2025年03月01日

◆ なぜ米価が下がらないのか?

 なぜ米価が上がっているのか? 「備蓄放出で値下げ」させるという政府の方針は失敗したのか? いや。むしろ現状は成功だと言える。

 ──

 朝日新聞  


 朝日新聞の記事(本日朝刊)を紹介しよう。
 政府が備蓄米放出を決めても、コメの値上がりが収まらない。総務省が28日発表した2月の小売物価統計(東京都区部)をみると、コシヒカリ(5キロ)の価格は前月よりも178円(4%)高い4363円だった。昨年5月から10カ月連続で上昇し、前年同月に比べると1922円高く、1.8倍に跳ね上がった。
 農水省は「口先介入」の効果を期待していたものの、価格は下がらず、業者間の取引でも高止まりが続いている。政府の一手は、いまのところ目立った効果をあげていない。
( → 備蓄米放出決定後も高騰 都区部米価、コシヒカリ5キロ4363円:朝日新聞

 コメの値上がりが止まらない。政府はその原因を、投機的なコメの売り渋りにあるとする。だが、政府が備蓄米の放出を決めても、値下がりに転じる気配はない。関係者の間では、政府の見解を疑う声も上がっている。
 農水省は2024年産の米の生産量は前年よりも18万トン多い679万トンになると見込む。一方で、大手集荷業者が確保した新米の量は、前年より少ない。昨年末の時点で21万トン、今年1月末では23万トン少なかった。農水省はこの差を、中小の業者が投機的に新米を買い集めたり、農家が売り渋ったりして生じたとみる。
 農水省は「備蓄米の放出を決めれば、投機目当ての業者が急いで在庫を手放し、高騰が収まるはずだ」と期待していた。だが、2月7日に放出を表明した後も、米価はいっこうに下がらない。ある政権関係者は「高騰の原因は投機ではなく、単にコメが足りないだけではないか」といぶかる。
 ある都内のスーパーの幹部は、「根本的にコメの量が足りていない。備蓄米放出は、砂漠に水をまくようなもので、米価は下がらないのではないか」と話す。
( → 「米価が下がらない」怒る市場関係者 農水省の投機原因説に疑心暗鬼 [令和の米騒動]:朝日新聞

 以上をまとめよう。
 政府は備蓄放出という方針を示して、それによって値下がりすると期待した。だが、期待に反して、現実には値下げどころか値上がりしているそうだ。
 では、それはなぜか? 政府は「投機で貯め込んでいる悪徳業者がいるからだ」と考えている。だが、いっこうに値下がりが進まないし、民間の倉庫にも米が足りていないことから、「根源的に供給が足りていないせいでは」という疑問の声が強い。

 なお、どちらが正しいかは、先に示したとおり。昨夏の不足が「先食い」という形で今年に持ち越されているから、供給がもともと 40万トン不足しているのだ。
  → 備蓄米放出の計算ミス: Open ブログ
 なお、同趣旨の見解は、マスコミにも見られる。
  → 農水省「コメの投機的な買い占め説」は胡散臭い…米価高騰の悲願を達成した「真犯人」の正体

 失敗か? 


 さて。米価の高騰を見て、「これは政府の失敗だ」と見る人が多い。朝日新聞の記事でも「怒る市場関係者」というふうに、国民の怒りが強いという趣旨で報道している。
 だが、実を言うと、米価の高騰は、失敗ではなく成功である。政府は「困ったことになった。是正しよう」というふうには思ってはおらず、むしろ、「成功した。だからなるべく米価の高騰を維持しよう」と思っている。
 つまり、米価の高騰というのは、もともとの目的であって、現状は狙い通りなのだ。これは失敗ではなく成功なのだ。
 
