2024年09月28日

◆ 解雇規制緩和の議論 .14

 シリーズのまとめ。(長々と続いたが、これだけ読めばいい。)

 ──

 進次郎の方針


 まず、小泉進次郎の「解雇規制の緩和」という方針が話題になった。
 彼の方針は、「経済を改善しよう」という目的のために、「雇用の流動化を図る」という親父の時代の方針を踏襲したことだ。ただし、単に「解雇の自由化」を図ると、会社有利で労働者が犠牲になる。そこで、岸田のリスキリングにあやかって、「労働者へのリスキリングを条件に、解雇しやすくする」というアイデアを出した。「これで雇用の流動化と、労働者の待遇改善が、ともに実現する。うまいアイデアだな」と思って、これを自らの経済政策とした。

 しかし、下手の考え、休むに似たり。ろくに知識もないまま、素人のアイデアを出したので、各界から批判を浴びる羽目となった。特に労働者からは、「解雇しやすくするだけで、労働者にとって不利になる」と疑心暗鬼の目で見られて、一挙に評価を落とした。それまでは国民の評判が良かったのに、この件で一挙に評価を落とした。そのあげく、総裁選のレースから脱落するハメになった。(一次投票で敗北。脱落。)

 実を言うと、論理的にも、進次郎の理屈はおかしい。
 第1に、「リスキリングして社内配転する」ならわかるが、「リスキリングして解雇する」というのは、論理が成立しない。リスキリングするなら、あくまで解雇しないで、社内配転するべきだ。
 第2に、リスキリングは、労働者のためになっていない。労働者のためのと言うのなら、労働者自身が自分の意思でリスキリングの場を選べばいいのであって、会社がリスキリングの場を提供するのはおかしい。
 第3に、会社は、単に(解雇のための)金だけを出せばいい。この点は、連合などの労働組合も言っている。解雇するなら、解雇の一時金を十分に出せばいいのだ。「リスキリングをして、その分、一時金を減らす」というのは、邪道である。リスキリングの費用 200万円を支出するよりは、一時金を 200万円払う方がいいのだ。「リスキリングをする」とい進次郎の方針は、労働者のためを思っているように見えて、実際には逆効果になるだけだ。(一時金を減らす効果。)
 第4に、現実には解雇の場では最も普通になされているのは、「強制解雇」ではなく、「希望退職」である。強制解雇だと、裁判に負ける恐れがあるので、会社側はそれを恐れて、希望退職を選ぶことが多い。(AIに質問したら、そういう回答が出た。)……ならば、労働者も合意できる希望退職を標準とする現行制度のままの方がいいのだ。それを否定して「解雇しやすくする」という進次郎の方針は、有害無益とすら言える。

 なお、資料としては、次の記事がある。
 企業側の都合による「整理解雇」は(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)対象者選定の合理性(4)手続きの妥当性―の4要件を考慮しなければならない。小泉氏は、大企業にリスキリング(学び直し)や再就職支援などを課すことで、4要件を満たさなくても解雇しやすくする考えだ。
( → 小泉進次郎氏、「クビを切りやすくなる」とかつて批判された解雇規制緩和に前向き 自民総裁選、候補者間には温度差:東京新聞


 まとめ


 以上をかんがみて、これまでの話をまとめよう。
 進次郎は、経済政策として、「雇用の流動化」をテーマとして掲げた。
 そこで、「解雇規制の緩和」を唱えたが、同時に、「リスキリングや再就職支援の推進」で、労働者の優遇をするつもりだった。
 しかし、「リスキリングや再就職支援の推進」は、労働者のために役立つと見えて、実際には役立たない。それは会社目線からだと、「何かをくれてやる」というふうに見えるが、労働者目線からだと、何の利益にもならない。結果的には、「強制的に解雇されて、一時金も減額される」というふうに、踏んだり蹴ったりになるだけだ。
 実を言うと、「経済改革のために、雇用の流動化」という方針そのものが、父である小泉純一郎の根本的なミスだった。その方針は、非正規雇用を大々的に拡大して、日本を根本的に歪めることになった。その結果が、「非正規雇用の拡大による、雇用の不安定化と、それによる非婚化・少子化」だ。このせいで日本の経済力は大々的に低下することになった。なぜなら、少子化にともなう人口減で、経済規模が急激に縮小していったからだ。
 「雇用の流動化で、非正規雇用を増やせば、日本経済は発展する」
 というのが、竹中の方針だったが、それで発展したのは、竹中のパソナのような派遣会社であって、肝心の日本経済は衰退するばかりだったのだ。「一将功成りて 万骨枯る」というふうに、「パソナ1社功成りて 日本枯る」というふうになってしまったのだ。

   夏草や つわものどもが 夢のあと




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 国破れて山河あり。青々と茂る草原は明るいが、その下には敗れた万骨が眠っている。それというのも、小泉純一郎のせいで、非正規雇用が拡大したからだ。それでも、万骨が眠るのと引き替えに、竹中だけはボロ儲けした。死の商人のように。そして、それに奉仕したのが、小泉純一郎だったのである。
 その小泉純一郎を、「偉大なる成功者」として崇めながら育ったのが、進次郎だった。(この親ありて、この子あり)

