ダメな企業の典型と、問題の対策。
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日産自動車
日本企業の問題点を述べてきたが、その典型的な例がある。日産自動車だ。
・ 技術を理解しない経営者(無能)
・ コストカットばかりをめざす(方針違い)
[ 資金不足や、給料低下 ]
これらの結果として、業績の大幅な低迷を招いた。
なお、日産の場合は、この会社に独自の致命的な難点があった。それは、「英語の社内公用語化」だ。これは、要するに、「日産をルノーという進駐軍の傘下に置く」ということだ。
ここで、ルノーが日産よりも技術的に優れているのならば、まだマシだった。現実には、その逆だった。日産よりも技術的に劣っているルノーが、日産に入って、進駐軍のようにふるまって、英語を社内公用語化した。そのせいで、日本人の技術者は、たがいに意思疎通をすることもままならなくなった。
要するに、日産はルノーによって植民地化された。結果的に、「技術に通じた人材を経営者に選ぶ」ということもできなくなった。なぜなら、指名委員会の人材が、文系の人ばかりだからである。そして、その制度を構築したのが、宗主国のようなルノーだった。
日産は植民地化されたがゆえに、没落したのである。
全固体電池
日産は大規模なリストラに踏み切る方針を決めた。
→ リストラ9000人 業績悪化の日産自動車 復活のカギは | TBS
これにともなって、技術開発の資金が不足することを危ぶむ声もある。
→ 焦点:日産の低迷招いた戦略ミス、巻き返しへ内田社長に正念場 | ロイター
→ 日産が巨額赤字、「大リストラ計画」にみる猛省 生産能力2割減| 東洋経済
当面の EV 開発費も不足しそうだが、より深刻なのが、全固体電池の開発だ。ここで開発資金が削られて、技術開発のペースが落ちると、他社に負けてしまうかもしれない。というか、そもそも現状でも、トヨタやホンダと同じぐらいか、少し劣るぐらいだから、万全ではない。
Felo の回答を見ると、日本企業は欧米や中国に遅れている。これらの国では、巨大企業が莫大な開発費を投入して、2024〜2026年に量産化を始める。しかし日産は早くても 2028年と遅れており、トヨタやホンダもあまり変わらない。
これに対抗する方針はただ一つ。日産・トヨタ・ホンダがすべて合体して、技術を持ち寄って、共同で全固体電池の開発をすることだ。そうしなければ、日本企業は落伍する。(かつてのニコンとキヤノンよりも、もっとずっと不利な位置にあるからだ。)
( ※ このような「日本企業の連帯」については、前にも提案したことがある。)
技術者の優遇とは?
これまでいろいろと問題を見てきた。前項では総括として、日本企業一般の問題を見た。本項(上記)では、典型としての日産の問題を見た。
では、これらの問題を見たあとで、問題の解決策はどうなるか? 対策は何なのか?
「さっさと正解を教えろ」
と読者はせっつくかもしれないが、正解はすでに示してある。こうだ。
「技術の水準を高めること。そのためには、技術者を大切にすること」
これだけだ。簡単だ。
ただし、これは原理である。基本方針と言ってもいい。こういう原理や基本方針を示しても、馬鹿には理解できないだろう。言葉は頭を素通りしてしまうだろう。何もできないまま、耳くそでもほじくっているだけだろう。
そこで、馬鹿でもわかるように、もう少し詳しく説明しよう。
「技術者を大切にすること」というのは、要するに、技術者の優遇だ。だが、技術者の優遇といっても、技術者の全体を一律に優遇しても意味がない。すべての技術者の給料を倍にしても、彼らの働きが倍になるわけではない。単に給料が上がるだけで、何も変わらない。
では、どうすればいいのか?
そこで正解を言おう。それは、「優秀な技術者だけを抜擢すること」だ。エリートを抜擢することだ。そして、そのエリートに権限を与える。金を与えるのでなく、権限を与える。特に重要なのは、技術部門のトップにエリートを据えることだ。それも、若手のエリートを据えることだ。
当然だが、トップに若手を据えるとしたら、トップの1人だけがいきなりヒラの若手からトップに抜擢されるわけではない。準トップクラスにも多数の若手が抜擢されることになる。
これがつまりは、エリートを抜擢するということだ。(技術者について。)
外国の事例
エリートを抜擢すること。その具体的な例は、次の二つに見られる。
(1) ASML の社長
ASML の社長は、51歳のクリストフ・フーケだ。彼については、先に別項で解説した。
→ 半導体露光装置の教訓: Open ブログ
彼は半導体露光装置の開発部門で、15年間にわたって働いたそうだが、その間に指導的な働きをしたそうだ。15年間というと、36歳〜51歳だろうか。およそ 40代の全年齢で、トップに近い指導的な地位を占めたことになる。彼の能力が卓抜であったこともあるが、その彼に指導的な地位を与えた会社の経営方針そのものが優れていたと言える。(実は経営者の マーティン・ファン・デン・ブリンクも圧倒的に優れていた。)
(2) フォードのアイアコッカ
米国フォードのムスタング(マスタング)の開発者であるリー・アイアコッカは、新車開発で優れた能力を発揮した。彼が担当したのは 34歳のときで、そのとき開発したムスタング(マスタング)は圧倒的な好評を博した。その後も、次々と新車開発に携わって成功し、のちには 46歳で社長にもなった。
ここでも、若手の優秀な技術者が抜擢されるという事例があった。
一方、日本企業には、そういう例はとても少ない。若手が社長になった例はほとんどない。たまにあるとしたら、日産の社長になったゴーン(45歳)ぐらいだろう。これは、日本人ではないし、技術者でもないので、妥当な例とは言えないが。
ちなみに、ラピダスの社長が就任したのは 70歳のときだ。日本の経営者は、若さの競争では負けるが、老いの競争では圧勝できそうだ。
こういうことからしても、日本企業の衰退の理由は窺える。
年功序列と平等体質
日本企業では、エリートの抜擢ができない。では、それはなぜか? 単に企業の経営能力が不足しているからか? もしそうなら、単に経営能力を高めるだけで済みそうだが、そんなに簡単なことなのか?
