2024年12月04日

◆ 日本企業の技術軽視 .1

 日本企業が衰退している。それは、なぜか? 日本企業がそもそも、技術を軽視するからだ。

 ──

 前項ではパワー半導体や半導体の分野について、日本企業が衰退する理由を示した。それは次の二条だ。
 (1) 経営者が技術的知識を欠いていること。(文系なので)
 (2) 技術水準を高めようとしないこと。具体的には二つ。
   ・ 十分な資金を投じない。
   ・ 技術者を厚遇しない。


 これは、半導体産業に限ったことではない。そこで、他の同様の事例を見ていこう。

 青色 LED 


 青色 LED では、日亜化学が有力だ。シェアの点でも、利益率の点でも、非常に優れている。最近の経常利益率は約21.5%にもなる。初期には利益率が 60% にもなった。(ボロ儲けである。)
 では、これほどにも成功したのは、どうしてか? 経営者が優れているからか? いや、違う。この点については、前に言及した。
 青色 LED の中村修二だ。
 彼は会社(社長)から「研究中止」を命じられた。「やめろ、やめろ」と言われたのに、強引に研究を続けたり、こっそり特許を申請したりした。まったく組織のルールを逸脱しており、上記のはやぶさの例に比べてもはるかに逸脱している。(ほとんど犯罪に近い。)
 しかし、そのおかげで、会社はとんでもないほどのボロ儲けをしたのだ。もともと四国の小さな中小企業にすぎなかったのに、中村修二があれこれと研究を続けて特許を申請したから、莫大な富を生み出すことができた。(利益率が 60% なんていう超絶的な企業は、他にはない。)
 逸脱のレベルも、成果のレベルも、中村修二は傑出していた。
( → はやぶさ成功はトンデモのおかげ: Open ブログ

 (1) 何度も繰り返しているように、先代社長には多大な感謝を表明している。決して会社と喧嘩したいわけではない。
 (2) 次の社長(先代社長の娘婿)からは、徹底的に妨害されてきた。研究は「やめろ」と言われたし、研究が成功して業績が好転してからは「おまえの業績なんかは皆無だ」と攻撃されてきた。

 次の社長はどうしてこれほどにも中村修二を恨んだのか? 会社の最大の功労者で、莫大な利益をもたらしてくれた中村修二を?
( → 日亜化学にノーベル賞を!?: Open ブログ

 日亜化学の経営者は、圧倒的に優れていたのではなく、圧倒的な妨害者だった。その妨害者に屈していたら、青色LEDは誕生しなかった。しかし徹底的な妨害に逆らって、勝手に特許を出して、莫大な特許を会社に与えた。自らの研究成果のすべてを、特許の形にして、会社に与えた。だから日亜化学は莫大な富を得たのである。中村修二のおかげで。(経営者は最悪だったのに。)

 ※ なお、当然ながら、日亜化学は反省して莫大な金で払った(中村修二に報いた)……というようなことはない。悪人というものは決して自分を改めたりはしない。最後の最後まで、中村修二に意地悪をし続けた。(上記項目に記してある。)

 有機 EL


 有機 EL は、時代の花形である。液晶パネルは、もはや完全に時代遅れとなり、生産する会社はどこもかも青息吐息である。この産業はもはや前時代の遺物みたいなものだからだ。かわりに、有機 EL が技術的先端となり、時代の花形となっている。たとえば、サムスンは今や有機 EL で利益率 18%というボロ儲けをしている。日本でも JDI が、液晶を捨てて、有機 EL に活路を見出そうとしている。
  → JDI、台湾大手の群創光電と戦略提携 次世代有機ELの拡販めざす:朝日新聞

 有機 EL については、ずっと前に私が「開発しろ」と尻を叩いたことがある。
 (2) 有機EL
 ただし、SED よりももっと上なのが、有機ELだ。これは、すぐに実現する技術というよりは、もうちょっと先(近い将来)の技術である。とはいえ、実現は目前だ。
  → 記事検索
 これがどういう意味をもつかは、マスコミではちっとも紹介されていない。ただし、日本の有機ELの第一人者である城戸淳二(山形大)は、はっきりとした評価を下している。
  → サムスンの有機EL技術の評価   [重要]
 日本の先端技術というものがどういうふうになっているかを、実に的確に示している。非常に重要な指摘だ。技術関係者は心して読んでほしい。マスコミも同様。
 なお、参考に、次の記事も紹介しておこう。
  → NECがサムスンに特許譲渡

