2025年03月11日

◆ トランプと日本 .4

 ( 前項 の続き )
 トランプの方針に対して、日本はどう対処したか? 

 ──

 日本の対処


 日本はどう対処したかを順に述べよう。


 (1) 日本の方針

 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」という自国本位の方針を示した。これに対して日本はどういう方針を示したか? 「ウィン・ウィンをめざす」という方針を示した。首相と官房長官が語っている。
 石破茂首相は……「互いがウィンウィンでなければいけないとトランプ氏もわかっているはずだ」と語った。
( → 石破茂首相「トランプ氏とウィンウィンめざす」 BSテレ東番組で - 日本経済新聞

  林芳正官房長官も……「日米がウィンウィンになれるような、これまでとは全く異なる大胆な提案を検討していると承知している」と述べた。
( → トランプ氏「過半所有は不可」発言で対応迫られる日鉄 次の一手は:朝日新聞

 首相も官房長官も「ウィン・ウィンをめざす」という方針を取っている。これはあまりにも馬鹿げている。
 「ウィン・ウィンをめざす」という方針は、昔からずっと続いている正統的な方針だ。それを全面的に否定して、「自国第1」という「win-lose」の方針に転じたのがトランプだ。
 つまり日本政府は、トランプの「アメリカ・ファースト」という基本方針を理解できていないわけだ。相手の話を聞いていないのにも等しい。相手の話を聞かずに、自分の語りたいことだけを語っている。しかし、「相手の話を聞かない」というのでは、会談や交渉にならない。
 これでは、上つらだけは有効であっても、結果は決裂と同じである。何も話はまとまらないのに等しい。外交上の敗北とも言える。馬鹿丸出しである。


 (2) 結果

 結果はどうなったか? 会談中だけはニコニコして、仲良しぶりを見せつけて、「仲良くしたので成功」と見せかけた。
 しかし翌週には、トランプが冷や水を浴びせかけた。日本を含むすべての輸入車に関税 25% をかけると宣告したのだ。
  → アメリカの自動車関税、日本対象ならメーカーや関連企業への悪影響懸念…米国への輸出額3割が自動車 : 読売新聞

 のみならず、日本は「非関税障壁がある」と見なされて、追加の割増し関税もあるかもしれない。
  → トランプ相互関税導入へ:非関税障壁も対象となり日本の対米輸出自動車に追加関税の可能性も| 野村総合研究所(NRI)

 結局、日米の会談だけはニコニコして片付けたが、現実には関税 25% という一方的な措置を浴び去られる。蛙の面にションベンである。(意味が違うけど。)


 (3) 報復関税

 トランプ大統領の関税 25% という案は、当初は世界に大混乱を引き起こしたが、その後、トランプ大統領はその方針を大幅に緩和した。特に、メキシコとカナダの自動車関税や自動車部品の関税を取り下げたことで、大混乱は免れた。
 これはなぜか? メキシコとカナダだ「報復関税」という方針を出したから、それを見て、トランプはそれまでの方針を引っ込めたのである。
 いかにも朝令暮改に見えるが、別に、おかしくはない。彼の「ディール」という方針からすれば、ポーカーと同じである。こちらのカードに対して、相手も強いカードを出すのなら、強いカード同士で負けることを恐れて、勝負(ゲーム)を流してしまうのである。流してしまえば、損得は生じないからだ。
 というわけで、トランプの「高関税」という方針には、「報復関税」という対抗措置を取ることで、原則的には「相打ち」の形で、関税発動を回避できることが多いのだ。


 (4) 日本は例外

 世界各国は「報復関税」という形で、米国の高関税を回避できる。ただし、世界で唯一、このことを理解できないのが日本だ。
  ・ 「ウィンウィンと言えば理解してもらえるはず」と思い込む。(無理解)
  ・ 報復関税を取らない
  ・ ひたすらお願いする

 これが日本の方針だ。
 会談では、トランプ大統領が12日に発動するとしている鉄鋼製品とアルミニウムへの25%の関税措置や、4月の発動を検討している自動車への25%前後の関税措置の対象から、日本を除外するよう直接、申し入れる方針です。
( → 武藤経産相 訪米し商務長官らと会談へ 関税除外を直接申し入れ | NHK | 経済産業省

