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朝日新聞の記事。
警察に保護された人の容体が急変し、その後に死亡する事案がなくならない。
福岡県田川市。2024年2月23日午後11時半ごろ、通行人から「駐車場で男性が寝込んでいる」と110番通報を受け、警察官が向かった。男性(当時53)は泥酔している様子だったため、県警田川署で保護することになった。
同署の保護室に入ってから約4時間後、男性が嘔吐しているのに署員が気づいた。男性は病院に救急搬送されたが、その後に死亡。死因は前頭部打撲による頭蓋内損傷だったという。
保護した人が亡くなるケースは、23年12月に警視庁と岡山県警で、24年は4月に鹿児島県警、9月に福岡県警でもあった。福岡県警では今月9日にも、保護した男性がその後に容体が急変して死亡した。死因は病死だった。
夜間や早朝の署の当直時間帯は事件や事故への対応があり、保護した人の対応も含めて警察官の負担は大きいという。
田村教授は……専門家に相談したり遠隔で容体を確認してもらったりできる仕組みを作るなど、「各機関との連携も必要だ」と語った。
( → 急変対応、人員不足の中で模索 警察保護後に容体が…後を絶たない死亡事案:朝日新聞デジタル )
この問題のポイントは何か? こうだ。
「泥酔者と脳障害者を区別すること」
そこで、この件の専門情報を調べるために、AIに質問してみた。
「泥酔と頭蓋内損傷を区別するためには?」
回答はかなり長くなったが、ポイントは次の3点だ。
・ 問診による意識レベルチェック。特に、GCS で。
・ 瞳孔のチェック。(泥酔ならば瞳孔に異常はない。)
・ アルコール濃度のチェック。(数値が高いと泥酔。)
このうち、警察でもできるのは、アルコールの呼気検査だ。正確な血中濃度はわからないが、おおまかなアルコール摂取量はわかる。検査にかかる時間は数秒だ。(呼気を吐くだけでいい。)
以上のテストで、ある程度は区別ができる。泥酔だと判明した場合には、危険度が下がる。泥酔でないと判明した場合には、危険度が急上昇する。ただちに救急車を呼んで、搬送するべきだ。これによって脳障害者の死を避けることができる。
※ 外出血していないで内出血しているのであれば、死ぬまでには数時間の余裕があるから、その間に手術をすれば、命は救われる。
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以上が、正しい手順だ。これが医学的に正しいはずだ。(念のため、医者による監修も受けてほしいが。)
ひるがえって、警察庁の立てた新方針は、間違っている。それはこういう方針だ。
警察庁は事故を未然に防ごうと、保護する際に体をつぶさに観察し、異状があれば応急救護を行い救急要請をするよう、24年12月19日に全国の警察へ指示した。
これは「事故を未然に防ごう」という方針はいいのだが、手法が完全に間違っている。
・ 診断者は医療関係者でなく、ただの警察官である。
・ 体を見るが、瞳孔を見ない。
・ 問診(GCS)も しない。
・ アルコール呼気検査もしない。
要するに、やるべきことを何もやらないわけだ。こんなことではダメだ。
《 加筆 》
異常が疑われる場合には、病院に回してから、CT による脳内画像で診断することが必要となる。そのような対象者をきちんと選び出すことが、警察の場で必要となるわけだ。
それができれば、助かるべき命が助かる。酔っ払いだと思って、何もしないで留置場に寝かせていれば、命が失われる。
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なお、警察に人員がいないのであれば、次の処置を取るといい。
・ 忙しい週末には、非正規雇用警察官(再雇用警察官)
・ 看護師をもつ警察官に、特別の肩書きを与えて処遇する。
特に、後者は大切だ。現実には、看護師をもつ警察官は、何の処遇も受けていない。これでは宝の持ち腐れだ。というか、そもそも、そういう職員が少ない。(警察官よりも看護師の方が給料がいいので、警察官にならないことが多い。)
警察官が看護師になるのは大変だが、看護師が警察官になるのは(体力があれば)比較的容易だ。そこで、体格のいい看護師を対象に、「看護警察官になりましょう。特別資格を得るので、一般の警察官よりも給料がいいですよ」とPR するといい。階級としては、巡査や巡査長でなく、その上あたり(巡査部長)になるのがいいだろう。
あるいは、階級は普通にしたまま、特別手当を出すという手もある。
※ 応募者はいるか? いるはずだ。なぜなら、看護師は夜勤があることが多いからだ。「夜勤がない警察官」という触れ込みをすれば、「育児に便利そう」と思って、応募してくれる女性もいるだろう。……現実には、夜の勤務は多そうだが、未明に勤務することはほとんどないので、その点では、未明に勤務する看護師よりも、ずっと楽だ。
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ちなみに、科捜研の担当者の給料は、特に良いわけではないそうだ。一般の警察官よりは上だが、民間の研究職に比べると、やや劣るぐらいらしい。中小企業の研究職ぐらいか。トヨタや日産の技術者に比べると、大幅に劣ることになる。
もっとひどいのは、鑑識係員だ。特殊な技能を求められるのに、給料は一般の警察官と同程度だという。
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/johokoukai_portal/kunrei/kunrei_chiiki.files/003_01.pdf
これを実施する人員の余裕がないということでしょう。
もう一点難しいのは酩酊して転倒したり、何かに激突して頭蓋内病変を併発している場合ですね。これは医療者でも身体診察では区別がつかないことは珍しくありません。ERでは酩酊で救急搬送されてきたらルーチンでCTをとるところもあります。見落としたらそれこそとんでもない賠償をしないといけないので。
だけど、読んでみたら、うーん。中途半端だな。
きちんと判定するためには、診断が不足気味で、半分ぐらいしか診断できていない。
ただの素人警察官がやるには、高度すぎて、ちょっと手に負えない。「おれには無理」と投げ出しそうだ。
やはり、専門性のある「看護警察官」という特別資格者が必要になるだろう。人員の余裕がないというより、もともとそれだけの能力のある人がいない。今後、新規採用するべき。
CT の件は、書き落としたので、加筆しておきます。