──
(1) 歴史
ハイブリッド技術の歴史を見よう。
最初はパラレル型が普及したようだ。初期にはモーターも高コストだった。そこで高価なモーターは1台だけ搭載する。エンジンとモーターの力を同時に使うことで、最小限のコストで最大限の効果を出そうとした。ここでは何よりもコストの低減が重視された。(燃費性能の高さは二の次だった。)
その後、パラレルとシリーズのいいとこ取りみたいな方式を、遊星歯車を使って制御するという画期的な手法が生み出された。これがトヨタ式のハイブリッドだ。シリーズ・パラレル方式という。モーターは二つ使うが、半分ぐらいの大きさで済むので、2個分の費用はかからない。
これはあまりにも頭がいい方法だし、特許でガチガチに固めていたので、他社は全く真似ができなかった。かくてトヨタのハイブリッドが世界を占拠した。(高速燃費はやや弱かったが、製造コストが低めであるのも強みだった。)
かくてトヨタが世界を席巻したあとで、他社はどこもライバルにならないと思えた。そこへ日産がシリーズ式の e-POWER を出した。これまでのパラレルのかわりに、完全に2モーターのシリーズ式にしたわけだ。だが、モーターが2個(発電用と駆動用)も必要となり、コストが高い。ケチな経営者はコスト優先で、気乗り薄だったらしい。それでも従来のパラレル式は全然売れないので、
「コストが高い e-POWER は、とても売れそうもないが、仕方なく出してみる」
というつもりで、渋々ながら経営判断をしたらしい。
ところが、これが爆売れした。コスト優先の経営者は気乗り薄でも、モーター駆動のレスポンスの良さが消費者には大評判を呼んだ。コストの高さを補って余りある人気が出た。(2016年)
これを見て、ホンダもあわてた。実は自社でも同様のシステム(2モーターのシリーズ式)を、アコード用に開発して販売していた。(2013年)
しかしそれは大型のアコード用のシステムであって、小型車には使えなかった。そもそも2モーターなので、小型車にはコストが高すぎると思って、気乗り薄だった。しかし1モーターの自社方式ではちっとも売れないので、困っていた。
ところが e-POWER は2モーターで大成功した。これを見て、大あわてで、自社でも2モーターのシステム(アコード用と同じ方式)を、小型車用に開発した。開発には e-POWER の発売から4年もかかったが、ともあれ、 e-POWER から遅れること4年にして、ホンダも小型車で2モーター式のハイブリッドを売り出すようになった。(2020年)
(2) エンジン直結
日産のハイブリッド( e-POWER )は2モーターを使うので、コストがやたらと高い。それが当初から問題となっていた。
e-POWER の欠点として、高速燃費が悪いことは、当初から指摘されていた。そこで、「エンジン直結モードを搭載せよ」と私も指摘していたし、他の人の指摘もあったようだ。しかし日産は断固として、エンジン直結モードの搭載を拒んだ。その理由が不思議に思えたが、どうも「コストカット最優先」という方針を、技術音痴の社長(内田)が譲らなかったらしい。この点は前に述べたとおり。
→ 日産自動車はどうなる? : Open ブログ
一方、その間に、ホンダは着々とエンジン直結モードのある方式を採用した。これをもってホンダは「うちは日産よりも優れている。日産よりも上だ」と鼻高々になって威張っているようだ。
→ ホンダ関係者「別に日産の技術はいらない」
たかがエンジン直結モードの採用をしたぐらいで威張っているのだから、ホンダのレベルもたかが知れている。
一方、日産はどうかというと、エンジン直結モードを搭載しないことが問題であると技術陣は重々わきまえているのだが、内田社長があくまでもコストにこだわるせいで、なかなか決断ができないようだ。「エンジン直結モードを搭載するよりは、 e-POWER の米国販売を諦めて、米国市場をすべて捨てる方がマシだ。コストカットこそが最重要であり、そのためには市場を失って会社がつぶれてもいい」という判断をしている。
まるで「ダイエットするためには死んでもいい」というダイエット中毒の患者みたいだ。狂気の沙汰だね。(だから会社が傾いたわけだが。)
