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トランプ大統領の方針は支離滅裂にも見える。朝令暮改のように、次々と方針を変更する。
・ メキシコ、カナダへの高率関税。
・ 北米貿易協定地域の関税免除の有無。
・ 自動車関税の特別な高率の有無。
・ スマホや半導体への高率課税の有無。
これらは次々と変更され、朝令暮改というありさまだ。ふつうの人には理解しがたく見える。
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だが、トランプ大統領の方針は、一つの原理で説明される。それは「ディール」だ。つまり、「ゲーム」(ポーカーゲームなど)をすることだ。この件は、前項で述べたとおり。再掲しよう。
ともあれ、トランプの政策決定の本質は、ポーカーゲーム(ディール)である。そこでは経済学的な正誤は重視されない。
人々は「経済政策は正誤によって決定される」と思っているから、トランプの方針転換を理解できない。しかしトランプの方針は、正誤ではなく、ポーカーゲーム(ディール)である。したがって、方針が変わるのは、急激な方針転換であると見えるが、実は最初からその結論をひっくり返すつもりだったのだ。1枚の方針を右から左へ変えるのではなく、もともと右と左の二つの矢印を用意しておいて、その選択を変えるだけのことなのだ。
「右の方針を取ります。絶対に変えません」
と告げてから、一挙に言葉を取り消して、
「やめました。左の方針を取ります」
というふうに君子豹変する。
これは要するに、二枚舌ということであり、嘘つきであるということだ。なぜか? ポーカーというのはそもそも、嘘つきゲームだからだ。上手に嘘をついてだました人が勝利して、嘘を信じてだまされた人が損をする。……そういうゲームなのだ。
そして、トランプは最初から最後まで、嘘つきゲームを楽しんでいるのだ。
普通の人は違う。むしろ、こう考える。
・ 正誤で物事を決める。
・ 正しい方針を取る。誤った方針を捨てる。
・ 嘘はつかない。
トランプは、こう考える。
・ 相手に損をさせることで、こちらが勝利できる。(ゼロサムゲーム)
・ 相手とのゲームで勝利することが最終目的である。
・ 嘘でだますのが勝利のコツだ。
この原理をきちんと理解することが必要だ。
ちなみに、日本政府はトランプに、「ウィンウィンになろう」と持ちかける。首相も官房長官もその方針だ。
→ トランプと日本 .4: Open ブログ
しかしこれは、トランプの基本方針をまったく理解できていない、というしかない。
トランプの基本方針は、簡単に言えば、次の原理だ。
・ このゲームはゼロサムゲームである。
・ 一方が損すれば、他方が得をする。
・ 米国が得をするには、相手に損をさせるしかない。
・ 現状では米国が一方的に損を被っている。
・ その証拠がある。米国の巨額の貿易赤字だ。
・ ゆえに、米国の損を解消するため、他国に損させるべきだ。
こういう理屈なのだから、石破首相みたいに「ウィンウィンになろう」と持ちかけても、一蹴されるに決まっている。
「日本は米国に対して巨額の貿易黒字があるだろ。それは日本が巨額の得をして、米国が巨額の損をしているということだ。これを是正する必要がある。そのためには米国が日本に大幅に損をさせる必要がある」
この言い分に、石破首相は言い返せないのだ。なぜなら、実際に日本は巨額の対米黒字を抱えているからだ。
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とはいえ、トランプの言い分は間違っている。では、どこがどう間違っているのか? それは、前々々項で示した通りだ。再掲しよう。
・ 貿易赤字は損失ではない。(損失だと思うのは勘違いだ。)
・ 貿易赤字の本質は、借金である。
・ 貿易赤字を減らすには、関税は見当違いだ。
・ 貿易赤字を減らすには、借金を減らせばいい。
( → 貿易赤字とは何か .4: Open ブログ )
これが真実だ。だからこれをトランプに教えればいい。
