2025年03月27日

◆ 米国の自動車関税 25%

 米国が自動車関税 25% を決めた。その分析・考察。

 ──

 報道


 朝日新聞の記事。
 トランプ米大統領は26日、米国に輸入される自動車に4月3日から25%の関税をかけるよう命じる文書に署名した。全ての貿易相手国からの車が対象で、日本車も含まれる。現在、米国は乗用車に2.5%の関税をかけている。日本にとって自動車は最大の対米輸出品で、関税が発動されれば日本経済には大きな打撃となりそうだ。
 ホワイトハウス高官は、日本やドイツ、韓国などを名指しで、米国に大量に自動車を輸出しながら、米国車の輸入は少ないと指摘し、「単純に公平ではない」と批判した。
 日本の貿易統計によると、昨年の日本の自動車の対米輸出額は6兆円を超え、輸出額全体の約3割を占めた。
( → トランプ氏、自動車関税「25%」発表 4月3日から全輸入車に:朝日新聞

 ググると、次の情報。
 米国向けの自動車輸出は2024年6.0兆円(138万台)で、全輸出額の1/3(33.2%)を占める(財務省「貿易統計」)。

 2023年には 28.8% だったので、2024年には大幅に増加している。(たぶん円安のせいだろう。)

 対米輸出における自動車の比率は、昔は「自動車一本足打法」と言われるほど、圧倒的に多かったが、今ではそれほどでもなくなっている。米国で国内生産する工場への部品輸出の形が多くなっている。
 2024年のデータによると、日本からの自動車部品の輸出額は約3.98兆円に達し、前年よりも増加しています。一方で、2024年の自動車全体の輸出額は約6兆261億円とされています。
( → m Japan

 ただし、今回は自動車部品も関税 25%の対象となる。
 ドナルド・トランプ米大統領は26日、アメリカに輸入される自動車および自動車部品に対する、25%の関税を新しく発表した。
( → ?トランプ米大統領、自動車と自動車部品への25%関税を発表 - BBCニュース

 自動車と自動車部品を合わせると、対米輸出の半分近くになる。今回の関税は、日本に大きな影響をもたらしそうだ。

 ※ メキシコ経由の生産もあるが、メキシコも関税 25% の対象であり、例外ではない。以前の方針では、カナダとメキシコが先行して、関税 25%の対象となっていたのだが、4月まで猶予された。その後は、他国といっしょに、関税 25%の対象となる。

 《 訂正 》
 ※ すぐ上の記述は間違っていた。カナダとメキシコからの輸出は、例外扱いとなる。関税 25% の対象外で、無関税となる。(朝日新聞・朝刊 2025-03-28 にその旨の記述があった。)

 《 訂正の訂正 》
 ※ 元の記述は間違っていなかった。訂正の方が間違っていた。カナダとメキシコの自動車も、関税 25%の対象となる。ただし、自動車部品だけは、関税 25%を免除される。……どうも、記事を読み間違えてしまった。(調べることの情報量が多すぎて、頭の整理が追いつきませんでした。)

 日本政府の要望


 日本政府はトランプ大統領に、「日本だけ例外扱いして」と要望した。
 日本は米側に、自動車関税の対象から日本を外すよう強く求めてきた。10日には武藤容治経済産業相が訪米し、ラトニック商務長官らに直接、適用除外を申し入れた。

 呆れる。あまりにもナンセンスすぎて、政治センスがない。政治の流れをまったく読めていない。政治音痴も甚だしい。こんな方針を決めるなんて、外務省には馬鹿しかいないのか? 

 (1) トランプは「例外扱いなく」と前から言っているのだから、もともとそんな要求が受け入れられるわけがない。
 また、次の件もある。
   → 「敵より友の方がひどい」 自動車関税でトランプ氏、筆頭格は日本:朝日新聞

 次のグラフもある。

car-import2.jpg
出典:Bloomberg


 (2) 「日本だけの例外扱いを求める」ということ自体が、政治センスに欠落している。そんなことは常識的にありえないだろう。たとえば韓国が日本に対して、「自国だけ特別優遇扱いしろ」と要求してきたら、「おまえは何を言っているんだ? 厚顔無恥にも程がある」と呆れ返るはずだ。

 (3) 「日本だけの例外扱いを求める」というのは、日米蜜月関係の昔(民主党大統領時代)ならばありえなくもないが、トランプは日本が嫌いである。「有色人種は嫌いだ」という態度を、これまでに何度も露骨に示してきた。なのに、日本政府が「私たち恋人同士でしょ。だからこれをしてほしいの」と求めるのには、薄ら寒さを感じる。「おまえは恋人だと自惚れているのか? 馬鹿め。恋人は英国などの白人だよ。日本はセフレか公衆便所の扱いなんだ。自覚しろ」と教えて上げたい。恥を知れ。自惚れるのは痛々しい。みっともない。

