2025年02月14日

◆ 備蓄米放出の計算ミス

 米価の高騰を受けて、政府が備蓄米 21万トンの放出を決めた。だが、政府は計算を間違えているし、マスコミもそれを指摘しない。

 ──

 米価の高騰を受けて、政府が備蓄米 21万トンの放出を決めた。放出の方針はいいが、なぜこの数値に決めたか? その根拠は? 朝日新聞の記事によると、こうだ。
 大手集荷業者が昨年末までに契約できた24年産は、前年同期より21万トン(9%)少ない量にとどまる。
 2024年産の生産量は、前年よりも18万トン多くなる見込みだ。コメはあるはずなのに、なぜコメが出回らないのか――。農水省が主因とみるのが、米価の高騰を見越した「売り惜しみ」だ。
 流通の目詰まりが積み重なった結果、市場にコメが出回らず、価格が高騰し続けているという見方だ。
( → 備蓄米放出へ追い込まれた農水省 「秋に米価下がる」予想し判断遅れ [令和の米騒動]:朝日新聞

 「大手集荷業者が昨年末までに契約できた24年産は、前年同期より21万トン(9%)少ない」というのが数値の根拠だ。そして、数値が減った理由を「売り惜しみ」だと見なしている。そこで、政府が備蓄を放出すれば、業者が「売り惜しみ」をやめて、倉庫から出すので、米不足が解消し、価格は元に戻るだろう。そうなったら、その段階で買い戻せば、備蓄も戻るはずだ。かくて、ここで 21万トンを放出し、1年以内に買い戻せば()、価格は元に戻るし、備蓄も元に戻る。何もかも正常化して、うまく行くはずだ。万事うまく収まる……という目論見だ。これが農水省の算段だ。

  の点は下記。
 今回、1年以内の買い戻しを条件に、高騰の背景にあるとされる米の流通不足の際も放出できるようにした。
( → 巨大倉庫に山積みの米袋 備蓄米放出、14日に概要公表へ 農水省:朝日新聞

 ──

 農水省は上のように考えている。マスコミもそれをそのまま垂れ流している。誰1人として、その数字を問題視しない。
 だが、こんな馬鹿げた計算をするくらいなら、足し算のできる小学生に計算をやらせた方がマシだ。小学校三年生ですら、農水省よりはまともに計算ができるはずだ。農水省は、小学生並みの足し算もできないのか? 馬鹿じゃなかろうか? 

 ──

 数字で示そう。
 
 農水省の発想は、こうだ。
    −21+21=0

 こうして、21 減った分、21 を足せば、差し引きして 0 になるはずだ、と考える。これが農水省の発想だ。いかに馬鹿丸出しであるか、上の数字を見ただけでもわかるはずだ。
 なぜか? 上の数字は、2024年産米の分だけだからだ。2023年産米の分が計算に入っていないのだ。では、2023年産米の数字はどうだったか? 米の生産量自体が少なかった上に、猛暑で品質が悪くて、精米の歩留まりが悪かった。双方を合わせて、精米の量は 29万トンも少なかったようだ。
 作年(23年)産のコメは減反により前年産より9万トン少なかった。これに猛暑による精米歩留まりの減少が20万トンであったとすると、供給量は基準年に対し29万トン少なくなる。消費(昨年の7月から今年の6月まで)について農林水産省は、インバウンドなどで11万トン増加しているとしている。以上から、コメの不足量は40万トンとなる。
( → RIETI - 令和のコメ騒動、根本的な原因を問う

 米の供給が 29万トンも減っていて、需要が 11万トン増えていたから、総計で 40万トンの不足が発生していたことになる。その分、倉庫が空になったことになる。その結果は、翌年に持ち越される。
 これを今年産の早期米で早食いすれば、40万トンの不足は次の期(今年の9月から来年の8月まで)に持ち越されることになる。
( → 同上 )

 上の記事を読んで、「よくまあ情報を見つけたな」と思う人がいるかもしれないが、全然違います。これは私が考えたことだ。このくらいのことは小学生でもわかるはずだ。そこで、その情報をネットで探したら、秒で見つかった、というわけだ。

 ともあれ、上の話の要点は、こうだ。
 「昨年夏に倉庫の米を食い尽くしたら、倉庫は空っぽになる。空っぽになった倉庫に、在庫となる米を入れる必要がある。その分だけで 40万トンは必要になる。別に悪徳業者がこっそり貯め込んでいるわけではない。正常化の過程で 40万トンを貯め込むのは必然だ」
 政府は、24年の生産量だけを見て、「生産量は不足していない」と認識する。その上で、業者が「売り惜しみ」をしているから米不足になっている、と考える。だが、その考えは、まったく狂っているわけだ。
 正しくは? 23年の供給量(精米量)の不足を見て、「23年の分の供給量は不足した」と認識するべきだ。その上で、「昨年は倉庫は空っぽになったから、その分が今年に持ち越されている」と認識するべきだ。悪徳業者が米をこっそり隠しているのではない。まともな業者が、空っぽになった倉庫に在庫を戻しているだけなのだ。

 だとすれば、政府がなすべきことは、ただ一つ。「備蓄の放出による需給の安定」である。ではどういうふうに?
 まずは、24年産米の分だけを見て、「生産量は足りている」と見なすのではなく、23年産米の分を見て、「生産量は 40万トンも足りなかったし、そのせいで倉庫の米も 40万トンも足りなくなった」と見なすべきだ。

 そこから得られる結論は、こうだ。
 「放出量は 30〜40万トンである。それを今年の秋まで続ける。今年の秋の生産量を見て、備蓄を買い戻すかどうかを決める。長期的には、5年間程度の期間で安定させればいい。1年ごとに帳尻を合わせる必要はない。1年ごとなら、多少の増減はあっていい。不足するときに供出し、余ったときには買い上げる。それが備蓄という制度の基本政策だ」

