2025年04月16日

◆ 貿易赤字とは何か .6

 ( 前回 の続き )
 関税と貿易赤字の関係は、「部分の総和 ≠ 全体」となる。つまり、「合成の誤謬」が成立する。

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 「合成の誤謬」で有名なのは「貯蓄のパラドックス」だ。一つの家庭が貯蓄すると、その家庭では貯蓄が増える。しかし、すべての家庭がいっせいに貯蓄をすると、すべての家庭で貯蓄が減ってしまうのだ。「貯蓄をしたせいで貯蓄が減ってしまう」という逆転が成立する。
 これは、一見矛盾するように見えるが、経済学はこれを説明する。「みんなが貯蓄をすると、物が売れなくなり、不況になるから、所得が減って、貯蓄も減る」というふうに。……こうして、一見して直感に反する真実が解き明かされる。

 ──

 トランプの関税にも、同様のことが成立する。こうだ。
 「2国間で関税をかけると、関税をかけられた国からの輸入は減る。しかし、すべての国に対して関税をかけると、すべての国からの輸入が減ると思えるが、実際にはそうならない」

 たとえば、世界のなかで中国だけに関税をかけると、中国からの輸入は減る。しかし、すべての国に対して関税をかけると、すべての国からの輸入が減る(米国の貿易赤字は解消する)と思えるが、実際にはそうならない」
 なぜか? その理由は、先に示したとおりだ。米国の貿易赤字の総額を決めるのは、米国の借金(資本赤字)の額である。関税をいくら上げ下げしても、総額には影響しないのだ。
 関税は、赤字の配分を変えることはできる。たとえば、「中国からの貿易赤字を減らす」というふうに、貿易赤字における配分を変えることはできる。しかしながら、貿易赤字の総額を決めるのは、関税ではないのだ。関税をいくら上げ下げしても無意味である。

 「2国間で関税をかければ、その国からの輸入が減る。ならば、あらゆる国からの輸入に課税をかければ、米国の貿易赤字の総額は減るはずだ」
 とトランプは思った。しかし、それは成立しないのだ。そこでは、「合成の誤謬」という原理が働くからだ。

 ──

 以上のことを、漫画チックなイメージで示すと、こうなる。
  ・ ジャイアンは強い。どの同級生と戦っても、必ず勝つ。
  ・ まわりの同級生が結託して、一斉攻撃すると、ジャイアンは負ける。
  ・ 1戦ごとの部分(勝利)の総和は、全体結果(敗北)とは異なる。


 「どの相手と戦っても勝てる」ということは、「相手の全員が一斉に攻撃してきたときに勝てる」ということを意味しない。部分の総和は、全体に一致しない。それが「合成の誤謬」だ。

 これと同じことが関税にも成立する。個別の2国間で米国が一方的に関税をかければ、米国だけが有利になる。すべての国との間で米国が一方的に関税をかければ、米国だけが有利になるのではなく、かえって米国がひどく不利になる。(逆転だ。)
 ただし、この場合、「米国だけが損する」のではない。「世界中が損するが、最も損する最大の敗者が米国だ」というふうになる。このとき、たしかに米国は大損するが、同時に、世界もまた巻き添えを食うのである。(愚か者の巻き添えを食うのだから、いい迷惑だ。)

posted by 管理人 at 23:01 | Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>最も損する最大の敗者が米国だ
 そうなってほしいのですが多分違います。貿易品の中身が問題です。米国が輸入しているのは家庭用品や自動車であって、それらは我慢すれば長く使えるものです(米国製自動車は良く壊れますが)。一方日本が輸入しているのはエネルギーや食糧(飼料)です。なければ生きていけません。米国は食料とエネりg−は余っており、住宅はメンテすれば後100年は使えます。
 ただし、長い間膨大な浪費に慣れてきた米国人が我慢できるかどうかが問題です。あちらの国でSave energyというのは、1週間クリスマス休暇でフロリダに行くとき、セントラルヒーティングの設定を25度から18度くらいに下げることです。大学の建物では25度のままでした。
Posted by ひまなので at 2025年04月18日 10:41
> 日本が輸入しているのはエネルギーや食糧(飼料)です。

 それにはトランプ関税はかかりません。
 報復関税をかけるとしても、5〜10% ぐらいで十分。それで他国に購入先が変わる。米国は大損する。
 日本はどうか? 5〜10% の値上げになりそうだが、米国以外から買えば済む。むしろ円高で、かえって購入費が減る。

> なければ生きていけません。

 米国から輸入しなくても、他国からいくらでも輸入できます。
 別に日本は全世界を対象に関税をかけるわけじゃない。米国だけが対象だ。

Posted by 管理人 at 2025年04月18日 11:32
関税問題はスムーズに行った。日本が一番先に対応してもらえトランプ大統領に直々に会ってもらえた。赤沢大臣は嬉しくて仕方がないでしょう。
そして今日 (4.19) のニュース。
トランプ大統領はロシア・ウクライナ問題から手を引くと述べた。

私はいよいよ日本に戦争がやってくるのではないかと思います。
今週号の週刊現代では、台湾には「台湾のゼレンスキー」と呼ばれる男がいて、中国に喧嘩を売っています。まさにゼレンスキーです。
ゼレンスキーは日本でなくても台湾でいい。
台湾有事は日本の有事!日本の自衛隊が出る。そのために赤沢大臣(日本)とは今は揉めたくない。ウクライナは放っておけばロシアに負ける、だからどうでもいい!
いよいよトランプ大統領はアジアに顔を向けたのではないか?
日本ではこれから選挙。死神はそんなこと構っていないのではないか!
Posted by SM at 2025年04月19日 15:18
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