 ま、以上の話をすべて読むと、日本の先端技術について、過去と現状と将来とが見通せる。

 [ 付記1 ]
 門外漢のために、解説しておく。
 有機ELの研究は、もともと日本から始まった。最初の基本特許は米国だが、米国は使い物にならないと見て、投げ出した。それをこつこつと日本の研究者が基礎研究をして、実用化への道のりを築いた。
 で、数年前から、「もうすぐ実用化」と騒がれた。とたんに、日本の企業はいくつかが参入して、日本は世界で独走状態だった。ところが、韓国の企業も、「まずは液晶、次は有機EL」という順序で、研究に参入してきた。
 「韓国が来ても、まだまだ日本には追いつけない。日本が独走している」
 と楽観していたのが、2年ぐらい前。
 実は数年前に、日本の有機EL開発は、城戸淳二を中心とした産学協同の体制が取られた。これは政府の先端技術開発の方針によるものだ。そのまま、日本が世界を圧倒的にリードするはずだった。
 で、今では? サムスンに圧倒的な差を付けられてしまった。日本の全面的な敗北。

 [ 付記2 ]
 サムスンは実用化寸前。日本はまだまだ実用段階に達していない。大差がついてしまっている。このままだと、シェアのすべてを奪われるだろう。市場開拓の時期に大差を付けられると、あとで圧倒的なシェアの差となるからだ。
 新聞記事は「シャープの液晶はすごい」なんていうふうに持ち上げているが、シャープという企業は液晶に専念しているがゆえに、十年後には液晶といっしょに消滅しているかもしれないのだ。シャープだけではない。そのうち、日本の液晶メーカー(部門)はみんな破綻して、サムスンの支配下になりそうだ。

 [ 付記3 ]
 じゃ、どうすればいいか? 現状では、日本メーカーが束になっても、サムスンには勝てないだろう。それでもともかく、束になるしか、対抗策はあるまい。(現状は違うが。)
( → 泉の波立ち「ニュースと感想」(6月08日)

 これが 2005年の記事だ。この時点で、日本は「シャープの液晶事業はすごい。亀山工場には世界最先端のハイテク技術がある」と称賛していた。しかし私は、「液晶技術はもはや時代遅れだ。これからは有機 EL の時代だ。すでに出遅れてしまったが、今からでも有機 EL に進め」と唱えていた。
 それから 19年後、有機 EL の市場をすべて奪われてしまったあとで、出遅れ気味に、少しだけ進出するようになったのだ。

 なお、最も古い記事は、下記だ。
 本屋の店頭には、先端技術たる「有機EL」の開発を記した本がある。それを読んでみるといい。かつて液晶は、日本の独擅場だったが、今や韓国に負けている。次世代技術とされる有機ELも、ひところは日本の独走だったが、今や韓国に並ばれそうだ。それというのも、日本の研究開発費が少ないからだ。
( → 泉の波立ち「ニュースと感想」 (3月07日b)

 ここですでに、「日本の研究開発費が少ないからだ」と指摘している。

 なお、前項のコメント欄では、こう指摘した。
 結局、日本は開発費については数百億円の投資を惜しみ、生産費については数兆円の投資を惜しまない。……それが常に失敗する理由だ。その逆であるべきなのだが。
( → パワー半導体は生き残れるか: Open ブログ


 インテル


 日本企業ではないが、米国のインテルも惨憺たるありさまだ。まるで日本企業にうり二つだ。本日の朝日新聞記事にある。
 インテルは2日、パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が1日付で退任したと発表した。経営立て直しを託され約4年前にCEOに就いたが、当時と今を比べると売上高は3割減り、企業価値を示す時価総額も6割減った。
( → 「退任か解任か」迫られたインテルCEO 時価総額は就任時の4割に:朝日新聞

 この CEO はどんな人物か? やはり技術音痴なのか? 
 調べてみたが、そうではなかった。彼は元技術者で、超優秀だった。だが、いかんせん、就任時に年を食いすぎていた。1961年生まれで、2021年に就任したから、当時 60歳である。いくら優秀な技術者であっても、これでは判断を誤ってしまう。ちなみに、ゲイツは 53歳で引退したし、ジョブズは 56歳で死亡した。(いつまでも経営をし続けて、老醜をさらす、というハメにならずに済んだ。)

 なお、インテルの経営悪化の最大の根源は、2007年にある。このとき、アップルから依頼された「スマホ用の半導体の生産」を断っていた。これはに「インテル史上最大のミスジャッジ」と見なされるに至った。
 このときの経営者はポール・オッテリーニ。MBA を取得した経済畑の人だ。文系であり、技術には疎い。だから、将来の流れを見通せず、過去の流れだけを見て、数字によって経営判断をした。かくて時代の流れに取り残された。
 日本企業とそっくりだね。

 IBM


 IBM はどうか? この会社は、結構まともにやっている。その典型は、ラピダスを見ればわかる。IBM は、ラピダスの技術を開発して提供したが、自社では生産に出資しない。
 なぜか? 常識的に考えれば、自社開発の事業に出資して、事業の生産によっても金儲けをしようとするはずだ。なのになぜ、自社開発の技術の生産事業に出資しないのか? 
 それは、IBM が賢明だからである。
  ・ どうせ成功するはずのないハイリスクな事業には投資しない。
  ・ かわりに、自社開発した技術を、知財として高額で日本に売りつける。

