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総括
ジャパンカップレースでは、武豊の馬が最後尾からあれよあれよと追い抜き続けて、最後には一挙に先頭に出て、優勝した。大逆転。
それと同じように、斎藤もまた出遅れた情勢から、最後には一挙に先頭に出て、当選した。大逆転。
これを見て、世間は大騒ぎ。「SNSの勝利だ」「ネットの勝利だ」「テレビや新聞のようなマスコミの敗北だ」と大騒ぎ。ネット民は「おれたちの勝利!」と鼻高々。
ところが女社長が「SNS の宣伝戦略は当社が請け負いました」と鼻高々に自慢したことで、情勢が一挙に転換した。宣伝を有償で請け負うことは公選法違反なので、斎藤知事は公選法違反で逮捕される見込みが生じた。政界と世間は大騒ぎ。 → 今ココ。
このあとどうなるかは、見通しが立っていない。斎藤知事は何とか逃げ切ろうとしているが、法律専門家の味方はこぞって、「逃げ切れない」だ。たとえば、下記。
→ 斎藤元彦知事は公選法違反「疑惑」を晴らせるのか 弁護士が指摘「考えられる3つの弁明」と問題点 | ENCOUNT
→ 「立花暴露発言」に誘発された「折田ブログ投稿」で、斎藤知事は絶体絶命か(郷原信郎)
SNS と不倫
今回の選挙戦略では、立花の動画が圧倒的な影響力を発揮した。PV 数は 1500万回。そこから派生した TikTok の動画もある。それらを紹介する Twitter や LINE の連絡もある。SNS がどうのこうのと言っても、その内容はもともとは立花の動画であったのだ。
では、立花の動画はどうしてそれほどにも影響力を発揮したのか?
世間の大勢は、こう考える。
「とにかく動画であればいいんだ」
「とにかく SNS であればいいんだ」
しかし、これは成立しない。動画や SNS なら、稲村陣営にも少しはあった。しかしそれらはまったくバズらなかった。ただの動画や SNS では、効果がないのだ。
ではなぜ、立花の動画が圧倒的な影響力を発揮したのか?
そのわけを教えよう。こうだ。
「立花は話のテーマとして下世話なテーマを選んだ。それは(告発者の)不倫である」
不倫という下世話なテーマを選んだ。だから世間はこれにパクリと食いついたのである。いわばエサに食いつく魚のように。そのあとは、立花の論理に従うだけだ。
立花の論理とは? こうだ。
「不倫があった → なのにマスコミ祝を報道しない → マスコミは真実を隠蔽する → 斎藤を批判するマスコミは嘘つきだ → ゆえに斎藤は本当は正しい → 斎藤は県政を正常化した → 斎藤は既得権益と戦う → 斎藤を批判するのは既得権益である → 斎藤を支持することこそ正義である」
こうして人々は立花の話を信じた。その話は、ひとことで言えば、「陰謀論」である。あまりに荒唐無稽なので、マスコミは相手にしなかったが、もともとテレビも新聞も見ない人々にとっては、このような「陰謀論」こそ、真実だと見えたのである。
彼らがいかに陰謀論に染まりやすいかは、次の記事からもわかる。
→ 「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景|NEWSポストセブン
事例もある。
内山の主な情報源はネットであり、新聞は購読しておらず、「テレビは1ミリたりとも信用していない」。
神戸市に住む高田会里香 「メディアは一切信用していません。テレビは見ませんし、新聞も取っていません。立花さんなどのYouTubeを見て、“真実”を知るようになり、いろんなことが納得できました」
斎藤の出陣式の直後に、同じ場所に立花が現れたときは、聴衆から、タチバナコールとともに、「正義の味方!」という掛け声までかかった。
マスコミが不倫を報道しなかったのは、ただの市民の不倫などは報道価値がないし、報道するのは個人情報保護に違反するからだ。(権力者の不倫とはわけが違う。)
なのに、「マスコミが報道しないのは真実を隠蔽している」と立花は批判して、上記のような陰謀論をこねあげた。それに乗ったのが、下世話なエロ話の好きな民衆だ。
これらの民衆は、テレビも新聞も見ない人だ。彼らはまともな情報を知らない。かわりに、何を知るのか? YouTube や TikTok だ。
今はスマホ時代である。テレビのような大きな画面を見ないで、スマホの小さな画面を見る。そういうふうに視野の狭い人々が圧倒的に増えているのだ。だから、その小さな画面を占拠すれば、人々の投票行動をも占拠できる。……これがネット時代の立花の行動原理なのだ。
そして、それは、まんまと成功した。斎藤は、自らの力で勝ったというよりは、立花の戦略によって勝ったのだ。
( そのあとで自爆する形で、勝利を無効化してしまったが。)
※ 不倫と言えば、国民民主の玉木の不倫もあった。だが、斎藤知事の話題があまりにも強烈すぎて、玉木の不倫の話題は一挙に吹っ飛んでしまった。今では誰もろくに気にしていまい。斎藤知事の話題に一番感謝しているのは、玉木かもしれない。

買収は成立するか?
