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阪神大震災から 30年。あちこちで回顧記事が報道されている。
ここで被害を減らすための教訓を考えよう。
圧死が多い
まず、被害の種類はどうだったか? 圧死が圧倒的に多かったそうだ。
1995年1月17日に発生した最大震度7の地震では、6434人が死亡し、約10万5千棟の住宅が全壊した。兵庫県のまとめでは、直接死の72%が建物倒壊などによる「窒息・圧死」で、特に震度6強〜7でも倒壊しないとする81年の「新耐震基準」導入前の建物に被害が集中。
( → 住宅耐震、過疎地進まず 高齢化率高い市町村 朝日新聞社分析:朝日新聞 )
このあとで耐震化の基準が引き上げられ、以後の建築物では耐震性が高まっているそうだ。
95年に耐震改修促進法が施行され、戸建てやマンションなど全国の住宅の耐震化率は03年の約75%から18年には約87%に上がった。
それでも戸建て住宅(木造)は、古い耐震基準のままの建物が多く残っている。都心部では、コンクリートのマンションや新築建築が多いので、耐震化率は高いそうだが、郊外や地方では、倒壊しやすい建物が多い。
これらはなかなか改築が進まない。困った。どうする?
耐震リフォーム
この問題を解決するために、耐震リフォームをする事業がある。新築の半額で耐震とリフォームをやってくれるそうだ。
木造住宅が倒壊し、多くの犠牲者が出た1995年1月の阪神・淡路大震災。その翌年に始まったのが、「新築そっくりさん」の名前で知られる住友不動産のリフォーム事業だ。新築のほぼ半額で一棟丸ごとを全面改装するのが売りで、これまでに約17万棟を手がけた。震災を機に「古い家を地震に強くしたい」という元社長の思いが事業誕生のきっかけだった。
( → 住宅耐震化商品、阪神大震災が契機 建て直さず補強、「新築そっくりさん」17万棟:朝日新聞 )
事例ではこうだ。
古いはりや土台など再利用できる部材は使い、無駄な工程を省いて人手も最小限にした。
対面式のキッチンなどを新設。柱と柱の間に壁を補強する「筋交(すじか)い」を入れ、地震に備え改修した。……戸建ての場合にかかる費用は、平均1700万円という。
1700万円というのはずいぶん高いな、と思ったが、新築戸建ての建築費用は(土地抜きで)3600万円ぐらいになるそうだ。1700万円ならば、半額以下だから、文句は言えまい。
とはいえ、ない袖は振れない。手元不如意ならば、どうすればいい?
耐震改修の補助金
旧耐震基準で建築された古い木造住宅(昭和56年5月末日以前に建築確認を得て着工された木造住宅)に限り、補助金をもらえることがある。自治体によって異なるが、横浜市の場合、一般世帯で 100万円(非課税世帯で 140万円)の補助金をもらえる。
→ 横浜市木造住宅耐震改修補助制度について 横浜市
横浜以外の例については、下記を参照。
→ 耐震補強の補助金とは?申請に必要な条件から方法までご説明!
自分の住んでいる地域がどうであるかについては、各自でググるのが手っ取り早い。
ともあれ、この形ならば、耐震工事の補助金がもらえるので、かなり少額で耐震工事ができる。(補助金の比率はおおむね半額弱と見込めばいいだろう。)
ただし、住宅のリフォーム費用(断熱改修)などは、含まれない。それまでやると、大幅に工費が上がる。
耐震工事の内容
耐震工事の内容は何か? 先の記事には《 柱と柱の間に壁を補強する「筋交(すじか)い」を入れ 》という手法が記してあった。他にもある。
・ 壁を追加して補強する。
・ 古い工法だと基礎に鉄筋が入っていないので、鉄筋入りの基礎を追加する。
超低額の対策
耐震工事をするにしても、(多ければ)百万円単位の金がすっ飛んでいく。そんなに金は出せない、という高齢者も多いだろう。
50歳ぐらいならば、将来はまだ長いのだが、60歳、70歳となると、将来は長くない。せっかく工事をしても、建物ばかりが長持ちして、自分がポックリ死んでしまうのでは、工事が無駄になる。特に、新築工事は無駄だ。建物が 50年以上ももつのに、自分の寿命が 10〜20年だとしたら、必要もない期間のために大金を払うことになる。それだったら、中古住宅のリフォームでもする方がマシだ。
