2024年11月27日

◆ ラピダスで 10兆円の無駄

 MRJ では1兆円を無駄に捨てたが、ラピダスでは 10兆円を無駄に捨てることになりそうだ。

 ──

 政府はラピダスの支援を決めた。4兆円を投入するつもりらしい。
 政府が近く示す今年度の補正予算案で、次世代半導体の国産化をめざす「ラピダス」に対し、新たに8千億円規模の支援を盛り込んだことがわかった。半導体・AI(人工知能)分野全体では計1.6兆円規模を計上する。
 政府はラピダスに最大9200億円の支援を決めたが、2027年に予定する2ナノ(ナノは10億分の1)世代半導体の量産開始にはさらに4兆円が必要とされる。今回の補正予算で追加の補助金を出し、研究開発費や当面の運転資金とする。
( → ラピダス支援に8千億円、補正予算に計上へ 昨年に次ぐ巨額補助:朝日新聞

 記事を読んで、「何だ、たかが 8千億円じゃないか」と思うかもしれない。だが、ちゃんと読んでほしい。8千億円は「研究開発費や当面の運転資金」である。当面の分だけだ。補正予算だから、半年分だけだ。このあと延々と何年も金を出し続けて、総額で莫大な投入する予定だ。その額は、上記では4兆円。
 だが、話はこれでは収まらない。その額は 10兆円にも及ぶ。本日の最新記事だ。
 政府は22日に決定した経済対策に10兆円以上の規模となる半導体支援策を盛り込んだ。次世代半導体の量産化を目指す企業「ラピダス」への支援も一段と力を入れるという。
 支援策は、「ラピダス」を念頭に、2030年度までに10兆円以上を公的支援すると明記した。次世代半導体の研究開発などに6兆円程度、出資や民間金融機関の債務保証などの金融支援に4兆円超を充てる。
( → このご時世「日の丸半導体」に国費10兆円…またムダ金にならないか 「ラピダス」支援、一発逆転の勝算は:東京新聞デジタル

 では、この金を出すのは、誰か? 政府は民間の投資を促すために、税優遇するという。
 経済産業省は、次世代半導体の国産化をめざす「ラピダス」への税優遇策を、来年度の税制改正要望に盛り込む。 量産化には約4兆円が必要とされ、増資による税負担を減らすねらい。
 政府は研究開発費などに最大9200億円の支援を決めた。さらに約4兆円の資金が必要で、民間企業からも出資を募っている。資本金が大幅に増えるとみられ、それに伴う税負担を軽減するよう求める。
( → 半導体の量産へ、ラピダス税優遇 経産省、税制改正要望:朝日新聞

 では、これによって、多額の民間投資が期待できるか? これまでの出資額を見ると、こうだ。( Feloの回答)
  ・ トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソーなどの8社から合計73億円の出資。
  ・ 2024年10月18日には、トヨタとデンソーが追加出資を検討。
  ・ 日本政府はラピダスに対して、2025年度に2000億円の出資を計画しており、これまでに9200億円の補助金を決定。
  ・ 量産には、総額で約5兆円の資金が必要。

 民間が出資するといっても、73億円だけ。追加出資もあるが、同程度だろう。政府補助金が 9200億円というから、民間の出資は雀の涙にすぎない。
 というか、これは政府公認のサギである。仮に 5兆円の投資をして、年間収益が 100億円になったなら、その 92%ぐらいは政府が配当金として受け取るべきだが、政府は出資者でなく補助金を出しただけだから、配当金を受け取る資格がない。配当金を受け取るのは、73億円(プラスアルファ)を出資した企業である。
 これでは国民の5兆円を出資企業にプレゼントしたのも同然だ。ひどい詐欺だ。5兆円詐欺。(いや、10兆円かも。)

 MRJ では、1兆円の損失を出したが、その損失をかぶったのは、三菱重工だった。
 一方、ラピダスでは、5兆円または 10兆円の損失を出しそうだが、その損失をかぶるのは、国民である。いっぽう、その金を食い物にしてボロ儲けを狙う詐欺師がいる。トヨタとデンソーなどだ。呆れるしかない。

 ──

 だが、トヨタとデンソーが 10兆円をまるまる食い潰すわけではない。金の大部分は、単に無駄に消えてしまうだけだ。ドブに捨てるように。(その点では MRJ と同様だ。)
 なぜか? ラピダスという事業は、失敗確実だからである。もともと日本には半導体の生産の実績がない。そんなヨチヨチ歩きの赤ん坊のような状態で、いきなり MLB の選手みたいな大人たちと伍して戦えば、結果は目に見えているというものだ。それが常識だろう。(だから民間会社は、誰も金を払おうとしない。お付き合いで、お付き合い料ぐらいの金を払うだけだ。)

 以上は私の判断だが、これは専門的知識が欠けている。そこで、専門家の知識を調べようと思った。ググるには、次を見ればいい。
  → 湯之上隆 ラピダス - Google 検索
 ここから、該当ページはすぐに判明する。3番目と2番目の記事がそうだ。
  → 「特集」 間違いだらけの日本の半導体政策 最後の砦となる材料産業の強化を | 共同通信社
  → 国策・日の丸連合・半導体新会社「ラピダス」がお笑いでしかない理由…そもそもの問題として誰が半導体をつくれるのか | 集英社

