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水素社会にすれば炭酸ガス削減ができる、と言われる。
燃料電池車(FCV)も炭酸ガス削減ができる、と言われる。
いかにももっともらしい説であり、多くの人々がそれを信じている。しかし、これは虚偽である。正しくは、こうだ。
「水素社会にしても、炭酸ガス削減はできない。燃料電池車(FCV)も、炭酸ガス削減はできない」
では、なぜそうなのか? その理由は、こうだ。
「たしかに水素の燃焼では、炭酸ガスを発生しない。しかし、水素を作成するためには、現状では(太陽光発電のかわりに)化石燃料を使うので、最終的な炭酸ガスの発生量は、水素燃料の場合も、化石燃料の場合も、まったく同じである」
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図式で示そう。
俗説の図式では、こうなる。(水素の燃焼)
2H2 + O2 → 2H2O
この場合、水素の燃焼時には CO2 の発生はない、と見える。
では、その H2 はどこから生じたのか? 太陽光発電で生じたのか? いや、違う。化石燃料から生じた。つまり、こうだ。
CH4 +H2O → CO + 3H2
CO + H2O → CO2 + H2
要するに、水素を発生するのには、化石燃料( CH4 )から H2 を生み出しているのである。そのとき、大量の CO2 を発生する。だから、結局は、工程の全体では CO2 を大量に発生しているのだ。
前段 後段
CO2発生 H2 燃焼
ただし、工程の前段(水素生産)で CO2 の発生を済ませている。だから、工程の後段(水素燃焼)だけを見ると、炭酸ガスの発生をしていないように見せかけることができる。それだけのことなのだ。
※ 一種の手品またはペテンである。
右手と左手にコインが一つずつ握られている。右手と左手を合わせてから、手を離すと、あら不思議、右手にあったコインが一つ、消えてしまった。
「コインが消えてしまいました。すごいでしょう」
とペテン師は自慢するが、実は、右手にあったコインが左手に移っただけだ。ただし、左手は握られていて、中身が見えないので、コインが消えたように見せかけられている。それだけのことだ。
「水素社会は炭酸ガスを出さない」という説も同様である。
たしかに、水素の燃焼では、炭酸ガスを出さない。(コインが消えるように。)
しかし、水素の発生のためには、炭酸ガスを出す。(コインが増えるように。)
その全体をトータルしてみれば、水素を燃やす水素社会にした場合と、最初から化石燃料を燃やした場合とで、ほぼトントンなのである。つまり、炭酸ガスを削減する効果はない。
※ むしろ、逆になりがちだ。水素をいちいち生産して、圧縮して、運搬するには、莫大な間接コストと変換エネルギーを必要とするからだ。単純に化石燃料のまま燃やしてしまう方が、はるかに効率的である。
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「水素社会で炭酸ガスが削減できる」
ということが実現するためには、条件がある。
「その水素が、化石燃料から作られるのでなく、太陽光エネルギー(などの再生可能エネ)から作られる」
ということだ。しかし、この条件は、満たされない。現行の水素生産は、大量にあるが、化石燃料から作られるものばかりだ。なぜなら、コストが半分以下であるからだ。
仮に太陽光発電の発電コストがゼロになったとしても、電気分解で水素を発生するには、設備や材料費などで莫大なコストがかかるので、とうてい化石燃料由来の水素生産には勝てない。
つまり、ブルー水素やグリーン水素は、グレー水素にはとうてい勝てない。メタンから水素を発生するのは、ごく簡単で低コストであるのに、電気から電気分解で水素を発生するのは、やたらと面倒で高コストであるのだ。とうてい採算に乗らない。
とはいえ、これは、技術上の問題だから、将来的には何とかなるかもしれない。しかし、近い将来では、その方法は確立されていない。水の電気分解というのは、とても単純な方法なのだが、その単純さゆえに、これ以上、どうやって改善したらいいのか、わからないのだ。
私が思うに、この問題の解決策はただ一つ。「太陽光発電の発電コストをマイナスにすること」だ。つまり、電力需要の多い冬と夏に合わせて、太陽光発電の電力を過剰に設置したあとで、春と秋には大量の余剰電力が生じるから、その余剰電力をマイナス価格で購入することで、水素生産を事業に乗せる。……これしかあるまい。
そして、そのためには、莫大な太陽光発電所を低コストで設置する必要がある。そのためには、このあと 10年以上の時間がかかるだろう。かなり遠い先のことになる。それまでは、水素社会というものは、ただのペテンにすぎないのである。(炭酸ガス削減の効果がない。)
※ ちなみに、日本の水素ステーションで供給される水素は、すべて化石燃料に由来するものだ。したがってトヨタ・ミライがいくら「炭酸ガスを出しません」と言っても、実際には、トヨタ・ミライは大量の炭酸ガスを吐き出しているのである。EV の電力の化石燃料依存率は、おおむね5割前後だが、燃料電池車の化石燃料依存率は、トータルでは 100% である。(水素だけを見れば、化石燃料依存率は0%であるように見えるが、その水素を作るためには、化石燃料が 100% 使われているからだ。)
[ 付記 ]
ChatGPT の回答
分類 定義 CO2排出
グレー水素 化石燃料から製造し、CO2を回収しない 排出する
ブルー水素 化石燃料から製造し、CO2を回収・貯留(CCS) 排出を抑える(完全ではない)
グリーン水素 再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解 排出ゼロ
コストは
グレー水素 1〜2ドル/kg
ブルー水素 1.5〜3ドル/kg
グリーン水素 3〜8ドル/kg
特に燃料電池車なんて水素を圧縮運搬分配するのに大量のエネルギーを消費するので全く意味がありません。
太陽光発電の余剰電力を水素に変換して天然ガスに少し混ぜる程度しか使い道が無いのではと思います。
化石燃料の例として挙げられたメタンは例外的にクリーンなものです。メタンはCH4なので水素2分子を作るとき炭酸ガスは1分子しかできません。ほかの化石燃料、例えばオクタンはC8H18なので水素9分子を出す時に炭酸ガス8分子が出ます。水素を燃やしで得られる熱量はメタンのそれよりかなり小さいので、メタンはそのまま燃料として使った方が良いのです。
水素社会の唯一良いところは貯蔵ができることです。太陽光発電で余った電力を水素に替えて貯蔵し、雨の日に発電に使うくらいでしょう。しかし効率から言えば揚水発電などにはかなわないと思います。