【 訂正 】 「免れた」と上に記しましたが、免れていません。本項は執筆の時点で、根本的な事実誤認がありました。 訂正の話は、最後に記しています。
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時速 194キロの暴走をしたせいで衝突事故を起こした、となれば、危険運転致死傷罪に該当しそうだ、と思える。ところが現実には、裁判では危険運転致死傷罪を免れた。2024-11-29 の大分地方裁判所判決だ。
【 訂正 】 「免れた」と上に記しましたが、免れていません。詳細は、最後の 【 追記 】 で。
→ 一般道を時速194キロで爆走して死亡事故、なぜこれが「危険運転」じゃない | JBpress
→ 時速194キロが“過失”? 危険運転致死罪は適用されるのか | NHK
→ 危険運転?過失運転?その境界線|コラム
解説図もある。

出典:読売新聞
この事故はどうして起こったか? 直進車と右折車が、交差点で進路が交わったことで、衝突した。
ここでポイントなのが、夜間だったということだ。夜間だと、相手の自動車の姿が見えない。だから相手の自動車の速度も見えない。右折車は、相手のライトを見ながら、相手との距離だけを見計らった。そして、こう思ったはずだ。
「相手の車との距離は 200メートルほどある。ならば、その間にしっかり右折できるはずだ」
なるほど。相手の車が時速 50km ぐらいならば、その考えは成立する。時速 50km は、秒速約 14メートルなので、200メートルを進むには 14秒ほどかかるはずだからだ。その 14秒の間に右折すればいい。「十分に間に合うはずだ」と計算したはずだ。
ところが実際には、直進する車は時速 194km だった。約4倍の速度だったので、かかる時間は4分の1ほどだった。14秒かかると思ったら、実際には 3.5秒後に現れた。かくて、3.5秒後に衝突した。
「そんな馬鹿な!」
と右折車は思っただろう。思った一瞬後には、衝突で撥ね飛ばされて死亡した。194km の衝突を受けて、車はぺしゃんこになった。
→ ぺしゃんこの車体
ここでは、事故の原因は、タイミングのずれだ。普通の速度ならば安全だと思って右折したら、相手が高速すぎたので、間に合わずに衝突した。夜間だから、ライトを見ても、相手の速度はわからないので、タイミングのずれのせいで、衝突した。
この事故の直接的にな原因は、速度が高速であったことだけだ。高速だったから、タイミングのズレが生じて、衝突が起こった。
一方、左右のハンドル操作は関係ない。直進路の運転で、あくまで直進していただけだ。左右に逸れたせいで衝突したわけではない。運転の制御ができなくなったわけではない。
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ここで、法律の条文を見よう。すると、危険運転致死罪の規定は、いろいろとあるが、こうなっているとわかる。
「運転が高速になったせいで、運転の制御ができなくなった場合のみ、処罰する。一方、単に高速であるだけならば、処罰しない」
つまり、「単に高速であるだけならば、処罰しない」というふうに、あえて高速運転を除外しているのだ。だから、時速 194km であろうが、時速 300km であろうが、どれほど高速の暴走をしても、そのことだけでは処罰されないのである。なぜなら、条文が「処罰しない」というふうに規定しているからだ。
ここまで見れば、物事の本質がわかる。
今回の事故を「危険運転致死罪に該当しない」と判決したのは、明らかに不合理である。だが、その不合理さは、裁判所が判決を間違えたから不合理なのではない。裁判所が判決を正しくなしたからこそ不合理なのだ。なぜなら、法律そのものが不合理な規定をかかえているからだ。「危険な運転をした人を、危険運転致死罪で罰してはならない」と。(すくなくとも超高速運転をした人については、そうだ。)
要するに、法律そのものが欠陥法だったのである。どうしてこういう欠陥法を決めたのかは、よくわからない。たぶん、運転や事故のことをろくに理解できない阿呆が、交通法規を決めたのだろう。(法律家は事故の実務のことを理解できないのだ。時速 200km は危険だ、ということは、子供でもわかることだが、子供よりも愚かなのだ。)
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現在の危険運転致死罪の規定は、欠陥がある。そのことが、いくらか理解されてきたらしい。だから、今はこの規定を改める方向で、改定の作業が進んでいるそうだ。近い将来では、過度な高速運転は、危険運転致死罪が適用されることになりそうだ。
だが、それで「万事解決」ということになるかどうかは、心許ない。なぜなら、関係者は、この問題の危険性がどこから来ているか、よくわかっていないようだからだ。単に「速度で規定を入れればいい」というぐらいにしか思っていないようだ。
法律家が勝手に法文を決めるだけでなく、交通安全の専門家のアドバイスを受けるべきだ。交通や自動車の専門家の意見をもっと尊重するべきだ。理系の技術者の判断を重視するべきだ。法律家だけで勝手に決めるべきではない。……私はそう思う。
[ 付記 ]
実を言えば、危険運転致死罪の問題よりも、もっとずっと重要な問題がある。それは、高齢者による「アクセルとブレーキの踏み間違い」の問題だ。これを避けるには、「高齢者に自動ブレーキ車を義務づける」(自動ブレーキ車専用免許を与える)ということが必要だ。
実際、高齢者による「アクセルとブレーキの踏み間違い」の事故は、多数起こっている。一方、時速 200km ほどの暴走による衝突事故なんて、滅多に起こらない。こんなレアな事故のためにさんざん法律論議をするよりは、むしろ、「高齢者に自動ブレーキ車を義務づける」法案を通すべきだ。
なのに、そうしない。だから「アクセルとブレーキの踏み間違い」の事故が多数起こる。
高齢者の運転する車が児童の集団に衝突した事故の例として、2016年に神奈川県横浜市で発生した事故が挙げられます。この事故では、87歳の男性が運転する軽トラックが、集団登校中の小学生に突っ込むという悲惨な事態が起きました。
日時: 2016年10月28日午前8時頃
場所: 神奈川県横浜市港南区の市道
6歳の男児が死亡し、他の8人の児童が重軽傷を負いました。
「アクセルとブレーキの踏み間違い」の複数死亡の事故の例を、AIに求める。
1.
