2024年12月03日

◆ パワー半導体は生き残れるか

 パワー半導体の分野で、日本企業は生き残ることができるだろうか? 現状では世界1位だが、お先は真っ暗だ。

 ──

 パワー半導体について、朝日新聞の記事がある。( 2024-12-03 )
  → 「次世代」パワー半導体、日本勢に勝ち筋は 投資に再編、懸念はEV:朝日新聞
 一部抜粋しよう。
 電力の変換や制御をつかさどるパワー半導体。日本勢が強みを持つとされる製品だが、その国内メーカーで合従連衡の機運がにわかに高まっている。
 経済産業省は、パワー半導体の市場は30年までに今の約4倍にあたる約3.4兆円規模になると試算する。
 旺盛な需要見通しは、業界再編の機運をも呼び込んだ。
 先んじたのは東芝とロームだ。
 さらに今年11月末には、富士電機とデンソーが連携して炭化ケイ素製の次世代品を増産すると表明した。
 これらの動きは国も後押しする。経済産業省はそれぞれの投資額の3分の1を補助。東芝とロームには最大1294億円、富士電機とデンソーには最大705億円を助成する。
 だが、互いに補い合う連携より先の統合には、現場で慎重論も根強い。念頭にあるのは、エルピーダメモリやルネサスエレクトロニクスのように、国が主導した過去の半導体再編は失敗したり長く苦戦したりしたためだ。
 三菱電機はパワー半導体以外の半導体事業が日立製作所の同事業と03年に統合。10年にNECの子会社が合流してルネサスエレクトロニクスが設立された。だが膨れ上がった生産拠点と人員の連携が不十分で、赤字が拡大して経営難に陥り、13年に実質的に国有化されて大規模リストラなどを余儀なくされた。メモリー事業でも3社が統合したエルピーダメモリは破綻した。
 三菱電機の岩上徹・パワーデバイス製作所長は「ただくっついて生産量が増えるだけでは勝てないと思う。一緒になって何か良いものが作れるならありだが、今はそれがない」と話す。

 単にくっつくだけでは駄目だ、というのはその通り。
 一方で、国が莫大な補助金を出すのも、見当違いだろう。
 では、どうすればいいのか? 

 考えるに当たって、もう少し情報を得る。Perplexity に質問するとこうなる。
質問:パワー半導体の分野で、日本は世界何位か? 

回答:
 パワー半導体の分野で、日本は世界一位です。
国別のパワー半導体事業売上高では日本が世界トップとなっています。
 2022年のパワー半導体企業ランキングトップ10には、日本企業が5社(三菱電機、ローム、東芝、富士電機、ルネサスエレクトロニクス)もランクインしています。
 しかし、以下の点に注意が必要です:
  ・ 日本企業5社の売上高を合計しても、トップの独InfineonTechnologiesの売上高に届きません。
  ・ 上位3社は300mmウェーハを使用した生産を行っている欧米企業で、日本企業はまだ200mm以下にとどまっています。
  ・ 日本企業は個々の市場シェアが数%程度の比較的小規模な企業が多く、グローバル競争で苦戦する可能性があります。

 日本の企業は小規模企業が多い。だから、合体して規模を大きくすることは必要条件だと言える。そうしない企業はすべて落伍してつぶれるしかない。
 とはいえ、単に合体するだけでは、うまく行く見通しが立たない。それは前に作られた合体企業がすべて失敗したことからもわかる。
 では、なすべきことは何なのか? 合体でもなく、補助金でもないとしたら、何が正解なのか? 正解が見つからない。困った。どうする?

