米国の自動車関税 25% について、その対応を考える。
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メキシコとカナダの関税免除
前項で二重に訂正したが、メキシコとカナダからの輸入には、他国とは別扱いがなされている。
・ 当初は、両国だけに 25% の課税
・ その後、一時猶予
・ 4月から、他国同様、25% の課税
・ 部品だけは課税免除(他国は課税)
いかにも右往左往しているが、最初と最後を比べると、方針が逆転している。
・ 最初は両国だけ重課税 (麻薬対策が名分)
・ 最後は両国だけ課税免除 (部品だけだが)
最初は例外的に重課税するという方針で、最後は例外的に課税免除する。あまりにもメチャクチャだ。いったい、どうしたいんだ? 気違いじみている。「おまえは何をやっているんだ」と問い詰めたくなるほどだ。
メキシコとカナダの報復関税
実は、トランプが方針を転じたことには、理由がある。メキシコとカナダが強硬に報復関税を唱えたことだ。つまり、トランプのブラフにビビらなかった。トランプはブラフが効果なしだと悟った。だから、ブラフのかわりに、まともな交渉に応じたのだ。その交渉の結果が、「車は他国と同様で、部品は両国だけ関税免除」という方針だ。……ここでは、両国の「報復関税」という方針が有効だったことになる。だからこそ、当初よりもずっと有利な結果を引き寄せた。
欧州もまた「報復関税」という方針を取る。
自動車および自動車部品に対する25%の関税を発表したことを受け、各国が反応している。また、多くの経済大国が報復措置を行うと述べている。
ドイツは、アメリカの関税には「屈しない」と述べ、ヨーロッパは「断固として対応するべきだ」と主張した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、この動きを「時間の無駄」で「一貫性がない」ものと非難した。中国も、アメリカ政府が国際貿易規則に違反していると非難している。
( → トランプ氏の自動車関税に欧州や日本が反発、ドイツは「断固として対応するべき」と - BBCニュース )
各国はこのように「報復関税」という方針を取る。ブラフに対しては、こちらもブラフを返すのが最善の方策だからだ。(ゲーム理論やポーカーを学べばわかる。後述。)
メキシコからの輸出台数
メキシコからの輸出はどうか? 当初は「両国だけ課税」という方針だったので、メキシコに大規模自動車工場を持つ日産自動車は大変なことになる、と騒がれた。
メキシコから米国に多くの車を輸出する日本の自動車メーカーへの影響は避けられず、生産国の移転も含め対応を迫られる可能性がある。とりわけ、足元で経営不振にあえぐ日産自動車の収益にさらなる打撃となりかねない。
2023年に日系自動車大手がメキシコで生産した台数は、トヨタ自動車25万台、ホンダ16万台などに比べ、日産は61万台と圧倒的に多い。トヨタとホンダは8〜9割を米国に仕向けているが、対米輸出台数で見ても日産が約26万台と最多だ。
「米国民を豊かにするため外国に関税を課す」と断言するトランプ氏の政策は、日産にとって「弱り目にたたり目」となる。
( → 「トランプ関税」影響不可避 日産、さらなる打撃に―自動車業界:時事ドットコム )
当初はそう思われたが、その後、方針は転じた。「カナダ・メキシコだけが課税」ということはなくなった。日本からの輸出も同様になる。では、結果的にどうなるか?