 そもそも、米価の担当は、農水省である。農水省にとって、米価の高騰を防ぐことは目的ではない。むしろ、高騰を維持したい。ただし、あまり高騰すると批判されるから、とりあえずは批判されない範囲で、なるべく高値維持を続けたいのだ。
 ここでは、米価を元の水準(5kg 2000円程度)に戻すのは不可である。値上げをしないのはダメなのだ。米価は高ければ高いほどいい。ただし、高すぎると批判されるから、批判されない範囲で、なるべく高値を維持したいのだ。
 だから、米価の高騰を防ぐためには、備蓄を 40万トン取り崩せば足りるということはわかっているが、備蓄の取り崩しは最小限にしたい。とりあえずは 21万トンを放出するが、それも当初は 15万トンだけに限る。それで足りないとわかれば、21万トンの全量を放出する。ただし、それで足りないとわかっても、さらに備蓄を放出する予定はない。
 「備蓄を 21万トン放出しました。これで対策しました」
 というポーズを取って、批判をかわす。……そのことだけが、農水省の政策だ。農水省にとっては、米価の高騰を抑止することは目的ではない。むしろ、米価の高騰を少しでも多めに維持することが目的なのだ。(米価の高騰を止める対策を、なるべく少なくすることが目的だ。)
 

 農水省の目的


 農水省は米価の高騰を維持しようとする。では、なぜそうするのか? 
 それは、農水省の目的を知ればわかる。農水省の目的は、農政の維持である。なるべく米作の自給率を高めて、米の輸入を阻止することだ。これこそが農水省の最大目的なのだ。
 つまり、農水省は国民のためにあるのではなく、農政のためにあるのだ。彼らは自分たちの仕事(農政)のために働いている。米の自給率さえ上がれば、それでいい。その際、国民が米不足で飢えようが、価格が高騰しようが、どうでもいい。そんなことは彼らの眼中にはない。国民の不幸などは、彼らの仕事の対象外なのだ。

 このことは、前にも言及した。
 農水省の目的は、「備蓄によって米不足を解消すること」ではないのだ。むしろ、こう考える。
 「備蓄の 100万トンという量を維持することが、最優先の目的である。そのためには、国民が米不足になって苦しんでも構わない。国民の不幸など、どうでもいい。備蓄の 100万トンを維持することだけが、われわれ農水省にとって大切なのだ」
 備蓄という制度が国民に優先するわけだ。何のために備蓄をするかを忘れて、備蓄をすること自体が自己目的化している。……本末転倒とはこのことだ。
( → 米不足を解消する方法: Open ブログ

 これが農水省の方針なのである。

 では、この方針は、妥当か? もちろん、妥当ではない。これは違法である。というより、違憲である。なぜなら、日本国憲法第 15 条第2項には、こう規定されているからだ。
 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。

 なのに、米作のことばかりを優先して、国民全体の福祉を無視するのは、明白に憲法違反だと言えるだろう。
 なお、(一部の奉仕者の)「一部」というのがどのくらいかというと、総人口の1%あまりである。このことは、下記で数字を得られた。
 
Feloの回答
 2020年のデータでは農家人口は約174万8千人にまで減少しています。
 
 日本の総人口は 1.26億人だから、174万人は その 1%あまりだ。それっぽっちの人口(米作農家の人口)のために、奉仕する。他方、99% の国民のことは無視する。これでは、
 「農水省の公務員は、全体の奉仕者ではなく、一部の米作農家のための奉仕者である」
 というふうになってしまう。ひどいものだ。

 対策


 農水省に備蓄を委ねると、農水省は米価をなるべく高くしようとする。国民にとって、これはまずい。
 では、どうするべきか? 公務員が、一部のために働くのでなく、全体のために働くようにするには、どうすればいいか? 
 簡単だ。備蓄の所管を、農水省から取り上げて、他の省庁に委ねればいい。このことは、前に言及した。
 「備蓄の放出の管理は、農水省でなく、他の役所に移管する。たとえば、厚労省や消費者庁だ。内閣府でもいい」
( → 備蓄の古米を放出せよ: Open ブログ

 その場合、どうなるか? もちろん、備蓄の取り崩しをする。21万トンでなく、40万トンの備蓄を放出する。それも、飼料米になるはずの古米を放出することで、供給量そのものを 40万トンも増やす。これによって問題は一挙解決する。
  → 米不足を解消する方法: Open ブログ

 解決策はわかっている。しかし、現実にはそうならない。政府はそうしない。国民もそう語らない。私だけは言うが、私以外の誰も言わない。「備蓄を 40万トン放出せよ。飼料米になるはずの古米で放出せよ」とは誰も告げない。誰も真実を告げない。
 これは「裸の王様」のような状態だ。

