雇用保険以外の社会保険料も、制度改革するべきだ。
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年金料
前項では雇用保険の話をしたが、雇用保険料の負担額はあまり高くない。労働者負担も事業主負担も、1% に満たない。ほとんど気にならないレベルだ。
もっと高率なのは、年金料だ。労働者と会社の合計で 18.3% になる。これを折半しても、9%以上だ。雇用保険料の 10倍以上になる。負担率(額)が高すぎる。
これほどにも負担が重いのだから、年金料についても制度改革するべきだ。
労働者負担の重さについては後述することにして、事業主負担について考えると、次の指摘をしたい。
「現行では、短時間労働者には厚生年金の加入が免除されることで、事業主負担も免除されている。だが、低所得の労働者が負担を免除されるのはわかるが、事業主がついでに負担を免除される理由がない。事業主については負担を免除するべきではない」
この発想の下で、新たに次の方針を取る。
「低所得・短時間の労働者については、労働者は負担の免除があってもいいが、事業主は負担の免除を得られない。事業主は 9.15% の負担を義務づける」
こうすると、「労働者と事業主が料金を折半する」という原則は崩れることになる。しかし、それでいい。別に「折半する」という原則などは必要ないからだ。(それは企業の都合であって、国民の都合ではない。あくまで企業重視の自民党が勝手に作った原則であるにすぎない。)
結論としては、こうする。
「事業主負担の率は、労働者の所得や労働時間にかかわりなく、9.15% という固定の率にする。(免除を認めない。)」
現状では、低所得・短時間の労働者について、事業主は負担の免除を得られる。そのことで、「非正規雇用をする事業主は、社会保険料の負担を免れる」というふうになる。これは一種の「政策補助金」だ。「非正規雇用を推進するために、非正規雇用をする企業に補助金を出す」(または減税をする)というわけだ。
このような「非正規雇用をする企業を優遇する」という現行方針を、根本的に改める必要がある。それがつまり、「事業主負担の免除をなくす」ということだ。
《 注1 》
ただし、これについては、次の心配もあるだろう。
「事業主負担の免除をやめたら、その分、賃金が下がるだけだろう」
まあ、経済学的な理屈の上では、そうなる可能性も否定できない。しかし現実には、そうはならない。非正規雇用の時間給は一定であって、労働者の労働時間によって可変的に変わることはないからだ。(そんな面倒な賃金制度を取る企業はない。)
たとえば、非正規雇用の時給が 1100円だとしたら、その時給は常に同額が設定される。労働者の勤務時間が増えたり減ったりすることで、時給額が変動することはない。
たとえば、「週 20時間労働以下では、時給額が5%減になります」というようなことはない。原理的には、そういうことがあってもいいのだが企業としては、そんな面倒なことはしないものだ。
※ そもそも、低所得者に対する時給を下げる名分がない。その分、新たに「実質増税」になるが、それは、「これまで免除されていたのが、標準に戻る」というだけだからだ。長時間労働者に比べて、新たに不利な制度になるのではなく、有利だったのが有利でなくなるだけだ。
《 注2 》
労働者が厚生年金に加入しないまま、企業の負担額だけが増えると、企業としては金を払った分だけ無駄に取られたことになる。金を盗まれたのも同然だ、という気がするだろう。
だが、この分の金は、政府が頂戴するのでなく、国民年金の会計に移せば、問題ない。なぜなら、現在は、「黒字の厚生年金から、赤字の国民年金へ」という会計処理(金の移転)がなされているからだ。
そこで、これに相当する分を、新たに企業から徴収した金でまかなえば、帳尻が合うだろう。
《 注3 》
労働者は、厚生年金に加入しないで、国民年金に加入すると、将来の受給額が減って、かえって損をする……という問題がある。
これは、労働者の負担の問題なので、次項で扱う。
健康保険料
健康保険料についても、年金料と同じ扱いをするといい。
現行では、健康保険料については、一律の率( 10%など)が定められている。(都道府県ごとに異なるが。)
→ 令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)
この率は、労働者の所得にかかわりなく定まる率だ。
ただし、週 20時間未満の労働者については、負担が免除される。「社会保険に加入しない」という形で、「扶養家族扱い」になってしまうのだ。
→ パート・アルバイト・非正規雇用の社会保険適用範囲が拡大!2024年10月の改正に備えて勤怠管理システムの導入を
この件についても、先と同じく、次の指摘をしたい。
「現行では、短時間労働者には健康保険の加入が免除されることで、事業主負担も免除されている。だが、低所得の労働者が負担を免除されるのはわかるが、事業主がついでに負担を免除される理由がない。事業主については負担を免除するべきではない」
この発想の下で、新たに次の方針を取る。
「低所得・短時間の労働者については、労働者は負担の免除があってもいいが、事業主は負担の免除を得られない。事業主は約 10% の負担を義務づける」
こうすると、「労働者と事業主が料金を折半する」という原則は崩れることになる。しかし、それでいい。別に「折半する」という原則などは必要ないからだ。(それは企業の都合であって、国民の都合ではない。あくまで企業重視の自民党が勝手に作った原則であるにすぎない。)
結論としては、こうする。
「事業主負担の率は、労働者の所得や労働時間にかかわりなく、約 10% という固定の率にする。(免除を認めない。)」
これもまた、「非正規雇用をする企業を優遇する」という現行制度を改める効果がある。
こうして「非正規雇用を推進する」という現行制度を、抜本的に方針転換させるわけだ。
《 注 》
健康保険料については、上限がある。月額・約 135万円で上限に達する。つまり、それ以上の高所得者には、追加の負担が免除される。これは「金持ち優遇」「富裕層優遇」という発想であり、「富裕税」とは正反対だ。
まあ、保険という概念からすれば、誰もが均等の額を払うのが原則だから、頭打ちになるのは仕方ないかもしれない。しかし、税という概念からすれば、上限があるのはおかしい。
この件は難しいのだが、少なくとも事業主負担については、上限を認めるべきではない。金持ちの負担が頭打ちになるのはまだわかるとしても、事業主の負担が頭打ちになるのはおかしい。それは事業主に対する補助金である。ただし、「非正規に対する補助金」ではなく、「富裕層に対する補助金」である。その制度によって、「貧富の格差を拡大すること」(労働分配率を下げること)を、促進しているわけだ。馬鹿丸出しである。
これというのも、「折半制度」という原則にとらわれるせいで、本来なすべきことを見失っているわけだ。この点も改める必要がある。つまり、こうだ。
「高所得者に対する、事業主負担の上限を撤廃する。高所得者の分についても、一律の約 10%を徴収する」
こうして、「高所得者に対する事業主負担を免除しない」というふうにして、制度の歪みを是正するわけだ。
※ 次項では労働者負担の分について言及します。
日本の会社がグローバル競争で負けたのはITやロボットの導入に出遅れたことが大きく、その原因は経営者の老化と無知、さらに高級技術者が少なくレベルも低いことにあると思っています。解雇を進めると真っ先に出ていくのは高級技術者で、彼らがサムスンや台湾に行く実例を知っています。
高額所得者に対する上限制度の撤廃、という話。