 報復関税


 トランプの高関税には、これまでどの国も例外なく、「報復関税」という方針を取ってきた。メキシコ、カナダ、欧州各国など。ところが日本だけは、「報復関税」という方針を示さないし、そもそもその言葉を使うことすら避けている。
 石破茂首相は27日の参院予算委員会で対抗措置をとる考えがあるのかと問われ、「あらゆる対応策を考えている。選択肢としてある」と述べた。

 どうしても「報復関税」という言葉を使いたがらないようだ。当たり前のことすら実行できないし、口に出すこともできない。何という腰砕け。この分では日本が独自に報復関税を取ることはできないだろう。びびっているからだ。
 だが、日本政府が報復関税をとらないとすると、米国に関税を引き下げを要求するための手札がない。「それぞれおたがいに関税を取り下げましょう」という交渉は、他国との間に成立することはあるだろうが、日本との間には成立しない。なぜなら、日本は報復関税の取り下げという手札がないからだ。
 かくて日本の自動車産業だけは、関税 25%を課されることになる。他国の関税が撤廃されたあとも、日本だけは撤廃されないことになる。

 赤信号


 これを解決する策はあるか? ある。
 「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」
 というやつだ。つまり、こうだ。
 「日本と欧米とカナダ・メキシコ何度で、連合を作って、みんなで対米包囲網を作る。米国に高関税を課する」

 その方法はあるか? ある。こうだ。
 「米国の方針は WTO の協約に反するので、米国を WTO から追放する。即時で追放することは無理で、実行には長い時間がかかるので、とりあえずは、即時で対抗措置を取る。米国を WTO の対象外として扱い、米国製品すべてに高関税を課する」
 これが道理というものだ。無茶に見えるが、無茶なのはトランプの方だ。ならば、日欧などは、「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」と対処するべきなのだ。

 日米貿易協定


 法律論で言えば、次のことも成立する。
 「今回の関税 25% は、日米貿易協定に反する。米国が協定違反をするのだから、自動的に協定は破棄される。もはや協定は無効である。報復関税をかけるまでもなく、米国製品はすべて優遇措置から外される。TPP にも WTO にも加入していない諸外国と同様で、高関税の対象となる」
 これで、牛肉や小麦などの輸入は激減する。

 実は、このような過激な方策を取ることは、本来はできない。「そんなことをしたら自動車輸出に高関税を課されて大変だ」という恐れがあるからだ。ところが今や、自動車輸出に高関税を課されるということが、先に実現してしまった。ならば、もはや、怖いものはないのだ。米国からの輸入品には、どんどん高関税をかけることができる。

 現実には無為無策


 以上ではいろいろと対策を示した。しかし、これらの対策が現実に取られることはないだろう。なぜなら自民党政府は、米国の犬だからである。唯々諾々として従うだけだろう。
 政府がビビっているせいで、自動車産業はひどいめにあうわけだ。ああ、哀れ。巨額の献金をしているのに、その効果もなく、政府は対抗策をとってくれないのだ。日本国民や日本の産業を守ることよりは、米国に へいつくばることの方が優先なのだ。
 なぜなら、自民党の政治家は、国民の下僕でなく、米国大統領の下僕だからである。

 ※ もしかしたら、原爆のせいかもしれない。日本は世界で唯一、「米国に逆らうと、原爆を落とされる」という体験をもつ国だ。広島 14万人、長崎7万人の死者を出した。こうなると、ビビって、逆らえなくなる。

genbaku-s.jpg


 円安


 ただし、自動車産業にとっては、干天の慈雨もある。それは、大幅な円安だ。本来ならば 1ドル=120円 ぐらいのレートになるべきところを、1ドル=150円 ぐらいのレートの円安で済んでいる。おかげで2割も得をしている。関税で 25%も損しても、円安で 20%も得しているから、差し引きして、5% の損で済む。
 というわけで、致命的な損失をこうむるわけではない。「利幅が減る」というぐらいの痛みで済む。

