2024年12月12日

◆ 106万円の壁・107万円の窪み

 ( 前項 の続き )
 「106万円の壁を廃止する」という方針を政府は取るようだ。しかし、新たに別の難点が生じる。それは「107万円の窪み」だ。

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 「106万円の壁を廃止する」という方針を政府は取るようだ。
  → 106万円の壁、撤廃了承 厚生年金、年収問わず加入:東京新聞

 この具体的な方式については、下記記事の図を見るといい。
  → 26年10月撤廃へ調整 社会保険料負担「106万円の壁」 厚労省:朝日新聞

 この図を見るとわかるが、「 106万円を越えると、(社会保険料の負担が発生するせいで)手取りが減る」という問題を補正できる。(図を参照。)
 なぜなら、社会保険料の負担が発生する分を、企業が企業負担分でまかなって、それを政府が補助金で援助するからだ。

 「これでうまく行く」というのが、政府の目論見だ。では、本当にそれでうまく行くか? 
 私は否定的だ。以下では細々と述べるが、直感的に言えば、こうなる。
 「なだらかなカーブが好ましいが、凸 状の壁がある。ここで段差がつくのはまずい。そこで、凸 状の部分を押しつぶすことにした。しかしそうすると、その隣に、新たに 凹 が生じる。凸 のかわりに 凹 が生じる。その 凹 のところで滞留するから、段差の発生をなくすことはできない」

 直感的に言えば、こうだ。
 「これまでは高い壁が障害物となっていた。これからは低い掘が障害物となる。そこを越えることが大変なので、どっちみち、先へ進みにくくなる」

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 イメージは上記の通りだが、具体的に言うと、こうなる。
 「 106万円の直前(105万円)に比べて、106万円の直後(107万円)は、非常にお得である。将来の厚生年金の増額への負担料の分も考慮すると、所得が2万円増えただけで、実質所得は 10〜20万円ぐらい増えることになる。107万円ぐらいの所得が、補助金をいっぱいもらえる額であり、最もお得な所得額である。ゆえに今後は、多くの労働者が、年収 107万円をめざすようになる。それ以下もそれ以上も損であるが、年収 107万円ならばお得だからだ」

 これまでは、「106万円を越えると、手取りが減るから」という理由で、勤務時間を増やすまいとした。今後は、「107万円に留まると、企業の補助金をいっぱいもらえてお得だから」という理由で、それ以上に勤務時間を増やしたがらなくなる。

 こうして、多くのパート労働者の取るべき年収は、 106万円の直前(105万円)から、106万円の直後(107万円)へと移る。年収は 2万円ぐらい増えるようになる。しかし、それだけだ。
 結局、政府は企業に向けて「莫大な補助金を出すように」という政策を取るが、結果的にはほとんど何も変わらないことになる。変わることは、 「106万円の壁」が「107万円の窪み」になることだけだ。
 つまり、凸 のかわりに 凹 が生じることだけだ。これまでは、凸 の壁に遮られて、その直前にたむろしていた。今後は、 凹 の窪みに溜まって、そこにたむろするようになる。違いはそれだけだ。

 ※ 企業としては、このような補助金を出すのは、明らかにそんなので、金を出したがらないだろう。しかし、企業が金を出さなければ、段差が生じたままとなるので、問題は何も解決しない。あちらが立てば、こちらが立たず。どっちにしても、解決がつかない。

 ──

 ではかわりに、どうすればいいのか? 正解を示そう。こうだ。
 「106万円の壁を大幅に引き下げる。年収 20万円ぐらいまで引き下げる。つまり、ほぼ全員に、厚生年金(および他の社会保険料)の負担を義務づける」

 これだと、事務手続きの煩雑さが生じそうだが、今やマイナンバーの整備が進んでいるから、国民の所得の把握は容易になっている。だから、上の方針を取ることは可能なのだ。
 そして、このようにすれば、もはや 106万円の壁などはなくなる。年収 20万円の壁は生じるが、そこで生じる新規の納付額はごくわずかだから、気にしなくてもいいレベルである。
 かくて問題は完全に解決する。これが正解だ。