 ──

 そこで、困ったときの Openブログ。正解を教えよう。
 正解は何か? 実はそれは、すでに前項で記してある。
 だから、「前項を読めばわかる」で片付いてしまう。

 とはいえ、これで終了では、話が不親切すぎるだろう。「前項を読め」というだけでは、舌足らずすぎる。
 そこで、改めて解説しよう。

 必要な条件は二つある。

 (1) 経営者

 ラピダスでも何でも、大きな企業が成功するためには、単に企業を束ねるだけでなく、その大きな企業を統率する経営者が必要だ。さもなくば、船頭のいない船と同じであり、迷走することになるからだ。
 スティーブ・ジョブズやビルゲイツがいたように、何らかの優秀な経営者が統率する必要がある。それは技術力のある若手の経営者だ。そういう人物を抜擢する必要がある。仮に、日本にいないのなら、中国や米国から招くのでもいい。とにかく、有能な経営者をトップに立てることが必要だ。

 ※ このことは、前項の最後のあたりでも強調した。

 (2) 技術水準

 もう一つ、大切なことがある。それは、技術水準を高めることだ。
 では、そのために必要なのは、何か? 資金と人員だ。この二点が大切だ。
 「何を当たり前のことを言うんだ。そんなことはわかっている。だから国は補助金を出すんだ」
 と思う人が多いだろう。だが、さにあらず。それは大いなる錯覚だ。

 第1に、資金が必要なら、国に頼るのでなく、民間で資金を集めるべきだ。有望な事業ならば、自動的に資金が集まる。国の補助金などは必要ない。換言すれば、国の補助金が必要ならば、事業には採算性がなく、成功の可能性もない。だから、国の補助金が必要な事業は、やめるべきなのだ。(たとえば、ラピダスは、本来ならば IBM が多額の出資をするはずだ。なのに、そうしない。ということは、IBM は「この事業は失敗する」と見なしている、ということだ。IBM が失敗すると見なす事業に、日本政府が数兆円も投じるのは、馬鹿げている。失敗確実のギャンブルに大金を投じるのも同様だ。)

 第2に、技術力を高めるには、大量の技術者が必要だ。パワー半導体を開発するためには、大量の半導体技術者が必要だ。ところが、日本にいる半導体技術者の総数は限られている。その状況で、ラピダスが大量の半導体技術者を採用したら、どうなる? ラピダスに技術者を奪われた分、パワー半導体の技術者は減少する。日本政府がラピダスのために莫大な金を投入すればするほど、パワー半導体の技術者は足りなくなる。……結果的に、ラピダスは(もともと不可能なので)事業は失敗するし、パワー半導体は(ラピダスに技術者を奪われたせいで)事業は失敗する。どちらも失敗する。共倒れだ。それも、日本政府の国策のせいで。本来ならば、パワー半導体だけなら生き残れるはずだったのだが、日本政府がラピダスのために大量の半導体技術者を奪うので、パワー半導体もまたいっしょにつぶれてしまうのだ。
 このことを理解しないまま、国が大量の金を投じると、どうなるか?
 「国が莫大な金を投じれば投じるほど、パワー半導体の技術者が減るので、かえって共倒れが進んでしまう」
 という結果になる。金を出せば成功するのではなく、金を出すせいでかえって失敗するのだ。 

 ではなぜ、そんなことが起こるのか? それは、進むべき道を根本的に間違えているからだ。正解は「パワー半導体の開発」という道なのに、間違って「ラピダス」という別の道を選んだ。そのせいで、金を出せば出すほど、かえって失敗してしまうのだ。かえって見当違いの方向に進むからだ。


magari_michi.jpg


 それと似たことは、前にもあった。それは「燃料電池車の開発」という道だ。(上図)
 本来ならば、正しい道( EV 開発の道) を進むべきだった。テスラと日産自動車は、その道を進んだ。しかしトヨタとホンダは、「燃料電池車の開発」という道を選んだ。そのせいで、非常に難儀した。その難儀の状態を見て、VW などの欧州の会社は、テスラと日産自動車のあとを追って、EV の道を進んだ。
 トヨタとホンダは、この時点で、欧州の各社といっしょに、EV の道を進むべきだった。しかしトヨタとホンダは、そうしなかった。それまで進んだ「燃料電池車の開発」という道を諦めることができないので、あくまでもその道を進んだ。そこが行き止まりだと気づいても、いつまでも諦められなかった。かくて、莫大な損失を招く結果となった。何年もたってから、EV の道に戻ったときには、欧州各社や中国各社は、ずっと先の方に進んでいた。