 こうして IBM は、ノーリスクで、巨額の知財収入を得ることができた。生産というハイリスクな事業には1ドルも出さずに、知財を日本に売るだけで巨額の売却収入を得た。
 これが、利口な人間のやることだ。(その逆が日本政府だ。数兆円の国税をギャンブルに投入して、スッテンテンになる。馬鹿丸出しである。)




 ※ 次項に続きます。
 
posted by 管理人 at 23:33 | Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
有機ELにしてもそうですが、技術者を高額で引き抜かれるとアウトです。
すり合わせの技術が多段になっている自動車や重工ならまだ大丈夫ですが、
軽電機や化学など情報集約的な業界だと技術=人となります。
むしろサムスンから技術者を高額で引き抜いてしまうというのも手です。
そして技術がコモディティとなり勝者のいない市場になると。
技術者が引き抜かれない仕組み、引き抜かれても耐久力のある仕組み、
そして技術者を引き抜く戦略、が必要ですね。

にしてもIBMの出した釣り針に喰いついたのも恥ずかしい。
価値のない技術だから提供したに過ぎないのに。
本当に価値があるならガチガチに守ります。
それだけに如何に価値のない技術なのかがわかる。
まあ有機ELと同じく日本が育てて成功する可能性もありますが。
しかし共同開発なのでIBMも技術を手に入れてしまうでしょう。

技術者の引き抜きが判明した企業は公開されて社会的な罰を受ける
などが必要でしょうね。
Posted by 読者 at 2024年12月05日 21:39
 超一流企業は、一流半の企業にいる技術者を引き抜いたりしません。自前で優秀な技術者を採用している。高給なので、応募者が殺到するから、選り取り見取りだ。
 引き抜きと見えるのは、一流半の企業にいる技術者が、自発的に転職したがっている場合だ。転職したくても、たいていは入社試験で落第となる。稀に、合格する人も出てくるが、それを禁止するのは、職業選択の自由に反するので、違憲だ。
 引き抜かれたと騒ぐのは、社員に逃げられた自社がダメ企業だと宣伝するのも同じだ。女に捨てられて騒ぐダメ男と同じ。自分の無能を恥じるべし。騒げば、物笑いのタネとなるだけだ。恥さらし。

 前項のコメント欄でも言っているが、私は「日本企業は自分の無能さを理解せよ」と指摘している。私がそのことを何度も書くということは、あなたがそのことを理解していないことになる。あなたは日本企業の能力を過大視している。自惚れがひどい。そんなふうに自惚ればかりがあるのは、自己反省能力が欠落していることになる。
 以前の日本は、世界最高水準の技術を持っていたが、それは 2000年ごろから失われていった。今の日本は落日なんだ。そのことを直視するべし。一人あたり GDP も、昔は世界2位ぐらいだったが、今では先進国のなかで最下位レベルだ。それほどにも没落している。その理由は技術力の低下だ。そこを直視しないと、どうしようもないね。


Posted by 管理人 at 2024年12月05日 22:16
 ちょっと舌足らずだったので説明すると:
 私は明示的に示していなかったが、結論は明らかです。こうだ。
「日本企業は技術者を大切にしろ。もっとまともな給料を払え。待遇を改善しろ。職場環境も整えろ.開発費も増額しろ」

 ところが「読者」さんの提案は正反対で、「技術者の冷遇を維持しろ。高い給料を出す企業はずるいので処罰しろ」だ。
 ひどいものだ。ただし、経営者ならば、そう主張するのもわけがわかる。経営者は労働者の富を搾り取るのが仕事だからだ。「読者」さんの提案も、その趣旨なのだろう。自分の会社の富を増やすために、日本全体を滅ぼそうとしているわけだ。
Posted by 管理人 at 2024年12月06日 11:33
私の書き方が悪かったのでしょうが誤解があります。

>ところが「読者」さんの提案は正反対で、「技術者の冷遇を維持しろ。高い給料を出す企業はずるいので処罰しろ」だ。

こちらは完全な誤解で私の主張は技術者を大切にしろ給料を上げろというもので管理人様と同じ結論です。
むしろ管理人様の主張にほぼ同意しています。
細かい部分では意見の相違がありますが、大局的には同じ意見です。

日本のこの問題はどうすればよいのかは明確ですが、どう実現するのかはまだ曖昧です。
さらになぜこうなったのかという原因分析はまだ十分ではなく、
この原因を分析して治療しなければなりません。
この分析においては私とは意見の相違が大きいでしょうね。




Posted by 読者 at 2024年12月06日 19:40
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