貿易赤字とは何かを本質的に示す。 【 重要 】
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損得でなく何か?
前項で述べたように、貿易赤字や貿易黒字は、損得ではない。赤字が出たからといって損するわけではなく、黒字が出たからといって得するわけではない。ただの売買がなされるだけであるから、損も得もない。
では、損得でないとしたら、何があるのか? 貿易収支における赤字とは何か? その件は、先に示したとおりで、次の図で示せる。

つまり、貿易収支における黒字・赤字は、貯蓄・借金を意味する。この点は、家計の場合と同様だ。
支出 < 収入
となるときには、差額が貯金となる。
支出 > 収入
となるときには、差額が借金となる。
つまり、貿易収支の黒字・赤字は、損得でなく、貯蓄・借金を意味するのだ。
誰が貸す?
そこで問題だ。貯蓄・借金があるとすれば、その金を貸すのは誰か?
現実的には、直接的に貸し借りするのではなく、金融市場を経由して貸し借りをする。
だが、大きな流れで帳尻を見ると、次のようになる。
・ 貿易黒字国 → 貯蓄が生じる → 金を貸す
・ 貿易赤字国 → 借金が生じる → 金を借りる
貿易黒字国が貸して、貿易赤字国が借りる。貿易黒字の中国が貸して、貿易赤字の米国が借りる。
ここで、貸し借りは米国国債の形でなされる。中国が米国国債を購入することで、米国に金を貸す。
これが大局的な構造だ。
対策としての関税
結局、中国が構造的に金を貸して、米国が構造的に金を借りる。現状はそうなっている。「これはまずい」と思ったのがトランプだ。
そこで彼は対策を取ることにした。そこで、
「米国の貿易赤字を解決するためには、貿易黒字国を対象に関税をかけよう。そうすれば、中国の貿易黒字は減るし、米国の貿易赤字は減る。おまけに米国政府の関税収入も増える。これで万事解決」
と思ったわけだ。これはまあ、素人的な発想だ。
現実にはそういう甘い発想は成立しない。米国の消費者が莫大な関税負担を強いられるので、経済は一挙に不況に落ち込む。さらには、国際分業が否定されるので、米国全体の能率が低下してしまう。
つまり、素人の発想は失敗するしかない。……これが現状だ。
対策としての正解
では、正しい正解は? その原理は、先に述べた。
「貿易赤字が発生するのは、国全体で借金をするからだ。だから、借金をやめればいい。そのためには、金利を下げればいい。金利を下げれば、他国は米国国債を買わなくなるので、他国からの資金流入が減る。その分、貿易赤字は縮小する。このとき、ドルを買う需要が減るので、ドル安になり、自然に貿易赤字が減る。(輸出が増えて、輸入が減るからだ)」
→ 貿易赤字 ≒ 資本黒字: Open ブログ
現状は高金利の借金生活
正しい正解と比べると、現状はこうなっている。
「やたらと高い金利にして、外国から金を借りて、その借りた金で、日々に楽しい生活を送っている。しかしその間に、借金はどんどん貯まっているし、高い金利で払う利息も貯まっている。これでは借金生活だ」
バブル時代には、サラ金というものがあった。年利 40% ぐらいの高利金利で金を貸して、サラ金業者が莫大な金を貸して、大幅な利益を上げていた。全国の駅前には「武富士」の看板が立ったほどだ。その一方で、借金を払えなくなった人には、違法な暴力的な取り立てを行ったので、社会問題になった。サラ金規制法案も提案された。
しかし、サラ金業界は自民党に莫大な献金をしていたので、自民党はサラ金規制法案が出ても、徹底的に骨抜きにして、法案を無効化した。かくて、サラ金業者は規制されないまま、好き勝手をしていた。ひどい時代だった。
さて。これと似た状態にあるのが、米国だ。世界でもトップクラスの高金利を払って、世界中から金を借りている。そして莫大な借金を積み上げて、高い金利を払っている。……これは、かつての日本の「サラ金生活」とそっくりだ。
こういう現状は、解決されるべきなのである。
なるほど、現状への対策として、トランプの「関税」という方針は、見当違いの誤った方針だった。暴走した自動車に対して、ブレーキをかけるべきときに、クラッチを切るとか、ウォッシャーをかけるとかのような、見当違いの方針だった。
とはいえ、暴走するだけの現状を放置するという「無為無策」もまた、状況を悪化させるのである。少なくとも「アクセルの踏み方を弱める」(高金利を下げる)というぐらいの対策を取るべきなのだが、そうしないので、米国の赤字は積み重なるばかりだ。
→ 米国 貿易赤字

→ 米国 財政赤字

トランプは間違っていたが、しかるに、トランプを批判する人々もまた間違っていたのである。誰もが間違っていて、正解を出す人は一人もいなかったのだ。だからこそ、米国には莫大な財政赤字が発生し、莫大な借金が発生し、そのせいで、莫大な貿易赤字が発生したのである。
それを見て、トランプは「貿易赤字は不公正な貿易のせいだ」と勘違いしたのだ。(本当は借金のせいなのに。)
※ サラ金で破綻する人は、サラ金で金を借りるから、無駄な出費をして、人生が破綻する。サラ金で金を借りなければ、無駄な出費もしなくなるのだが。……そこを理解できない人が、「安くて良い商品を売る店が悪い!」と思い込んで、「安くて良い商品を売る店を罰すればいい!」と即断する。それが、トランプの関税政策だ。
※ トランプは相互関税の実施を中止した。90日間の延期という形で。……これはまあ、私の予想通り。この件については、翌日の項目で述べる。
愚か者の愚策を見て、「彼は天才的な知恵者であり、その真意はこうである」と解釈するのは、ありもしない幻影を勝手に見ていることになる。深読みのしすぎという。