2025年04月07日

◆ トランプの勘違いの本質

 相互関税の問題の本質はどこにあるか? それは、貿易赤字というものを根本的に勘違いしていることにある。

 ──

 トランプの解釈


 トランプの解釈では、貿易赤字とは外国が富を奪われること(つまり損失)である。

質問:「トランプ大統領の解釈では、貿易赤字は何が悪いのか?」

 これに対するAIの回答は次の通り。

Felo の回答
 トランプ氏は、貿易赤字を国家の財政状況における「損失」と捉えています。彼の理論によれば、貿易赤字は他国に対して「富が流出している」状態を示し、これがアメリカの雇用や産業に悪影響を及ぼすと考えています。
 

Perplexity の回答
 トランプ氏は、貿易赤字を「外国への富の移転」と捉え、アメリカが他国に搾取されている証拠と考えていました。
 貿易赤字がアメリカ国内の製造業や雇用を損なっていると主張し、これを是正するために関税政策を強く推進しました


ChatGPT の回答
 トランプ氏は、アメリカがモノを輸入してばかりで輸出が少ない状態(=貿易赤字)が続くと、「外国にお金を払っているだけ」で、アメリカの富が海外に流出していると考えていました。


 重商主義の発想


 トランプの発想は、必ずしもキテレツというわけではない。人類がいまだに経済学というものを知らなかった時代(アダム・スミス以前)には、トランプ流の発想が主流だった。それを「重商主義」という。

ChatGPT の回答
 重商主義(Mercantilism)は、16〜18世紀のヨーロッパ各国で主流だった経済思想で、主に以下のような主張をしていました:
  ・ 国の富=金銀の保有量
  ・ 輸出を増やして、輸入を減らす(貿易黒字が正義)
  ・ 国家が経済を管理・統制して、富を国内にため込む
  ・ 植民地から資源を吸い上げるのもOK

 上のことからわかるように、トランプの発想は重商主義の発想そのものである。そして、それを批判したのが、アダム・スミスだった。


AdamSmith.jpg
アダム・スミス


 歴史的に言おう。英国は中国との交易で、大量の茶を輸入して、かわりに銀を払った。そのせいで、英国は銀の保有残高が急減していった。それを見て、英国は大騒ぎした。
 「国富である銀が急減している! これでは国の破滅だ! 何とかしなくては!」
 そう思ったあげく、英国は中国に大量の阿片を輸出して、銀を回収しようとした。これを見た中国は阿片の輸入を禁止した。こうなると、英国は銀の回収ができなくなる。困った。かくて、英国は中国を侵略した。それを見て、列強も中国を侵略した。日本は「わが国も列強に侵略される!」と大騒ぎしたあげく、明治維新を実行して、開国したあと、富国強兵を経て、日本もまた中国を侵略し始めた。……こういう侵略争いのはてに、第二次世界大戦が勃発して、さらには今では中国が世界を脅かすに至っている。
 こういう馬鹿げたことの発端は、英国が中国に阿片を売りつけたことだが、その理由は、重商主義だったのである。
 なぜか? 茶と銀の交易は、ただの貿易であって、何も驚くことのない平凡な交換である。銀を出すのがイヤなら、かわりに別の商品を出すのでもいい。なのに英国はそう思わなかった。かわりに、こう思った。
 「国富である銀が急減している! これでは国の破滅だ! 何とかしなくては!」
 これはただの勘違いだ、ということを指摘したのが、アダム・スミスだった。

 重商主義の否定


 「重商主義はいかに否定されたか」ということを、AIに質問する。

Feloの回答
 アダム・スミスは1776年に発表した『国富論』において、重商主義の基本的な前提を否定しました。彼は、国家の富は単に金や銀の蓄積によって測られるべきではなく、土地、家屋、消費財などの実体的な資産によって評価されるべきだと主張しました。スミスは、貿易は双方向の利益をもたらすものであり、輸出だけを重視する重商主義は経済の実態を誤解していると指摘しました。
 重商主義は、国家の富を金や銀の蓄積によって測るという誤った前提に基づいており、アダム・スミスをはじめとする経済学者たちによってその理論的基盤が否定されました。