斎藤知事が SNS の宣伝活動を序社長の会社に依頼した。これが買収行為に当たると指摘されている。斎藤知事は「払ったのは 70万円だが、それはポスターのデザイン代だから、買収に当たらない」と釈明している。では、どうなるだろう?
私の見解を示そう。
(1) デザイン代で 70万円を払ったというのは、金額が過剰になりすぎる。選挙ポスターは全額が公費負担となるが、その額は印刷発行費込みで上限が決められている。デザイン代に 70万円を払ったら、印刷発行費がゼロでないと、金額が合わない。もっと多い額を払えば、上限を超えてしまうので、公選法違反となる。上限を超えないようにすれば、印刷発行費がゼロだということになるが、これは現実に反するので、会計が虚偽申告となるので、やはり公選法違反となる。
(2) 先に別項コメント欄で示したことを転載する。
斎藤知事は、「女社長の会社は無償で働いたのであって、斎藤は(ポスター以外の)活動に金を払っていないから、買収にならない」という理屈を取るらしい。
しかし、次の記述がある。
> 労働時間中であるにもかかわらず従業員に選挙運動を手伝わせ、当該手伝いの業務中も賃金を支給した場合、買収罪の可能性が生じること(公職選挙法第221条第1項第1号)
https://media.ys-law.jp/compliance/post-824/
> 第二百二十一条 次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
一 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100#Mp-Ch_14
つまり、会社側が無償で労務を提供した場合には、会社側が買収したことになる。会社は、買収される側から、買収する側になる。
この場合、女社長は「買収になると知らないで業務を請け負った」という弁解は成立しないので、女社長は思い刑罰を免れない。懲役2年、執行猶予4年が妥当だろう。
さらには、会社の本業で真っ向から違法行為をしていたことに成るので、会社の信用は著しく毀損される。会社の倒産は免れないだろう。破綻により、莫大な損失を負う。数千万円の損失となる。
一方で、斎藤の側は、買収する側から買収される側に転じるので、懲役1年、執行猶予2年ぐらいに減刑される。しかしながら、たとえ減刑されても有罪だから、知事の資格を失うことには変わりはない。
結局、この道を取った場合、斎藤はやはり知事の資格を失う。一方で、女社長の側は莫大な損失を負う。嘘をついて大幅に損するわけだ。そんなことをするはずがない。
ゆえに、この道を取ることはない。つまり女社長は、正直に語るはずだ。「買収したのではなく、買収されました」と語るはずだ。「無償で請け負ったのではなく、会社の正当な業務として請け負いました」と。
その場合、女社長は起訴猶予となり罰されない。一方で、斎藤の側は重い罰を受ける。こうして正義は果たされることになる。
以上が、将来の見通しだ。
( → 勝者は斎藤でなく立花: Open ブログ )
(3) 公選法 199条もある。ここでは、自治体の公共事業者が候補者に寄付(業務の提供)を禁じた規定がある。女社長の会社は、前に県から業務を受注しているので、このような業者が候補者に労務や業務を無償提供すると、公選法 199条に違反する。(自分で買収したことになる。その罪は、買収された罪より、ずっと重い。)
(4) 斎藤知事は「女社長がボランティアをした」と述べているが、女社長の側は「ボランティアではない」と述べている。下記記事にある通り。
自身が斎藤陣営のXやインスタグラムやYouTubeなど4つのSNS公式アカウントを「管理・監修」したと誇示。
「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました」とも言い切っている。