いっそのこと、「壊れるまで工事はしない」という方策もある。お薦めするわけではないのだが、「金がない」という低所得世帯では、ない袖は振れないのだから仕方ない。だが、そのまま何もしないのでは、冒頭のように圧死してしまう。それはまずい。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「壊れるまで工事はしないが、何もしないわけではない。工事以外の方法で、圧死を免れる」
では、具体的には、どうするか? 次の3点だ。
・ なるべく1階でなく、2階で過ごす。
・ 1階では、洋間で過ごす。頑丈なテーブルを用意する。
・ 1階では、和室や、コタツは不可。タンスは撤去する。
この3点を守れば、圧死を避けることができるだろう。いざとなったら、頑丈なテーブルの下に逃げ込めばいいからだ。
上の方法ならば、費用はかなり低額で済む。100万円以内で済む。それで命が助かるなら、お安いものだろう。
( ※ 命よりも 100万円の方が大切だ、という人は、100万円を惜しんで、死ねばいい。自業自得だ。)
( ※ 畳からフローリングへの変更は、約9万円〜35万円程度が相場だ。フローリング材の種類や施工方法によって価格が変動する。他に壁材の変更も含めると、高くて 100万円ぐらいになる。)
なお、上の方法では、「和室や、コタツは不可。タンスは撤去する」というのがキモだ。というのは、圧死の大部分はこうであると推定されるからだ。
「和室で、コタツでぬくんでいたら、地震が来て、タンスの下敷きになって、動けなくなって、圧死してしまった」
実際には、タンスのせいというばかりではなく、天井や壁が崩れて、その下敷きになった例も多いようだ。特に多いのは「1時間ぐらいは生きていたが、そのまま圧迫され続けたせいで、呼吸困難になって、窒息死してしまった」という例であるそうだ。
→ 地震発生直後:3842人の意外な死因「なぜ、圧死(即死)はわずか8%だったのか」【阪神・淡路大震災25年目の真実】
ともあれ、「倒壊した建物から身を守るための頑丈なテーブル」というのが、何よりも大事だろう。それが生死を分ける。
※ 小学校の防災訓練でも、「地震が起こったら机の下に隠れる」という訓練をしている。これは大切なことだ。
[ 付記1 ]
ちなみに、私の家だと、1部屋だけが平屋(1階建て)であり、他の部屋は2階建て構造だ。したがって、この平屋部分で過ごしていれば、1階でも安全度が高いことになる。日常的にこの部屋で過ごしていれば、死ぬ危険度が下がることになる。
ともあれ、「一部だけが平屋構造」という家だと、事情がまた変わるわけだ。いろいろあるね。
[ 付記2 ]
「余命が 20年もない高齢者なら、戸建て住宅を売却して、賃貸マンションに引っ越した方が、安上がりでは?」
という気もしたが、そうでもないようだ。
近郊だと、マンションの賃貸料は、部屋の広さにもよるが、狭くても 10万円ぐらい。広いと 30万円ぐらい。仮に月 30万円だと、年に 360万円。管理費込みで 400万円。10年で 4000万円。20年で 8000万円。……こんなに家賃を払うくらいなら、リフォームで 1700万円を払う方がマシだ。(ただし手元に費用の現金が必要だが。)
家賃はメチャクチャに高くなっているね。値上がりが話題になっている食費の比じゃないな。
販売価格は、143万円/三畳〜350万円/六畳(下のリンク)。NHKでも取り上げられた、ヤマヒサのセイフティールーム「シェル太くん」は186.3万円/六畳(?)。
https://www.city.sanda.lg.jp/material/files/group/37/00-01sheruta.pdf
さすがに管理人さんはどうしたら家屋が倒れないようにできるかとか、どうしたら圧死を免れるかとか積極的な対応を考えておられます。うれしいです。
地震で怖いのは建物倒壊とともに火災です。自分の家から火を出さなかっても近所から火災が出れば延焼は免れられません。地震国日本ではもっと行政に力を持たせて、火災予防義務を住宅所有者に課すべきだと考えます。現在東京ガスはメーターに感震遮断装置をつけています。電気もそうすべきです。移動できる石油ストーブは危険物として禁止すべきです。そのほかにも多くの危険があります。木造密集は危ないとか言いながら何の積極的対応もとられていません。我々が声を上げるべきではないでしょうか。
現状を正確に把握して最適な対策を提案できるかどうかは、設計者・施工者の個人スキルによるところが大きくて、なかなか一般化しづらい面もあります。耐震診断に補助金が出たりするので、○○震災後○年などの日を契機に、まずは現況調査から始めたら良いのですが、危機感がないとなかなか動かないんですよね。