「貿易赤字は損失だ、と思っているが、それはあなたの勘違いだ。貿易赤字は損失ではない。借金だ。借金を減らすには、借金をやめればいい。そのためには、金利を下げて、ドル安にすればいい。そうすれば、貿易赤字が解消して、貿易黒字になる。ただしそれは、得をしたから金を得るのではなく、労働したから金を得るのである」
国家間の貿易では、金を盗んだり奪ったりしているわけではない。単に商品の売買をしているだけだ。そして、商品の売買で金を得るためには、商品を生産するための労働をすればいいのだ。労働が金をもたらすのだ。これが経済の原理である。
ところがトランプはそれを理解しない。貿易によって一方的に損得が発生すると思っている。日本が貿易黒字を出すのは日本が米国から金を奪っているからだ、と思い込む。たしかにそのとき米国は金を払っているのだが、同時に、米国は商品を得ている。その商品(手に入れたもの)のことをすっかり失念しているのだ。
「オレはおまえから商品を受け取るが、その金は払いたくない。オレがおまえに金を払ったのは、おまえが不当に金を奪ったからだ。オレが払った金を返せ」
こういう馬鹿げたジャイアニズムを唱えるのが、トランプだ。
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以上のことを、真実として、他国はトランプに教えればいい。そうすれば、トランプの勘違いを解きほぐすことができる。「貿易赤字は損失ではない」と納得させることができる。
しかしながら、現実には、そうはならない。なぜか? トランプ以外の人々もまた、トランプと同じ勘違いをしているからだ。「貿易赤字は損失である」とトランプが唱えたとき、「はいそうですね」と同意して、勘違いをいっしょに受け入れるからだ。
同病相憐れむ。馬鹿の感染者はともに馬鹿となる。ゆえに、馬鹿に真実を教えることができないでいるから、トランプの愚かさは是正されない。
ここまで見れば、問題の根源は何か、理解できるだろう。
それは、トランプが間違っていることではない。トランプが間違っているときに、他国の誰もがトランプの間違いを指摘できない(難点を示せない)でいることだ。つまり、トランプだけでなく、他国がいずれも間違いだらけであることだ。
間違いを指摘するには、どうすればいいか?
「貿易赤字は損失ではない」
そのひとことを、言えばいい。だが、誰もが言えない。猫に鈴を付ける ことができないように、誰もそのひとことを言えない。

そして、かわりに、「ウィンウィンが大事だ」などと、見当違いのことを言い出す。
だから世界は、トランプもろとも、いっしょに沈没するしかなのだ。同類の愚かさゆえに。
【 関連項目 】
「貿易赤字は損失ではない」
と言うためには、どうすればいいか?
「貿易赤字は損失ではなく借金である」
と示せばいい。そのためには、図で説明する必要がある。下記項目で示したとおり。
→ 貿易赤字とは何か .3: Open ブログ

こういう説明をすることが大切なのだが、日本政府はそれができない。だからトランプに攻撃されて撃沈されるしかないのだ。
重要な工業生産をすぐに米国に戻すことは不可能ですが、その方向にするためにある程度の高関税をかけ続けることが予想されます。20%を10年くらいでしょうか。アジア諸国は米国への輸出が減って不景気になります。それでためていた米国債を売ってしのごうとします。一度に売ると値が下がって困るので少しずつです。またドルも売られてドル安になります。これも少しずつ。代わりに金の値段が上がります。
米国はインフレになりますが失業者は減ると思います。つまり世界の労働コストが平準化に向かいます。ただどれでも米国はエネルギーと食料は豊富で住宅もよくて長持ちするので豊かさでは世界一が続きます。一番困るのはまず韓国とそれに次いで日本でしょう。どちらの国も人口減少で内需拡大は期待できず、輸出が減った分を補うことができません。中国は一帯一路政策を進めてきたことで輸出先の変更で何とかしのげるかもしれません。
まあこの程度のことは財務省や日銀の偉い人は分かっていると期待しますが、彼らが国民の側に立ってくれるかは大きな疑問です。