高速燃費はどうだろう。今回の説明会では内田誠社長が「高速以外ではそれなりにメリットが出てるという評価をいただいているが、高速性についてはどうかという意見もあった」と述べ、課題として認識していることを明かした。
( → ついに高速燃費が向上して価格も安く!! 日産が[第3世代e-POWER]を1年前倒しで投入か!? - 自動車情報誌「ベストカー」 )
ここには図表が掲げられている。 e-POWER はエンジン直結モードを搭載しないので、高速燃費は悪いままなのだが、図表では「高速燃費の改善」と威張っている。ホラを吹くのも同然だ。ひどいね。(最悪よりはいくらかマシになったという程度なのだろうが。)
(3) 新世代のハイブリッド
日産とホンダがシリーズ方式で愚図愚図している間に、中国系の EV 会社が圧倒的に優れたハイブリッドを開発した。シリーズ式であり、エンジン直結モードを搭載する点では、ホンダのハイブリッドに似ている。
しかも、その上に、別の利点を足している。充電池を大幅に増やして、EV 走行できる範囲を大幅に増やしているのだ。これは事実上の PHV である。
つまり「エンジン直結モード付きのシリーズ方式」から、PHV 方式へと進化したわけだ。
すると、どうなったか? 燃費が大幅に向上した。これは第二世代のハイブリッドとも言える。
そもそも、ハイブリッドの目的は、燃費の向上である。ハイブリッド方式を取ることで、燃費が大幅に向上した。しかしそれにも限度があった。
ところが、そこへ PHV の方式が出現した。するとこれは従来のハイブリッドを上回る、圧倒的な好燃費を叩き出した。まさしくハイブリッド以上のハイブリッドと言える。これによって従来のハイブリッドをすべて時代遅れのものにしてしまった。
発売しているのは、中国の BYD と Veekr である。ルノーも同じ方式を取るようになった。この三社が圧倒的に先んじているようだ。日本メーカーは完全に取り残された。技術的には大幅に遅れている。
(4) ポンピング・ロス
新世代のハイブリッドは PHV である。これは大幅に燃費が向上する。それはなぜか? その理由は「ポンピング・ロス」という概念を理解するとわかる。
ポンピング・ロスとは何か、というのは、ここでは詳しく説明しないので、ネットで各自で調べてほしい。簡単に言えば、スロットルバルブで生じる吸気抵抗によるエネルギー損失である。
こんなのはたいしたことがないように見えて、実は、非常に大きなエネルギー損失をもたらしている。エンジンの効率改善の半分ぐらいは燃焼効率の改善だが、残りの半分のそのまた半分ぐらいはポンピングロスの有無による。とにかく、ポンピングロスをなくすことが、エンジンの効率改善にとっては非常に重要なのだ。
ここで、昔は「気筒を半分だけ止めてしまう」という荒技を繰り出したこともある。ホンダの「可変シリンダー管理システム(VCM)」というシステムがそうだ。これは可変バルブタイミング機構と組み合わせて、吸気を止めることで、実質的に気筒を半分だけ止めてしまう。(ただしシリンダーの動きが止まるわけではない。空回転することになる。)
さて。これを大幅に改善するのが、(新式の)シリーズハイブリッドだ。方式は、次のようにする。
・ 走行は EV 走行を基本とする。
・ 充電はエンジン稼働による充電とする。
・ 発電は、エンジンの ONN/OFF で断続的に行う。
これは、「半分だけの気筒休止」のかわりに、「全部の気筒休止」を断続的に行うものだ。気筒の半分だけを稼働し続けるかわりに、気筒を全部稼働するのと、気筒を全部止めるのとを、時間的に半々に割り振る(ONN/OFF で切り替える)ようにするわけだ。(比率は半々である必要はなく、任意の比率にできる。)
この場合、エンジンを止めているときには、シリンダーもバルブも完全に停止しているので、ポンピングロスはゼロである。シリンダーの摩擦抵抗のロスもゼロである。無駄な吸気抵抗は一切がなくなる。こうしてロスが激減するので、燃費が大幅に向上する。……これが、新世代のハイブリッドだ。
では、従来型のシリーズ方式(日産、ホンダ)は、どうしてそれができなかったか? 電池容量が小さすぎたからだ。日産もホンダも、充電池の容量は 1.5kWh 程度であり、きわめて小さい。そのせいで、数分間も走れば、すぐに電池切れになる。だから、ほぼ常時、エンジンが稼働し続ける。そのせいで、気筒休止がないので、ポンピングロスや摩擦ロスが常に発生する。だから、エネルギー損失が大きくて、燃費が悪い。
