときには大気圧以上で放出できるように、合金の組成を調整します。
この仕組みにより、水素吸蔵合金は「低圧・常温付近で、安全かつ高密度に水素を貯蔵できる」固体貯蔵材料として活用されているのです。
あなた:
水素吸蔵合金はとても優秀だから、MOF は対抗できそうにない。
Gemini:
それは一面では正しい評価ですが、MOFと水素吸蔵合金は異なる特性と用途に優れており、単純に対立するものではありません。互いに補完し合う関係にあります。
MOFは水素吸蔵合金にはない独自の強みを持っているため、特に特定の用途では有力な候補と見なされています。
🆚 MOFと水素吸蔵合金の主な違い
| 特性 | 水素吸蔵合金 (Metal Hydrides) 🥇 | MOF (Metal-Organic Frameworks) 🥈 |
| 貯蔵メカニズム | 化学吸蔵(水素化物形成) | 物理吸着(細孔への充填) |
| 体積貯蔵密度 | 非常に高い(≈液体水素並み) | 高い(合金には劣る傾向) |
| 重量貯蔵密度 | 低い(合金自体が重いため) | 高い(有機物を含むため軽量) |
| 吸蔵・放出条件 | 発熱・吸熱を伴う加熱・冷却が必要 | 低温・高圧が理想(再生エネルギーが低い) |
| コスト(材料) | 高価なレアメタルを使う場合がある | 高価だったが、量産化で改善傾向 |
| 実用化の優位性 | 定置用、バッテリー負極など | ガス分離(CO2など)、触媒など |
💡 MOFが対抗しうる独自の強み
MOFが水素貯蔵において競争力を持つのは、水素吸蔵合金の弱点をカバーする以下の点です。
1. 重量効率の高さ (軽量化)
水素吸蔵合金は、金属自体が重いため、貯蔵システム全体の重量貯蔵密度が低くなるのが弱点です。 一方、MOFは金属と軽量な有機配位子で構成されており、重量当たりの水素貯蔵量(重量効率)の理論限界が水素吸蔵合金より高くなります。これは、燃料電池自動車のようなモビリティ用途で極めて重要になります。
2. 再生エネルギーの低さ
水素吸蔵合金は水素を放出する際に、強い化学結合を切るための大きな熱エネルギー(加熱)を必要とします。 対してMOFは物理吸着のため、水素の吸着熱が小さく、比較的少ないエネルギー(圧力または温度変化)で水素の吸脱着が可能です。この「再生のしやすさ」は、エネルギー効率の高い貯蔵システムを設計する上で大きな強みとなります。
3. 多様なガス応用性
MOFは、細孔構造や化学的性質を自在に設計できるため、水素貯蔵だけでなく、**二酸化炭素 (CO2)** やメタン ( CH4 などの分離・貯蔵にも高い性能を発揮します。水素貯蔵と同時に、他のガスの分離・精製を行う複合システムを構築できる可能性があります。
結論として、MOFは「軽量化」と「低エネルギー再生」が求められる用途において、水素吸蔵合金の強力な代替または補完技術となり得ます。
MOFと水素吸蔵合金のどちらの技術が、将来の水素エネルギー社会においてより重要な役割を果たすか、さらに掘り下げてみましょうか?
【 追記 】
「 MOF は軽量なのが優れている」というのが Gemini の見解だが、これは疑わしい。過大評価だと思える。そこで念のため、他のAIに質問してみたら、案の定だった。下記に引用する。
あなた
(構造体の)MOFは軽量なので、重量貯蔵密度では水素吸蔵合金よりも優秀だと言われるが、少し優秀なだけで、大幅に上回るわけではない。
Perplexity
MOF(多孔性金属有機構造体)は軽量であるため、同じ体積当たりの全体重量を考えた場合(水素タンクの重量+吸蔵物質の重量を含む「重量貯蔵密度」)、水素吸蔵合金(MH: Metal Hydride)より優れた値を示しますが、その差は「圧倒的に大きい」わけではありません。
理由と比較
- MOF自体は比重が非常に小さく、単位重量あたりで吸蔵できる水素は多いです。
- しかし、実用的な温度・圧力条件や水素の脱吸着速度などを考慮した場合、総合的な「重量貯蔵密度(System gravimetric capacity)」は、MOFが水素吸蔵合金を「若干上回る」程度です。
- 典型的な数値例では、MOF系材料の貯蔵密度は全システム重量で4-6 wt%程度、水素吸蔵合金は2-3 wt%ほどが一般的な実装値です(もちろん材料や設計条件によりばらつきます)。
まとめ
- MOFは「軽量」で「単位重量あたりの水素貯蔵能力」が比較的高い。
- だが、装置全体での「重量貯蔵密度」で見ると、水素吸蔵合金よりも明確に上回るが、その差はせいぜい倍程度であり、桁違いに優れるわけではない。
このため、「水素吸蔵合金よりMOFの方が大幅に優れる」というのはやや誇張です。「少し優秀」くらいの認識が現実的です。
→ https://www.perplexity.ai/search/gou-zao-ti-no-mofhaqing-liang-IcHkePBgQX6mkw8gcZ9h8w#0
※ 本項の内容は、次項に続きます。MOF の話はまだまだ続きます。
→ ノーベル化学賞2025 .2: Open ブログ (翌日分)