そこで日産の状況を調べてみる。二つのAIの回答はこうだ。
ChatGPT の回答
米国内生産台数: 日産は2024年に米国内で524,919台を生産しました。
メキシコからの輸出台数:
2024年1月から11月までに、日産はメキシコで636,145台を生産しました。その多くが米国向けに輸出されていると考えられますが、具体的な米国向け輸出台数は公開されていません。
日本からの輸出台数:
2024年4月から2025年1月までの10か月間で、日産は日本から北米(米国およびカナダ)へ152,575台を輸出しています。このうち米国向けの正確な台数は明示されていませんが、北米向け輸出台数の大部分が米国向けであると推測されます。
Perplexity の回答
2024年における日産自動車の米国販売台数(924,008台)のうち、メキシコからの輸入、日本からの輸入、そして米国内生産のそれぞれの台数は以下の通りです:
メキシコからの輸入:
メキシコで生産された日産車は382,852台で、その多くが米国に輸入されています。日産全体の輸入台数は136,976台であり、その大部分がメキシコからと推定されます。
日本からの輸入:
日本からの具体的な輸入台数は明記されていませんが、日産の輸入車全体(136,976台)の一部を占めています。
米国内生産:
米国内では728,962台が生産されており、これには乗用車321,314台とトラック407,648台が含まれます。
はっきりとはしないが、おおむね販売台数の過半数(6〜7割?)が米国内生産で、残りがメキシコや日本などからの輸出であるようだ。この点からすると、関税が致命的になるということはあるまい。
米社の輸入車比率
米社である GM、フォードでは、どうか? 輸入車比率は少ないか? いや、日産と同程度であるようだ。
Gensparkの回答
GMやフォードは、米国で販売する車両の30〜40%をカナダ、メキシコで組み立てていると報告されています。
とはいえ、EV メーカーのテスラは例外的で、国産比率が圧倒的に高い。
テスラは米国向けEVの100%を西部カリフォルニア州と南部テキサス州の工場で生産し、国内の部品調達比率も高い。このためたとえ関税を引き上げられても、業績の影響が極めて小さいとみられている。
( → トランプ政権の自動車関税 米ビッグ3は株価下落、「唯一の勝者」は | 毎日新聞 )
今回のトランプの方針は、盟友であるマスクのために、テスラ車擁護の目的でなされた、という見方もありそうだ。
トランプの値上げ否定
関税を上げると、外国メーカーよりも消費者が困ることになりそうだ……というのが、前項の結論だった。
最大の被害者は、客である。客は 25% の関税を払うので、大幅増税で、大損する。これは所得減と同じ効果がある。その分、景気が冷えて、不況に向かう。日本の自動車産業への影響はさほど大きくないが、米国の景気冷却の効果はとても大きいだろう。
( → 米国の自動車関税 25%: Open ブログ )
このあと、「フェラーリが値上げする」という報道が出た。
→ フェラーリ、米国で最大10%値上げ 25%関税で一部車種 - 日本経済新聞
こういう報道や批判を聞いて、トランプもいくらかビビったらしい。おかしなことを言い出した。
→ トランプ大統領「関税理由に値上げするな」 自動車メーカーに圧力 米紙報道
「関税をかける」と言っておきながら、「関税理由に値上げするな」という。頭がおかしいのではないか? 「関税をかける」というのは、「輸入品だけ値上げさせて国内品を有利にする」ということだ。それをやめたら、「輸入品が値上げで不利になる」という状況がなくなる。つまり、国内品が有利さを得られなくなる。これでは意味がない。自己矛盾である。
「おまえは何を言っているんだ」と問い詰めたい。小一時間、問い詰めたい。
※ ただし、のちに発言を撤回した。
→ トランプ氏、関税で自動車値上がりでも「一向に構わず」 - CNN.co.jp
自分の言ったことを忘れてしまったようだ。痴呆症だね。
日米貿易協定の無効化
