2024年12月19日

◆ 日産とホンダの将来 .1

 ( 前項 の続き )
 日産とホンダが経営統合した場合、将来はどうなるだろうか? 技術的な話を考えてみる。

 ──

 鴻海は黒船襲来 


 前項の最後では、鴻海の話をした。
 そこでちょっと思ったが、これは「黒船襲来」に似ている。国内が安穏としていたら、黒船がやって来て、大騒ぎ。泰平の眠りを覚ます蒸気船。(1853年)
 その後は西洋を排除したがる攘夷派が跋扈する一方で、中国(清)がアヘン戦争で英国に負けて植民地化されるという話(1842年)も伝わっていた。 その後、黒船襲来で、日本もその二の舞になりかねない、という恐怖が生じた。
 そのあげく、最終的には大政奉還が起こって、明治維新の形で落ち着いた。ここまでたどり着くには紆余曲折があったが、そのきっかけは黒船襲来だったと言えるだろう。これが日本に大改革をもたらした。
 今回の日産・ホンダの経営統合も、これに似ている。鴻海という黒船が到来したことで、かつての明治維新が起こるように、日産・ホンダの経営統合が起こった。外圧によって国内の大改革が進んだのだ。
 こういうふうに歴史的な位置づけをすることができそうだ。

  ※ 歴史観というものは大切だ。大きな時代の流れのなかに位置づけることで、意味がわかるようになる。

  ※ このあとは、技術の話をします。

 CVT の問題


 日産の経営悪化の理由は何か? その最大の理由は変速機だ、と先に指摘した。3項目ある。
  → 日産没落と CVT: Open ブログ
  → 日産が北米市場から撤退: Open ブログ
  → 日本企業の技術軽視 .3: Open ブログ

 その前には、特に CVT に絞って、「これが問題だ」と説明した。
  → 日産の CVT をどうする?: Open ブログ(2019年04月26日)
  → 日産の不振の原因は?: Open ブログ
  → ジヤトコとアイシンは合併せよ: Open ブログ

 日産のガソリン車が立ち直るには、CVT を捨てるしかない。かわりに AT を採用するべきだ。その AT をどこから入手するかが問題だ。トヨタ系のアイシンか、ドイツ系の ZF から入手するしかあるまい……と想定した。(ホンダは供給してくれそうにない、と思えた。)

 どころがここに来て、ホンダと提携すれば、ホンダから AT を入手することができて、日産の懸念は一挙に解決できそうだ。
 ホンダはかつては AT から DCT に乗り換えたが、 DCT は(高温多湿の)日本では故障ばかりして使い物にならないので、 DCT から AT に回帰した。その点では、生産上の問題はあるまい。もしかしたら、ジヤトコを傘下に収めて、ジヤトコで生産するようになるかもしれない。それなら、ジヤトコが CVT 生産をやめることもできるだろう。
 また、ホンダにとっても、悪い話ではない。というのは、ホンダはガソリン車をシリーズ系のハイブリッドに移行しつつあるので、変速機が不要になっており、AT の生産量が大幅に減っていくからだ。その減った分を、日産に回せば、日産のガソリン車はホンダから AT を受け取ることができる。こうしてホンダと日産が win-win の関係になれる。おたがいに得をするわけだ。

 日産としては、業績悪化の最大の原因である CVT を脱することができて、業績改善のメドが立つことになる。

 ※ とはいえ、経営者が「原因は CVT だ」と認識できていないことが、根本的な問題だとも言える。経営者が技術音痴なので、どこに問題があるか、技術的に理解できないのだ。そこで、やみくもに「コストカット」と唱えて、労働者と下請け会社にしわ寄せしようとする。経営者が無能だと、本当の問題点を解決するかわりに、見当違いの箇所ばかりをいじろうとする。……これが現在の日産の最大問題だ。ここが是正されることが期待される。そのキーワードが「 CVT 」だ。

 《 加筆・訂正 》 
 以上の話には、不正確なところがあったので、本項の末尾で加筆しています。

 VCターボ


 日産は「技術の日産」と標榜して、画期的な新技術を開発した。可変圧縮比エンジン(VCターボ)である。「これぞ夢の技術の実現だ」と日産は標榜して、大威張りだった。本サイトでも紹介したことがある。
  → 日産の VCターボ が発売へ: Open ブログ
  → 日産の新型エンジン(VCターボ): Open ブログ
  → e-POWER + VCターボ は無効: Open ブログ