 結局、間違った道を選ぶと、金を出せば出すほど、かえって失敗してしまうのである。
 そのことに気づかないまま、「巨額の補助金を出せばいい」と思っているのが、日本政府なのだ。そのせいで自らを滅ぼすことになると気づかない。日本政府がやっているのは、要するに、日本企業を死なせるための自殺装置の購入資金なのだ。自殺用のギロチン台を買う資金なのだ。

 その見本が、MRJ で1兆円を無駄にした三菱重工だ。
 それと同様にして、日本政府はパワー半導体の産業をつぶすために、数兆円もの金を投じるのである。(ラピダス経由で。)


girotin.jpg
 
 


 ※ 以下は読まなくてもいい。

 【 補説 】
 どうしてこういう失敗が起こるか? そのわけを教えよう。
 その理由は、目先の事業のことばかりを見て、「総量の制約」という概念を理解できないからだ。
 ※ もう少し世俗的に言えば、「兵站の重要性を理解できない」「ロジスティックの重要性を理解できない」というふうにも言えそうだ。

 これは、経済学におけるマクロ経済学的な認識の重要性と同様である。古典派経済学者は、不況の時には、単に「金利を下げよ」「マネーを大量に投入せよ」と主張する。しかし、それでは効果がない、ということは、日本の不況解決策の失敗からもわかる。
 マクロ経済学を理解すれば、正解がわかる。不況のときには、「総需要」という大枠が不足している。この大枠が不足しているときには、供給の側をいくら増やしても無効なのだ。むしろ供給を増やせば増やすほど、需給ギャップが開いてしまうので、逆効果になる。にもかかわらず、供給側ばかりを拡大しようとするのが、日本政府の経済政策だった。(だから失敗した。)
 
 半導体産業の支援でも同様だ。政府は「金をどんどん投入すればいい」と思い込むが、日本全体の「技術者の総量」というのは限られている。その量が制約要因となる。なのに、その制約要因に気づかないまま、ラピダスが大量の半導体技術者を奪えば、他の分野では半導体技術者が不足するので、他の分野が衰退してしまうのだ。

 これは「ボトルネック」という発想にも似ている。
  → サイト内検索

 ともあれ、愚かな人間は、目先のことしか考えない。狭い視野のことしか考えない。「全体に目を配る」というような広い視野を持つことができない。だから、愚かな人間は、得をしようとして、失敗するのである。
 
 ──

 [ 余談 ]
 「ラピダスの半導体技術者と、パワー半導体の技術者は、分野が違うので、重ならないぞ」
 という反論も来そうだ。なるほど、ベテランならば、そうだろう。しかし新卒技術者のレベルなら、話は違う。若手は、その後にどうなるかは、まだ未定である。若手のレベルで奪い合いをしていれば、やがては一方が技術者を奪われて衰退するのは必然だろう。
 


 [ 付記 ]
 政府は、合併したパワー半導体の会社に、補助金を出す。( → 朝日記事)
 しかし、これは間違った方針である。
 では、かわりにどうすればいいか? こうだ。

 (1) 国策の統一会社を設立する。各社のパワー半導体部門は、そこに吸収合併する。代価として、統一会社の株式を与える。
 (2) 参加しない会社に対しては、「たたきつぶす」という方針を示す。「たたきつぶして、倒産させてから、人員と試算を無料で吸収する」という方針を示す。
 (3) 参加しない会社は、倒産しないとしても、業績悪化するだろう。ならば、業績悪化した時点でも、吸収する。ただしその場合、対価として払う株式は、激減する。大幅に安い対価で、吸収する。

 以上の方針を示せば、各社は否応なしに、統一会社に吸収されたがる。そこで、統一会社に対しては、補助金を与えてもいい。その場合、補助金をもらった分、各社は手持ちの株式価値が上がる。その株を売ってもいいし、保有してもいい。好きにすればいい。
 
posted by 管理人 at 23:28 | Comment(4) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
パワー半導体はローテクの分野なので、
最終的には液晶モニタと同様に勝者のいない市場
になると思います。
液晶モニタもブラウン管モニタからの買い替え
という莫大な需要があり市場規模も兆円レベルでした。
そこで世界規模で各社がしのぎを削った結果、
安い中国製が普及してしまい勝者のいない市場になりました。
最終的な勝者は実は液晶モニタに投資をしないという
見切りをつけた企業だったわけです。
パワー半導体も同じようになる可能性が高いと見ます。