さらにこうした作業を「東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたい」「特定の団体・個人やものを支援する意図もなく」と書き、これらの作業はボランティアではなく会社の業務だったと明言したのだ。
( → 集英社オンライン )
河井克行・法相の買収事件
公選法違反の買収事件としては、河井克行・法相の買収事件が先例としてある。これを見ると、今後の捜査や裁判の日程がどうなるか、予想が付く。
別項のコメント欄の話を転載しよう。
河井克行・法相の買収事件。
2019年10月、買収が報じられる。
2020年3月、秘書が逮捕される。
2020年6月、秘書に有罪判決。翌日、河井夫妻が逮捕される。
2021年3月、保釈が認められる。会見して、無罪主張を取り下げて、有罪を認める方針に転じた。議員も辞職。その後、政界引退を表明。
2021年6月、実刑判決。懲役三年。保釈が取り消されて、収監される。
2021年10月、控訴を取り下げて、実刑が確定。
その後、満期の半年前に仮釈放となる。
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以上からすると、まずは女社長が逮捕される。その時期は、半年後かもしれないが、早ければ3カ月後だ。逮捕の3カ月後に判決が下る。
その翌日に斎藤知事も逮捕される。それから9カ月後に保釈されるが、さらに3カ月後に実刑判決が下る。そのまま収監されて、臭い飯を食う。
控訴しても、保釈は認められないことが多いそうだ。政界引退を約束すれば、情状酌量を受けて、保釈が認められる可能性もある。
知事が逮捕されると、通常、不信任案が決議されて、知事は失職する。その後に知事選が行われる。
私の予想では、斎藤知事の逮捕は3〜6カ月後。知事の不信任は、そのあとで。
ただし、次の議会で紛糾して、早めに不信任が再決議される可能性もある
( → 勝者は斎藤でなく立花: Open ブログ )
問題の本質
斎藤知事の問題の本質は何か?
ちょっと見たところでは、斎藤知事の罪はたいして重くないように見える。河井法相は明白に買収していたし、柿沢未途議員は明白に資金提供したりしていた。これらはかなり罪が重い。一方、斎藤知事の場合は、単に業務に正当な対価を払っただけだ。そのこと自体が法律に違反しているが、これは「ルール違反」というだけであって、票を買収するような倫理面での反社会的行為とは違う。あまり罪が重くないように思える。ではなぜ、これほどにも大々的に批判されるのか?
これについての私の考えは、別項のコメントに記した。それを転載しよう。
斎藤知事の根本的に悪いことは、何か?
公選法違反をしたこと自体か? いや、そのこと自体は、知事としての能力には関係しない。不公正なことをした悪人ではあっても、知事としては優秀かもしれない。だから、法律違反の犯罪者であること自体は、根本的ではない。根本的に悪い点は、別にある。
第1に、法律に無知であることだ。何が公選法違反になるかについて、法的に無知でありすぎた。部下に調査させる知恵さえもなかった。無知で無能でありすぎた。知事としての能力が足りなかった。(法学部出身ではないせいかもね。専門知識の欠落。)
第2に、法律を守ろうとする遵法精神がなかった。だから、公益通報の件でも法律を守ろうとしなかったし、公選法の件でも法律を守ろうとしなかった。法律を守る気がないから、あっさりと違法行為をした。……要するに、遵法精神がないのであり、その根源は、人としての倫理観がないことだ。これこそが、本件の本質だったと言えるだろう。
( → 勝者は斎藤でなく立花: Open ブログ )
ズバリ正解。さすが名探偵お見事です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241126/k10014650231000.html
誤用とされる慣用利用であるようですね。
https://x.gd/eZkJs
ご指摘に従い、該当箇所を修正しました。ご指摘ありがとうございました。