一方、新世代のハイブリッド(PHV)は、違う。充電池の容量は 10kWh 前後があるので、数十分間を EV モードで走れる。したがって気筒休止ができるので、ポンピングロスや摩擦ロスが激減する。だから、エネルギー損失が小さくて、燃費が大幅に改善する。
かくて、BYD と Veekr とルノーは、大きな充電池を搭載することで、燃費を大幅に改善した。さらには、PHV の認定を得ることで、大幅な補助金を取ることもできるようだ。基本は 55万円。2025年からは別途 5万円の加算。合計して、60万円も補助金をもらえる。圧倒的な額だ。一方、トヨタ、日産、ホンダのハイブリッドは、補助金を1円ももらえない。
(5) 結語
もはや日本の自動車会社は、技術的にも、経営的にも、他社からは圧倒的に後れている。どうしようもないほど後れている。このままでは倒産不可避だろう。
ただし、日産に限っては、社長が交代するので、その後は、エンジン直結と充電池容量の拡大で、PHV を「第二世代 e-POWER 」として開発できるかもしれない。そうなれば、日産は生き残れそうだ。
ホンダは、技術的には最も有利であるが、「自社が何をしたらいいか」という点でまったくわかっていない(つまり EV 時代に取り残されている時代錯誤である)ので、方向性を見失うだろう。PHV の方向に向かうとは思えない。右往左往するばかりだろう。
トヨタは、遊星歯車のハイブリッド方式にこだわりすぎているので、第二世代ハイブリッドには乗り遅れそうだ。現状ではかろうじてクラウンがシリーズ式ハイブリッドを採用しているようだが、他のすべてはトヨタ式の遊星歯車のハイブリッド方式を維持しているので、それらをすべて PHV に置き換えるのは大変だろう。現状で成功しているがゆえに、新技術に移るのは難しそうだ。
かくて、日本の自動車会社は、 PHV への技術以降に乗り遅れて、すべて死に絶えるしかないのである。時代遅れとなって滅びた恐竜のように。
滅びるのは日産だけではないのだ。自分が時代遅れになっていることに気づかない会社は、すべて滅びざるを得ないのだ。

【 関連情報 】
Feloの回答
BYD(比亜迪)のプラグインハイブリッド車(PHV)は、従来型ハイブリッド車に比べて充電池容量が大幅に拡大し、燃費性能も改善されています。
充電池容量の拡大
充電池容量:BYDの最新のPHVモデルでは、充電池容量が10.08kWhから15.87kWhの範囲で設定されています。これにより、EVモードでの航続距離は80kmから120kmに達することが可能です。従来型ハイブリッド車と比較すると、これらの容量はかなり大きく、より長い距離を電力のみで走行できるようになっています。
燃費の改善
燃費性能:BYDの新世代プラグインハイブリッドシステム「DM-i」は、エンジンの熱効率が46.06%に達し、100km走行時のガソリン消費量はわずか2.9リットルという低燃費を実現しています。これは、従来型ハイブリッド車の燃費性能と比較しても大幅な改善を示しています。従来型ハイブリッド車の燃費は一般的に3.5リットルから4リットル程度であるため、BYDのPHVはより効率的な運転が可能です。
まとめ
BYDのプラグインハイブリッド車は、充電池容量の拡大と燃費性能の向上により、従来型ハイブリッド車に対して優れた選択肢となっています。これにより、消費者はより長い距離を電力で走行でき、燃料コストを削減することが可能です。
[ 付記 ]
「わかった。それじゃ、PHV を買おう」
と思う人が多いだろうが、残念なことに、売っている PHV はいずれもサイズがデカい。最も入手しやすいのは BYD の Seal だが、全幅: 1,875 mm であり、価格は 528万円だ。(補助金 60万円引きとなるが。)
サイズがデカすぎるので、ちょっと日本向きではない。中国では爆売れだが、日本では爆売れとはなりそうにない。中国車の小型化が遅れている期間が、日本車にとっては猶予期間となる。