Perplexity の回答
 アダム・スミスは『国富論』(1776年)の中で、重商主義の基本的な考え方を「おかしい」と指摘しました。彼は市場での自発的な交換が双方に利益をもたらすことを強調し、保護貿易よりも自由貿易が社会全体の豊かさを増大させると主張しました。スミスは、得意な分野で分業し、それぞれが得意な商品を交換することで効率的な経済活動が可能になると説きました。この考え方は、国内だけでなく国際間でも同様に適用されるべきだとしました。
 デイヴィッド・ヒュームなどの思想家は、「富とは貨幣(金銀)そのものではない」という点を指摘し、貨幣は単なる交換手段であり価値の尺度に過ぎないと批判しました。彼らは、重商主義が貿易黒字や金銀の蓄積に固執することが非効率であると論じました。


ChatGPT の回答
 アダム・スミスの『国富論』(1776)による理論的批判。
スミスは、重商主義が「金銀を国に貯めこめば豊かになる」という発想に固執していたことを批判。
富の本質は「労働を通じた生産力の向上」にあり、貨幣(金銀)はあくまで交換の手段にすぎないとした。
自由貿易によって各国が得意な分野で生産すれば、全体の富は増える → 貿易はゼロサムではなく、**プラスサム(win-win)** だと主張。

 いずれも常識的な経済知識を示している。このくらいの基礎知識は理解してほしいものだ。ところが、トランプはそれを理解できない。すでに捨てられた重商主義の発想に染まっている。

 貿易収支の意味


 AIの話は教科書的だが、もっとわかりやすくするために、私が解説しよう。

 貿易とは、物々交換のことではなく、物を売り買いすることだ。物を買うときには、物を得て、金を渡す。このとき、金を渡すことで、こちらの金は減る。しかし物を得るのだから、損はしない。金は減っても、物が増えるから、損得はないのだ。
 これが商品売買の原則である。

 ところが、重商主義は、これを理解できない。かわりに、こう考える。
 「手持ちの銀が減っている! 富が減っている! 大変だあ!」
 このとき、手持ちの銀は減っていても、茶は増えているのだから、損得はない。単に買物をしただけだ。ところが、英国は勘違いして、こう思う。
 「銀が減っているので、富が減っている。これは大損だ!」
 いやいや。買物をすれば手持ちの金が減るのは当たり前でしょう。金は減るが物は増える。それが買物というものだ。なのに、重商主義はそれを理解できない。勝手に勘違いする。

 トランプも同様だ。トランプは貿易を理解できない。買物を理解できない。かわりに、こう考える。
 「物を買って、金を払うと、貿易赤字が発生する。赤字が出るということは、米国が損をしているということだ!」
 いやいや。そうじゃないでしょう。買物をすれば、手持ちの金は減るが、かわりに物を得る。だから、損得はない。このとき、減った金のことばかりに着目して、増えた物(買った物)のことをすっかり忘れているのが、トランプだ。(ボケているね。)

 ──

 モデル的に示そう。貿易収支というのは、家計の収支に似ている。家計の収支というと、たとえば、大学生の例で言うと、こうなる。

 《 収入 》
  ・ 仕送り 10万円
  ・ バイト 5万円
  ・ ローン 5万円

 《 支出 》
  ・ 各種計 20万円

 収入は、仕送りとバイトで 15万円があるが、それでは足りないので、学生ローンで毎月 5万円を借りる。毎月 5万円の赤字だ。その赤字が積もって、大学卒業時には4年分で 240万円プラス利子という借金が残る。
 というわけで、大学生には多額の赤字が残ることになる。では、この大学生は、その多額の金を損したのだろうか? いや、損していない。金を払ったが、その分、大学教育というサービスを得たからだ。
 ここでは、何も損してはいないのだ。単に大学教育というサービスを買い物しただけである。金を失ったが、その分、別の利得を得たからだ。