2024年3月、東京都杉並区の母子死亡事故
この事故は、2023年12月に東京都杉並区で発生しました。運転していた男性がブレーキとアクセルを踏み間違えた結果、歩道にいた母子2人が車にひかれ、死亡しました。
2.
2024年2月、福島県の駅前事故
2024年2月15日、福島県のJR鏡石駅前で72歳の女性が運転する軽乗用車が、駅前の歩道にいた人々に突っ込みました。
3.
2023年11月、愛知県の歩道事故
2023年11月、愛知県名古屋市で85歳の男性が運転する車が、歩道にいた数人の通行人に衝突しました。この事故では、2人が死亡し、他の数人が重傷を負いました。
交通事故の死者を減らすためには、こちらを改正することが何よりも優先となるはずだが、法律家は、自分の関心のある法律だけをいじくり回している。現実の死者を減らすことには、てんで興味がないのだ。法律ごっこが好きなだけなのだ。
【 追記 】
「危険運転致死傷罪を免れた」と書いたが、免れていなかった。判決では、危険運転致死傷罪が適用された。(裁判員裁判で。)
本記事は、12月23日に書かれたが、1カ月ほど前の話なので、記憶があやふやになっていたようだ。下書きメモを見ながら話を再構成していったが、11月28日の下書きメモだったので、11月29日の判決を見ていなかったようだ。そのせいで事実誤認が起こった。
では、あらためて考え直すと、どうか?
「危険運転致死傷罪を免れた」ということはなく、「危険運転致死傷罪が適用された」ので、事情は問題がないようにも見える。だが、本件は裁判員裁判による判決なので、高裁では判決がひっくり返る可能性がある。というか、ひっくり返るのが当然だ、というのが私の判断だ。なぜなら、法律を条文通りに解釈すれば、ひっくり返るのが当然だからだ。(つまり、今回の地裁判決は否定される。裁判員裁判の判決は、法律の素人による法律解釈の誤認と見なされて、否定される。)
どうしてそうなのか、ということは、本文で説明したとおり。つまり、法律そのものがそうなっているからだ。
※ 裁判員裁判の判決では、法律よりも常識に従って、判決を下したのだろう。しかし、法律で「無罪」と規定されている者を、常識に従って「有罪」にするのは、罪刑法定主義に反する。それは民主主義国家では、あってはならないことだ。悪事を処罰するには、まずは法律を整備するべきだ。法律が不備だからといって、不備な法律の恣意的解釈で悪事を処罰するのは、正しいことではない。……それが、本項の趣旨だ。
>今回の事故を「危険運転致死罪に該当しない」と判決したのは、明らかに不合理である。
本記事の事故については、11月28日大分地方裁判所にて危険運転致死罪が認定されています。
・朝日新聞:時速194キロ死亡事故、危険運転致死罪で懲役8年の判決 大分地裁
https://www.asahi.com/articles/ASSCW7X33SCWTIPE012M.html
・NHK:時速194キロ死亡事故 懲役8年判決 “危険運転”適用 大分地裁
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241128/k10014651661000.html
ただし検察側、被告側の双方が控訴しており確定はしていません。
ご指摘を受けて、これから記事を書き直します。
運転の制御には、進行方向の制御と速度の制御の両方が含まれると考えます。高速運転のせいで、事故を防ぐための減速ができないという状況は、危険運転致死傷罪が適用可能だと考えます。
単に高速であるため、事故を防ぐ減速が不可能になっているので、危険運転致死傷罪が成立しないという考え方も可能だとは思いますが。