補足的に細かな話題を取り上げよう。
──
結論
貿易赤字とは何かについては、前項までで説明した。トランプがどう勘違いしているかも説明した。また、貿易赤字を減らすための正しい対策も説明した。
簡単に言えば、こうだ。
・ 貿易赤字は損失ではない。(損失だと思うのは勘違いだ。)
・ 貿易赤字の本質は、借金である。
・ 貿易赤字を減らすには、関税は見当違いだ。
・ 貿易赤字を減らすには、借金を減らせばいい。
簡単に言えば、貿易赤字を減らすための正解は「ドル安」である。それによって、いっぱい働いて、倹約する。このことで、借金を減らすことができる。
ところが現実には、米国はそうしなかった。
・ 為政者は、倹約とは逆の浪費を選んだ。
・ 民主党は福祉で。共和党は減税で。いずれも財政赤字を選んだ。
・ FRB は、物価上昇抑止の名目で、やはり浪費(ドル高)を選んだ。
以上はすべて正しい方針の逆だった。
そのことから、正しい方針もわかる。
・ 財政赤字を縮小する。
・ 福祉を削減し、税は増税する。
・ 金利を下げて、物価上昇を容認して、国民生活を苦しくする。
・ 人々は生活苦で困る。労働時間も増える。しかし失業は減る。
以上のようにすれば、「米国の産業が振興されて、貿易黒字が増える」というふうになる。その意味で、トランプの狙った目的は達成される。
ただしそのとき、国民生活は苦しくなる。企業は繁栄して、貿易黒字も増えるが、そのかわり国民は「働いても働いても生活は苦しい」というふうになる。まるで、今の日本だ。
どちらが好ましいのかは、何とも言えない。
※ トランプの狙っていることが好ましい状況とは言えないことに注意。
──
さて。結論部の話は以上だが、これを含めて、補足的な話題をいくつか示そう。
2国間で見ない
貿易収支というものは、2国間で見るものではない。
(1) 品目別
品目別でも、釣り合いが取れる必要はない。
たとえば、「日本から米国への車の輸出は多いが、米国から日本への輸出は少ないから、けしからん」というような理屈は成立しない。そのような「双方でバランスを取るべきだ」という発想は、国際分業そのものを否定しており、ナンセンスだ。
そもそも米国から日本への一方的な輸入も多い。
・ 戦闘機などの武器。
・ 民間航空機
・ 医薬品
・ 石油や LNG
・ 小麦や牛肉などの農産物
(2) 総額で
品目別の差を除いても、日本の対米貿易収支は、日本の大幅な黒字となる。しかし、だからといって、「日米で貿易収支を均衡させるべきだ」とは言えない。
日本を見よう。日本は石油がないので、石油を大量に輸入しなくてはならないが、その金は、他国に輸出することで稼ぐほかないからだ。かといって、産油国に大量に輸出することもできないから、産油国以外に輸出するしかない。
米国を見よう。米国は同様に、日本には赤字を出してもいいが、かわりに他の諸外国に対して黒字を稼げばいい。たとえば、石油製品を大量に輸出して、黒字を稼げばいい。(実際にそうしている。)
ただし米国は、それでも貿易収支の全体で、貿易赤字が発生する。この問題はどう解決するべきか? その件は、先に述べたとおり。個別の2国間で貿易赤字を縮小する(関税をかける)のでなく、米国全体貿易収支で貿易赤字を減らせばいい。そのためには、借金を減らせばいい。
ここでは、個別に調整するのでなく総額で調整する、ということが大切だ。このことが経済学的に正しい対処となる。個別の2国間の関税で調整しようというトランプ流の方式は、根本的に間違っているのだ。
※ このことはとても大切だ。このことを指摘しないマスコミはおかしいね。
貿易収支と経常収支
これまでは主として貿易赤字を話題にしてきた。しかし、正確には、貿易収支でなく経常収支というべきだ。経常収支には貿易収支以外のものも含まれる。
Feloの回答
サービス収支:旅行、金融、保険などのサービス取引による収支。
第一次所得収支:外国からの投資収益や労働者の送金など、対外金融債権・債務から生じる収支。
第二次所得収支:無償資金援助や寄付など、対価を伴わない資産の移転に関する収支。
本項ではこれまで「貿易赤字」という言葉を用いていたが、より正確には、「経常赤字」というふうに解釈するべきだろう。(ただしその本質が貿易赤字であるという点では同様である。)
トランプ関税の特徴
トランプ関税は、普通の関税と大きく異なる点がある。国別に関税率を設定する、ということだ。
これは理不尽だ。通常はどの国に対しても同一の関税率。相手国によって関税率を変えることはない。
一方で、通常は品目別に関税率を変えるのだが、トランプ関税は品目別の差がない。最初は自動車だけ 25%という高関税にする、と言っていたが、その後、「相互関税 24% を自動車には免除する」という方針にしたので、実質的には「自動車だけの関税」はなくなったも同然になった。(1%だけになった。)
この意味では、通常の関税とは制度設計が全く異なる、と言える。
※ 通常の関税が品目別なのは、特定の産業を保護するため。たとえば日本では米や小麦の農家を保護したいので、これらの品目だけにやたらと高率の関税率を設定する。一方、トランプ関税にはその狙いが乏しい。特定の産業を振興する意図は少ない。せいぜい、当初は自動車産業を保護しようとしたが、そのくらいだけだ。しかし、自動車産業はことさら保護を必要とする状況でもないので、自動車だけに高率の関税をかけるというのは根拠が乏しい。
※ トランプの方針転換についての話は、翌日分で。
たとえばコンピューターの多くは中国製です。もし中国がその気になれば2035年1月1日0時にに一斉にコンピューターが動かなくなり、米国社会を凍結させることができます。アジア人を信用できないトランプには耐えがたい不安だと思います。少なくとも国防に少しでも関係する工業製品は米国内で作るべきだという考えは理解できます。
でも米国の理工系人材は縮小し、優秀なのは中国からの留学生だけのようです。いくら関税をかけてもiPhoneを米国で作ることはこの先10年以上は無理です。理工系学生を増やし優遇するところから始めなければならないと思います。
日本もほぼ同じ道を行っています。