 ※ 円安はこの先、さらに進んで、1ドル=160円ぐらいになるかも。

 輸入車の競合なし


 関税引き上げといっても、今回は「日本だけの引き上げ」ではなく、「輸入車すべての引き上げ」である。ならば、日本車だけが損をするわけではない。競合する欧州車もすべて関税は引き上げられるから、ことさら日本車が不利になるわけでもない。
 ただし、米国企業( GM、フォードなど)との間では、輸入車全般が不利になる。その点は、いくらか影響がある。
 とはいえ、米国企業のシェアはもともと半分ぐらいしかない。特に、トラックの販売台数が多いせいで、乗用車の販売台数は少ない。というより、乗用車の生産からはほとんど撤退している。輸入車に関税がかかるからといって、米国企業の乗用車の販売が増えるわけではないのだ。もともと販売車種がないのだから。
 トランプ大統領は「アメリカで生産された車であれば関税は一切、課されない。企業は関税を支払わなくても済むようにアメリカに戻ってくる」
( → トランプ氏 25%の自動車関税署名 日本車も対象 国内影響は? | NHK | トランプ大統領

 こんなことを言っているが、もともと生産していない車を販売するわけには行くまい。カムリやカローラが気に食わないから、米国企業の小型セダンを買いたいと思っても、そんなものは生産されていないのだ。米国企業が生産しているのは、主として大型トラックである。そんなものは、カムリやカローラのかわりにはならないのだ。セダンを買いたい消費者は、どれほど関税がかかっても、輸入車を買うしかない。米国産車は売っていないからだ。(例外は少数のみ。)

 販売車種


 ちなみに、2024年の米国自動車販売における1位から15位までの車種別ランキングは以下の通り。(1位〜15位)
  フォード Fシリーズ …… 352,406台
  シボレー・シルバラード …… 275,692台
  トヨタ RAV4 …… 248,295台
  テスラ・モデルY …… 209,000台
  ホンダ CR-V …… 196,204台
  ラム・ピックアップ …… 179,526台
  トヨタ・カムリ …… 155,242台
  GMCシエラ …… 148,785台
  日産ローグ …… 141,160台
  ホンダ シビック …… 129,788台
  トヨタ カローラ …… 121,991台
  ジープ グランドチェロキー …… 106,751台
  シボレー イキノックス …… 106,455台
  フォード エクスプローラー …… 104,803台
  スバル フォレスター …… 92,849台

 米国車は輸入車との競合で、関税の分だけ有利になるが、だからといって、いきなり生産台数を増やせるわけでもない。輸入車が 25% の値上げになるなら、米国車は値段を据え置いて生産台数を増やすのではなく、米国車も便乗値上げで 20% ぐらいは値上げするだろう。それでも 5%は有利になるから、その分、シェアを少し増やす。それだけのことだ。生産台数を増やす効果は少しだけで、効果の大部分は「企業利益の向上」という形で吸収される。
 その結果は? 米国車の株主が大儲けして、米国の消費者(客)が大損する、ということだ。消費者は、米国車を買おうが輸入車を買おうが、どっちみち 20%〜25%の大幅値上げを食らって、莫大な値上げ損失を受ける。
 ホワイトハウスの高官は、今回の措置によってアメリカは年間1000億ドル以上、日本円にして15兆円余りの関税収入が得られるとしています。
( → トランプ氏 25%の自動車関税署名 日本車も対象 国内影響は? | NHK | トランプ大統領

 米国政府は 15兆円余りの関税収入を得て大儲けできる、と思っているのだろう。しかしその分、輸入車を買った消費者は増税の憂き目に遭う。莫大な増税を受けて、消費者は所得減と同じことになる。だから、ものすごい景気冷却が生じる。こうなると、不況促進の効果が大きい。
( ※ トランプはそのことに気づかない。マクロ経済の知識がない。財政を帳簿の損得で見るだけだから、「増税は政府の得になる」とだけ思っている。景気への波及効果については考慮できない。)

 米国車への影響


 トランプ大統領は米国車について、「関税は一切、課されない」と言っており、「米国車への影響はない」と思っている。(上記)
 だが、これは誤りだ。理由は二つ。

 第1に、米国車は輸入部品を大量に使っており、これにも課税されるからだ。

Genspark の回答
 2023年時点で、米国産車に使用される部品のうち、輸入部品が占める割合は35.4%です。これに対して国内製造の部品は64.6%を占めています。輸入部品の最大の供給国はメキシコで、そのシェアは37.8%です。これらのデータは、米国の自動車製造における国際的な部品供給の重要性を示しています。

 
 第2に、米国産の部品を使うにしても、その部品の部材にも高関税がかかる。特に輸入される鉄鋼にも 25% の高関税がかかる。別に、米国産車が関税をすっかり免れるわけではないのだ。トランプ大統領は、「関税は一切、課されない」と言っており、「米国車への影響はない」と思っているが、自分が鉄鋼に 25%関税をかけたことを、すっかり忘れてしまったようだ。(ボケだね。)
 アメリカのトランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、日本時間の12日午後、発動しました。
( → トランプ政権 鉄鋼製品・アルミに25%関税発動 すべての国が対象 日本からの輸出品にも関税 EUは対抗措置へ | NHK | トランプ大統領