日本政府はどうするべきか? もちろん、先に述べたように、報復関税を打ち出すことが好ましい。(ブラフへの対策だ。)
とはいえ、日本政府は肝っ玉が小さい。最初からビビっている。勝負をするだけの根性がない。報復関税のように「目には目を。ブラフにはブラフを」という肝っ玉戦術を取ることができない。小心者だ。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「報復関税のかわりに、日米貿易協定の無効化を宣告せよ」
なぜか? 自動車関税を 25% にすることは、日米貿易協定に違反する。協定に先に違反したのは米国である。ゆえに自動的に協定は無効化する。なぜなら、協定というものは、一方だけが守るものではないからだ。「日本は協定を守るが、米国は協定を守らない」ということは、ありえない。ゆえに日本は「協定の破棄」または「協定の無効化」を宣告すればいい。
このあとは、いちいち報復関税をかけなくても、小麦や牛肉に高率の課税がなされることになる。ただしそれは、特別に高い報復関税がかかることを意味しない。単にそれまでの特別な優遇税率がなくなるだけだ。決して報復ではない。米国だけを悪く扱うわけではない。他国と同様になるだけである。だから、米国は文句を言うべきではない。……そういうふうに解説すればいい。
「日米貿易協定の無効化を宣告する」というのは、何も特別なことではない。ごく当たり前のことだ。それを諄々と説けば、問題は解決するのである。いきりたって報復を唱えることは必要ないのだ。冷静にふるまって法律論で片付ければいいのだ。それが賢明な策というものだ。
【 注記 】
日米貿易協定の無効化を宣告すると、米国も日本の輸出品全般に高率課税するので、日本の他産業も関税される。それでは被害が倍増する。そういう懸念もある。
だが、構わない。もともと日本の対米輸出額の半分は、自動車と自動車部品だ。他の産業に影響が出るとしても、残りは同額ぐらいで済む。ならば、甘受できる。
もともと日本の半分で大被害を受けているのだから、さらなる被害を受けても、たいしたことはないのだ。それより、こちらは被害を倍増させるかわりに、相手の被害をゼロから 100%まで上げることこそ、優先される。たとえこちらの輸出が激減したとしても、米国の対日輸出を壊滅させることの方が、優先されるのだ。
なぜなら、そうしてこそ、おたがいに譲歩し合うことが可能になるからだ。それがゲームというものなのである。(日本の政治家には理解できないだろうが。)
※ ここでは、こちらが受ける痛みより、相手が受ける痛みの方が、重要なのである。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。そう理解しよう。
日本は白旗
では、現実には日本政府はどうしているか?
調べると、日本政府は早くもブラフに屈して、白旗を掲げることを決めたようだ。全面屈服である。
政府は27日、トランプ米政権が輸入自動車に課す25%の追加関税措置から日本を除外するよう要請した。世界貿易機関(WTO)ルールに基づく報復関税は見送る方向だ。
( → 政府、報復関税見送り 車関税 除外要請 交渉を重視 | 沖縄タイムス+プラス )
《 日本は慎重、WTOルール踏まえ判断 米関税引き上げ 》
トランプ米政権が相次ぎ打ち出す自動車や鉄鋼などへの追加関税に対して、日本は報復措置を打ち出していない。すでに報復すると表明したカナダなどとは異なる対応だ。日本の関税定率法には報復関税の規定はあるものの、世界貿易機関(WTO)ルールとの整合性や米国との関係性を考慮し、慎重な姿勢をとっている。
( → 日本経済新聞 )
トランプ米大統領の関税政策への対応が各国で割れている。報復関税を発動した中国や対抗措置の意向を示すカナダが強硬姿勢をとる半面、日本や英国は交渉で適用除外をめざす。
( → トランプ関税、「報復」か「交渉継続」か 各国対応割れる - 日本経済新聞 )
日本政府は全面屈服である。腰砕けだ。報復関税の検討すらしない(選択肢に入っていない)らしいし、早くも「報復関税はしない」と決定しかけているようだ。