ハイエンド技術以外の領域だと最後は
中国リスクの問題に帰着します。
アナログ半導体とマイコンがどうなるか。
中国が自国内で内製しようと動いているでしょう。
中国からすれば輸出規制のリスク対策です。
そのため利益度外視で内製化に向かいます。


Posted by 読者 at 2024年12月04日 03:12
技術領域の特徴として、100%に近い品質が求められる領域と、
70%でも許される領域があるんですね。
ニデックがEVのモーターで中国内でシェアを取ろう
として失敗しました。
これはEVモーターが後者の領域だったからです。
70%の品質でも許される領域に100%の品質で勝負するのも
戦略としてはありですが、大成功は望めません。
高級車と普及車の市場分布といってもいい。
パワー半導体は70%が許容される領域です。
技術領域の特性が前者なのか後者なのか。
その見極めが大切です。

Posted by 読者 at 2024年12月04日 03:29
 パワー半導体に似た分野では青色 LED があり、日亜化学は業界トップクラスのシェアを持ち、経常利益率は約21.5%というボロ儲け。
 こういう産業を「ローテク」と馬鹿にしているようだと、日本の産業全体が衰退してしまうだろう。

 ──

 液晶モニタがもうからないのは、もはや時代遅れの衰退した産業だからだ。最盛期にはボロ儲けできた。
 今はかわりに有機ELがある。これも日本が開発トップを走っていたが、開発投資を惜しんでいる間に、莫大な開発費を投入したサムスンに敗北した。
 そのサムスンは今や有機 EL で利益率 18%というボロ儲けをしている。
 
 結局、日本は開発費については数百億円の投資を惜しみ、生産費については数兆円の投資を惜しまない。……それが常に失敗する理由だ。その逆であるべきなのだが。
 ローテクだの何だのと馬鹿にしていると、青色 LED もパワー半導体も、すべての半導体産業を失い、高い利益率の先端産業を失います。

> ニデックがEVのモーターで中国内でシェアを取ろうとして失敗しました。

 それはニデックという会社に技術力がなかったからです。ニデックが急成長できたのは、特に優秀だったからというよりは、モーター業界のライバルが元々小企業ばかりだったからです。そこにガリバーのようなニデックが出てきて、市場シャアを奪うよりは買収によって会社規模を拡大していった。そうして急成長したが、特別に技術力が優れていたわけではなかった。なぜなら、給料が安かったからだ。給料の安い会社には、特別に優秀な技術者は来ない。だから圧勝はできない。

 EVのモーターで中国内でシェアを取ろうというのは、もともと無理な方針です。当初は中国メーカーの技術水準が低かったから、それが成功すると見込んだが、その後、中国の EV メーカーは世界トップの技術力と開発力を備えるようになった。もはやニデックを必要としないし、ニデックを上回る能力すらある。技術者の給料もニデックをはるかに上回る。二流の技術者しかいないニデックと、超一流の技術者のいる中国メーカー(BYD)では、勝負にならない。
 結局は技術者を大切にするか否かという経営方針の違いであり、それが技術水準の高低に直結します。

 EVモーターをローテクだと馬鹿にしていれば、世界の EV 市場のシェアをすべて失います。アップルやテスラになる能力もないくせに、それらになることばかりを憧れて、自分の得意な産業を「ローテクだ」と馬鹿にして捨てていれば、残る道は乞食になることだけです。
Posted by 管理人 at 2024年12月04日 08:19
 04日(水曜日)の 21:08 〜 23:08 の間、本項の内容は、前項の内容に置き換えられていました。(ブログの操作ミスです。)

 その後に、修復されました。
Posted by 管理人 at 2024年12月04日 21:52
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