社会保険料の労働者負担の分について考える。
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国民年金と厚生年金
前項では事業主負担の話をしたが、本項では労働者負担の話をしよう。
労働者の目からすると、国民年金と厚生年金の違いがわかりにくい。所得の増減で、国民年金から厚生年金に移行することがあるが、その損得はどうなのか? 厚生年金に加入しないと、保険料の支払いが少なくて済むが、将来の受給額が減ってしまう。その問題をどうするか?
どうも、わかりにくいので、調べ直してみた。すると、次のように判明した。
まず、年金は、基礎年金と上乗せ分に分かれる。国民年金は基礎年金の分だけ。厚生年金は、それに上乗せ分が追加される。(2階建て構造だ。)
これがどういうふうに接続されているかが問題だが、その接続の仕方はこうだ。
「年収 106万円(月収 8.8万円)までは、基礎年金の分だけとなる。額がそれを越えると、上乗せ分が加算される」
これを換言すると、次のように言える。
「たとえ無職であっても、年収 106万円(月収 8.8万円)の収入がある人と同等だと見なされる。現役時代には一定額の納付をして、引退後には一定額の給付を受ける」(基礎年金の分)
以上のことからして、次のように言える。
「年金料については、106万円の壁というのを考えなくてもいい。その額を超えたからといって急激に納付額が増えるわけではない。その額に満たなくても、国民年金の年金料を負担するので、どっちみち、年金料を払う必要がある」
さらに言えば、次のことがある。
「国民年金の年金料は、1カ月あたり16,980円だが、厚生年金に移行すると、ほぼ同じ額の納付でも、事業主負担と折半するので、支払額は半額で済むようになる」
つまり、年金料の納付額は、約 17000円から、約 8500円へと、半減する。その意味で、106万円を超えて、国民年金から厚生年金に移行する方が、お得なのである。(毎月 8500円も儲かる。)
ただし、将来の年金の受給額には、影響しない。年収が 106万円を超えたとしても、超えた額が微小だとすれば、上乗せ分も微小になる。納付料も微小だし、将来の受給額も微小だ。
厚生年金の上乗せ分は、それはそれで別個に計算されるので、特に損得はないのだ。
結論としては、こうだ。年金制度に関しては、現行制度は合理的に考えられているので、労働者負担については特に変更する必要はない。現状のままでいい。
※ 個別に改善するべき点がなくもないが、欠点と言えるほどの問題はないので、現行制度のままでもいい。
※ 低所得者については、「国民年金から厚生年金に強制移行せよ」と思ったこともあったが、そうする必要はない。そうしなくても、なだらかに接続するように、現行制度でうまく接続が考えられている。
健康保険と扶養家族
健康保険料は、年金料とは事情がまったく異なる。
年金料ならば、次の二本立てだ。
・ 基礎年金は、固定額を納付し、固定額を受給する。
・ 厚生年金(上乗せ分)は、所得比例で納付額と受給額が変わる。
後者については、「多く支払えば、多く受け取る」という形になる。
健康保険は、事情がまったく異なる。こうだ。
「支払う額は所得比例で変わるのに、受給額は一定である」
これはもはや、保険というよりは、所得税に近い。ただし、累進制はなくて、あくまで「所得に比例する」という形だ。また、最高額には上限がある。
健康保険の特徴は、次のことだ。
「低所得者には、扶養家族になるという形で、納付が免除される」
この分かれ目となる額が、年収 130万円である。この額以下であれば、納付を免除される。
※ 106万円ではなく、130万円である。注意。
※ 106万円は、社会保険への加入義務が生じる額ではある。
一方、健康保険料と年収との関係については、おおまかには「ほぼ比例関係にある」と言える。具体的な料率は下記。
→ 令和6年度 国民健康保険料 概算早見表(新宿区)
→ 令和6年度 国民健康保険料・厚生年金保険料 (神奈川県)
年金料の場合だと、最低限度として、「基礎年金」の固定額があった。だが、健康保険料の場合だと、このような形の最低限度の額はない。最低限度は、一応、あるにはあるが、それは年収 30万円だ。つまり、年収 30万円以下であっても、年収 30万円があったと見なされる。しかし、この程度の額は仕方ない。
制度設計は、次のグラフのようになる。

出典:厚労省
