2025年04月13日

◆ トランプの方針転換

 トランプの相互関税は中止(延期)となった。この急激な方針転換は予想されたか?

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 トランプの相互関税は開始からわずか13時間後に、90日間の停止が決定された。これを見て、「意外だ」「予測不能だ」と思う人が多い。では、この急激な方針転換は予想されたか?

 実は、この方針転換は「予想通り」と言える。私の事前予想はこうだった。
 「相互関税は実際には施行されず、直前に回避されるだろう。それは、カナダ・メキシコへの高関税が直前に回避されたのと同様である」

 根拠はこうだ。
 メキシコやカナダへの高率関税は、3月に発動が予定されたが、直前になって、1カ月の延期が決定された。1カ月後には、実質的には骨抜きになるような形で、高率関税が大幅に免除されるようになった。結果的には、大山鳴動ネズミ一匹みたいになった。だから、これと同様に、4月9日の相互関税も直前に回避されるだろう(大幅に延期されるだろう)、と予想した。

 現実には、時期が少しズレた。「大幅に延期されるだろう」という予想は当たったが、時期は「直前」ではなく、4月9日午前0時1分(米国時間)から 13時間後となった。ほぼ半日である。その時間の分だけ、私の予想はハズレた。とはいえ、「大幅に延期されるだろう」という予想は当たったので、私の予想はおおむね「予想通り」だったと言える。

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 上の説明については、文句を言う人もいるだろう。
 「そんなの、後出しジャンケンじゃん。事前に言わなかったのでは、威張れないぞ」と。

 だが、それでいいのだ。私は別に、威張るつもりはない。私は予想業者じゃないのだ。予想して金をもらっているわけじゃない。予想を書いても、1円の得にもならない。私の予想を聞いて、誰かが大儲けしたとしても、私には1円も入らない。だったら、予想を書くだけ無駄である。
 それどころか、予想が外れた場合には、私に文句が殺到する可能性がある。「おまえの予想を聞いて、株の取引をしたら、数千万円の損が発生した。どうしてくれる。損失を賠償しろ」と文句を言ってくる人もいそうだ。
 つまり、予想が当たっても1円の得にもならないが、予想が外れたら莫大なトラブルが発生する可能性がある。だったら、余計なことは口に出さないのが、利口というものだ。そして、予想については口に出さずに、自分でこっそり証券取引をする。……大事な話は、他人には語らないものなのである。当り前でしょ。

 ──

 ただし、である。トランプの方針転換については、予想できるだけの根拠がある。次のことだ。
 「トランプの政策の本質は、ポーカーゲーム(ディール)である。そこでは経済学的な正誤は重視されない」

 これは普通の政策決定とはまったく異なる。
 普通の政策決定は、正誤によって決まる。正しい政策が選ばれ、誤った政策は選ばれない。何が正しくて何が誤っているかは、役人や学者が合意して決定する。こうして合理的な政策が決定される。
 トランプ政権は異なる。まずは有能な官僚がすべて解雇されたり権限を奪われたりする。かわりに無能なトランプ主義者が権力を握る。その無能な人間が勝手に暴走して政策を決定する。そこで決まる政策は、トランプのそのときそのときの思いつきだ。つまり、「ぼくのかんがえたさいきょうの政策」だ。そこで、トランプが「関税こそが最強の政策だ」と主張すると、馬鹿な追従者が「そうだ、そうだ」と決めて、その政策が決定されてしまうのだ。ここでは、まともな学者や官僚が口出しすることはできないのだ。だから誤りを是正することもできない。

 一方で、トランプ大統領は、すべてをポーカーゲーム(ディール)のつもりで交渉している。その本質は、こうだ。
 「ブラフで高圧的に方針を押しつけてから、相手の譲歩を引き出して、しかる後に、こちらに有利な状況で妥結する」
 
 具体的に言おう。トランプ大統領は世界各国に超高率の関税を課する方針を出したが、この方針を実行するつもりは、最初からない。すべてはブラフである。いったんブラフで高圧的にふるまってから、相手の譲歩を引き出して、そこそこ合理的な範囲で妥結しようとする。
 すると、相手はその方針に納得する。
 「相互関税で 24% の高率関税が課されると思ったら、基礎関税 10% で済むのか。良かった。ほっとした。だから基礎関税 10%を受け入れよう。ああ、よかった」
 というふうに。
 これでは、トランプの思う壺である。
 ブラフを受けて、ビビって、一方的に譲歩をさせられながら、喜んでいる。中損しながら、(大損ではなかったといって)喜んでいる。……馬鹿丸出しというべきか。

 ──

 ともあれ、トランプの政策決定の本質は、ポーカーゲーム(ディール)である。そこでは経済学的な正誤は重視されない。
 人々は「経済政策は正誤によって決定される」と思っているから、トランプの方針転換を理解できない。しかしトランプの方針は、正誤ではなく、ポーカーゲーム(ディール)である。したがって、方針が変わるのは、急激な方針転換であると見えるが、実は最初からその結論をひっくり返すつもりだったのだ。1枚の方針を右から左へ変えるのではなく、もともと右と左の二つの矢印を用意しておいて、その選択を変えるだけのことなのだ。
 「右の方針を取ります。絶対に変えません」
 と告げてから、一挙に言葉を取り消して、
 「やめました。左の方針を取ります」
 というふうに君子豹変する。

 これは要するに、二枚舌ということであり、嘘つきであるということだ。なぜか? ポーカーというのはそもそも、嘘つきゲームだからだ。上手に嘘をついてだました人が勝利して、嘘を信じてだまされた人が損をする。……そういうゲームなのだ。
 そして、トランプは最初から最後まで、嘘つきゲームを楽しんでいるのだ。

 普通の人は違う。むしろ、こう考える。
  ・ 正誤で物事を決める。
  ・ 正しい方針を取る。誤った方針を捨てる。
  ・ 嘘はつかない。


 トランプは、こう考える。
  ・ 相手に損をさせることで、こちらが勝利できる。(ゼロサムゲーム)
  ・ 相手とのゲームで勝利することが最終目的である。
  ・ 嘘でだますのが勝利のコツだ。


 こういう基本原理を理解しておけば、トランプの行動様式は理解できるし、予想もできるのだ。
 一方、「トランプは合理的な判断をする知性的で友好的な人だ」と思うと、さんざん振り回されたあげく、大損することになるだろう。それが現状の世界各国だ。


 ※ トランプという人間をひとことで言うなら、「ペテン師」だ。こういう人間を信じる醇朴な人は、信じたすえに、だまされる。それが日本政府の方針だ。首相も愚かだが、官僚も愚かだ。外交の交渉の能力が根本的に欠落している。根回しの能力ばかりが重視されて、交渉の能力が重視されない。だから交渉力がゼロとなり、ディールでは完全敗北するのだ。(その典型が、日米貿易協定だ。前出。)




 [ 付記 ]
 トランプに対抗するには、相手側が結束して対抗すればいい。たとえば「報復関税同盟」だ。
 とはいえ、トランプもそれがわかっている。そうなると、自分が敗北する。それは困る。
 そこで、相手側の結束を乱そうとする。そのために、裏切り者を引っ張り出す。裏切り者を優遇する。すると、裏切り者は「優遇された」と喜ぶ。結束を乱して、自分だけが利益を得ようとして、かえって全員を敗北させてしまう。
 こういう裏切り者は、愚かすぎる。それが日本という国だ。お調子者だね。

posted by 管理人 at 23:58 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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