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ノーベル化学賞では、X線回折にかわる新技術が顕彰された。それはAIによってタンパク質の構造を推定する、というものだった。
このプログラムは、CASPのグローバル距離テスト (GDT) において、約3分の2のタンパク質について90以上のスコアを獲得した。これは計算プログラムが予測した構造がラボ実験で決定された構造と類似している度合いを測定するテストで、GDTの計算に使用される距離のカットオフの範囲内で100が完全な一致である。
CASPでのAlphaFold 2の結果は「驚異的」であり、変革的なものであると評された。
( → AlphaFold - Wikipedia )
ここでは「90以上のスコアを獲得した」と評価されている。この場合、スコアが 100となるような「正解」の構造がすでに判明していることになる。(それと比較して 90%の正確度だ、ということだからだ。)
さて。現実には、ほとんどのタンパク質の構造が不明である。
Felo によれば、こうだ。
質問:
構造の判明しているタンパク質は、全体のうちのどのくらいの比率か?
回答:
現在、構造が判明しているタンパク質の比率は、全体の約17%に過ぎません。具体的には、約20,000種類のヒトタンパク質のうち、構造が確認されているのは約3,500種類です。
これに対して、タンパク質データバンク(PDB)には、150,000以上の構造が登録されていますが、全ての配列に対しては1%未満の構造しか解明されていない状況です。
こういうふうに、タンパク質の構造はほとんどが不明だ。
そのなかで、「正解」の構造がすでに判明しているタンパク質について、AIで推定したようだ。しかし、このように「正解」がたまたま判明しているタンパク質は少ないから、AIが正しいかどうかを評価できる件数も、多くはないことになる。AIが推定しても、その推定結果が正しいかどうかは評価不能になることが多いわけだ。(正解が不明なので。)
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ところが、新たに画期的な技術が開発された。「結晶スポンジ法」というものだ。これは次のようなものだ。
ChatGPT の回答
結晶スポンジ法(結晶スポンジ法:Crystalline Sponge Method)は、有機化合物の構造解析において、結晶を必要とせずに、X線結晶構造解析を行うための革新的な技術です。従来、有機分子のX線結晶構造解析には、対象分子自体を結晶化させる必要がありましたが、多くの場合、この結晶化が難しいため、解析が困難でした。
結晶スポンジ法の概要
結晶スポンジ法では、あらかじめ構造がよく知られている「結晶スポンジ」と呼ばれる多孔質の結晶(通常、金属有機構造体:MOF)が用いられます。この結晶スポンジには微細な孔がたくさん空いており、解析対象となる有機分子をこの孔に浸透させます。その後、X線回折法を用いてこの結晶スポンジ全体の構造を解析することで、有機分子の構造も間接的に明らかにすることができます。
主な特徴
- 結晶化の不要: 分子そのものを結晶化させる必要がなく、スポンジに吸着させるだけで解析が可能です。
- 分子の柔軟なサイズ: 小分子から大きな有機分子まで、多様なサイズの分子が対象となります。
- 少量の試料で解析可能: ごく少量の試料でも精密な構造解析が可能です。
- 短時間で解析可能: 従来の結晶化と比べて、短時間で結果が得られることがあります。
Gemini の回答
結晶スポンジ法では、「結晶スポンジ」と呼ばれる多孔性の物質を利用します。この結晶スポンジには、無数の小さな穴(細孔)が規則正しく並んでいます。この穴に、構造を調べたい物質(ゲスト分子)を閉じ込めることで、ゲスト分子を規則正しい配列に固定します。
この状態でX線などの光を当てると、ゲスト分子の構造に関する情報を得ることができます。
Felo の回答
結晶スポンジ法は、分子構造解析の革新的な手法であり、特に結晶化が困難な化合物の構造を明らかにするために開発されました。この方法は、東京大学の藤田誠教授の研究グループによって2013年に発表され、X線結晶構造解析の「100年問題」とも称される課題を解決しました。
結晶スポンジ法の基本原理
結晶スポンジ法は、特定の形状を持つ多孔性の結晶(結晶スポンジ)を使用します。この結晶は、直径約0.5から1ナノメートルの無数の細孔を持ち、液体の試料を吸収することができます。以下の手順で構造解析が行われます。
- 試料の吸収: 分析したい化合物の溶液に結晶スポンジを浸すと、化合物がスポンジの細孔に吸収されます。
- 規則的な配置: 吸収された分子は、結晶スポンジ内で規則正しく配置されるため、X線を照射すると明確な回折パターンが得られます。
- X線結晶構造解析: 得られた回折データを基に、分子の三次元構造を決定します。この方法では、結晶化のプロセスを経ることなく、極めて微量(数十ナノグラム)の試料で構造解析が可能です
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本家のサイトもある。(あまりわかりやすくない。)
→ 結晶スポンジ法 | 東京大学
結晶スポンジ法は、「不規則な形状の分子が偶然にきれいに並ぶのを待つのではなく、マンションのように仕切られた部屋に入ってもらえばよい」という原理であり、アイディアとしてはごくシンプルです。
本人の解説もある。(あまりわかりやすくない。)
→ 結晶スポンジが100年問題を解決!|ナノテクノロジー・材料|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構
次の図はわかりやすい。

出典:結晶スポンジ法を用いた化合物の構造解析
次の図もある。

出典:「判例」ブログ
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上の図を理解する前に、次のことを理解しておこう。
X線回折は、次の順で進む。
・ 物質を結晶化する。(規則正しく配列する。)
・ X線を照射する。
・ X線の回折像を得る。
・ 回折像から逆算して、結晶構造を知る。
ここで、単純な構造の物質なら結晶化が可能だが、複雑な構造の物質なら結晶化が困難だ。となると、規則正しく配列することもできないので、X線回折をすることもできない。困った。どうする?
そこで、困ったときの 苦し紛れ。頭をひねって、新たな発想を出したようだ。
「結晶化しないで、規則正しく配置すればいい。そのためには、うまく物質が固定されるような場所を規則正しく用意しておけばいい。スポンジの穴のように」
こうして結晶スポンジ法という手法が開発されたわけだ。
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ともあれ、この手法は画期的であり、今年のノーベル化学賞を上回る成果だとも言える。当然ながら、将来的にはノーベル賞の有力候補となっている。
→ 「科学技術立国」復権へ、ノーベル賞有力候補の藤田氏ら推進する“出島戦略”の全容|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社