 詳しい話は上記を見ればわかるが、私の懸念していたとおりだとわかる。つまり、私の懸念していたことは、専門家の話で裏付けられたわけだ。「やっぱりね」というふうに。

 上記の解説記事を見ればわかるが、日本政府が数兆円もの巨額の金を投入しても、効果はほとんどない。
 ではなぜ、政府はそれほどにも巨額の金を投入しようとするのか? そのわけを教えよう。こうだ。
 「それは、日本の産業のためでもないし、日本の国民のためでもない。日本政府のためである。正確には、経産省のためである。経産省は、組織の予算を獲得して、何らかの事業をしたい。何もしないでいると無能扱いされるから、数兆円の予算を投入して、何らかの事業をしたい。つまり、経産省の役人が、自らの存在証明をしたいということのために、数兆円もの国税を無駄遣いするのだ」
 これが真相である。


money-hole.jpg


 「無能な働き者」という言葉がある。彼らは何もしなければ、まだいいのだが、せっせと汗水垂らして働いて、余計なことばかりをする。彼ら自身は善意で働いているのだが、彼らが真面目に働けば働くほど、周囲には大被害が積み重なっていく。まことに困った存在だ。
 ラピダスという事業は、「無能な働き者」のなせる事業なのである。

 ※ こんなことをしなければ、数兆円の減税の財源になるんだけどね。減税の財源を探す手間もないのだが。(国民の減税のための金を、ラピダスがせっせと食いつぶしているわけだ。)

 《 加筆 》
 ラピダスが成功しないことは、人材面からもわかる。
 10兆円もの金を投入するなら、それに見合う人材を投入する必要がある。莫大な数の優秀な技術者を投入する必要がある。だが、その人材がいるか? たったの10年ぐらいのプロジェクトのために世界最高クラスの人材を投入して、そのプロジェクトの終了後にはほっぽり出す……そんなところに、まともな人材が来るわけがないし、まして大量に投入することなど不可能だ。
 仮に、東大や京大の工学部の優秀な学生をごっそりさらっていくとしたら、その分、他の工業が衰えてしまう。かといって、外国から招こうにも、日本語の障壁があるので、日本の会社では使えない。
 どうしてもやるなら、米国に会社を置いて、英語使いの人材を招いて、すべてを米国内のプロジェクトとして稼働することだ。これなら、少しは成功の目がある。しかしそれはもはや国内産業の振興とは何の関係もない。無意味だ。
 結局、ラピダスというシステムは、経産省の役人のお遊び(絵に描いた餅)にすぎないのだ。絵に描いた餅は、AI画像に任せるのが本筋だ。そこに現実の金を投入すれば、ただの浪費となるだけだ。

 ※ どうせやるならまだしも GPT みたいなAI研究に金を出す方がマシだ。ハードに金を出すより、研究開発に金を出すべきだ。出す金額は桁違いに少なくて済む。



 [ 付記 ]
 MRJ の開発をやめた三菱重工は、経営状況が一挙に好転した。足を引っ張る重石みたいな MRJ を切り離したことで、株価は一挙に 10倍増となった。


mitubisijuko.gif


 経産省はかつて、国策で MRJ を開発せよ、と誘導した。「補助金を 500億円出すから、国産機を開発せよ」と。それに食らいついたのが三菱重工だった。「 500億円をもらえるのか。ならば投資しよう」と食らいついた。
 しかしその結果は、赤字がどんどん積み重なって、1兆円の損失である。経産省のホラに釣られた結果が、このザマだ。
 それに懲りて、他の企業はみんな、経産省のプランには食らいつかない。そこで、誰も食らいつかないので、政府が自腹で 10兆円を出す。10兆円! 国内の成年人口は 8000万人なので、成年1人あたり 12万円となる計算だ。すごい無駄遣い。あなたも私も、12万円をむしり取られる。

( ※ 今ならまだ止められる。しかし、いったん始まると、途中で止まることは困難となる。ブレーキの効かない暴走車みたいになる。MRJ がそうだった。いくら駄目だと言われても、途中で止められなくなった。かくて赤字は雪ダルマ式に拡大して、2000億、3000億、5000億、1兆円、と膨らんだ。)
 
 【 関連サイト 】

 ラピダスへの批判は、ずっと前にも記した。2022年。
  → 国策の半導体会社: Open ブログ

 2023年にも、批判記事を書いた。
  → 日本企業はなぜ敗北したか: Open ブログ
  → GPT を推進せよ(半導体よりも): Open ブログ
posted by 管理人 at 22:54 | Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後の少し前に 《 加筆 》 を挿入しました。
 ラピダスが成功しないことは、人材面からもわかる……という話。
Posted by 管理人 at 2024年11月28日 10:40
> どうしてもやるなら、米国に会社を置いて、英語使いの人材を招いて、すべてを米国内のプロジェクトとして稼働することだ。

まさに、これをやって成功したのがホンダジェットではないかと思います。
Posted by ジョー at 2024年11月28日 19:43
こんなことをしておいて「税金が足りない」なんて、いい加減にしてほしいです
Posted by のび at 2024年11月30日 10:57
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