 ──

 結局、大切なのは、こうだ。
  ・ 米の過不足は、23年にも24年にも起こる。今年の分だけで考えるな。 
  ・ 23年産米で不足したら、その分を計算に入れよう。
  ・ 倉庫が空になったら、倉庫に在庫を入れる必要がある、と知れ。
  ・ 先食いしたら、その分、後で足りなくなる、と知れ。
  ・ 備蓄は変動を吸収するためにある。短期で帳尻を合わせようとするな。


 こんなことは小学生でもわかるだろう。(6年生ぐらいならば。)
 特に大切なのは、「先食いしたら、その分、後で足りなくなる」ということだ。早弁をしたら、昼食時には食べるものが減ってしまう。そのくらいのことは、誰だって理解できるはずだ。
 なのに、農水省は、それを理解できない。「早弁をしたら後で足りなくなる」という原理を理解できない。つまり、24年の夏に早食いをしたのだから、その分、25年の分では不足が発生するのだ、と理解できない。あげく、「25年の分では需給が釣り合っているはずだから、過不足は生じないはずだ。もし生じているとしたら、誰かが売り惜しみをしているからだ」と考える。「早弁をしたら後で足りなくなる」という原理を理解できない。 馬鹿丸出しである。

 農水省は、小学生や中学生並みの知恵がない。そして、マスコミもまた同様である。どうして米が不足しているか、理解できないのだ。(昨年夏に倉庫を空にした、ということを、すっかり忘れてしまっているのである。国民全員が、痴呆症になっている。)
 

 《 加筆 》
 「弁当の飯を食ったら、弁当は空になる」と子供は理解できる。
 「倉庫の飯を食ったら、倉庫は空になる」と農水省は理解できない。倉庫の飯を食ったあとも、倉庫はまだいっぱいに米がある、と信じている。米はたくさんあるはずなのに見つからないのは、誰かが隠しているからだ、信じている。「自分が食べてしまったものは、もうこの世に存在しない」ということを理解できない。早弁とは何かを理解できない。あまりにも愚かすぎる。
 なぜか? 痴呆症だからである。自分がかつて食べたことをすっかり忘れてしまったのだ。



 [ 付記 ]
 正しい計算は? こうだ。
    −40+40=0
    −40+21=−19

 つまり、もともと 40万トンの不足状態があるのだから、それを埋めるには 40万トンの備蓄放出が必要だ。それだけ放出すれば、米不足は解消する。
 なのに、21万トンの備蓄放出だけにとどめれば、40万トンの不足状態を埋めるには足りないから、19万トンの不足状態が残る。これでは米不足は解消しない。

 ただし、現実には、次の効果もある。
 「価格高騰のせいで、米の需要が減っていた」
 この分が 10〜19万トンぐらいあれば、「19万トンの不足状態」というのはかなり緩和されることになる。米不足は9〜0万トンまで緩和されることになる。つまり、うまく行けば、21万トンの備蓄放出だけでも、状況はかなり緩和される。21万トンのあとでは、追加の備蓄放出は 9〜0万トンだけあればいいことになる。

 ただし、それも「1年後には買い戻しをしない」ということが条件だ。「1年後には買い戻しをする」という現行方針を取ると、1年後にはふたたび「21万トン以上の不足」が発生する(昨年夏の不足が持ち越される)ことになるから、ふたたび米価は高騰することになる。
 その高騰を見込むと、たいていの業者は売り惜しみをすることになるだろう。つまり、業者が売り惜しみをすることは現実に起こり得る。その理由は「1年後には買い戻しをする」という農水省の方針だ。(馬鹿すぎるね。自分で自分の首を絞める。計算できないせいで。)

 
posted by 管理人 at 23:26 | Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 付記 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2025年02月15日 08:49
どちらが正しいのか私にはわかりません。昨年の消費量が増えているならそれは米が少なく、高くなったのでとりあえず確保しておこうとする心理によるものでしょうか。
 農水省は嫌がるでしょうが本当に足りないのならカリフォルニア米を輸入すればよいと思います。ジャポニカ種です。おいしくて、多分安くて、トランプさんも大喜びです。
 基本的に日本のコメは高すぎます。後継者が少なくなっているちょうどこの機会に大規模機械化農業に転換するような施策をするべきだと思います。
Posted by ひまなので at 2025年02月15日 10:52
> 昨年の消費量が増えているなら

 そんなことは書いていませんよ。ちゃんと読んでください。

 ──

 最後のあたりに  《 加筆 》 を挿入しました。
 「自分がかつて食べたことをすっかり忘れてしまったのだ」
 という話。

 わかりましたか? 食べる量が増えたのではない。自分が食べたことを忘れてしまったんですよ。

 
Posted by 管理人 at 2025年02月15日 11:25
我が近隣の農家さん どちらも昨年は二俵ほどは玄米の状態で出荷せんかったみたいです  管理人さんの推論、論理も間違いないでしょうが 米農家の数を50万としてそれぞれ100キロを出荷せんかったら5万トンが流通してないわけですが
 まあ零細農家も多いの5万は盛りすぎかもです
Posted by k at 2025年02月18日 17:56
 本項と同じ趣旨の話が、下記で報道されている。
  → https://www.dailyshincho.jp/article/2025/02191217/?all=1

 政府の説明(流通在庫に溜まっている)は嘘である。
 正しくは、純然たる量の不足である。
 その理由は、昨夏の不足による、本年分の米の先食いである。

 上の三点を記している。本項と全く同趣旨だ。違うのは、日付だけだ。本項は14日。上記記事は5日遅れの2月19日。
Posted by 管理人 at 2025年02月25日 22:23
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