2025年04月13日

◆ 貿易赤字とは何か .5

 ( 前項 の続き )
 さらに補足的な話題を取り上げよう。

 ──

 FRB のせい


 前項の冒頭では、「貿易赤字が生じるのは借金のせいだ」と記した。ではなぜ借金が生じるかというと、高金利のせいだ。では誰が高金利を決めているかというと、FRB だ。してみると、米国の貿易赤字の原因は FRB である、と言える。

 これは一見、普通の経済学には逆行する。なぜなら、普通の経済学ではこう考えるからだ。
 「 中央銀行は物価の番人である。物価上昇が起こったときには、金利を引き上げて、物価上昇を阻止して、国民生活を守る」
 なるほど。これはもっともだ。しかし、物事には必ず裏表がある。良い面もあれば、悪い面もある。金利を上げることは、単に「国民生活を守る」という良い面があるだけではない。必ず、それなりの副作用もある。(さもなくば、金利をどんどん引き上げて、国民生活を向上することができるはずだが、そんなことはありえない。)

 では、裏の面(よくない面)とは何か? こうだ。
 「物価が急に上昇したときには、金利を引き上げることで、通貨価値を上昇させて、輸入品の価格を引き下げることができる。これによって物価上昇を抑止できる。しかしそのとき、貿易赤字が発生して、国全体では借金をするようになる。これは要するに、借金によって生活を向上させるということであり、サラ金生活をするということだ」

 普通の経済学は、そのことに気づいていない。「金利を上げれば、物価上昇が抑止できて、国民生活は守られる」と美点を示す。しかし、金利を上げたからといって、天からお金が降ってくるわけではない。天から富が降ってくるわけでもない。ではなぜ、富を得られるか? 外国から借金するからだ。国民生活が守られるのは、外国から借金することで生活が一時的に向上するだけのことなのだ。その背後では、借金がどんどん積み重なっているのだ。それがつまり、貿易赤字の本質である。
 「貿易赤字は損失だ」と主張して、トランプは大騒ぎした。それは正しくない。しかし、警鐘を鳴らしているという点では、トランプは間違っていない。ただし、警鐘の鳴らし方を間違えているのだ。
 「貿易赤字は損失だ」というのは正しくない。「貿易赤字は借金だ」というのが正しい。その意味で、トランプは間違っているし、トランプ批判者もまた間違っている。「貿易赤字は問題ない」ということはないのだ。「貿易赤字は借金だから問題がある」というのが正しい。
 その意味で、金利を上げて国民生活を守っている FRB の方針は、まったく間違っていると言える。なぜか? ロシアのウクライナ侵攻以後、世界では物価が上昇しており、どの国も物価上昇で悩んでいる。日本も物価上昇で悩んでいる。こういうときに米国だけが「金利を引き上げれば物価上昇は解決する」という方針を取るのは、正しくないのだ。それは一時的に物価上昇を抑止できるが、その本質はただの借金なのである。借金で生活苦を回避するのは、正しいことではない。
 では、どうするべきか? 借金をやめるためには、生活苦を甘受すればいい。そのためには、金利を下げて、物価上昇を受け入れればいい。ここでは、「物価上昇を避けるために金利を上げる」という伝統的な金融政策は間違っているのだ。トランプを批判する伝統的な経済政策はすべて間違っているのだ。むしろ、物価上昇を受け入れて、生活苦を受け入れて、ドル安にするべきだったのだ。そうすれば、人々の生活は苦しくなるが、かわりにドル安の下で生産活動が活発化する。そうして貿易赤字は解消して、経済は安定する。……これが正しい政策だった。

 現実には、そういう「正しい政策」は取られなかった。かわりに「生活苦を避けるために金利を引き上げる」という伝統的な政策が取られた。そのせいでドル高となり、過剰な貿易赤字と借金 が生じた。それを見てトランプが「巨額の貿易赤字は巨額の損失だ」と錯覚したあげく、とんでもない暴走政策(高率関税)という方策を取った。
 これが、今回の問題の本質である。

 要するに、FRB の愚策(高金利による借金でサラ金生活)という方針が根源的に誤りであり、その結果としての貿易赤字をトランプが誤認した(借金を損失だと勘違いした)のが関税政策に結びついた。
 FRB の愚策とトランプの誤認。この双方の共同によって、世界の大混乱が生じた、と見なしていいだろう。

posted by 管理人 at 23:10 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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