とはいえ、これはトランプの「思う壺」である。ポーカーで言うと、自分のブラフのあとで相手が「フォールド」を宣言すると、相手は勝負をしないまま(事前の)掛け金の全額を失う。つまり、ともに手札を見せない状況で、こちらが強気で威嚇すると、相手はビビって、勝負することもなく、あっさりお手上げをして敗北する。……これがトランプの狙いだ。(いわゆる ディール だ。)
→ (補足)ポーカーの初歩: Open ブログ
このままだと、下手をすると、日本だけ取り残される可能性もある。つまり、世界各国は報復関税を出したあとで、「たがいに関税を引き下げる」ということで合意するが、日本と英国だけは、報復関税という手法をとらないので、日本と英国だけは取り残されて、いつまでも関税 25%を課され続ける……というわけだ。
悪夢だね。
結論
トランプの関税 25% は、米国製品を有利にする効果がほとんどない。たとえ国内で生産しても、輸入部品に高関税が課されるので、国内製品も大幅に値上げされるからだ。つまり、狙った目的は達成されない。
どうせ国産品を優遇したいのであれば、次のようにするべきだった。
・ メキシコ・カナダ製の車を関税免除
・ 国産車にはあらゆる輸入部品を関税免除
こうすれば、輸入車が不利になり、国産車が有利になり、国内雇用が増えただろう。
しかし現実には、それとは逆の方針を取った。
・ メキシコ・カナダ製の車にも高率関税
・ 国産車にはあらゆる輸入部品に高率関税
こんなことでは、本来の狙いは達成されないのだ。
これを逆に言えば、こうなる。
「トランプの高関税は、たいした効果がないから、ろくに対策をしなくてもいい。外国会社も、米国の会社も、どれもが 輸入部品の高騰の被害を受ける。会社によって被害の大小はあるが、極端な差は付かない。どの会社もすべてが損をする。win-win ならぬ lose-lose である。年間 15兆円もの大幅増税を受けて、自動車産業全体が壊滅的な打撃を受ける。これが最も決定的なのであって、会社ごとの差はあまり大きくない。だから、日本の自動車会社は、あまり気にしなくてもいいだろう。むしろ、下手に対処すると、三年後にトランプが退任したあとで、無駄な設備や対策が残って、重荷になりかねない」
というわけで、個別の自動車会社は、特に心配するほどのことはないし、何か特別に対処する必要もない。
ただし、日本政府がやるべきことはある。日米貿易協定の破棄(無効化の宣告)だ。これをやるように促すのが、自動車産業の企業のやるべきことだ。
ついでだが、こんなときに「ガソリン税の引き下げ」なんかを唱えている国民民主は馬鹿丸出しだし、それの真似をしはじめた維新や立憲は猿真似だ。どれも馬鹿すぎて、見るに堪えない。そんなところで小幅・少額の減税をしても、米国の 15兆円の増税の前では、九牛の一毛・大海の一滴にすぎないのだ。そう理解するだけの経済知識が必要だ。
笑い話
「嵐のなかで小舟が転覆しそうです。みんなで努力して、助かりましょう!」
「それより、オレをリーダーにしてくれよ。そうすれば、あとでお金を上げるよ。みんなのお金(積立金)を取り崩して、ばらまいて上げる。だから今は、オレをリーダーにしてくれ。小舟の転覆など、どうでもいい。おれが権力を握ることが最優先だ」
「あなたの名前は?」
「玉木&野田 です」
こうして騒いでいる間に、小舟は転覆して、全員が死んでしまった。
[ 付記 ]
日本企業が今すぐやるべきことがある。それは「レイオフの予告」だ。
「米国内の工場では、米国産車を生産していますが、輸入部品を大量に使用しています。これらの部品に 25% の関税がかかるので、大幅に値上げが必要です。そのせいで販売量が激減します。従って、従業員を大量に解雇する必要あります。そこで、現時点において、レイオフを予告しておきます」
「なお、トランプ大統領が輸入部品の関税 25% を停止したら、その場合には、値上げの理由がなくなるので、レイオフをしません。すべてはトランプ大統領の方針しだいです」
「労組はトランプ大統領の方針(関税 25%)に賛同したので、レイオフをするのは労組のせいでもあります。文句は労組へ」
笑い話など。