2024年10月10日

◆ 被災地を復興するな .5

 ( 前項 の続き )
 その他、細かな話題について。

 ──

 結論


 前項までの話をまとめて結論すれば、こうなる。
  能登や山形では、線状降水帯による大規模な水害が生じた。これに対して「復興を」と唱える声が多い。だが、現地を復興するべきではない。そこはたいていは谷間の川のそばであり、もともと居住不適な土地だからだ。危険な土地は捨てて、安全な土地に移るべきだ。


 そもそも、川のそばに人が住みたがるのは、どうしてか? 昔はそれが便利だったからだ。昔は水道もなかったので、川の水で洗濯することもできたし、いろいろと便利だったのだろう。
 むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。
 まいにち、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 「桃太郎」に示されているとおり、昔は川で洗濯をした。だから川のそばに住みたがったのだ。そして川のそばに住む暮らしが何世紀にもわたって続いた。それで何の問題もないと思われた。

 ところが 21世紀になって、状況は一変した。地球温暖化にともなって、気候が激変し、猛暑や洪水が頻繁に起こるようになった。こうなると、谷間の川沿いは、もはやかつての安全な場所ではなくなった。一挙に危険地帯に転じた。居住不適な土地となった。だから、そういう土地から逃げるべきなのだ。命を守るために。

 ハザードマップ


 上記の方針に役立つものとして、ハザードマップがある。水害などに対応する各種マップが用意されている。(洪水、土砂災害、高潮、津波の4種)
  → ハザードマップポータルサイト(国交省)

 これは有益か? ちょっと調べてみた。
 能登については、谷間の2箇所については、ハザードマップの情報がなかった。未調査であるらしい。
 輪島市の市街地についてはハザードマップがあった。それを見ると、被害に遭った仮設工房は、低地の川沿いにある。ハザードマップでは「危険だ」と示されている場所だ。そういう場所にあえて、仮設工房を建てたわけだ。
 これは、危険だとわかっていて、あえて危険な土地を選んで、新築したのか? いや、むしろ、ハザードマップを無視したのだろう。「被災地の復興」という掛け声ばかりが高くて、復興をするために、ハザードマップで「危険」となる土地に新築したわけだ。
 もはや、馬鹿としか言いようがない。

  ※ 「被災地を復興するな」の別の形だ。過去の水害被災地だけでなく、将来の被災地となりそうな危険地域でも、「復興するな」と言えるわけだ。

 水害保険


 ここで、「水害保険」というものを導入するとよさそうだ。
  ・ 水害が起こったときには、多額の補償金を得られる。
  ・ 危険な土地では高額の保険料の納付が必要となる。


 前者のことから、高額の補償金を得られて、被災者は安心できる。また、国が補償金を払うのでなく、保険制度が金を払うので、国による負担が軽減される。
 後者のことから、「危険な土地ほど額が高くなる」ゆえに、危険な土地から離れたがる動機が生じる。「現在地で高い保険料を払うくらいなら、現在地から引っ越しした方がマシだ!」と怒る人が出てくれば、かえって好都合だ。政府が尻を叩かなくても、自分たちが自発的に現地から離れていくだろう。金が惜しいせいで。
( ※ 先祖代々の土地に住みたいという動機よりは、目先の金が惜しい、というのが人情である。人は命を惜しむことはなくとも、目先の金は惜しむものだ。)
 

himo-coin2.jpg


 引っ越し


 移転するなら集団移転が好ましい、と言われる。近隣世帯がいっしょだと、コミュニティが残るので、孤立が避けられるからだ。一方、バラバラに移転すると、孤立して、孤独死しやすい、とも言われる。

 しかしながら、集団移転は、コストが非常に高い。
  ・ 土地の造成費
  ・ 新築住宅の建築

 双方で 3000万円ぐらいはかかるだろう。
 ちなみに、土地代はゼロの仮設住宅だと、2年間程度しか使わないのに、1200万円ぐらいかかる。いかにもプレハブ然とした、安普請の薄っぺらな建物なのに、それほどの価格がかかるのだ。

 一方、中古一戸建てだと、格安である。
  石川県 https://x.gd/JPkRb
  富山県 https://x.gd/K5bJ6

 安い物だと、180万円。500万円以下も多いし、1000万円以下も多い。それでいて、建物も土地も付いている。格安だと言える。
 新築住宅だと、60年の耐用期間に対して、高齢者は 20年ぐらいしか使わない。下手をすると、
  ・ 70歳で入居
  ・ 80歳で介護施設へ。その後は病院へ。
  ・ 85歳で死亡