 野党の責任


 特にひどいのは、野党だ。野党は「米価の高騰を抑止せよ」とは誰も言わない。
  ・ 国民民主 …… 所得税減税のことだけ
  ・ 維新   …… 私立高校無償化のことだけ
  ・ 立憲   …… 老人医療費の関係のことだけ

 いずれも、米価の高騰には言及しないで、上記のようなことばかりに熱中している。国民の空き腹や、財布の減り具合には、ちっとも考慮がないのだ。それが野党だ。

 ※ 実は、少しは批判しているのだが、まともに対策しようとはしていない。「備蓄の 40万トン放出」を唱える政党はない。

 所得税減税との対比


 野党は、米価の問題のかわりに、何を唱えるか? 
 国民民主は、所得税減税を唱える。
 維新は、私立高校値下げを唱える。
 では、それらによる効果はどれだけか? いろいろ試算があるが、十分に恩恵が得られるほどのものではないようだ。

 一方、米価の高騰を防ぐ施策は、どのくらいの効果があるか? 試算してみよう。
 1日3食の合計で、米を 200g(ごはん換算で 360g)を食べたとしよう。毎日食べるというわけでもないから、月に 25日だけだとする。
   200g× 25日 = 5kg
 となるから、月に 5kg を食べることになる。その値上げ額は、 「3000円 → 4400円」と見なして、1400円。これが 12カ月だと、年に 16,800円。
 大人の男子だとこの数字だが、女性や子供は少なめだと見なして、3人家族で 3〜4万円。このくらいの額の損害が発生しているわけだ。(値上げによって。)

 さて。ここで、備蓄を放出すると、政府は1円も費用をかけずに、「1家族あたり3〜4万円」という額をプレゼントできることになる。(値上げをなくす、という形で。)
 国民民主の所得税減税や、維新の私立高校無償化には、莫大な財源が必要となるので、どこかで増税による穴埋めが必要だ。一方、上のように「備蓄の放出」をすれば、1円も金をかけずに、国民の全家庭に3〜4万円をプレゼントできるのだ。
 
 どちらが名案であるかは、明らかだろう。

( ※ その富はどこから湧いて出てきたのか? 泉の水のように地面から湧いて出てきたのか? 空から降ってきたのか? いや、違う。どさくさ騒ぎにまぎれて、大量の差益をかすめ取った中間業者の富を還元することでもたらされる。言い換えると、備蓄の放出をしないと、国民の富が大量に奪われて、中間業者ばかりがホクホクになる。)

( ※ その莫大な富の分け前を狙って、オレもオレも、と参入したがるのが、零細な転売屋だ。零細な転売屋は、価格高騰の主犯ではなく、おこぼれにありつこうとするハイエナであるにすぎない。莫大な富をかすめ取っているのは、中間業者なのである。……ただし、それは、彼らが悪徳だからではない。農水省が悪徳だからだ。農水省の悪徳さに乗じて、中間業者が利益をかすめ取っているのである。その分、国民は大損する。逆に言えば、それをなくすと、国民は得をする。)

 子供の分


 なお、先の値上げ額の試算では、注意することがある。米価の高騰による損失は、育ち盛りの子供のいる家庭ほど多い、ということだ。特に、運動する男子の中学生・高校生のいる家庭では、米価の食費アップが莫大になるそうだ。大変である。
 この点からしても、米価高騰の抑止が非常に大切である。(所得税減税や私立校高校無償化なんかよりも)子育て家庭に集中した対策の方が、よほど大切なのである。

 日本全体の福祉を考えるなら、米価高騰の抑止は、喫緊の課題だと言えるだろう。
 所得税減税や、私立高校無償化なんかに、こだわっているときではないのだ。

( ※ 若い世代は米の高騰が困るが、高齢者はあまり困らない。もともと米の消費量が少ないからだ。ほとんど米を食べない高齢者も多い。そこで高齢者向けの政党は、米価の高騰をあまり気にしないようだ。立憲もそうだが、他の野党も同様だろう。)




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posted by 管理人 at 23:22 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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