 だが、トランプならば、これを誤解するだろう。
 「大学生は赤字を出して金を失った。これは大学が金を奪ったことになる。大学生は金を失ったので大損したことになるし、大学は学生から金をいっぱい得たので不当に利得を得たことになる」
 いやいや。そうではないでしょう。大学はちゃんと大学教育というサービスを提供したのだから、ここでは単にサービスの販売があっただけだ。サービスの売り買いでは、双方が売り買いに合意しているのであるから、何も不当なことはないのだ。
 同様のことは、食品を買っても、車を買っても、当てはまる。金を払うかわりに、物を得る。金は減っても、物は増える。ここでは、何も損はしていないし、何も不当なことはない。

 なのに、トランプは買物という現象を見て、「金が減ったから、金を奪われた!」と大騒ぎする。
 トランプは「買物とは何か」ということを理解できないのだ。「金を払って物を得る」という原理を理解できないのだ。自分が得た物のことを見失って、自分の金が減ったことばかりに着目するから、「損をした!」と勝手に勘違いするのだ。
 もはや痴呆老人ですね。

 ──

 重商主義とは何かという歴史を理解すれば、トランプの誤りがどこにあるかも理解できる。
 トランプの勘違いの本質がどこにあるか、本項を読めば理解できるだろう。



 [ 付記 ]
 文字通りの蛇足になるが、わかりきったことを記しておこう。
 貿易赤字が発生するとき、米国は外国から物を得て、金を払う。このとき、金を払う(または借金する)ので、金銭的には赤字が発生する。しかしながら、手元には外国から得た物が残る。だから、貿易赤字が発生しても、何も損はしない。
 類似例で言えば、紅茶を得て、銀を払うだけだ。銀は減っているが、紅茶を得たのだから、何も損をしていない。もちろん、紅茶を売った国が不当な利得を得たわけでもない。相手国は、紅茶を渡して、代金を得ただけだ。そこにはただの売買があるだけだ。
 ただし、帳簿においては、米国の側に「貿易赤字」(買物支出)が計上される。それだけのことだ。家計簿で支出欄の数字が増えただけだ。これを見て、「金を奪われた」などと騒ぐのは、馬鹿げている。
 自分で金を払って買物をしたのに、店に金を奪われたと勘違いするのは、狂気的だ。
 


 【 関連サイト 】

 はてなブックマークでは、ノア・スミスという人の記事が人気だ。
  → ノア・スミス「貿易赤字で国は貧しくならないよ」(2025年4月4日)|経済学101

 これは読む価値がない。
 間違ったことを言っているわけではないのだが、トランプ批判としては、あまりにも物足りない。敵の心臓を撃てばいいのに、足元の地面ばかりを撃っているから、あまりにもマトはずれである。
 そうせなら、アダム・スミスの言葉を取ればいいのに、アダム・スミスの言葉も知らないようだ。アダム・スミスのことも知らないし、重商主義のことも知らない。要するに、ノア・スミスは経済学の基礎知識がまったく欠けているのである。
 同じくスミスなのに、あまりにもレベルの差がありすぎる。せめて昔のスミスを学ぶぐらいの知識力があれば良かったのにね。


posted by 管理人 at 23:50 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 流石に経済学を極めておられる管理人さんの解説  スッキリと腹落ちしました 遥か昔 世界史の教師からアヘン戦争からめて解説してもらったのを思い出しましたよ  
Posted by k at 2025年04月08日 15:44
経済音痴です。あえて一言。
 トランプは米国はずっと貿易相手国から搾取され得来たと言っています。これは仰せの通り完全な間違いです。
 でもコンピューターからなべに至るまでの生活全般を輸入品に頼るのはやはり国家の安全保障の観点からは問題です。トランプはもちろんそれも言っています。ただし米国は資源大国、食料大国です。輸入を止められても少し不便になるだけです。それで歴代の大統領は気にしていなかったのです。石油がなくて行き詰った戦前の日本とはわけが違うのですが、トランプは(特に中国に対して)被害妄想を持っているのでしょう。
Posted by ひまなので at 2025年04月08日 17:25
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