※ プリウス PHV という小型車もある。本来ならば爆売れしてもよさそうに見えるのだが、全然売れない。コストが馬鹿高いからだ。90万円も高い。なぜか? もともとがトヨタ式のハイブリッドであるからだ。すると、「シリーズ式のハイブリッドの電池容量を増やすだけ」では済まなくなる。結果的に、シリーズ式のハイブリッドを独自に専用で新開発する必要がある。だからメチャクチャにコスト高になる。……ここでは、トヨタ方式のハイブリッドがかえって弱点となっているのだ。
[ 補足 ]
より高度な話。
ポンピングロスを減らすためには、スロットルバルブを廃止すればいい。そのためには、直噴式の燃料噴射システムを搭載すればいい。この方式で、スロットルバルブを廃止する車も多い。
しかしその場合には、エンジン回転数の低い状態では、なんらかの形で出力制御する必要がある。そのためには、「バルブトロニック」「 EGR 」などの技術を併用する。しかしそうすると、エンジンの燃焼効率の低下という弊害が生じる。ポンピングロスは減らせても、別の点でデメリットが生じる。その点では、「気筒休止」という完全な方式には及ばないのである。次善の策というか。
「気筒休止」という完全な方式を取る PHV は、はるかに進んだ新技術であり、新世代の技術と呼ぶのにふさわしい。そのメリットは、EV への過渡的形態というよりは、ハイブリッド性能が大幅に向上することだ。
※ なお、(直噴エンジンではない)ポート噴射やスロットルボディ噴射(TBI)システムでは、スロットルバルブが不可欠である。兼坂弘の大好きな筒内噴射以外はダメなのだ。
※ とはいえ、ハイブリッド車のほとんどは直噴エンジンを採用している。そのせいで直噴エンジンの市場比率は 50%を上回っているそうだ。主としてハイブリッド車の貢献が大きい。……結局、ハイブリッド車では、直噴式を採用することで、スロットルバルブを廃止していることが多い。ただし前述の理由で、効率向上には限界がある。
──
本文中では「気筒休止」という用語を用いたが、よく考えると、「エンジン停止」という方が適切だね。部分的な気筒休止でなく、全面的な気筒休止だからだ。
[ 余談 ]
ルノーはなぜ優れた PHV を開発できたのか? ルノーは技術的に特別に優れているからか?
違う。ルノーの PHV は、 e-POWER を改良しただけだ。基本は e-POWER である。日産の e-POWER の技術を使って、それを正常進化させることで、最先端の PHV にした。当り前の改良をしただけなのだ。
ではなぜ、日産は当たり前のことができなかったか? 内田社長が徹底的に開発を阻害したからだ。何のために? コストカットのためだ。開発費を節約して、技術的進歩を阻害して、とにかく経費を下がる。そのせいで車が売れなくなっても構わない。彼にとって大切なのは、会社を成長させることでもなく、会社を存続させることでもなく、帳簿の数字を改善することだけなのだ。……神学部卒の社長というのは、そういうものなのである。
( その間に、ルノーはせっせと e-POWER を改良して、正常進化させて、まともな PHV を開発した。お利口だね。もしかしたら、過去の Openブログの記事 を読んで、その指導に従ったのかも。 (^^); )
一方、ホンダはどうか? 日産同様のシリーズ式ハイブリッドの技術を持っていたが、それにガソリン車の長所を付け足すことばかりに熱中していた。他社が「ガソリン車からなるべく離れよう」としていたときに、「ガソリン車に近づけよう」としていた。技術の方向性があさっての方向を向いている。
これはなぜか? トップに優秀な人間がいないからだ。だから古い時代の流ればかりを見ていて、新しい時代の流れを見失う。
日産とホンダの統合は、ケチと愚者との結婚である。そこからは何も果実は生まれない。単に統合しても、何の意味もない。この両者の統合が意味を持つためには、新たな方向性を与えることが必要だ。それが可能なのは、鴻海の関潤だけだろう。鴻海なしでは、日産とホンダの統合は成功しないだろう。
──
日産とホンダの統合は、ケチと愚者との結婚である。そこからは何も果実は生まれない。単に統合しても、何の意味もない。この両者の統合が意味を持つためには、新たな方向性を与えることが必要だ。それが可能なのは、鴻海の関潤だけだろう。鴻海なしでは、日産とホンダの統合は成功しないだろう。