以上をすべて見ると、料率の制度設計は特に問題ないようだ。
ただし、「扶養家族になって保険料の納付を免れる」ということの有無が、決定的に問題であるようだ。これは「130万円の壁」と言える。
この問題をどう解決するか? 「無収入の人を扶養家族から外して、健康保険の対象外に追放する」ということはできない。とすれば、解決策は、次のことしかない。
「扶養家族になれる年収の額を、130万円から大幅に引き下げる。年収 50万円程度まで引き下げる。と同時に、低所得者についての保険料を大幅に引き下げる」
現状では、保険料は年収の 12% ぐらいなのに、低所得に限って、この料率が上昇して、15%〜25% ぐらいに上昇する。累進制とは反対で、逆累進制だ。低所得者虐待と言える。( → 出典:上記の新宿区 )
このような制度を改めて、低所得者の保険料を 10%ぐらいに引き下げるといいだろう。また、それを条件に、扶養家族になれる限度額を大幅に引き下げるわけだ。( 130万円から 50万円程度に引き下げる。)
こうすれば、もはや 106万円の壁も 130万円の壁もなくなる。そのくらいの額で増減が生じても、急激な負担額の増減は起こらなくなる。「壁」はなくなるわけだ。(なだらかに傾斜的に接続するので、段階を生じる「壁」はなくなる。)
《 注1 》
現状では、低所得の労働者(特に妻)は、扶養家族になることで、健康保険料の納付を免れている。改訂後は、そういうことなくなる。従って、実質的に負担増になる。(増税と同じ。)
ただし、それによって保険料収入の総額が増えるから、その分、他の人々の保険料を引き下げることができる。こうすれば、国民全体では、損得はトントンだ。
一方、低所得の労働者に対する事業主負担分(折半分)が増える。このようにして、低所得労働者を雇用する会社の負担額が増える。
換言すれば、低所得の非正規雇用をする会社に「折半分の免除」をしている現行制度を改革して、非正規雇用の優遇(会社負担の免除)をやめるわけだ。
このことで、「非正規雇用を推進する」(優遇する)という現行制度を改革するわけだ。これが本来の目的である。そのことに注意。
《 注2 》
低所得者では保険料の負担率が上がることについては、政府は「受益者負担」という説明をしている。しかし、「受益者負担」ということであれば、「健康保険の利用者(受診者)の3割負担」という形で実現している。「受益者負担」は、そこでやればいい。
健康保険料というのは、「受益者負担」をするためのものではなく、「社会保障」のためのものだ。つまり、人々が嗜好で選ぶ趣味的商品ではなく、病気の治療費という(生存のために)必要不可欠なサービスのためのものだ。健康保険料について、「受益者負担」という概念を持ち出すのは、「社会保障」という概念を理解できていないも同然だ。
そんな発想は改めるべきだ。つまり、「低所得者ほど社会保険料を高くする」という逆累進制は、廃止するべきだ。
※ ただし、現行制度でも、「2割軽減」「5割軽減」「7割軽減」という併用措置が取られているので、実際には、現行制度も、そんなに悪くはないね。「応用分」という発想はまずいとしても、それを是正する措置が取られている点は、なかなか良い。(どこまで妥当かは、ちょっと検討の余地があるが。)
【 追記 】
あとで考え直したが、健康保険料は、「所得比例」(10%)に一本化するべきだ。
現行では、「応益分」とか、「低所得者向けの減額」とか、あれこれと余計な制度を作って、変に凸凹した料金額となっている。さらには、「扶養家族の免除」という歪んだ制度まで取り組んでいる。そのせいで、あちこちで問題が噴出する。( 106万円の壁など。)
こういう問題が生じるのは、制度があれこれとつぎはぎ状態になっているからだ。これをすべて廃止して、「所得比例」に一本化すればいい。そうすれば、あらゆる問題が解決する。「扶養家族の免除」の問題も生じないし、「106万円の壁」の問題も生じない。「低所得者ほど高額になる」という「逆累進制」の問題も生じない。「非正規雇用をする企業が優遇される」という問題も生じなくなる。(「扶養家族の免除」にともなって「企業負担も免除される」という企業優遇がなくなるので。)
というわけで、健康保険料はシンプルに「所得比例」の額にすればいいのだ。これが本項における結論となる。
※ 「所得比例」でなく「支出比例」でもいい。この件は次項で述べる。
健康保険料は、「所得比例」(10%)に一本化するべきだ、という話。