 というふうになって、10年しか使わない。
 なのに、10年間の使用のために、新築住宅を建設したら、ただの無駄だ。それなら最初から、「築 50年」ぐらいの中古住宅を買う方がマシだ。

 ※ 老人の孤立の問題は、別途、老人向けサービスを提供すればいい。「老人の話し相手をしてくれる人を募集」というふうな。格安のコストで済むだろう。家を新築する場合の 3000万円よりも、ずっとコスパがいい。

 ※ ちなみに、陸前高田では一戸あたり 4000万円(実際は 5800万円)の費用をかけて、高台に分譲地を造成したが、ほとんどが空地となっている。この件は、過去に論じた。
   → 復興には都市計画を: Open ブログ




 (一戸あたり 5800万円 を出費したが、その金は、被災者の世帯に渡るのではなく、ゴーストタウンの建設費に化けてしまったわけだ。儲けたのは公共事業の業者と、袖の下をもらった代議士だけ。……もっとも、最初からそれが狙いだったが。)

 水害と地震


 このシリーズでは、「被災地で復興するな」というテーマで述べたが、この話はあくまで、水害の被災地に限られる。水害の被災地は、危険地域が限定されるからだ。
 一方、地震の被災地は、危険地域が限定されない。それゆえ、地震の被災地については、「被災地で復興するな」ということにはならない。(この件は、次項でまた論じる。)

 なお、津波の被災地は、話はまた別だ。「これより下には家を建てるな」という碑文もあった。その意味では、「被災地で復興するな」という話は、津波には適用できる。




 ※ シリーズはこれで終わります。
   ただし次項では、地震の被災地について、関連する話があります。

posted by 管理人 at 23:41 | Comment(3) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> ここで、「水害保険」というものを導入するとよさそうだ。

火災保険の水災補償が該当するかと思います。https://hoken.kakaku.com/kasai/select/water/

「水災として認められる被害は、原則として床上浸水したとき、あるいは再調達価額の30%以上の損害を受けたとき」
とのことです。

> 被災地を復興するな
これ自体は賛成です。

一方で、別項では
> 「遊佐町(人口密集地)は消滅するのが正しい」
> これをつぶして、別のところに「新遊佐町」または「シン遊佐町」を作ればいいわけだ。

とおっしゃっているように、災害が起こる前に、危険な土地からあらかじめ離れるべきだとお考えのように思えます。

しかし、みんなが管理人さんのおっしゃるとおりに行動しようとすると、危険な土地を売却して安全な場所に引っ越そうとしても、買い手がいないことになります。

逆に、個人や企業の買い手が現れてそこに住んでしまえば、危険度は下がりません。

災害さえなければ普通に住める土地+家屋を買い取って田んぼにする、もしくは遊水池の一部にするといったことであれば、その主体は国(や自治体)ということにならざるを得ないでしょう。
しかしその場合、
・別の場所に住めるほどの高値で買い取り、住民は喜ぶが国は大損
・田んぼや遊水池にしかならない土地として廉価で強制収用し、住民の恨みを買う(後年、そこで水害が発生したときには「国に安値とは言え買ってもらってよかった」と感謝するかもしれませんが)
のいずれかになってしまい、どちらにしても事前の集団移転は難しいように思います。
Posted by のび at 2024年10月11日 16:25
 現状の水害保険は問題があります。
 (1) 地域別の料金であり、戸別料金ではない。川のすぐそばの超危険な場所でも料金が変わらない。結果、超危険な場所では料金がすごく高くなる、という誘導策が取れない。
 (2) 強制加入ではない。そのせいで、超危険な場所で、超高額の料金の支払いが義務づけられない。平気で現地に居続けることができる。

 上記の二点を解消する必要があります。(文中では言及しなかったので、まずかったな、と思ったが、やはり指摘されてしまったか。)
 
 なお、次の言及がある。

> 「現在地で高い保険料を払うくらいなら、現在地から引っ越しした方がマシだ!」

 こういうのを誘導する必要がある。
Posted by 管理人 at 2024年10月11日 16:46
 遊佐町は最悪の危険度ではないので、強制退出の対象とはなりません。文中に記してある通り。再掲:

 ──

 集団移転は「長期的な勧奨」とするだけでよさそうだ。それまでは、各人の自主判断となる。
  ・ 危険を覚悟して、現地に留まる。予防費用はゼロで、被害額は最大。
  ・ 危険を避けて、よそに移転する。予防費用は最大で、被害額はゼロ。
 どっちにするかは、各人の選択となる。

 ──

 土地を売却する必要はありません。どうせ買い手はいないのだから、そのまま持ち続ければいい。持ち続けながら、利用しないで、離れることになる。物置ぐらいには使える。
 
Posted by 管理人 at 2024年10月11日 16:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