 馬鹿じゃなかろうか。こちらから要望だけを口に出しても、それはただの「言いっぱなし」になるだけだ。交渉にはならない。こんなことを語るなら、電子メールか文書を送って、それで済ませるだけでいい。大臣が出向く必要などはない。
 では、どうするべきか? 交渉するなら、手ぶらではいけない。手持ちのカードが必要だ。手持ちのカードとは? 「相手が攻撃してきたなら、こちらも攻撃する」という方針だ。つまり、報復関税だ。これが手持ちのカードである。
 このカードは有効だ。だから他国はみんなこのカードを使って、トランプの高関税を回避してきた。
 なのに日本だけは、手持ちのカードなしで、手ぶらで戦おうとする。いや、戦う気力が最初からない。単に「戦わずにお願いするだけ」という方針だ。これでは敗北は必然である。


 (5) トランプの勝利

 かくて、日本だけは報復関税を取らないので、日本だけは米国に完敗する。一方的に高関税を食らっても、何もできずに指をくわえて高関税を甘受するだけだ。
 この方針を取って完敗したのが、安倍首相だった。(日米貿易交渉。前回のトランプ大統領時代。2019年。→ 日米貿易協定が決着: Open ブログ
 そして、6年後の現在、石破首相が同じ方針を取って、トランプに完敗しようとしている。関税 25% を食らって、何もできずに甘受しようとしている。

 トランプの「一方的な自国利益」という方針は、他国からの「報復関税」という反発を食らって、たいていは失敗したのだが、ただ一つ、日本に対してだけは、見事に成功したのである。なぜなら、日本だけは、「報復関税」という反発を出さないからだ。だまってペコペコすることしかできないからだ。
 負け犬根性のしみついた下等国家は、奴隷化するしかないのである。


( ※ トランプは愚かではあるが、もっと愚かな日本に対してだけは、トランプは賢明になれるのだ。なぜなら日本だけはトランプ以上に愚かだからである。下には下がある、ということだ。)

( ※ ひたすらビビっている日本は、愚かだというより、別の何かが足りないのかもしれない。ことわざに言う。「義を見てせざるは勇無きなり」)




 ※ この問題は、「タカ・ハト・ゲーム」で説明できる。トランプは「ハト・ハト」という現状に満足できないので、自分の利益拡大を狙って、「タカ・ハト」関係に持ち込もうとする。しかし他国は逸れを甘受しないで、「目には目を」という方針で、「タカにはタカ」というふうに攻勢を取る。すると、双方が傷つくのをイヤがって、トランプは最初の「タカ」という方針を引っ込める。ところが日本だけは、「タカ」という方針を取らないので、「ハト」のままとなって、トランプの「タカ」路線に一方的に蹂躙される。世界のなかで唯一、ボロ負けする。交渉能力がない、とも言える。ディベードやディールの能力がない、とも言える。

 ※ その点、中国は報復関税によって、米国に大打撃を与えた。
  → 関税がアメリカの農家直撃、綿花4年ぶり安値 トランプ氏「我慢を」 - 日本経済新聞

 ※ 仮に世界中の国がみんな、米国に報復関税をかけたら、どうなるか? 米国だけが不利となる。一方、他国は特に不利でない。他国がみんな関税をかけられれば、特に不利でないのだ。
 例。メキシコだけが関税 25% だと、メキシコは他のライバル国との競争で不利だが、他のライバル国もみんな関税 25% がかかると、特にメキシコが不利なのではない。
 この場合、米国企業は外国企業に比べて有利になるが、外国企業はみんな同等だから、特に不利になるということはない。ちなみに、自動車関税 25% がかかると、外国の自動車メーカーは少しは損するが、壊滅的というほどの影響は受けない。一方で、消費者は 25% もの値上がりを被るので、莫大な損害が発生する。400万円の車を買うと、100万円も増税になるのだ。とんでもない増税だ。日本の所得税減税の規模を圧倒的に上回る超高額増税だ。こんなことをしたら、米国は一挙に不況に落ち込むだろう。