違う。解決は簡単ではない。なぜなら、この問題は日本企業の基本体質そのものと結びついているからだ。
それは「年功序列」である。この制度ゆえに、次のことが付随する。
・ 同じ入社年度では、同じように出世する
・ 同じ入社年度における出世競争だけが目立つ
・ 若手の大幅な抜擢などはない
これが「年功序列」に付随することだ。このようなことは、官庁では特にひどいが、日本の古くからある大企業でも、多かれ少なかれ、似た傾向にある。
( ※ 新興のIT企業では、それほどでもないようだが。というのは、そこでは社員がみんな若手ばかりだからだ。……とはいえ、新興のIT企業の大多数は、中小企業である。)
( ※ 富士通や NEC や NTT のような大手では、古参の技術者もたくさんいるが、若手が抜擢されることは少ないようだ。ものすごい天才技術者でも、最高位で部長クラスぐらいにしかなれない。→ 企業内では仕方ないので、社外に飛び出して、大学教授に転身することもある。日本企業は人を生かせない。)
日本企業には優秀な社員がいないわけではない。優秀な人材はある。ただし、その人材を生かす仕組みがないのである。若手を抜擢して権限を与える、という仕組みがないのだ。それは組織におけるシステム的な欠陥だとも言える。
かわりに、どうするか? 根回しとゴマスリの上手な人材が、同世代との競争に打ち勝って、出世ゲームで勝利する。
その事例が、日産自動車に見られる。西川であれ、内田であれ、このようにして社長に就任した。彼らは技術的な能力は皆無であり、能力的には最低レベルなのだが、見事に社長の座を射止めた。
こうして日本企業は自ら没落していくのである。「技術者の軽視」というのは、単に「社員の軽視」であるように見えるが、実は、「自分自身の軽視」を意味するからだ。
しきりに「コストカット」をめざしたすえに、「コストをカットして金を儲けたぞ」と喜んでいるが、実は、自分のための栄養費を削ったせいで、餓死してしまうようなものだ。それが日本企業の結末である。
日本の組織にについては、しばしば言われる評価がある。
「兵は一流、将は三流」
と。これは、どうしてか? もちろん、すでに述べたことからわかるだろう。人材としての兵は一流であっても、そこから将を抜擢する仕組みがないからだ。どんなに優秀な人材を見つけても、それを抜擢することはなく、組織の枠に当てはめてしまう。だから優秀な人材を見出すことができないのだ。(もともと見出そうともしないからだ。)
日本にはやたらと平等主義が蔓延する。エリートを見つけても、エリートを厚遇することはなく、既存の平等主義の枠に押しはめたがる。
その典型が、「制服」や「校則」という平等主義の教育だ。ここから改めないと、日本企業の没落は止められないだろう。
[ 付記 ]
日産の没落を見て、「どうせ他人事さ」と思う人が多いだろう。だが、今の日産は、明日の日本全体だ。将来的には、日本全体が日産のようになるのだ。その証拠は、前項だ。一人あたり GDP は急激に悪化している。もう一度、その没落ぶりを見てほしい。
(しかも、回復のアテはない。なぜなら、日本企業そのものが、もともと没落をめざしているからだ。そのことは、前々項で示した通り。……さらに悪いことに、自分たちがどこをめざしているか気づいていない。沼に進むレミングの群れのように。)
レミングの集団自殺(想像図)
※ 次項に続きます。
日本の教育はひたすら平均値を上げることを目指してきました。今でもそうです。70年代までは欧米を手本にして追いつくことを目指しました。それには平均的技術者が多いのが効果的でした。でも世界の最先端で勝負するようになると凡庸技術者ではだめなのです。東大や京大の中でもできる学生には特別待遇を与え、入社時から1千万円以上出さなければだめなのです。