2025年04月10日

◆ 貿易赤字とは何か .3

 ( 前回 の続き )
 貿易赤字とは何かを本質的に示す。  【 重要 】

 ──

 損得でなく何か?


 前項で述べたように、貿易赤字や貿易黒字は、損得ではない。赤字が出たからといって損するわけではなく、黒字が出たからといって得するわけではない。ただの売買がなされるだけであるから、損も得もない。
 では、損得でないとしたら、何があるのか? 貿易収支における赤字とは何か? その件は、先に示したとおりで、次の図で示せる。


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 つまり、貿易収支における黒字・赤字は、貯蓄・借金を意味する。この点は、家計の場合と同様だ。

  支出 < 収入 

 となるときには、差額が貯金となる。

  支出 > 収入 

 となるときには、差額が借金となる。

 つまり、貿易収支の黒字・赤字は、損得でなく、貯蓄・借金を意味するのだ。

 誰が貸す? 


 そこで問題だ。貯蓄・借金があるとすれば、その金を貸すのは誰か? 
 現実的には、直接的に貸し借りするのではなく、金融市場を経由して貸し借りをする。
 だが、大きな流れで帳尻を見ると、次のようになる。
  ・ 貿易黒字国 → 貯蓄が生じる → 金を貸す
  ・ 貿易赤字国 → 借金が生じる → 金を借りる

 
 貿易黒字国が貸して、貿易赤字国が借りる。貿易黒字の中国が貸して、貿易赤字の米国が借りる。
 ここで、貸し借りは米国国債の形でなされる。中国が米国国債を購入することで、米国に金を貸す。
 これが大局的な構造だ。

 対策としての関税


 結局、中国が構造的に金を貸して、米国が構造的に金を借りる。現状はそうなっている。「これはまずい」と思ったのがトランプだ。
 そこで彼は対策を取ることにした。そこで、
 「米国の貿易赤字を解決するためには、貿易黒字国を対象に関税をかけよう。そうすれば、中国の貿易黒字は減るし、米国の貿易赤字は減る。おまけに米国政府の関税収入も増える。これで万事解決」
 と思ったわけだ。これはまあ、素人的な発想だ。
 現実にはそういう甘い発想は成立しない。米国の消費者が莫大な関税負担を強いられるので、経済は一挙に不況に落ち込む。さらには、国際分業が否定されるので、米国全体の能率が低下してしまう。
 つまり、素人の発想は失敗するしかない。……これが現状だ。

 対策としての正解


 では、正しい正解は? その原理は、先に述べた。
 「貿易赤字が発生するのは、国全体で借金をするからだ。だから、借金をやめればいい。そのためには、金利を下げればいい。金利を下げれば、他国は米国国債を買わなくなるので、他国からの資金流入が減る。その分、貿易赤字は縮小する。このとき、ドルを買う需要が減るので、ドル安になり、自然に貿易赤字が減る。(輸出が増えて、輸入が減るからだ)」
  → 貿易赤字 ≒ 資本黒字: Open ブログ

 現状は高金利の借金生活


 正しい正解と比べると、現状はこうなっている。
 「やたらと高い金利にして、外国から金を借りて、その借りた金で、日々に楽しい生活を送っている。しかしその間に、借金はどんどん貯まっているし、高い金利で払う利息も貯まっている。これでは借金生活だ」

 バブル時代には、サラ金というものがあった。年利 40% ぐらいの高利金利で金を貸して、サラ金業者が莫大な金を貸して、大幅な利益を上げていた。全国の駅前には「武富士」の看板が立ったほどだ。その一方で、借金を払えなくなった人には、違法な暴力的な取り立てを行ったので、社会問題になった。サラ金規制法案も提案された。
 しかし、サラ金業界は自民党に莫大な献金をしていたので、自民党はサラ金規制法案が出ても、徹底的に骨抜きにして、法案を無効化した。かくて、サラ金業者は規制されないまま、好き勝手をしていた。ひどい時代だった。

 さて。これと似た状態にあるのが、米国だ。世界でもトップクラスの高金利を払って、世界中から金を借りている。そして莫大な借金を積み上げて、高い金利を払っている。……これは、かつての日本の「サラ金生活」とそっくりだ。

 こういう現状は、解決されるべきなのである。
 なるほど、現状への対策として、トランプの「関税」という方針は、見当違いの誤った方針だった。暴走した自動車に対して、ブレーキをかけるべきときに、クラッチを切るとか、ウォッシャーをかけるとかのような、見当違いの方針だった。
 とはいえ、暴走するだけの現状を放置するという「無為無策」もまた、状況を悪化させるのである。少なくとも「アクセルの踏み方を弱める」(高金利を下げる)というぐらいの対策を取るべきなのだが、そうしないので、米国の赤字は積み重なるばかりだ。


→ 米国 貿易赤字
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→ 米国 財政赤字
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 トランプは間違っていたが、しかるに、トランプを批判する人々もまた間違っていたのである。誰もが間違っていて、正解を出す人は一人もいなかったのだ。だからこそ、米国には莫大な財政赤字が発生し、莫大な借金が発生し、そのせいで、莫大な貿易赤字が発生したのである。
 それを見て、トランプは「貿易赤字は不公正な貿易のせいだ」と勘違いしたのだ。(本当は借金のせいなのに。)

 ※ サラ金で破綻する人は、サラ金で金を借りるから、無駄な出費をして、人生が破綻する。サラ金で金を借りなければ、無駄な出費もしなくなるのだが。……そこを理解できない人が、「安くて良い商品を売る店が悪い!」と思い込んで、「安くて良い商品を売る店を罰すればいい!」と即断する。それが、トランプの関税政策だ。




 ※ トランプは相互関税の実施を中止した。90日間の延期という形で。……これはまあ、私の予想通り。この件については、翌日の項目で述べる。

posted by 管理人 at 23:40 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トランプは民間の通貨発行銀行であるFRBから借金をしている現状を変えるべく関税戦争と称して国庫に借金以外のお金を集めるのが目的だと馬渕睦夫さんという方が解説されていました。FRBに頼らないということです。
Posted by masu at 2025年04月12日 09:12
 トランプにすごい経済的知識があって、すごく頭のいい経済政策をやっている……と解釈するのは、買いかぶり。
 愚か者の愚策を見て、「彼は天才的な知恵者であり、その真意はこうである」と解釈するのは、ありもしない幻影を勝手に見ていることになる。深読みのしすぎという。
Posted by 管理人 at 2025年04月12日 10:22
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