 ──

 ではなぜ、政府はそういう正解を取らないか? 逆に、現行案や新規案のように馬鹿げた制度を取ろうとするのか? 理由は二つある。次の (1)(2) だ。

 (1) 企業優遇

 企業が社会保険料の負担率を高めると、政府が助成金を払うそうだ。
 年収106万円を超えて働くなどして新たに社会保険適用となった労働者の収入を増加する取組を行った事業主に助成されます。
( → 「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる? | 政府広報オンライン

 つまり、107万円程度の低賃金雇用(非正規雇用)をする企業に対して、特別に助成金を与えるわけだ。その一方で、正社員として雇用する企業については、何も与えない。
 これはつまり、「低賃金雇用の企業を優遇する制度」である。現行制度ですら、「年収 106万円以下で雇用する企業には、企業負担金を免除する」というふうに優遇しているのに、今度は新たに、「106万円以上で雇用する企業には、助成金を出す」というふうに優遇する。これは企業優遇の二重化だ。
 本来ならば、薄給で労働者を雇用する企業は、処罰されてもいいくらいだ。「低賃金雇用する悪徳企業への罰金」みたいな感じだ。なのに、悪党に罰金をかけるどころか、悪党に助成金を出して、悪党を優遇する。本末転倒とは、このことだ。
 各日本政府は、低賃金雇用をする企業を優遇し、高賃金雇用をする企業を冷遇する。悪を優遇し、善を冷遇する。こういう形で、日本全体の労働者の低所得化を推進する。
 だから日本の労働者は低所得化するのだ。前項末でも述べたとおり。

 (2) 手取り重視

 国民民主は、「手取り増加」を唱えて、一般国民はそれを支持する。だが、手取りばかりを見るのは、朝三暮四の猿と同じである。(いや、もっと愚かだ。)
 朝三暮四の猿は、手取りだけを見て、「朝四つは朝三つよりもお得だ」と錯覚した。しかし最終的には、一日に七つだから、どちら同じであり、損得はない。猿はぬか喜びしたが、損はしていない。
 人は違う。損をする。106万円を越えて、107万円になると、手取りが減る。その点では、朝四つが朝三つになるのと同様だ。しかるに、107万円になって厚生年金の料金を払うと、あとで払った金の何倍もの金が戻ってくる。利率の分が加算されるほかに、補助金が支給されるからだ。
  ・ 企業負担分が同額
  ・ 政府負担分がかなりある

 大雑把に言えば、厚生年金の料金を 10万円払うと、企業負担分で 10万円をもらって、政府負担で 10万円をもらう。さらに、自分の払った分も返してもらえる。合計 30万円。つまり、10万円を払って、30万円をもらう計算だ。3倍もお得なのだ。(さらには利率 or 物価上昇の分の加算もあるので、いっそうお得である。)
 にもかかわらず、「厚生年金の料金を払うと手取りが減るからイヤだ」というのは、目先の 10万円を得るために、将来の 30万円を捨てることになる。差し引きして、20万円の損だ。(企業負担分と政府補助金をもらえなくなる分に相当する。)
 朝三暮四の猿は、損得なし。手取りにこだわる日本国民は、3倍になる利益を失う。その分、大損をする。猿よりも愚かだ。
 そして、その方針を推進するのが、国民民主だ。それにだまされて大損をするのが、日本国民だ。

 では、どうすればいいか? もちろん、先に述べたようにすればいい。全員が厚生年金に加入すればいい。そうすれば、企業負担分と政府負担分をもらって、国民全員が得をする。(一方、その分、企業は損する。低賃金雇用をする悪徳企業が損をする。悪い奴ほど損をする。)
 これが正解だ。なのに、政府はそうしない。なぜか? 自民党と国民民主党が、悪の企業とつるんでいるからだ。特に、国民民主党は、「手取り増加」というふうに吹聴して、国民をだます。最大の詐欺師と言えるだろう。
 
posted by 管理人 at 22:38 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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