 すべての根源は、小泉純一郎時代の「非正規雇用の拡大」という方針だった。これこそが日本を衰退させた。
 では、それはいったい、どこがどう駄目だったのか? その難点はどう改善すればいいのか? そのことは、細かな話題になる。そこで、これまでのシリーズで、個別に具体的に指摘してきた。
 特に重要なのは、「年収 106万円以下では、社会保障への加入が免除される」ということだ。この場合、労働者は社会保険料の納付を免除されるが、同時に、事業主もまた「事業主負担の折半」を免れることになった。正社員ならば、「事業主負担の折半」という負担を強いられるのに、非正規雇用だと、「事業主負担の折半」を免れる。こうして、非正規雇用をする会社は圧倒的に優遇されることになった。(その巨額の負担の分を、補助金として給付されるのも同然だ。非正規雇用をする企業に対して、巨額の補助金を出すのと同然だ。)
 政府はこのような形で、非正規雇用をする企業を大幅に優遇して、非正規雇用という制度を大々的に推進してきた。……ここに物事の本質がある。それを、今回のシリーズでは、詳しく指摘してきた。
 一方、労働者負担の問題もある。こちらは、「低所得者が冷遇されて、高所得者が優遇される」という「逆進性」の問題がある。そこで、この問題を回避するために、「所得比例」というシンプルな制度を提唱した。
 このとき、「労使折半」や「応能分の納付」というような概念は廃棄されるが、それでいいのだ。「労使折半」や「応能分の納付」というのは、あくまで政府の制度設計の都合で導入された概念なのだから、そんな政府の都合などは無視していい。制度そのものを公正にすることの方が優先されるのだ。現行制度は、「政府の制度設計の都合」ばかりが優先されたせいで、「公正さ」を失って、歪んだ制度になってしまった。それを抜本的に改めるべきなのだ。

 ともあれ、雇用主負担の面でも、労働者負担の面でも、現行制度には多大な問題があるとわかった。それらの問題を抜本的に改革するべきだ。
 その目的は何か? 「雇用の流動性を高めることで、経済を改革する」という、小泉純一郎流の馬鹿げた発想を捨てることだ。
 かわりに、「非正規雇用こそが諸悪の根源だから、非正規雇用をなくして、正規雇用を推進する」という方針を、新たに立てるべきだ。なぜか? それは、次のことによる。
 「経済改革の目的は、ただ一つ。生産性の向上である。そのためには、低技能・低賃金の仕事を廃止して、高技能・高賃金の仕事を促進するべきだ」
 この方針に従えば、非正規社員は「低技能・低賃金の仕事」として廃止される。また、正社員は「高技能・高賃金の仕事」として促進される。

  低技能・低賃金の仕事から、高技能・高賃金の仕事へ


 これこそが、日本経済のめざすべき道なのだ。
 ところが現実には、これまでの日本経済は、その逆を目指してきた。なぜなら経営者が「コストカット」「賃金カット」ばかりをめざしてきたからだ。要するに、「日本を途上国にしよう」とするばかりで、「日本を先進国にしよう」としなかったのだ。
 だから、中国や台湾や韓国が次々と高性能な商品を開発するときに、日本の企業は次々と低性能で低価格な商品を開発するばかりだった。そうしてどんどん途上国化していくばかりだった。

 この現実を理解できないのが、日本の経営者であり、日本の政府だった。進次郎もまた同じ。会社目線で、「コストカット」ということしか めざそうとしない。
 ただし、これは、進次郎だけの事柄ではない。彼以外のほとんどすべての人々が同様である。石破であれ、高市であれ、(立憲の)野田であれ、枝野であれ、進次郎と異なるような経済政策を持っているわけではない。彼らは何の経済政策ももたない。だからボロが出ないだけだ。

 進次郎は、たしかに愚かな経済政策を唱えたが、しかし、その愚かな経済政策のおかげで、それを指摘するための本シリーズを誘い出す功績があった。その意味では、想定外の効果があったことになる。(反面教師。他山の石。災い転じて福となす。)

 本サイトは、ここまで延々と話を続けたが、それもまた、進次郎の効果であったわけだ。
 
  ※ トリックスターみたいですね。大江健三郎の用語で。
    (この用語について知りたければ、AIに聞くといい。)
 

trick-star.jpg
 



 【 関連項目 】
 本項は、シリーズの「まとめ」である。
 話は要点のみだ。より詳しい説明を知りたければ、これまでの話を振り返って、いちいち説明を読んでほしい。要点はあくまで要点だけだ。
 
 ──

 特に、非正規雇用のせいで日本が没落した……という話は、下記。
  → 日本はなぜ没落したか?: Open ブログ
  → 日本の生産性低迷の理由: Open ブログ

  ※ とても大事な話が書いてあるので、再読するといい。
    今回のシリーズでは、下記項目でも言及した。
     → 解雇規制緩和の議論 .2: Open ブログ
     → 解雇規制緩和の議論 .5: Open ブログ
 
 ──

 非正規雇用をする会社が優遇されている、という件は、次の理由もある。
 「非正規雇用をする会社は、解雇された労働者の失業保険給付が多いのに保険料が高くならない」
 このことで、会社は保険料で優遇されている。下記で説明した通り。
  → 解雇規制緩和の議論 .9: Open ブログ
 
 ※ こういう形で、政府は非正規雇用を推進しているわけだ。人々を地獄に落とす悪魔のように。
 
posted by 管理人 at 11:00 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 関連項目 】 をいろいろと加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年09月29日 11:42
○正社員とフルタイムの派遣社員の間では「同一労働同一賃金」かつ「社会保険料等の負担も同一」であるべきだと思います。派遣会社に支払う料金まで含めれば割高になるので「正社員を派遣社員に切り替えれば安上がり」にならなくなります。

○旅館業のように繁閑の差が大きい場合、全員を正社員という訳にはいかないと思います。この場合も「同一労働同一賃金」かつ「社会保険料等の負担も同一」であるべきだと思います。

○Uberのようなギグワーカーの場合、基準となるべき「正社員で配達専業」の方がいらっしゃるのかわからないうえ、完全歩合制なので何とも言えませんが、「本部はボロ儲けだが配達員はボロボロ」といった事態を防ぐ何らかの手立てが必要だと思います。
Posted by のび at 2024年09月30日 10:46
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