承前で話を続ける。(雇用保険の改革)
──
(5) 会社別の保険料
現行制度では、雇用保険(失業保険)の事業主負担の率は、どの会社でも同じである。 6/1000 である。(業種によっては 7/1000 だが。)
→ 令和6年度の雇用保険料率
このように固定の負担率にするのは不当だ。なぜなら、会社によって解雇者をやたらと多く出す会社と、解雇者をほとんど出さない会社があるからだ。それぞれ、別の保険料率にするべきだ。
特に、労働環境が劣悪で、新入社員が次々と退職するような会社は、社員がやたらと失業保険を受給するようになるので、保険料率を上げるべきだ。(ブラック会社を冷遇する。)
同様に、非正規社員を多く雇用する会社は、正社員を多く雇用する会社に比べて、退職者が多くて、失業保険の受給率が高くなるので、保険料率を上げるべきだ。(非正規を雇用する会社を冷遇する。)
このような制度改革は、現状の「非正規雇用を優遇する」という方針とは、正反対だ。そういうふうに制度改革するわけだ。この点に注意。
※ 「雇用の流動性」よりは「雇用の安定性」を重視する。企業のために社員がいるんじゃない。社員のために会社があるんだ。そういうふうに、発想を転換する。
※ この点、自民党の総裁候補たちと、私とは、発想が正反対ですね。どちらがいいかは、あなたがご自分でお選びください。
《 注 》
保険料率を個別に調整するというのは、別に、珍しい発想ではない。たとえば、自動車保険はそうなっている。事故を起こした人は保険料率が高くなり、事故を起こさなかった人は保険料率が安くなる。そういうふうに個別に保険料金が調整される。
ならば、失業保険の受給率が高い会社では、事業主負担の率が高くなるのも当然だろう。それが当り前なのだ。
(6) 保険料の漸減制度
会社ごとに保険料率を変えるだけでなく、労働者ごとにも保険料率を変えるといいだろう。
ただしこれは、次の意味ではない。
「人ごとに属人的に保険料率を変える。労働者の負担率を変える」
そういうことはしない。かわりに、次のようにする。
「短期に解雇すると、事例ごとに、事業主の負担率を変える」
たとえば、1年で解雇した場合と、10年で解雇した場合では、前者の方が圧倒的に短期で解雇しているので、そういう事例には、雇用保険の負担率を上げる。ただし、労働者負担の分ではなく、事業主負担の分だけだ。
このように労働者ごとに個別に料率を変えるといい。とはいえ、一人一人でいちいち料率を変えるというのは、事務手続きが大変になる。それは困る。そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
雇用保険の事業主負担の率を、労働者の雇用期間に応じて、漸減させる。現状では 6 ‰ ( 1000分の6)であるが、次のようにする。
1年目 ── 14 ‰
2年目 ── 13 ‰
3年目 ── 12 ‰
4年目 ── 11 ‰
……
9年目 ── 6 ‰
10年目 ── 5 ‰
11年目以後は、10年目と同じ。
こういうふうに、経年的に料率をだんだん引き下げる。
換言すれば、初期の保険料率を、大幅に高める。そのことで、短期で解雇する事例の多い会社では、保険料率が大幅に上がる。逆に、正規雇用の多い会社では、保険料率が現行の 6 ‰ から 5 ‰ へと、かなり減額される。
以上のようにして、非正規雇用では「短期で解雇するほど会社が損をする」というシステムを導入する。このことで、雇用の安定化を図る。
たとえば、5年ぐらいで解雇すると、そのあとで採用した新規雇用の人に対して、「新規雇用では保険料率が上がる」というふうになるので、新規雇用へのハードルが上がる。その分、長期雇用の人では雇用の安定性が高まる。
「雇用の流動性よりも、雇用の安定性を図る」という方針を取ることで、「5年ルールによる解雇促進」みたいなことをなくすわけだ。
民主党や自民党の方針は、非正規雇用の労働者を冷遇するばかりだったが、本項の方針では、それとはまったく逆の方針となるわけだ。
(困ったときの Openブログ。)
※ 「4年目でも 11 ‰ というのは、高すぎる」
という文句が、会社側から来そうだ。ならば、こうするといい。
「第2雇用保険の 3.5 ‰ の分を撤廃する」
こんな事業は政策経費だから、撤廃していいのだ。
( 数値は前出 → 令和6年度の雇用保険料率 )
────────────
* 以下は、細かな話題となるので、読まなくてもいい。
(7) 保険金の代位取得
保険金には代位取得という概念がある。
一般に、保険制度では、被害を受けた人は保険金を受け取ることができるが、そのかわり、加害者に対する請求権を保険会社に譲り渡す。
たとえば、交通事故で被害者は保険金として 500万円を保険会社から受け取ることができるが、その分、事故の加害者に対する請求権を、保険会社に譲渡する。このような形で保険会社が加害者から金を回収することを、代位取得という。
雇用保険にも、同様の概念を導入するといいだろう。解雇された労働者は、一定の「解雇一時金」(退職金のようなもの)を、雇用保険から給付してもらえる。その分、会社側に対する請求権を、保険会社(政府の保険制度)に譲渡する。
たとえば、退職したとき、次のようになる。
例1。退職金が 1000万円で、雇用保険からの給付が 300万円。雇用保険から 300万円が出るが、退職金が 300万円の減額となるので、差し引きして、何も変わらない。(十分な額の退職金が出た場合。)
例2。退職金が 200万円で、雇用保険からの給付が 300万円。雇用保険から 300万円が出るが、退職金の 200万円は全額が減額となる。差し引きして、200万円が 300万円に増額される。差額の 100万円については、得をするのだが、その分、雇用保険の側に請求権が移る。あとは雇用保険の側が、会社に交渉して、退職金の額を徴収するように努める。(ただしその交渉の過程は、労働者は関与しない。労働者は雇用保険から 300万円をもらって、経過は他人任せにできる。)
以上のような制度があってもいいだろう。これは、やたらと解雇者を出すブラック会社に対する、徴収制度だ。
※ ただし、現行制度では、退職金の支払いは認められていないことが多い。特に、非正規雇用については、そうだ。上記の制度が有効となるのは、正規雇用の場合に限られる。非正規雇用については、(6) の方法ぐらいしか使えないかもしれない。
(8) 保険金の二重取りは可能か?
保険金の代位取得は、雇用者側についての話だ。
同様に、労働者側について、次の話題が考えられる。
「保険金の二重取りは可能か? ひとつの被害に対して、複数の会社から複数の保険金を受け取ることは可能か?」
保険料を2倍払っているのだから、もらえる保険金も2倍になるだろう……という発想だ。
だが、調べてみたところ、これは成立するとは限らない。次のようになる。
・ 生命保険、医療保険 …… 二重取りが可能。
・ 損害保険、休業保険 …… 二重取りは不可能。
後者では、現実の被害額が上限であり、それ以上 受け取ることはできない。2倍の保険料を払っていても、もらえる金は2倍にならないので、保険料の払い損となる。
「わざと事故を起こして金儲けしよう」と思っても、そうは問屋が卸さないのだ。