 日産の新技術を紹介したあとで、いずれの項目でも、「期待できるか? 否!」と結論している。それぞれの項目では、コストやらなんやら、いろいろと理由を付けているが、根本的な理由は別にある。これまでは特に記さなかったが、核心を示そう。こうだ。
 「この技術はあまりにも機構が複雑すぎる。こういう複雑な機構を使えば、可変圧縮比が実現できるというのは、たしかにその通りだろう。しかし、そんなに複雑な機構を使うと、故障しやすくて、コストも上がるから、実用性がない。研究室で研究するのはいいが、一般的に生産するというのは実用的に無理だ」
 これが直感的に得た判断だった。このことは、自動車技術者ならば、誰もが同様に感じていたはずだ。


vc_turbo_engi.jpg
出典:日産自動車


 私はそういうふうに懸念していた。それでも日産は大量販売を強行した。まずは1車種で販売して、「故障は少ない」というデータを得たらしい。そのあと、販売車種を拡大して、大量生産・大量販売に踏み切った。
 その後、どうなったか? 大量の故障が発生して、ユーザーから莫大なクレームが押し寄せて、「欠陥品を売りつけられた」という訴訟があちこちで発生した。そのあげく、最終的には、「VCターボ の車種を販売停止する」という結果になった。

Feloの回答
エンジンの不具合:
VCターボエンジンを搭載した車両(特に2021-2023年モデルの「ローグ」や「アルティマ」、および「インフィニティQX50」)において、エンジンの故障や出力低下が報告されています。具体的には、エンジンが完全に停止する事例や、金属片の発生、エンジンからの異音が確認されています。

NHTSAの調査:
 アメリカの国家道路交通安全局(NHTSA)は、VCターボエンジンに関する問題を調査しており、約45万台の車両が対象となっています。この調査は、エンジンのメインベアリングやLリンクの損傷が原因である可能性があるとされています。

信頼性の低下:
 VCターボエンジンは、複雑な可変圧縮比機構を持つため、信頼性に関する懸念が高まっています。特に、エンジンの主要部品であるLリンクやメインベアリングの損傷が報告されており、これがエンジンの故障につながる可能性があります。

 特に Lリンクの箇所で故障が起こりがちであるようだ。そのことは、先の図を見ても、すぐにわかる。ここで故障が起こりやすいだろうと言うことは、一目でわかるはずだ。
 こんな複雑な機構を採用するということからして、日産は技術的に頭がおかしいというしかないね。

( ※ このような部品は、とうてい長持ちする構造部品ではなく、一定期間しか保てないような、準消耗品の扱いになる。エンジンのように長期間を保証する部品に使うものではない。こんな部品を使おうとするという時点で、自動車技術者として頭がおかしいね。もしかして、設計経験のない若手しかいなかったのだろうか? 有能なベテランの経験者がいなかったのだろうか? 有能なベテランの経験者ならば、「こんなのはダメだ」と一目でわかりそうなものだが。)

 なお、VCターボ のガソリン車は、今後は販売停止の措置が進む見込みだ。

Feloの回答
アルティマの生産終了:
 日産は、北米市場で販売されているセダン「アルティマ」の生産を2025年に終了する予定です。特に、最上級モデルである「アルティマ SR VCターボ」は、2025年モデルからラインナップから外れる可能性が高いとされています。

VCターボエンジンの問題:
  現在、約45万台のVCターボエンジンを搭載した車両(特に「ローグ」や「アルティマ」など)が、エンジンの故障や信頼性に関する問題で調査対象となっています。

市場からの撤退:
 日産は、北米のセダン市場からほぼ撤退する形になると予想されており、これに伴いVCターボエンジンを搭載したモデルの販売も減少する見込みです。

 CVT と VCターボ のせいで、日産は北米のセダン市場から撤退することが既定である。
 だが、ホンダから AT の供給を受ければ、セダン市場から撤退しなくても済むかもしれない。

 エンジン直結


 では、VCターボ がダメなら、かわりにどうすればいいか? そのことは、上記の前出項目でも示した。「エンジン直結のトップギヤを使え」と。それならば、はるかに低コストで、同等以上の効果を得るからだ。
 私はこの方式を何年も前から推奨してきたが、最近ではホンダがこの方式を唱えている。「次世代技術」という触れ込みで。
  → ホンダ、2モーターハイブリッド「e:HEV」の次世代技術発表

honda-tyok.jpg
エンジンとクラッチを直結してタイヤを駆動する
 独自の 「エンジンドライブモード」を設定


 ホンダは大威張りのようだが、日産もこの技術を使わせてもらえば、VCターボという馬鹿げた技術を使わなくて済むようになるだろう。
( ※  e-POWER にトップギアを追加するだけで済む。)