 ※ 輸入品を買わないで米国産品を買えば大丈夫だ、と思うかもしれないが、さにあらず。米国産品も便乗値上げするので、値上げは輸入品と大同小異である。また、原材料の鉄鋼や輸入部品も値上げしているので、米国産品の値上げは不可避である。

 次の記事もある。
 《 元側近ボルトン氏 「トランプ氏は関税の仕組みを知らない」 》
 トランプ氏の関税政策は自国民を苦しめ、友好国の経済にも打撃
( → 日経ビジネス電子版

 


 [ 付記 ]
 「関税 25% は、全世界向けであり、日本だけが対象になっているわけではない」
 という反論が出るかもしれないので、解説しておこう。
 論点はそこにあるのではない。「関税 25%」という分野が 鉄鋼や自動車に限られているので、その分野で輸出している日本だけが大打撃を食う、ということだ。他の分野では高関税にならないので、他の分野での貿易国は大打撃を食わない。一方、自動車輸出の比率が大きい日本は大打撃を食う。

Perplexity の回答
 日本の自動車輸出全体のうち、対米輸出は約36〜40%を占めています。
 2023年の日本の対米輸出において、自動車および自動車部品を含めた場合の比率は約33.6%です。
 2017年度には、日本の対米貿易黒字の約76.7%が自動車および自動車部品によるものでした。
 日本の自動車産業は輸出全体の中で対米依存度が高く、全輸出額の48%がアメリカ向けであるとのデータもあります。(出典

 
Gemini の回答。日米貿易収支について。
過去5年間の日米貿易収支の推移について、以下の情報が見つかりました。

 2019年:7兆6931億円の輸出、7兆8599億円の輸入
 2020年:6兆8399億円の輸出、6兆8010億円の輸入
 2021年:8兆3091億円の輸出、8兆4875億円の輸入
 2022年:9兆8173億円の輸出、11兆8503億円の輸入
 2023年:10兆873億円の輸出、11兆395億円の輸入

※ 全体的に見ると、日本はアメリカに対して貿易赤字の状態が続いています。



ex-import.jpg
AIによるグラフ化
   ■ 輸出  ■ 輸入



 日本は対米貿易収支が赤字なのだから、トランプに文句を言われる筋合いがない。ちゃんと指摘しろ。それができない石破は、無能すぎる。
 
 ※ 上の貿易赤字の数字を示すときは、批判するより、おだてるといい。「米国の対日貿易収支は、赤字から黒字になり米国の大幅黒字になりました。これはトランプ大統領の1期目の成果が出たからです。日米貿易交渉で、米国に圧倒的に有利な状況が成立したので、米国が大幅黒字になったのです。実に見事な成果ですね。アメリカ・ファーストが成功しました。実に素晴らしい」……と、おだてるといい。そういうふうに おだてれば、対日関税をかける馬鹿らしさを理解できるだろう。
 


 【 追記 】
 上のグラフおよび数値は、どうも間違っているようだ。Gemini の数値は信頼が置けない。Felo や Perplexity も変な数値を回答する。ChatGPT がもっとも正解に近いようだ。その数値は下記。

年度   輸出額(億円)輸入額(億円)貿易収支(億円)
  2020  135,000  75,000  60,000
  2021  145,000  80,000  65,000
  2022  150,000  85,000  65,000
  2023  155,000  90,000  65,000


 日本の大幅黒字というのが正しいらしい。
 
posted by 管理人 at 23:19 | Comment(4) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本の米国一辺倒の弱点ががトランプのおかげで顕在化したと思います。確かに日本は米国に対して有効なカードを持っていません。
 いつも言っているようにまず韓国と仲良くすること、第2にせっかく作ったTPPをもっと活用すること、特に英国に続いて中国も加盟させることが有効と思います。まあそんな強いカードとは言えないかもしれませんが。
Posted by ひまなので at 2025年03月12日 09:56
 最後に [ 付記 ]  を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2025年03月12日 09:59
ゲーム理論で明らかになっている、しっぺ返し戦略ですね。
Posted by ジョー at 2025年03月12日 18:50
 最後に  【 追記 】  を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2025年03月13日 18:50
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