 結論


 関税 25%は、日本には大きな影響がありそうに見える。日本の対米輸出の半分近くは自動車と自動車部品の輸出で占められているからだ。
 とはいえ、致命的と言えるほどの大きな影響はない。もともと円安で有利な状況となっている。また、関税は全世界が一律だから、日本だけが不利になるするわけではない。
 最大の被害者は、客である。客は 25% の関税を払うので、大幅増税で、大損する。これは所得減と同じ効果がある。その分、景気が冷えて、不況に向かう。日本の自動車産業への影響はさほど大きくないが、米国の景気冷却の効果はとても大きいだろう。「日本円にして15兆円余りの関税収入が得られる」ということは、その分だけの増税効果が生じるということだからだ。

 まあ、大幅増税のあとは、金持ち減税をして、富豪に多額の減税をするつもりなのだろう。たとえば、イーロン・マスクなどに巨額の減税をするつもりなのだろう。しかし、いくら富豪に巨額の減税をしても、富豪が数十万台もの自動車を買ってくれるわけではない。庶民の所得が減れば、自動車販売台数は激減する。のみならず、他の消費財の販売額も激減する。増えるのは富豪の貯蓄額だけだ。

 こうして米国は、「不況下の経済縮小」と「富豪への富の集中」が同時に起こるようになる。つまりは、地獄の実現だ。そして、その影響は、日本にも波及する。
   関税アップ → 米国の不況 → 世界中の不況

 という過程になる。これに孤立主義と民族差別額が加わると、もはや世界大戦前夜である。人類滅亡が近づきつつある。

 余波


 トランプ大統領の新方針は、世界中に大混乱をもたらしているが、たった一つ、この方針を熱烈歓迎している国がある。それは中国だ。
 これまで中国製品だけが関税 25%の対象となっており、事実上の「中国製品の輸入禁止」状態にあった。ところが今後は、日本車も欧州車も 関税 25% であり、関税 25%である中国製品も同率だから、中国車は他の輸入車と同じ関税率になる。ならば、中国車への高関税が、実質的に解除されたことになる。特に、電気自動車メーカーにとっては、非常に有利になる。中国車向けの高関税が実質的に撤廃されるからだ。
 中国政府は今ごろ、ほくそえんでいるだろう。
 「トランプ政権は中国の味方だ。バイデン政府と違って、中国に優しい。熱烈歓迎!」 
 
 《 訂正 》 
 「中国製EVへの関税は既に100%になっているので、中国有利とはならない」
 という指摘がコメント欄に寄せられた。
 なるほど。そうでしたか。勘違いをお詫びします。

  ※ 元の記述はそのまま残しておきます。

 なお、対象は EV だけなので、中国製のガソリン車は対象外だ。PHV もたぶん対象外だろう。
( Perplexity によると、ガソリン車は 37.5%。PHV は未記載で、20%の一般税率かも、とある。Felo によると、PHV は EV と同じかも、とある。ガソリン車は 20% とある。)
 
posted by 管理人 at 23:46 | Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に「余波」という章を追加しました。

 その二つ前に「米国車への影響」という章を追加しました。
Posted by 管理人 at 2025年03月28日 07:58
 参考情報。

 → トランプの「EU産ワインに200%関税」で米ワイン産業は崩壊する | Forbes JAPAN
  https://forbesjapan.com/articles/detail/78093
Posted by 管理人 at 2025年03月28日 08:09
米国の中国製EVへの関税は既に100%になっているので、中国有利とはならないのではないかと思います。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240914/k10014581911000.html
Posted by 高輪から at 2025年03月28日 10:52
 《 訂正 》 を二つ書き加えました。

 メキシコ・カナダからの関税率は、無関税となる。

 中国の EV の関税率は 25%でなく 100% である。

 上の二点を書き加えました。
Posted by 管理人 at 2025年03月28日 11:30
  《 訂正の訂正 》 を書き加えました。次の内容。

 ──

> ※ 元の記述は間違っていなかった。訂正の方が間違っていた。カナダとメキシコの自動車も、関税 25%の対象となる。ただし、自動車部品だけは、関税 25%を免除される。……どうも、記事を読み間違えてしまった。(調べることの情報量が多すぎて、頭の整理が追いつきませんでした。)

 (転載 終わり)
Posted by 管理人 at 2025年03月28日 22:41
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