 この意味でも、ホンダは日産にとって、救世主となる可能性が高い。なぜか? ホンダには素晴らしい技術があるからか? 違う。ホンダは正しい技術を選ぶからだ。一方、日産は(経営者に技術的知識がないので)間違った新技術ばかりを選んでいる。そのせいで、倒産への道をまっしぐらに進むのだ。
 優れた技術を持つか否かという問題ではなく、間違った技術を採用するか否かという問題なのだ。この点で、日産の経営者は、大失敗の連続だった。技術について無知だったからである。

 ※ せめて Openブログの指摘を聞いて、是正しておけば、こうはならなかっただろうに。聞く耳を持たなかったから、大赤字を出して、倒産寸前となった。その点では、MRJ で大失敗した三菱重工と、同様である。



 【 追記・訂正 】
 ホンダの状況については、AIで簡単に調べて報告したが、AIの回答は間違っていたようだ。そこで、訂正する。
 正しくは? ホンダの自動変速機は、小型車では自社製の CVT が主流である。トルコン式の AT ではない。(AIは自社製の CVT を AT と見なしていたようだ。また、 e-POWER みたいなシリーズ式の電動車を、電気式 CVT と呼ぶ。これも変な呼び方だ。)
 要するに、ホンダの小型車は、シビックやフィットを含めて、自社製の CVT であり、トルコン式の AT ではない。
 したがって、日産がホンダからトルコン式の小型 AT を入手することはできないようだ。一方、ホンダ式の CVT を入手することはできる。これは、ジヤトコ製の CVT と違って、悪評がひどいということはない。ただし、AT よりは劣る。
 日産は、ローグやアルティマにも CVT を使っている。これらについては、新開発の 9速 AT (ジヤトコ製)を使うか、ホンダ製の AT を使うか、どちらかで解決できそうだ。
 どうも、事情はいろいろと錯綜しているようで、簡単な解決法があるわけでもないようだ。やっぱり、トヨタのアイシンに頼るしかないのかもね。

( ※ 「何でこんなことで間違えたんだ!」と文句を言われそうだが……。私は、日産とトヨタのことには詳しいが、ホンダのことは詳しくないんだ。本田には関心がない。情報も不足している。ただし新型プレリュードは、リアスタイルがカッコいいね。顔はプリウスそっくりのブサメンだけど。) 





 ※ 次項に続きます。
posted by 管理人 at 23:21 | Comment(4) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 すごく納得できる記事で、次項が楽しみです。
Posted by かわっこだっこ at 2024年12月20日 07:05
 ただちょっと分からなかったのが「ホンダの AT をどう生かすか」というくだりです。ホンダの内製 AT、あるいは日産に対するジヤトコのような(子会社的な)ホンダ発の世界的 AT メーカーってありましたっけ?
 読者の中には、「ホンダって、昔はともかく今は、(ハイブリッド以外は)CVT ばっかりじゃないの? 海外モデルには 9AT や 10AT の搭載もあるようだけど、その多段 AT って内製?」と思う方もいそうなので、この点について追加のご説明があるとありがたいです。(次項でもよろしいかと。)
Posted by かわっこだっこ at 2024年12月20日 07:20
 ホンダの ATは、ホンダマチックという独自構造で、本社の内製品であったこともあったが、それは昔の話。今では自社製の CVT になっていた。(小型車の場合。大型車は別。)

 記述が不正確だったので、最後に 【 追記・訂正 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年12月20日 12:54
ホンダにもステップAT(トルコンAT)があるようですね。ただ、北米向けのようです。
https://news.mynavi.jp/article/motornews-39/
https://www.auto-affairs.com/freearticles/79106-10-1-62017-3-8.html#:~:text=%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%81%AF%EF%BC%96%E6%97%A5%E3%80%81%E7%B1%B3,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

日産が不評だったのは北米向けとのことで、このトランスミッションを融通してもらえるなら販売が回復する可能性はありそうです。
Posted by t at 2024年12月20日 13:54
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